授業でのICT活用

大切なのは、どのような力を身に付けさせるか-を明確に持つこと

さまざまな地域、学校、自治体単位で導入が進んでいるタブレット端末。タブレット端末が導入されれば、子どもの学びは充実するのか。総務省フューチャースクール推進事業などにかかわってきた、中橋 雄 武蔵大学教授は、授業支援ソフトウェアでタブレット端末や電子黒板などをつなぐことで、一斉学習や協働学習での学びを充実させられると指摘しています。タブレット端末と授業支援ソフトウェアの活用のポイントや効果などを伺いました。

タブレットと授業支援ソフトを組み合わせて生まれる効果

児童生徒が1人1台のタブレット端末を持ったとき、それらを一体何に使うかが問題です。タブレット端末が個々の手元にあるだけでは、学習活動に活かされないと思います。

例えば、タブレット端末をネットワークや授業支援ソフトウェアでつなぎ、ある子どものタブレット端末の画面を電子黒板に転送して、学級全体に共有するといったような、教室内のコミュニケーションを活性化するために使われる必要があります。このようにして他者の考えに学ぶことは、これまでも一斉授業の中でよく見られたパターンであり、大事な使い方だと思います。

また、グループで協働して考えを1つにまとめていくとか、思考を拡散させ、そして収束させていくような活動では、その思考の「プロセス」を把握することが重要です。タブレット端末と授業支援ソフトウェアを組み合わせれば、教師の側で子どもたちのタブレット端末画面をリアルタイムに確認でき、思考のプロセスを簡単に把握できたり、あるいは良いやり方をしているグループの画面を、ほかのグループにモデルとして瞬時に電子黒板に示して共有したりできるメリットがあります。

このような活動は、タブレット端末を持っているだけではできないことで、単にアプリケーションを使って「ドリル学習」をするということと、教室で「授業」をすることの大きな違いだと思います。

情報の「収集」から「表現」までタブレット1台で行える

タブレット端末の特徴の1つは、画像や動画を簡単に収集できることだと思います。

紙などの資料をよく見て、その内容を読み解くことは大事な力ですが、そこだけにこだわっていては、学習の本質的な部分になかなかたどり着けないこともあります。そのようなときに、タブレット端末があれば、学習の目的に迫るような静止画を撮影して、相手に示しながら説明、説得するような活動を簡単に行えます。タブレット端末は、コミュニケーション能力を身に付けさせる上で、非常に便利なツールだと思います。

さらに、タブレット端末はピンチ操作で拡大・縮小を行えます。注目させたい部分を大きく提示できる機能に価値があると思っています。もちろん、紙でも「この部分が・・・」と印を付けながら示せますが、注目させたくない部分も見えたままです。必要な部分だけを切り取って示すことで伝わることもあります。

つまり、「どのように見せて説明するか」までを含めた、これまでにはないコミュニケーション能力の育成を期待できるわけです。従って、教師はそのようなコミュニケーション能力を高める授業をデザインしなければならないし、指導の方法や助言、発問の仕方も変わってくると思います。

学級全体で高め合う文化の形成を

体育などの実技の動画撮影にもタブレット端末はよく利用されています。ほかにも、国語で音読している様子を撮影したり、音楽で歌っている様子を撮影したりといった利用もされています。

当たり前ですが、「うまく撮れている」「自分が映っていて、楽しい」ということでは、学習になりません。例えば、ある子どもの演技の様子を一時停止で止め、「ここの腕が真っ直ぐになっていないからうまく回れないんだね」とポイントをしっかりとおさえた指導をしなければなりません。

一方で、失敗から学ぶことを受け入れるような文化を、学校や学級で形成していくことも必要です。総務省のフューチャースクール推進事業実証校においても、自分の画面が電子黒板に転送されることを嫌がる子が見られました。確かに、自分の画面、考えが学級全体にさらされることは、それだけで恥ずかしいことです。

そのため、「間違った答えでも、ほかの人の勉強に役に立つ」「うまく考え付いたことはもっと人に伝えよう」という文化を、子どもたちにうまく根付かせてくこと。自分1人で勉強するのではなく、学級全体で高め合おうという文化の形成がより一層大切になります。

タブレットは「世界に開かれた窓」

タブレット端末は「世界に開かれた窓」でもあります。インターネットで情報検索をしたりして、さまざまな情報を瞬時に引き出せます。当然、どのように情報を引き出せるかによって、レポートなどの質は変わります。子どもたちは「情報の信憑性」を見分ける判断力を身に付けなければならないし、教師にもその指導力が求められます。

