授業でのICT活用

「タブレット端末×授業支援ソフト」を活用した授業デザイン

思考の可視化(見える化)を促し、児童生徒一人一人の思考力を育みたい。

1  はじめに

タブレット端末や電子黒板、そしてそれらをつなぐ授業支援ソフトなどのICT環境を整備し、授業で効果的に活用することは、分かる授業や考える授業を実現し、児童生徒の確かな学力の育成につながっていく。

ICT環境の整備を進めてきた自治体や各学校では、教育CIO(Chief Information Officer)や学校CIOの指導のもと、ICT支援員などの専門家の力も借りながら、さまざまな授業が実践されてきた。

本稿では、「タブレット端末」と「授業支援ソフト」を用いた授業を中心に、特徴的な授業デザインを確認し、アクティブ・ラーニングの可能性を論じる。

2  外の学びを教室の学びに

タブレット端末のメリットの一つは、気軽に持ち運べること(可搬性)である。低学年の児童であっても、専用ケースを用意しておくだけで町探検などに活用できる。各グループが、町探検の行き先で取材してきたことは、写真や動画で記録することができ、ワークシートにメモすることと併用することで、そのときの気づきとともに教室に持ち帰ることができる。

ある学校の低学年の学級では、教室に戻ってきた後、すぐに発表会が始まった。自分で大画面に写真を提示すると記憶も鮮やかによみがえるのか、写真を切り替えながら説明が続いた。地下から湧き出る農業用地下水の様子を動画で流すと、みんなが食い入るように見ていた。見終わった後には次々に質問が出された。まさに、外での学びを教室での学びにする授業デザインだといえる。

極めて基本的な活用方法であるが、授業支援ソフトを活用することで、発表がスムーズに行われる。授業のテンポが良い。また、事前に撮影してきた写真や動画が確認でき、授業計画が立てやすくなる。

3  一人一人の試行錯誤を保障する

一人一台のタブレット端末が整備される環境が増えてきた。このような環境だからこそ、タブレット端末のメリットの一つである思考の可視化(見える化)を促し、児童生徒一人一人の思考力を育みたい。例えば、人物関係を図解する歴史の学習では、教師からタブレット端末に配付された教材をもとに、一人一人が明治維新の人物関係を図解した。

人物関係を図解することは、今までの学習を総動員することにつながる。出来事や共通の思いなどをキーワードにしながら、人物の位置関係や線の結び方などを考え図解する作業は、試行錯誤の繰り返しである。

このような思考力を育む授業デザインにおいても、授業支援ソフトは効果を発揮する。まずは、教師から教材を配付する。準備された教材をすばやく配付することで、時間を有効に活用できる。次に、図解の最中には、電子黒板に児童の学習状況を一覧提示する。そうすることで、不安な児童の手助けになると同時に教師は、一人一人の進み具合を確認できる。さらに、授業の終盤では、児童数人の画面を電子黒板に送信し、比較して提示することで共通点や相違点を議論させたり、代表的な意見をとりあげて、発表させたりすることができる。

6年生社会科 一人一人が人物関係を図解する/一覧表示機能によって進み具合が把握できる

4  関わり合って学ぶ

一人一台の環境やグループに一台の環境など、どのような環境であっても、児童生徒が、目的意識をもって、協働的に関わり合って学ぶことは、児童生徒の考えを広げたり、深めたり、高めたりするうえでとても重要である。例えば、3年生理科「じしゃくのふしぎをさぐろう」では、グループごとに実験方法を考え、タブレット端末を用いて撮影する。実験結果が分かりやすく撮影できるように、相談しながら撮影が進められた。グループごとに実験方法が異なるという教師の授業デザインが、「自分たちの実験結果を分かりやすく伝えなくちゃ」という目的意識を持たせ、児童の意欲的な姿へとつながっていた。

また、戦時中のくらしの様子を学ぶ社会科の学習では、前時に図書資料を使って調べた事柄について、タブレット端末を用いて関連する写真を撮影しておいた。本時では、撮りためた写真を示しながら、「この写真から戦時中は・・・のようなくらしだった」という説明を加えていた。調べたことをノートに記すと、伝える際に記した内容をそのまま読みがちである。関わって学ぶうえで伝える力や聞く力を育みたいという教師の願いから生まれた授業デザインであった。

このように関わり合って学ぶ授業デザインの際にも、授業支援ソフトは、授業を支える役目を担うことができる。この授業では、画面合体機能を使って、説明した写真を、観点ごとに分類することができた。例えば、「食事と衣服」の観点に当てはまると考えながら、説明した写真が、グループのメンバーと関わる中で、「学校生活」という観点にも関わることに気づいていた。新たな解釈が生まれ、児童の考えが深まった例といえる。

また、画面合体機能を解除後すると、一台にすべての情報が提示されるようになる。授業のふり返りを行う際には、じっくりと一人で学びに向かわせたい。そんな教師の当たり前の思いに、きちんと寄り添ってくれる。

関わり合うからこそ学ぶことは多い/最後の個人思考では、一人一人が学びに向き合う
「タブレット端末×授業支援ソフト」を最大限に活用することで、アクティブ・ラーニングが実現しやすくなる。

5  アクティブ・ラーニングの実現に向けて

一人一台のタブレット端末が整備された環境では、一人一台ずつ使えるけれど使わないという選択もできる。例えば、グループ一台の環境で活用するからこそ、多様な考えに触れ、自分の考えが広がったり、深まったり、高まったりする場合も多い。また、ときにはいくつかグループの中から代表的な考えや特徴的な考えを電子黒板などに提示し、発表させたり、教師から情報提示を行ったりして、一斉指導を行う場合も考えられる。

3つの学習方法が行き来する授業デザインを目指すこのようにタブレット端末を活用したアクティブ・ラーニングでは、教師の願いを中心にして、どのような課題を準備し、どのように出逢わせるのかを考えたり、明確な指示や思考のゆらぎを生むような発問を熟考したり、魅力的な教材を準備したりといったこれまでと同様の重要な部分と、一人一台(個別学習)、グループ一台(協働学習)、教師一台(一斉学習)を授業デザインの中でどのように位置づけるのかといった学習方法の両方を考えることが大切である。

また、タブレット端末を活用した児童生徒主体の授業では、児童生徒の学ぶ力を信頼し、学びの主導権を譲り、じっくりと待ちの姿勢を通すことも肝要だといえる。

そして、授業支援ソフトによって、教材の配付、画面の提示、制作物の回収などがスムーズにテンポ良くできることで、児童生徒の学習時間や機会が保障される。さらに、教師は手元のタブレット端末の画面一覧から、支援が必要な児童生徒を見つけ出したり、次の展開を考えたりすることもでき、教師を手助けする効果も期待できる。

6  おわりに

「タブレット端末×授業支援ソフト」を最大限に活用することで、アクティブ・ラーニングが実現しやすくなる。児童生徒が、仲間とともに成長する姿を見ることは、教師にとってこの上ない喜びである。同じように、児童生徒にとっても仲間とともに協力し、切磋琢磨する授業は楽しいはずである。「タブレット端末×授業支援ソフト」は、そんなWin-Winの関係を築くための一つのツールだといえる。

だからこそ、世代間のギャップを乗り越え、若い教師の新しい発想とベテラン教師の豊かな経験を、上手に組み合わせて「ICT(タブレット端末)活用を通した授業研究」を実践し、アクティブ・ラーニングが何であるのかを常に問い続けて欲しい。

そのとき、授業支援ソフトが教師の評価をさりげなく支援してくれたり、新たな授業展開を可能にする仕組みを提供してくれることを期待している。