授業でのICT活用

ICTを活用した新たな小中一貫教育をめざして

吉田浩教頭つくば市では、平成24年度から市内全小中学校で小中一貫教育を実施しています。なかでも春日学園(校長 片岡 浄)は、市内初の施設一体型小中一貫教育校として同年4月に新設校として開校しました。施設一体型のメリットを生かし、9年間の連続した学びのある教育に取り組まれています。また、「どこよりも先に明日の教育に出会える学校」をキャッチフレーズに掲げ、論理的思考力の育成やタブレット端末を活用した授業など、先進的な教育活動を展開されています。同校の取り組みについて、吉田 浩 教頭に伺いました。

2つあるコンピュータ教室をタブレット端末で整備

小中一貫校春日学園つくば市では、平成24年度から市内全小中学校において小中一貫教育を本格的にスタートしています。全15学園を形成しており、春日学園はその中で唯一の施設一体型の小中一貫校として平成24年4月に開校しました。つくば市では、中学1,2,3年生を7,8,9年生と呼んでおり、当学園では1~9年生まであわせて1,638名の児童生徒が在籍しています。

ICT環境としては、学園内に2つあるコンピュータ教室にタブレット端末を各40台整備し、授業支援ソフトウェア『SKYMENU Pro』を導入しています。そのほか、普通教室で利用できるタブレット端末が約200台あり、合計で約300台の教育用コンピュータが稼働しています。一見、十分な数の端末が整っているように思えますが、2つのコンピュータ教室は常にどこかの学級が利用しており、1,600名を超える全校児童生徒数からみると端末の数が不足している状況です。

40年前から協働学習を重視し、PC教室を独自の円形机に

タブレット端末で整備されたコンピュータ教室。独特な円形の机は、児童生徒同士で円滑にコミュニケーションが取れ、協働に適しているつくば市は、40年前に日本で初めて教育用コンピュータでCAIを活用した授業が行われた地です。当時、CAIは一斉学習では対応しきれない個への対応が期待されていました。

しかし当市では、児童生徒がコンピュータに向かって個別学習に取り組むのではなく、周りの友だちと話し合いながら学ぶことが大切であり、学校とは学び合う場所であるという考えのもと、教員が手作りした大きな円形の机をコンピュータ教室用の机としました。現在も、その考え方を大切にして受け継ぎ、つくば市のすべての学校のコンピュータ教室では児童生徒が協働しやすい大きな円形の机を整備しています。

市内唯一の施設一体型小中一貫教育校

当学園では施設一体型である環境を生かしたさまざまな教育活動に取り組んでいます。大きな特長の1つが、「6-3制」の区切りではなく1学年~4学年を「前期ブロック」、5学年~7学年を「中期ブロック」、8学年~9学年を「後期ブロック」とする児童生徒の発達にあわせた新たな区切り「4-3-2制」を取り入れていることです。また、児童生徒の発達段階を考慮して5年生以上から教科担任制を導入し、教員の専門性を生かした授業づくりや教科の特性を踏まえた系統的な学習指導を行っています。

さらに当学園の教員には小中兼務の発令がされており、小学校の教員と中学校の教員という区別をなくして取り組んでいます。誰もが小中一貫教育校の教員として、1~9年生まですべての児童生徒に関わります。

このような特長的な取り組みにご注目いただき、先般開催された「つくば市学校ICT教育40周年記念21世紀の学びを変えるICTを活用した小中一貫教育研究大会」の会場校(授業公開校)の1つとして、全国から約1,300名の先生方にご参加いただきました。

つくばスタイル科で育む「つくば次世代型スキル」

つくば市の各学園では、各教科・領域において9年間を貫いた共通の目標や指導内容、指導方法を設定し、学びの連続性を生かした学力向上に取り組んでいます。また、文部科学省の教育課程特例校の指定を受け、独自の教育課程「つくばスタイル科」を市内全小中学校で実施しています。「つくばスタイル科」は、総合的な学習の時間の目標を踏まえつつ「21世紀型スキル」を基盤として、つくば市で独自に再編した「つくば次世代型スキル」の育成を図るもので、当学園でも注力して取り組んでいます。

つくば市プレゼンテーションコンテストで発表する児童生徒つくばスタイル科での学習成果は、全小中学校が参加する「つくば市プレゼンテーションコンテスト」で毎年発表することになっており、1年から9年までの全児童生徒がコンテストの出場をめざして、各学園内でクラスや学年、ブロックなどの単位でプレゼンテーションを競い合いスキルを磨いています。

平成25年度からは、つくばスタイル科の学習の一環として、生徒が市長などに電子黒板を使ってプレゼンテーションを実施し、提言を行う「つくば市中学生未来議会」を毎年開催しています。

「考える技」と「考える道具」によって学び、論理的思考力を身につける

当学園では「論理的思考力の育成」を重点目標に掲げており、主体的に学び、論理的に考えるためのスキルを学ぶ「考える時間」を特設しています。この「考える時間」は1~6年生まで月に1回実施しており、「比較」「分類」「推論」など8種の思考スキル「考える技」を、ベン図やクラゲチャートなどの思考ツール「考える道具」を用いて身につけさせています。「考える時間」で学んだ思考スキルは、各教科の指導のなかで積極的に活用させています。7年生以降には「考える時間」を設定せず、学習の中で必要に応じて生徒が自分自身で思考ツールを選択して、思考できるようになっています。

