授業でのICT活用

タブレット端末導入に関する成果と課題

1タブレット端末導入の現状

文部科学省は、「教育の情報化ビジョン」において近未来の教室環境や学習形態の例を示している。そこには、学習者1人1台のタブレット端末、それと連動した電子黒板、実物投影機などが教室環境のイメージ図として描かれている。「一斉学習」「個別学習」「協働学習」といった学習活動の形態も例示された。特に「協働学習」と呼ばれる学習者同士の相互作用による学習においてこそICTの真価が発揮されると期待されている。

そして、それを実現するための環境整備とはどのようなものか、国が推進するレベルでも様々な事業および実証研究が行われてきた。例えば、総務省による「フューチャースクール推進事業(2009~2012年度)」や文部科学省による「学びのイノベーション事業(2010~2013年度)」などがある。これらの成果を活かしながら、全国の自治体でICT環境・タブレット端末の整備が行われてきた。

図1平成27年10月、文部科学省は、「平成26年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)(平成27年3月現在)」を公表した。その結果のひとつとして、【図1】のように「教育用コンピュータのうちタブレット型コンピュータの台数」の推移を表したグラフが示された。

全国で156,018台という数値は、全ての教育用コンピュータ台数 1,917,103台からみるとまだそれほど多くないが、経年変化としては増加傾向であり、特に平成26年から27年の間に2倍以上に増えていることがわかる。今後も多くの自治体で導入が進むと予想されるが、その際には、先導的にタブレット端末の導入に取り組んできた自治体から、その成果と課題を学ぶ事が重要であろう。

2タブレット端末を導入する際のポイント

タブレット端末を導入するにあたって、まず以下に示す3点について考える必要がある。

1. なぜタブレット端末を導入するのか

まず、タブレット端末を導入するにあたって考えなければならないのは、「なぜタブレット端末を導入するのか?」「そもそもタブレット端末は必要なものなのか?」「何を目的としてどのように使うために導入するのか?」という問いに対する回答である。

タブレット端末は学習に有効だと言われているが、適切な学習環境デザインが行われなければ、その効果が発揮されることはない。適切な学習環境が整備されるためには、導入する人と活用する人の間で「明確な活用イメージ」を共有する必要がある。そのため、学習環境をデザインするために「タブレット端末の必要性」を明確にしておく必要がある。

ICTの導入において、使う意義が理解されず使われないままになることや、無理に使うことで授業のリズムを崩してしまう事例はこれまでも見受けられた。「とにかく導入すれば使ってくれるだろう、成果が上がるだろう」といった曖昧な考えで導入されたものほど、実践で使いものにならないことが少なくない。

2. タブレット端末を何に使うのか

タブレット端末を何に使うのか検討する上で、教材コンテンツとしてのアプリケーションの種類はどのようなものがあるのか把握しておくことが重要となる。例えば、個別でドリル学習をするための教材、視聴覚に訴えかける映像教材、従来の教科書を発展させたデジタル教科書など、教育に活かせる様々な教材コンテンツが存在している。

また、そのような教材コンテンツとしてのアプリケーションを使わずにできるタブレット端末の活用方法も知っておく必要がある。例えば、カメラ機能や録音・録画機能、メモ機能、マップ機能など、ツールとしてのアプリケーションを学習活動に活用することができるだろう。

タブレット端末でどのようなことが実現可能なのか把握しておかなければ、授業をデザインすることはできない。さらに、電子黒板や実物投影機と組み合わせて使う方法にはどのようなものがあるか知っておく必要がある。これらは、授業の方法とも直接関係する。どのような学習活動を行うのか、そのために必要なタブレット端末は1人1台なのか、グループ1台なのかといったことも検討していく必要があるだろう。

3. タブレット端末とデータ管理の方法

タブレット端末の設定やデータの管理については、自治体や学校でポリシーを策定して、どのように運用するか考える必要がある。例えば、充電庫をどこに設置し、タブレット端末を管理するのか、タブレット端末のデータは、本体に保存するのか、外部ストレージに記憶させるのか、クラウドなどネットワークのサービスを使うのかといったことを決めていく必要がある。

ネットワークへのアクセスが伴うことを考えると、タブレット端末とセキュリティのあり方についても検討しなければならない。持ち帰り活用をする場合には、特に重要な検討事項とも言える。

今後の普及、活用促進を考えるならば、汎用的な方式を見いだしていく必要がある。

3目指す学力観に基づく学習環境のデザインを

タブレット端末を導入する目的のひとつに「学習者の学力向上」が挙げられることがある。しかし、単にタブレット端末を導入したからといって学力が向上するわけではない。

また、「学力」と一言で言っても、何をもって「学力」とするかは、様々な考え方がある。例えば、体系的な知識や技能を習得しているかどうかで評価される「学力」があるが、知識や技能を活用して、思考、判断、表現し、課題を解決していくことで評価される「学力」もある。また、自ら問題を発見し、その解決のために知を探究し、新しい知や科学的な法則を発見していくことで評価される「学力」もある。

このような多様な学力観があることを前提として考えるならば、それぞれの学力を向上させるために、それに対応した学習活動が必要になる。それぞれの学習活動には、それに対応したタブレット端末の活用方法がある。そして、その活用方法を可能にさせる学習環境の整備が必要となる。つまり、目指す学力観に基づく実践を実現させるために、導入時にタブレット端末を含む学習環境をデザインする必要がある。

タブレット端末は導入されたものの「周辺機器やアプリケーションがなくてやりたかった活動ができない」ということがないようにしなければならない。同様に「あの授業支援ソフト(タブレット端末の画面を電子黒板などに転送・分割提示するためのソフト)ならやりたいことができたのに、このソフトではできなかった」という事態は避けなければならない。あるいは、後から追加できるような予算措置・運用の仕組みも必要であろう。

(2016年2月掲載)