授業でのICT活用

21世紀型コミュニケーション力の育成

全校種全教科領域をあげて育んでいく力の一つ

(中川先生)

中川一史放送大学教授まず聞き慣れない「21世紀型コミュニケーション力」という言葉を、我々はこう定義をしています。

「主体的に情報にアクセスし、収集した情報から課題解決に必要な情報を取り出し、自分の考えや意見を付け加えながらまとめ、メディアを適切に活用して伝え合うことにより深めていくことができる能力」。

全校種全教科領域をあげて育んでいく力の一つであることは間違いありません。

「21世紀型コミュニケーション力」がどういう種類に分けられるのかを整理しました(図1)。対話や交流は、協調的レベルと呼んでいます。つまり、さまざまな考えがあることを理解する、多様性の理解ですね。この場合は、「誰とどう同じなのか違うのか」という比較が重要になってきます。

図1

一方、討論や説得・納得は主張的レベルと呼んでいます。相手の考えをわかった上で、「だけど自分はこういう考えを持っている、なぜならこうだから」ということを根拠を持ってしっかり言えることが重要です。これらは最適なものを追究するということです。

つまり、21世紀型コミュニケーション力は、普段の学習活動の中で、この2つの方向性のものが混在していることをしっかりと意識して生かしていかなければならないと思います。

さて、本セッションでは、村井先生、佐和先生に実践の報告を、山本先生には研修パッケージの開発について発表いただきます。それでは早速、村井先生にバトンタッチをしたいと思います。

教科のねらいに迫りつつ、対話、討論を組み込む

(村井先生)

村井万寿夫 金沢星稜大学教授短時間ですので、詳細は「続・コミュニケーション力指導の手引」をご確認いただければと思います。

それでは、一つ目の実践を紹介いたします。2年の国語「あったらいいな こんなもの」の単元で、「『ゆめののりもの』を紹介する会をひらこう」という活動です。対話を意識して、国語のねらいに迫りつつ、コミュニケーション力をつけていこうという目的のもと授業をされていました。

ポイントは二人で対話する。相手の考えを聞く。自分の考えを持つ。こういうやり取りがテーマになって、そして先生がその中からクラスみんなに返したい、モデルになるペアに前に出てやってもらう。それをもとに今度は話を聞く方が、交代をしてまた対話をしていく。そして授業の最後には、それぞれで学び取ったことをお互いに共有する。こういう授業が組まれています。

次に5年の社会。討論を意識させている授業です。この授業のポイントは、小集団による学習形態をうまく利用しているという点です。まず、班で学習するという小集団、それで栽培漁業や養殖漁業のよいところについて話し合って、次に同じグループが集まって中集団を作る。それでやり取りをしながら、さらに立場を変えて、反対側のグループの意見も選んでいくことで、お互いのよさを確認することができる。こういう活動が授業に組み込まれていて、積極的な討論が可能になっています。

(中川先生)

今、2つの授業を示していただきましたけど、それぞれ何をねらうのかが違いました。2年の対話の授業は、やはり低学年は一方的になってしまうので、相手の話をどう受け止めるのか、あるいはどう関心を持つのか、そのあたりを絡ませるところが非常に重要だと思いました。

それから、5年の討論の授業は、意見を戦わせるには、論点がはっきりしていないと難しい。ぼんやりしているとそもそも討論にならないと感じました。

(村井先生)

そうですね。例えば低学年だったら最初にメモを見ながら言ってもいい、だんだん対話に慣れてくるとメモなしで、というのが自然と二人の対話から見てとれるんですね。45分の授業の中で実際に成長しているのが見えます。

5年の授業では、小集団、中集団、大集団というかたまり、これを意図的にきめ細かく計画されていたことで、そこに討論の段階がはまっていたと思います。

(中川先生)

続いては、21世紀型コミュニケーション力の育成におけるタブレット端末の活用の報告です。佐和先生、お願いします。

ICTはコミュニケーション力の育成に貢献する

(佐和先生)

佐和信明柏市教育委員会指導主事21世紀型コミュニケーション力を育成する授業の実際として、情報端末の活用について実践研究を進めてきた内容をご報告します。

この研究を始めるにあたって、多くの先生方から、調査研究をした内容があります。「児童生徒が授業の中でICTを活用することは、コミュニケーション力の育成につながると思いますか」という質問に対して、小学校では80%近くの先生、中学校では70%近く、つまり7割以上の先生が、ICTはコミュニケーション力の育成に貢献するだろうという回答をいただいています(図2)。

図2

もう少し詳しく、どういう場面で、それが貢献していくかという内容では、まずは、「インターネットを活用して、必要な情報を収集したり整理したりする」。2番目が「デジタルカメラなどを活用して、取材や見学、観察した内容を記録する」。3番目が「取材や調査の結果を、発表資料やノートにまとめ、プロジェクタなどを活用して発表する」。これらにおいて「十分そう思う」「少しそう思う」という割合が60%を超えています。こういう使い方が、ICTを使って、コミュニケーション力を育てる上では有効であると回答いただいています。

例えば「デジタルカメラを活用して、内容を記録する」ことが効果的だと先生方は仰っているんですけれども、カメラ機能付きの情報端末でも使えるだろうということです。それから「発表資料を作る」部分や、「プロジェクタと連動する」部分も、情報端末が有利であろうと考えました。ただ、コミュニケーションですから、1人1台が必ずしも必要ではないので、グループ1台の情報端末で、実際にコミュニケーション力を育む授業を検証しました(図3)。

