千代田区立神田一橋中学校は、平成25年度の校舎の大規模改修に合わせて全普通教室にインタラクティブホワイトボード(IWB)などを設置され、教員・生徒に1人1台のタブレット端末を配付されました。タブレット対応授業支援ソフトウェア『SKYMENU Class』の「個人フォルダ」を活用して、教員・生徒が校内どこからでも自分のデータを利用できる環境を整えられています。充実したICT環境のもと、学力向上をめざし、全教員の日常的なICT活用を推進される、太田 耕司 校長にお話を伺いました。(2015年6月取材)
教員と生徒に1人1台にタブレット端末、約280台を整備
本校は、平成17年から千代田区教育員会から情報教育推進校の指定をうけており、千代田区のモデル校として、「教育の情報化」の3つの柱である「情報教育」「教科指導におけるICT活用」「校務の情報化」のすべてを推進する役割を担っています。教育方針に「伝統の継承と未来の創造」を掲げ、伝統文化教育と情報教育の両面を重んじた教育を推進しています。
平成26年9月に完了した校舎の大規模改修を機会に、全普通教室に88インチのインタラクティブホワイトボード(以下、IWB)や書画カメラなどを整備しました。また、校内各所には無線LANアクセスポイントを配置し、校内のどこからでも教育用ネットワークが利用できる環境を整えています。
さらに、Windowsのタブレット端末を約280台整備して教員と生徒に対して1人1台ずつ配付しました。すべてのタブレット端末に、タブレット対応授業支援ソフトウェア『SKYMENU Class』を導入しており、『SKYMENU Pro』が導入されているコンピュータ教室のコンピュータや、教員に1人1台付与している教育用ノートPCと「個人フォルダ」を介して、校内どこからでもデータを利用できる環境になっています。
「教育の情報化」3つの柱すべてを推進する
私が、本校に赴任したのは校舎改修前の平成24年度です。それまでICT活用や情報教育を専門的に学んできたわけではなかったため、当時は情報教育推進校の校長として「何をしなければならないのか」がわからず、自身の知見不足を感じていました。
そこで、独立行政法人教員研修センターが主催する「学校教育の情報化 指導者養成研修」に参加し、情報教育をリードされる大学の先生方から、情報教育の基本的な考え方や先進校での実践事例などを学びました。そして情報教育推進校である本校は、教育の情報化の「情報教育」「教科指導におけるICT活用」「校務の情報化」という3つの柱すべてにおいて、推進することが求められていることを認識しました。そして、新校舎では教員、生徒が日常的にICTを活用できる環境を実現したいと考えるようになりました。
タブレット端末の“日常使い”にこだわり、教室環境を検討
新校舎の教室環境を検討する際は、生徒が1人1台のタブレット端末を持って授業に臨むことを想定しました。
普通教室のすべてにIWBと41インチの大型テレビを常設。特にIWBは、より広い板書スペースが確保できるスライド移動式のものを採用しました。機器の使いやすさも重視し、アナログのホワイトボードに近い発想で書いたり、消したりできる製品を選びました。
毎時間教室を移動する中学校教員にとって、その都度ICT機器をケーブルで接続するのは手間です。また、ケーブル類は教員の動線を妨げる要因にもなります。そこで教員機や学習者機の画面を、無線LANを使ってIWBに簡単に提示できる「無線画面転送装置付きアクセスポイント」を設置しました。アクセスポイントは『SKYMENU Class』と連動し、ボタン操作一つで投影可能なものを選択しました。
黒板の下には、40台のタブレット端末の充電スペースを備え付けました。通常であれば、充電保管庫は教室の後方や前方に設置する場合が多いと思いますが、それでは充電保管庫の前で生徒たちが渋滞してしまい、端末の出し入れに時間が掛かります。黒板の下に横長の充電スペースを備え付けることで効率良く端末を取り出せるようにしました。
