授業でのICT活用

タブレットを活用して“追究する時間”の拡充を目指す

静岡県掛川市立大須賀中学校掛川市立大須賀中学校は、掛川市教育委員会の研究指定「ICT活用研究(授業研究)」を受け、21世紀に生きる力「かけがわ型スキル」の育成のための授業研究に取り組まれています。タブレット端末で、授業を効率化し、生徒たちが追究する時間を拡充する「おおすか型授業スタイル」を通じて「かけがわ型スキル」の育成を目指される、同校の三輪 直司 校長、沢田 佳史 教諭にお話を伺いました。(2015年3月取材)

三輪直司 校長、沢田佳史 教諭

市内小中2校で2年間の研究指定

掛川市では、グローバル社会を生き抜くために求められる思考力や問題解決力、人とかかわるコミュニケーション能力など、これからの時代を担う子どもたちが身に付けるべき「21世紀型スキル」から6項目を取り出し「かけがわ型スキル」を定めています(図1)。

図1 「かけがわ型スキル」とは…
※21世紀型スキル…世界の教育関係者らが立ち上げた国際団体「ATC21s」(The Assessment and Teaching of 21st-Century Skills=21世紀型スキル効果測定プロジェクト)が提唱する概念。

これらは、現行の学習指導要領で定められている学習内容を通じて、掛川の子どもたちに身に付けさせたい「力」です。

例えば、生徒たちが自分の考えを持ち、伝え、聞く、そして質問を返す、聞いた内容を要約して伝えるといった「コミュニケーション能力」を身に付けさせるために、一体どのように指導すれば良いのか。そして、それらの育成にICTをいかに有効に活用できるのか。本校と倉真小学校の2校が、市の研究指定「ICT活用研究(授業研究)」を受けて2年間の研究に取り組んでいます。

タブレット端末と授業支援ソフトで授業のタイムロスを短縮

ICTで効率化し、追究やまとめの時間を確保

本校には昨年度に、タブレット端末35台とタブレット対応授業支援ソフトウェア『SKYMENU Class』が整備されました。これらを授業に取り入れ、より効果的な新しい授業スタイルを「おおすか型」と定め、研究を進めています(図2)。

図2 「おおすか型授業スタイル」のモデル
授業の事前と事後の家庭学習を重視。事前の家庭学習では、授業への意欲を高める予習課題を設定し、事後の家庭学習では、授業内容の定着を図ったり、生徒自身が授業での変容を自覚できたりする復習中心の家庭学習課題を設定。授業と一体化した家庭学習の習慣化を図られている。

近年では、生徒に追究の時間を設けたり、小集団を活用したりする実践が増えてきています。しかし、「学習課題」から、生徒が追究の原動力となる「切実感をもった問い」=「学習問題」を持たせようと工夫するあまり、導入部に多くの時間を割かれ、追究の時間が十分に取れないままに、まとめを行ってしまう。逆に、追究の時間を取ろうとして、まとめの時間が足りなくなってしまう、といった様子が見受けられ、課題に感じていました。

そこで、「おおすか型授業」では、まず学習指導要領と生徒の実態から付けたい力を明確にし、早い段階で生徒たちに学習の見通しを持たせることを重視しています。導入部でICTを効果的に活用することで、本時では何を追究するのか、何を身に付けるのかを明確に示し、追究の時間やまとめの時間を生み出すことをねらっています。ICTを効果的に活用することで、短い時間で、これまで時間をかけていた導入と同じように生徒に切実感のある問いを持たせられると考えています。

そうして生み出した、十分な追究の時間で、これまでできなかった協働学習のスタイルをとり、誰もがスキルを発揮しながら追究に参加できるように、ICT機器で生徒の追究を支援しています。ここでタブレット端末と『SKYMENU Class』が効果を発揮しています。

また、これまでは班で話し合ったことをホワイトボードでまとめ、1班ずつ前に持ってきて発表・共有していましたが、タイムロスになる部分がありました。そこで、タブレット端末と『SKYMENU Class』を活用することで、生徒の考えをすぐに電子黒板で共有できます。授業でタイムロスになっていた時間をさらに短縮させて効率化し、生徒が追究する時間をより多く作り出しています。

