授業でのICT活用

教師主導から学習者主体へ新しい授業スタイルへの転換をめざす

茨城県古河市教育委員会古河市教育委員会様は、平成25年度から市内9校の中学校のコンピュータ教室をタブレット端末で整備されました。キーボードを着脱することでノートPCとしても利用できるコンバーティブルタイプのタブレット端末を導入。コンピュータ教室のレイアウトも一新されました。

同市がめざされる「21世紀型の先進的な教育」の実現にむけ、新しいICT環境づくりに挑戦される、古河市教育委員会の平井 聡一郎様、荒籾 忠広様、人見 一様にお話を伺いました。

平井聡一郎課長、新籾忠弘係長、人見一主事

Windows® XPサポート終了迫り、PCの更新が課題に

当市は、平成17年9月に、旧古河市、総和町、三和町の1市2町が合併して誕生しました。小中学校は合併以前からコンピュータ教室の機器の老朽化が課題となっており、学校によっては、導入から10年以上が経過したCRTモニターのコンピュータもある状況でした。さらに、Microsoft Windows XPのサポート終了も差し迫っていたことから、情報セキュリティ対策の面からも最新のコンピュータへの更新が大きな課題となっていました。

キーボードを着脱できるタブレット端末をPC教室に整備

平成25年度、26年度に中学校全9校のコンピュータ教室の更新にあたり、大きく2つの方針を立てました。「持続可能なコンピュータ教室であること」と「創造的かつ実践的なコンピュータ教室であること」です。

1つ目の「持続可能なコンピュータ教室」とは、今後、市単独の予算でも更新し続けられるように必要最低限な整備をすることです。今回、各中学校に教員機1台、学習者機40台のタブレット端末を整備しましたが、「センターサーバ方式」を採用し、各校のサーバをなくしました。教育委員会で9校分のサーバを集約し、一元管理することで運用管理のコスト軽減などを図りました。

2つ目の「創造的かつ実践的なコンピュータ教室」とは、当市のめざす「21世紀型の先進的な教育」を実現するための環境を構築することです。21世紀型の教育とは、これまでの「教師主導型」の授業から「学習者主体」の授業へ転換することだと私たちは考えています。それは、学習者が主体となって、情報を収集・選択・蓄積し、まとめて表現することや、教師と学習者が相互に情報伝達を図り、さらに学習者同士が教え合い学び合う双方向性のある授業の実現です。生徒たちが顔を寄せ合って話合い、考えをまとめ、表現するにあたって、タブレット端末は非常に有効なツールだと考えました。

中学校では、プログラミングやレポート作成などの学習機会も増えます。そこで、OSはMicrosoft Windows 8、キーボードを着脱でき、ノートPCのようにも運用できるコンバーティブルタイプのタブレット端末を採用し、さまざまな学習活動に対応できるようにしました。

生徒同士のコミュニケーションを円滑にするPC教室へ

タブレット端末の整備とともに、それらを使う場であるコンピュータ教室そのものも見直しました。従来のコンピュータ教室の授業は、インターネットでの調べ学習などが多く、「作業」レベルでの活用が中心で、それ以上の「学び」に発展しづらかったと思います。生徒たちが個別で考えたことを、グループで共有し、話合いながら創造していくという探究的な活動が難しい環境でした。

PC教室が一新され、生徒たちが話し合うことや、教師が机間指導しやすくなったそこに、新たに勾玉型の「組み合わせ机」を導入し、生徒たち同士で話合い、教え合うことが自然に行える環境づくりを行いました。さらにネットワークを有線LANから無線LANに変更したり、タブレット端末を充電保管庫で管理したりすることで室内の配線をなくしました。

授業だけでなく、さまざまな活動で多目的に活用できる「マルチメディアルーム」として今後活用されることを期待しています。

タブレット端末の共有を支える「ユーザ管理」「個人フォルダ」

整備に際しては、タブレット端末を活用した授業も支える授業支援ソフトウェア『SKYMENU Class』を導入しました。選定においては、競合他社と比較して使いやすいインタフェースであることと、教育委員会での「センターサーバ方式」、さらにはActive Directoryと連携したユーザ情報の管理、ユーザ情報ごとに作成される専用のデータ領域「個人フォルダ」が必須だと考えました(図1)。

ユーザ管理・個人フォルダが支えるタブレット端末共有利用

当市では、タブレット端末40台を全校で共有して利用する運用のため、生徒1人ひとりが撮影した写真や作品など、大量のデータの保存や管理が必要になります。1人ひとりに「個人フォルダ」があることで、いつでも、どの端末からでも自由にデータを取り出せること。これは学習者主体の授業を実現するにあたって、基盤となる部分だと考えています。

また、生徒たちにとってユーザID、パスワードの管理が身近なものになってきていることから、生徒たちに自分自身のユーザID、パスワードを入力させて、ログオンさせています。自分のユーザIDやパスワードを忘れるなど、適切な管理がまだまだできていない生徒が多いですが、日々の授業の中で身につけさせたいと考えています。