授業で必要な機器の電源は教室前方に集中させることで、一つのスイッチを入れるだけで、授業の準備が整うようにしました。授業時間は50分しかありませんので、授業準備の時間の短縮がICTの日常使いのポイントになると思います。
ICT活用環境を整える『SKYMENU Class』
生徒1人1台のタブレット端末を活用した授業場面を考えたときに、今生徒たちが何をやっているかを、教員が把握できる必要があります。しかし、机間指導だけで生徒40人がタブレット端末に書き込んでいる内容や、取り組みの進捗状況を把握するのは困難です。
教員機と学習者機をつないで生徒の画面を手元の教員機で確認できたり、無線LANを使って教員や生徒の画面を手早くIWBに提示して共有できたりといった仕組みを持つ『SKYMENU Class』は、本校が求める教室環境には欠かせない要素でした。
こういった授業支援機能とともに、ICT活用環境を整える機能にも期待しました。本校では快適な操作性を維持するために、タブレット端末を起動するたびに「復元ソフトウェア」で端末の設定を元に戻します。つまり、端末内のデータが消去されてしまうので、教員や生徒が作成したデータをいかに保存し、管理するのかが課題でした。『SKYMENU』では、サーバ上にユーザ1人ひとりに専用のデータ領域「個人フォルダ」が付与されるので、端末本体にデータを残すことなく、サーバ上でデータの保存と管理ができます。目立たない部分ですが、端末の環境維持と確実なデータ管理を両立させられたことに価値を感じています。
「個人フォルダ」で、職員室と普通教室間で教材の移動が容易に
タブレット端末を導入してから約8か月、本校では、教員がタブレット端末を使ってIWBに教材を提示する活用法は、教科を問わず日常的に行われています。特に前述の「個人フォルダ」の活用が浸透していて、職員室の教育用ノートPCで作成した教材ファイルを「個人フォルダ」に保存し、普通教室ではタブレット端末で教材ファイルを開いて提示するといった使い方がされています。
今後の生徒1人1台の活用に向けて、教科ごとの「グループフォルダ」を作成し、課題提出などに利用することを思案しており、より一層重要な役割を果たしてくれると期待しています。将来的には、卒業生1人ひとりに3年間の学びの成果として、個人フォルダ内に蓄積してきたデータを渡してあげたいと考えています。
1人1台の活用にむけ、教員のICT活用を段階的に進める
教員の日常的なICT活用が進んでいる本校ですが、私が赴任した当初は、全教員がICTを活用していたわけではありませんでした。新校舎の充実したICT環境下で、全教員が生徒1人1台のタブレット端末活用授業を実践するためには、全教員のICT活用スキルの向上が必要でした。そのために「書画カメラ」などの基本的なICT機器の活用から、一つひとつ段階を踏んで浸透させていくべきだと考えました。
まず、平成25年度は1年間を「教員がICTを使う1年」として、仮校舎の全普通教室に書画カメラを常設しました。研究目標を「学習意欲や思考力・判断力・表現力を高める指導方法」と設定し、教科書を拡大提示して関心意欲を高めるといった基本的な使い方を、全教員ができることをめざしました。
次のステップでは、教育用に整備されていたノートPC40台のうち、20台を教員1人ひとりに配付し、残りの20台を各普通教室に常設しました。これによって教員は、職員室の教育用ノートPCで作成した教材を教育用ネットワーク上のサーバに保存し、普通教室の教育用ノートPCから教材を呼び出して提示するといった活用ができるようになりました。この活用方法は、現在本校の先生方が「タブレット端末」と「個人フォルダ」で行っていることの原型になっています。このときには、研究目標に「学力向上のための授業改善~ICT機器の活用を通して~」を掲げ、「基礎的・基本的な知識・技能」の習得までをめざしたICT活用に、全教員で取り組みました。
教員のICT活用から、生徒1人1台のICT活用へ
このような段階的なICT活用の経験を経て、平成26年9月に本校にタブレット端末約280台が整備されました。まずは教員にタブレット端末を配付し、教員から活用を開始しました、全校生徒には、翌月の10月20日に配付しました。