私たち教員は、児童生徒に「考えなさい」と言ってしまいがちですが、そもそも「物事をどのように考えればよいのか」を教えていないのが実情ではないでしょうか。今後、大学入試改革で大学入試の在り方も変わります。つまり、今の中学生は新しい入試制度のもと受験することになります。その変化の中で、思考ツールを自由に操って考えられる力は、ますます重要になると思います。

これまで3年間継続して取り組んできた「考える時間」ですが、その成果を示すデータも現れてきています。先の全国学力・学習状況調査結果において、開校当時の6年生のB問題における平均正答率は全国平均でしたが、3年経った今年の9年生は、平均正答率が全国平均より10ポイント以上高い数値が現れています。

『SKYMENU Pro』で児童生徒の思考を深め、共有する

児童生徒の思考を可視化するのに役立つツールとして、タブレット端末の活用を推進しています。最近では、ワークシートやプリントなど紙に書かせていた「思考ツール」を、タブレット端末上で書かせています。「思考ツール」をデジタル化することで記録が容易に残せる上、何度でも書き直せることから、試行錯誤しながら考えを深められます。

紙の「思考ツール」に書かれたクラス全員の考えを把握し、指導に生かすことは容易なことではありませんでした。しかし『SKYMENU Pro』を使えば、教員機から児童生徒のタブレット端末の画面を一覧で確認できるので、一人一人の考えやつまずきを把握しやすくなります。発表する場合にも、以前はノートやプリントに書いたことを、改めて黒板に書かせて発表していたため時間が掛かっていましたが、『SKYMENU Pro』で児童生徒の考えを電子黒板に簡単に映し出せるので効率的に共有が行えます。

先日行われた道徳の授業では、1つの「思考ツール」にグループで協働して書き込める[グループワーク]機能が活用されていました。個々が考えたことを、すぐに同一画面上で共有化し、グループ全員の思考を可視化する。こういった取り組みは、従来の紙媒体では出来ないことだと思います。このような思考の可視化や効率化にタブレット端末を役立て、思考力・判断力・表現力を育てていきたいと考えています。

タブレット端末で思考ツール「クラゲチャート」に書き込む

タブレットを宿泊学習に持参しその日のうちにプレゼン

タブレット端末の機能性や携帯性を生かし、校外学習などの屋外での活動の際にも積極的に端末を持ち出して活用しています。また昨年度からは、6年生の宿泊学習でも利用しています。グループに1台ずつタブレット端末を携帯させ、市内を散策して気づいたことなどをタブレット端末のカメラで写真撮影。その日の夜に宿泊先のホテルで、自分たちが見つけたことや知ったことをプレゼンテーションするという取り組みを行っています。

以前のように、デジタルカメラで写真を撮影しておき、学校に帰ってきてから記憶をたどりながら2時間くらいかけて資料にまとめて発表するというやり方では、児童生徒の感動が冷めていますし記憶も薄れてしまいます。この取り組みは、教員の間でも非常に好評で来年度以降も実施する予定です。

教員・児童生徒にとって、ICTは当たり前の道具に

当学園の教育課程の中には、キーボード入力を練習する時間などは設けていませんが、7年生でキーボード入力ができないという生徒はまずいません。1~9年生まで、授業でICTを継続して使い続けることで自然と基本的なICT活用スキルが身についています。

上学年生が下学年生にICT機器の活用やプレゼンテーション資料の作成について教えるまた、1、2年生の児童には、7~9年生の生徒が「リトルティーチャー」としてICT機器の操作を教える取り組みを行っています。下学年に頼られる経験は、生徒の自己肯定感の育成につながっています。

当学園の児童生徒にとってタブレット端末や電子黒板などのICT機器は、筆記用具と同様に「道具」の1つになりつつあります。例えば、先日行った文化祭では、クラスの出し物の中でも、当たり前のように電子黒板、タブレット端末が利用されていました。ICT機器をどのように使ったらよいのか、自ら考え、判断する力が育っていると感じました。これは、教員が日々の授業の中で良い使い方を示しているからだと思います。児童生徒がそれぞれのメディアの特徴を理解し、適切なメディアを自ら選択して利用できる、まさに「情報活用の実践力」が9年間の連続した学びのなかで育まれてきています。

教員にとっても、ICTはもはや特別な機器ではありません。例えば、理科の実験方法を同学年の教員間で共有しているのと同じように教材研究を行い、授業でのICT活用の方法について打ち合わせを行っています。わからない操作があれば、その際に操作を確認するという感じです。当学園の開校以来、全教職員を対象としたICTの操作研修を行ったことは一度もありません。

平成28年度から義務教育学校へ。あるべき姿を示す

平成28年度から、当学園は「義務教育学校」として、新たなスタートを迎える予定です。単に施設が一体化されているだけでなく、小学校から中学校までの9年間を貫く連続性のあるカリキュラムを基盤として積極的に教育活動に取り組んでいる学校として、義務教育学校の在り方を全国に示していきたいと考えています。また義務教育学校におけるICTの効果的な活用方法なども全国に発信していきたいと考えています。

(2015年11月取材 / 2016年2月掲載)