【実践】2年 家庭

生徒の考えをリアルタイムにつかみ、双方向性のある授業に

今年度の8月に導入が完了したばかりの古河市立第一中学校では、技術・家庭科の授業で、早速タブレット端末を活用した授業に取り組まれています。

家庭科の淺香 侑美 教諭は、2年「身近な消費生活と環境」で1人1台のタブレット端末を活用して実践されました。この単元は消費者として、よりよい商品をどう選ぶかを考えさせるものでした。素材や色、デザイン、価格が異なる4枚のTシャツを用意して、目的と予算に応じた商品の選択を考えさせました。

淺香教諭は、生徒たちに観点を与えるために、予めタブレット端末などで撮影しておいた衣服表面の写真を拡大してスクリーンに投影。Tシャツそれぞれに、素材や縫製に違いがあることに気づかせ、主観ではなく、多面的に捉えさせていました。もちろん生徒たちには、実物のTシャツにも触れさせ、その違いも感じさせていました。

各グループにホワイトボードを配付するなど、アナログの教材も組み合わせて展開され、生徒たちが話合い、考える、学習者主体の学習展開でした。

各グループで選んだ商品とその理由を発表させる場面では、1人1台のタブレット端末と『SKYMENU Class』が活用されていました。発表を聞いた生徒たちにタブレット端末を使って赤、黄、緑、青の4色で自分の感想を表現させ、スクリーンには学習者機画面の一覧表示画面を提示することで、全員の感想を共有していました。生徒たち1人ひとりの反応を教員機でリアルタイムに確認しながら、多様な感想を紹介されるなど、より双方向性のある授業が展開されていました。興味深い活用方法だと思います。

【実践】2年 技術

ジグソー法を取り入れ、学習者主体の授業をデザイン

技術科の藤井 貴広 教諭は、2年「エネルギー変換機器の仕組みと利用」でタブレット端末をグループに2台ずつ配付して実践されました。ジグソー法を取り入れ、3人グループで協働による学習を展開されました。

前時までに、「LED」「蛍光灯」「白熱電球」の3つの電球についてグループ内で担当を分け、各グループの担当者が集まった「専門チーム」でそれぞれの電球の特徴を調べさせていました。 

タブレット端末で調べた情報を基に、話合う。キーボードの着脱ができるので入力しやすい。本時、藤井教諭は「リビング」「お風呂」「台所」「寝室」において、最適な照明を提案するように各グループに課題を示されました。グループ内で、それぞれの担当者が得てきた知識をメンバーに伝え、話合いを通じてグループの提案を検討していました。

生徒たちはお互いに教え合い、情報を共有しながら問題解決を図っていく中で、インターネット検索などでタブレット端末を自然な形で使っていました。

藤井教諭は授業支援ソフトウェア『SKYMENU Class』も活用され、電気代を割り出すことができるWebページを全タブレット端末に一斉に配付することで、生徒たちに数値的な根拠をもって考えたり説明したりすることを気づかせていました。

発表者のワークシートをタブレット端末で撮影し、拡大提示して共有また、発表の場面では、各グループがまとめた提案のワークシートを[カメラ]機能を使って撮影し、スクリーンに提示することで、効率良く発表が行われていました。

基本的な使い方ですが、こういった使い方から徐々に活用が広がっていくと考えています。

教師、生徒ともに、新しい授業スタイルに慣れることが必要

新たな学習ルールや教師の工夫が必要

タブレット端末や、新しいコンピュータ教室を活用した、学習者が主体となる新しい授業への取り組みはまだ始まったばかりです。生徒たちも教師主導型の授業に慣れており、今回のような学習者が主体となる授業のスタイルにはまだまだ慣れていません。ホワイトボードなどのアナログの教材と組み合わせながら、自分の考えを表現したり、生徒間で話合ったりする体験、また必要に応じてタブレット端末で情報を収集したり、考えをまとめたりするような体験を重ねることが必要だと思います。

教師も学習者主体の授業に慣れ、さらに、その中でタブレット端末を適切に活用する力が必要です。特に授業でのタブレット端末の活用にあたっては、生徒自身でタブレット端末を「使う」「使わない」をきちんと切り替えられるよう指導することも大事です。まずは、学習のルールを作り、徹底させていきたいと思います。

今後は、教師が生徒たちのノートやワークシートを[カメラ]機能で撮影して紹介する使い方が増えてくると思います。教師が予め工夫してワークシートを作っておくことや、「全員がわかるようにはっきり、わかりやすく書かせる」といった指導も必要になると思います。

中学校でのタブレット端末活用の推進、ひいては学習者主体の授業の推進については、まず技術・家庭科など、1人の教師が全学年を担当する教科から広げていき、やがてすべての生徒に慣れさせたいと考えています。

また、市内でタブレット端末活用を普及していただけるような先生を「エバンジェリスト(伝道師)」に任命し、実践事例の開発や活用度向上を図るといった取組も検討しています。

今後も指導課と教育総務課が連携し、最適な整備へ

整備にあたっては、他自治体から視察に来ていただけるような新しい形の整備、そして授業を実現することを目標にしていました。

しかし、整備の予算を担当する教育総務課では、学校の状況やニーズを十分につかみ切れていないのが実情でした。そこで、指導課の平井課長と連携し、学校の視察、授業の参観を行い、本当に必要な整備内容について議論を重ねました。

生徒たち、先生方にとって、最適な整備を実現するために、さらに連携を図りながら、21世紀型の新しい授業を広げていきたいと思います。

(2014年12月掲載)