全校生徒への配付から約1か月経過した12月1日~5日の1週間で、タブレット端末の使用状況を調査したところ、教員だけが活用した授業は41.0%、生徒も活用した授業は17.3%でした。
さらに、約8か月経過した平成27年6月22日~26日に同調査を実施したところ、教員だけが活用した授業は77.9%、生徒も活用した授業は31.9%となり、教員・生徒ともにタブレット端末の活用頻度が高まっていることがわかりました。
今後、生徒が1人1台のタブレット端末を活用する授業を、さらに増やしたいと考えています。そして、そのためには授業を考える教員の意識改善がますます重要になると思います。
1時間の中で5分だけの活用でもいい
将来的には、教員90%、生徒30%のタブレット端末活用率を目標にしています。
教材提示などで教員が日常的にタブレット端末を活用しているなかで、教員90%という活用率は難しくない目標だと思っています。ただし、「何でもかんでもICT活用」を考えているわけではありません。何のために、どの場面で、どのようにICTを活用するのか。教師の目的やねらいが明確にあり、そしてねらいと手だての整合性が取れていれば、例えば「1時間の中で5分だけの活用でもいい」と言っています。
ICTは教具に過ぎません。ICTを導入すれば学力が伸びるのではなく、ICTを授業にうまく取り入れることで学力が伸びます。教員の「授業力」を磨くことが生徒の学力向上に結び付くと考えています。
生徒のタブレット端末活用率3割を目標に
生徒のタブレット端末活用の目標30%という数値には2つ意味があります。1つは、全体の授業のおおよそ3割でタブレット端末が活用できるだろうという意味です。授業では「教員が教える」「生徒が覚える」ということが欠かせません。すべての授業、教科、単元で、生徒にタブレット端末を活用させて思考力・判断力・表現力を育成したり、協働学習などに取り組まれたりするわけではありません。教科や単元によっては、「単元の最後の3時間だけに使う」「ある単元は丸ごと使う」など使い方がなされ、全体でみると3割程度の活用になると考えています。
もう1つはタブレット端末を生徒に使わせるなら、1時間のうち3割程度の時間、つまり15分程度の活用を目安にしたいという意味です。1時間の間にずっと生徒がタブレット端末を使うという授業は、恐らく良い授業ではありません。今後は、生徒がタブレット端末でドリル問題を解ける「自習アプリ」などを活用することで、日々の授業の中で5~10分の短時間のタブレット端末活用が広まるのではと期待しています。
ICTでの授業改善を軸に、生徒の学習機会の充実を図る
学習指導要領の改訂のキーワードに「アクティブ・ラーニング」があげられていますが、これは本校がこれまでタブレット端末を活用して進めてきた個別学習・協働学習の取り組みと一致すると考えています。今年度もより一層、学力向上につながる授業改善を進めたいと考えています。
その取り組みを軸としながら、学力向上にむけて、生徒たちにより多くの学習機会を提供したいと考えています。本校にはコンピュータ教室と図書館を併設した「メディアルーム」があり、この部屋を放課後に解放し、生徒が自主的に学習できる場として提供しています。生徒たちの反応も良いので、今後はDVD教材などを購入し、さらに充実させる予定です。
さらに、学校のWebサイト上で教員が作成した5~10分くらいの映像教材を掲載することを検討しています。これを予習として閲覧させれば「反転学習」になりますが、反転学習は生徒個々の差などもあり、簡単に実現できるものではないと考えています。一度学習したことを動画で復習できる環境を提供することで、学力向上につなげたいと考えています。これらの教材は、国語、英語、理科の3教科で2学期から試験的に実施し、生徒の反応が良ければ他教科への展開も検討しています。
しかし、あくまで本校の研究の軸は、ICTを活用した授業改善にあり、学習機会の提供や家庭学習の充実は側面からの支援だと考えています。今後も研究協力校としてさまざまな取り組みを実施し、多くの事例、成果を発信したいと思います。
(2015年8月掲載)