「もっと追究の時間さえあれば…」「生徒の多様な考えを活かしたい」という先生方の「生徒の学習を大切にしたい」という願いを実現させるために授業研究に取り組んでいます。

一方で、私たち教師にとって、学習指導要領で定められている学習内容をきちんと教え、定着をさせることは大事なことです。今年度、実践をいただいた各教科担当の先生方には、限られた授業時数の中で大変なご苦労をいただきました。手探りの状態で走り抜けた1年間でしたが、校内研究や授業公開を重ねる中で、次第に学校全体が「タブレット端末を使ってみよう」という雰囲気になってきたと思います。

今まで見られなかった「学びの姿」が

タブレット端末で根拠となる画像を示して説明

これまでの取り組みで、生徒1人1台や2人ペアに1台のタブレット端末活用が進んでいます。特に、保健体育など技能教科において、生徒たちがペアでお互いの動きを動画で撮影し合って視聴。課題に対してどこまで達成できているかを確かめ合うといった使い方が多く行われています。

理科では、生徒がタブレット端末で、植物の画像を拡大してそれぞれの特徴から仲間分けを行いました。生徒たちは、初めは1人でのぞきこんでいるばかりでしたが、グループ学習では班員にタブレットを見せながら説明する姿が見られました。実物がなくても、画像を拡大したり、比較したりできるのがデジタルの良さです。

さらに、交流学習の場面では、ほかの班に自分たちがなぜそのような仲間分けをしたのかを、タブレット端末で画像を見せ、根拠を示しながら話したり、ほかの班の仲間分けをカメラで撮影し、班に持ち帰って情報を共有したりする姿も見られました。

これまで教科書や資料集に掲載されている画像を眺めて考えていた生徒たちが、タブレット端末の活用を通じて、自ら事実を確かめようとする、今まで見られなかったような「学びの姿」が見られるようになりました。

SKYMENU Class 活用シーン

デジタルの「復元性」を生かし、発展につなげる

生徒1人ひとりに自分の考えを表現させるのに、『SKYMENU Class』の「デジタルワークシート」を活用しています。

生徒たちに自分の意見や考えを書かせるなら、紙でもデジタルでも、よりたくさんの考えを表現できるものを選択できれば良いのですが、「他者に伝えたい」「より詳しく説明したい」という気持ちが生徒たちに出てきたときに、「デジタルの良さ」が際立ちます。

例えば、紙は、一度赤ペンで説明書きを加えてしまえば、その紙を次の説明で使えません。デジタルは、紙の上に何度マーキングしても、すぐに初期状態に戻せる「復元性」があります。画面を保存して、別の機会に使うこともできます。さらに、復元性があることで、例えば生徒たちが別の視点、角度から改めて問題を考えてみるという発展につながります。

教師にとっても、メリットがあります。例えば、生徒たちに途中経過を定期的に保存させて「個人フォルダ」に蓄積させておけば、1人ひとりの変容を確認でき、評価に役立てられると思います。そして、それは教師の授業の振り返りにもなります。

『SKYMENU Class』は、1人ひとりの「個人フォルダ」に「デジタルワークシート」が保存され、[作品ビューア]機能で生徒たちのデータを一斉に回収できるなど、授業に必要な機能が揃っています。デジタルにはデジタルの弱点はありますが、その有益な部分を授業で生かしたいと思います。

「デジタルワークシート」にまとめ考えを伝え合う

[グループワーク]機能でジグソー学習が充実

本校では、ジグソー学習を積極的に取り入れており、そこで「デジタルワークシート」の[グループワーク]機能が役立っています(図3)。

図3 グループ全員で資料を同時に共有
「デジタルワークシート」は、試行錯誤しながら思考を深めたり、考えをまとめたりする活動に利用できます。[グループワーク]機能で、グループ全員の資料を同時に共有できます。