図3

中学1年の理科の「力による現象」の単元で、「水圧と水の関係について特徴を見つけ出してみよう」という学習活動です。

最初に見ていただく部分は、情報端末のカメラ機能をどう使っていくかというところです。子どもたちが実験をしながら、あとで説明に使うための、証拠となるものを情報端末で話し合いながら撮影していきます。お互いに話し合いながら、撮り手を変えています。単に撮るだけではなくて、最後にわかりやすくするための撮影をしています。そして、撮影したものから、グループで話し合って結果を考察していきます。

「デジタルカメラを活用して」、コミュニケーションの場面を生み出しているのですが、さらに、電子黒板と連動して表現に使うことによって、コミュニケーションに広がりや深まりを持たせられます。自分たちの発表用に使う画面を、電子黒板に転送し比較して説明するといった場面もありました。コミュニケーションの授業といっても、教科の中で行っているわけですので、先生が補足をしたり、子どもたちがノートにまとめていく活動もしっかり行っていたところが印象的でした。

このような活動を通して、写真やビデオなどの画像、映像と言葉を行き来させる。その上での情報端末が、コミュニケーション力の育成に有効であるという姿が見えてきたかと思います。

もう一つ、「21世紀型コミュニケーション力」の視点から捉えた3つのスキルがあります(図4)。ここに情報端末を合わせることで、例えばメディアにアクセスすることや、必要な情報を取り出して新たな情報に生成すること、また表現や交流もしやすくなる。スキルの育成にもつながることが、この実証研究によって見えてきたと思います。

図4

(中川先生)

ありがとうございました。別に1人1台の情報端末がなくても、グループに1台あることで、話し合いの時のプラットホームになると感じました。逆に1人1台じゃない方がこの場合はよいとすら思います。

(佐和先生)

確かに1人1台あれば、さまざまなバリエーションが増えると思いますが、「自分はこう思うけれども、君はどう思う」という話し合いから、コミュニケーションが生まれてきます。コミュニケーションを取りながら広めていく、深めていくようなことが、グループ1台での活用でも十分行えるだろうと思います。

(中川先生)

続いて、学校の中で取り組むためにどんな研修をしていけば良いのか、山本先生に発表いただきます。

参加体験型のワークショップ研修を開発

(山本先生)

山本朋弘熊本県教育庁指導主事21世紀型コミュニケーション力の育成という観点から、校内で課題を解決したり、合意形成を行ったりする際に、研修の中身を検討していくという過程で、思考ツールを学ぶといった参加体験型のワークショップ研修を推進しています。

この研修パッケージは、大きく3つに分けられます。一つが研修モジュール。部品みたいなもので、この研修モジュールを組み合わせて構成しているというようなものです。それから、研修を行う担当の先生が、活用出来るようなスライドとか、配付資料。さらに研修の計画、プランを揃えています。この研修パッケージは、CECのWEBサイト(http://www.cec.or.jp/CEC/)から提供する予定になっています。

研修モジュールは、3つの内容で整理していきます(図5)。Aは、21世紀型コミュニケーション力の内容の概要を理解するためのもの。Bは、課題解決ということで、研修の中で先生方の間で意見の一致を図るために、授業研究や授業分析で必要な内容です。Cは、参加・体験ということで、思考ツールを、実際に体験して習得してもらうというような内容になっています。

図5

実際の例でご紹介しますと、ある小学校では研究授業を行って、そのあと21世紀型コミュニケーション力の「概説モジュール」を講師の先生が話をし、その後、「授業研究モジュール」を使った授業研究が行われています。また、ある小学校では、「ブレーンストーミングモジュール」を活用して、指導案改善にも取り組まれるなどされています。

(中川先生)

コミュニケーション力を付けるための、何かの研修をしましょうと言われても、なかなかイメージがしにくい。そのためにこのような形のものを我々は作ってきたわけです。

(山本先生)

先生方の中には、小学校・中学校のときに、ポスターセッションなども経験してきてない、学んできていない先生方も多いと思います。私も実際にそういう一人です。ワークショップ研修の中で体験してみて、今度は子どもたちにポスターセッションを指導できるところに発展できる。そういう広がりがあると思っています。

これは研修後のアンケートです(図6)。研修前と研修後で、先生方が指導できるかどうかをお聞きしたら、この赤で囲った部分(説得・納得)が非常に伸びています。ワークショップ研修が有効であったと感じています。

ただ、授業をどう組み立てていくかは、やはりモデルとなる授業を見ながら考えていくことが大事だろうと思います。

図6

教師が授業の落としどころのイメージを持つ

(中川先生)

図7主張し合うときに、まず一つは「自分の考えこだわりを明確に意識する」。教師側から言うと、「意識させること」が大事です。ここをはっきりさせないで、次に進まない。それから「相手にわかってもらうように戦略を練る」と書きましたが、どういう段取りで何を見せて、どういう順番で主張するのか、そういうことを考えさせる。そして最後に「落としどころに迫る」ということです。

どう落とし込むかというイメージを持たずに、授業は進められないので、そこがポイントであることを改めて確認しました。ありがとうございました。

(一般財団法人コンピュータ教育開発センター主催「平成24年度「教育の情報化」推進フォーラム 分科会」より)
(2013年4月掲載)