例えば、子どもがまとめてきたレポートなどをもとに「どこで誰がそのように言っているのか、どういった意図で発信された情報なのか」と問いかけ、うまく内省させていくような学習活動を組む必要があると思います。

教師からでなく、周りの仲間から学べる

タブレット端末など、ICT活用のメリットの1つに「思考を可視化」できることがあげられます。

タブレット端末がネットワークや授業支援ソフトウェアでつながれていれば、教師が可視化された子どもたちの思考を手元で把握できたり、即座に電子黒板などに映し出し、すぐに共有したりできます。

頭の中で考えていることをリアルタイムに共有し、それを自分の発想や思考と結び付けて広げていく。これまでの言葉だけの学びではなかったような授業デザインが求められます。子どもたち1人ひとり異なる部分に着目して考えさせることで、また新しい世界が広がる。そこに学びや成長があると思います。

また、ネットワークや授業支援ソフトウェアがあることで、サーバ上に保存されている、ほかの人の作品データを自分のタブレット端末から閲覧して相互評価を行うこともできます。自分が辿りつけなかった情報に、ほかの人が辿りついていたり、自分がうまく表現できなかったことを、ほかの人がうまく表現できていたりすることを知ることができます。

「自分が持っていないものを、ほかの人から学ぶ」、教師からだけではなく、周りの仲間から学べるような環境を実現できること。これが授業にタブレット端末などを取り入れるメリットだと思います。

子どもの「得意」を活かせる協働での活用

グループ学習には、1つのテーマを同じようにみんなで調べるタイプと、役割を分担し協働で行うタイプがあります。

後者は、例えば、ある子どもはカメラマンとして写真を撮影してきたり、またある子どもは文章を作成したり、みんなで協働して1つの冊子を作るといった活動です。自分のタブレット端末で、取材や文章の推敲を行い、それをほかの人に転送して見てもらう。それは、文章に赤を入れて返してもらうという校正作業のような感じでしょうか。そこで、ほかの人に自分の文章を練ってもらうような相互作用が起きるわけです。そして、それらの個々に進めた作業を統合、合体させたりするときにデジタルだと行いやすい。

タブレット端末は、このような児童・生徒の得意な部分や専門性を活かすような活動の中で活用することが有効だと思います。

子どもの思考プロセスを把握する

タブレット端末を活用することで大事なのは、教師が子どもたちの動きをよく観察することです。子どもは、想定外のさまざまな使い方をするので、それを把握する必要があります。教師が当たり前だと思っている使い方は、当たり前ではなくて、子どもには子どもなりのロジックがあったり、使い方の工夫があったりします。それは遠回りしているようで、彼らなりに考え、試行錯誤しているわけです。

子どもの思考のプロセスを把握しなければ、適切な支援ができず、かえって発想を狭めてしまうような結果になりかねません。子どもの思考のプロセスを教師がよく見て把握した上で、指導する必要があると思います。そのようなときに、教師の端末から子どもたちの画面をリアルタイムで把握できるような授業支援ソフトウェアの仕組みが活きてきます。

「学力観」と「ICT活用」は切り離して考えられない

学習のスタイルはさまざまにありますが、習得型、活用型、探究型の学習で、タブレット端末の使い方は大きく異なります。

答えが1つに定まらないような、探究型の学習においてもタブレット端末を1人1台利用することに意味があると思っています。例えば、タブレット端末で写真を撮影する場合、その撮り方には無限の選択肢があります。1つの写真を選択するには、どのような論拠を持って選択するのか。課題を解決するために何が適切なのかを考えなければなりません。そこに、思考力・判断力・表現力の育成につながる学びがあると思います。

一方で、習得型の学習での活用も有効です。それらを支援するツールとして、タブレット端末などのICTが活用されるのは理解できることです。多くのドリル学習ソフトウェアには、子どもたちに学習内容がきちんと身に付いているかどうかをチェックする機能が搭載されています。理解できていない子どもには、教師が学習履歴を確認して、もう一度説明するなど、1人ひとりのデータをもとに支援できます。

つまり、教師の「学力観」と「ICT活用」は切り離しては考えられないわけです。タブレット端末を導入すれば単純に授業が良くなるのではなく、「どのような学力を身に付けさせたいか」というゴール、方向性を教師が明確に持った上で、タブレット端末や授業支援ソフトウェアなどのアプリケーションをどのように活かすのかという発想が求められます。

(2014年1月掲載)