ジグソー学習では、生活班などのグループの1人ひとりがそれぞれ異なる課題別のグループ「エキスパートグループ」に参加し、そこで課題ごとに得た情報を、もとのグループに持ち帰って共有するという形で進行します。「デジタルワークシート」の[グループワーク]機能を活用すれば、エキスパートグループで調べてまとめた情報を、そのままもとのグループに持ち帰って説明できます。従来のホワイトボードや紙などのアナログの方法では、エキスパートグループから、もとのグループに戻る際の「接続」が弱いと感じていたのですが、[グループワーク]機能で、よりスムーズにグループ間を接続でき、大変便利に活用しています。生徒たちもメモ帳のように、自然に「デジタルワークシート」に書き込んでいます。

今後は、まとめのクロストークで各グループの「デジタルワークシート」をつなぎ、学級全体で学習の成果を共有したいと考えています。さまざまな考えと自分たちの考えを比べること、新たな考えに気付いたり、矛盾が生まれたりして、別の方向性が見えてくるのではと期待しています。

端末に生徒のデータが残らない「個人フォルダ」

本校では、生徒1人ひとりのデータは、サーバ上のユーザ専用のフォルダ「個人フォルダ」に保存されるので、タブレット端末本体にデータが残らない点が助かっています。

「個人フォルダ」がなく、各端末内にデータが保存される環境であれば、例えば、継続して課題に取り組むような授業で生徒は毎回同じタブレット端末を使わなければなりません。タブレット端末を校内で共有利用していることから、それは確実な方法ではありません。また、撮影した写真や動画などを、ほかの生徒に見られてしまう可能性もあります。他人に勝手に見られることは、決して気持ちのよいものではないと思います。

自分のデータがサーバ上に蓄積されることで、単元を通じて付けたい力がどこまで身に付いたのか、生徒たちも実感しながら授業を受けられると思います。今後は、事前と事後の変化を比較して振り返りをしたり、教員の評価で活用したりできればと考えています。

空き教室をタブレットルーム化、準備の手間を削減

ICTの活用で先生方が一番大変だと感じるのはICT機器の接続です。多くの先生方にタブレット端末を活用していただきたいと考え、空き教室の「タブレットルーム化」を計画しています。

予めタブレット端末や電子黒板などの機器がセットされている教室「タブレットルーム」を作ることで、タブレット端末の電源を入れるだけですぐに授業がスタートできる環境をめざしています。コンピュータ教室とは違い、普通教室のような机の並びの部屋や、タブレット端末を使いながら、対面でコミュニケーションを取り、小集団での活動がしやすいような部屋を作りたいと考えています。

予算に余裕がない中ですが、教育委員会と相談しながら、不足しているタブレット端末の追加整備など、可能な範囲でICT環境を充実させていきたいと思います。

教科の本質を貫くなかで、タブレット端末を活用する

「タブレット端末を使わなくても紙で良いのでは」という意見も伺います。確かに授業でのICT、タブレット端末の使い方は、よくよく考える必要があります。しかし、かけがわ型スキルや21世紀型スキルと呼ばれる能力の中には「リテラシー」も謳われています。つまり、日々の学習活動の中で生徒たちがICT機器に触れ、リテラシーを高めるということを視野に入れて授業を行う必要があります。一側面だけを見るのではなく、全体を見通しながら新たな試みを進めたいと考えています。

そして、ICTの活用によって効率化され、生まれた時間の使い方がこれまでと変わらなければ価値がありません。新たに生まれた時間を知識の詰め込みに使うというのは違いますし、何の目的もなしに、生徒たちに話し合わせるという活動も違います。自分の考えをほかのグループと交流させることで、多様な考えに気付き、より良い答えを導きだす。そのような時間を作り出したいと思います。

タブレット端末は、あくまで子どもの学びを助けるツールに過ぎません。それが主役になってしまう授業ではなく、あくまでも教科の本質を貫くなかで、思考やプレゼンのツールとして、効率化の手段として有効な活用方法を追究したいと考えています。

(2015年6月掲載)