授業でのICT活用

「点」から「線」へ(長谷川英司 京都市総合教育センター 指導主事)

京都市総合教育センターは、子ども一人一人の学力向上をめざし「わかる授業」の実践に向け、今日的な教育課題にきめ細かく対応したさまざまな研修に取り組まれています。子どもたちの情報活用能力を育むための教員の指導力、授業力の向上をめざし、教員研修を企画、実施されている同センターの長谷川 英司 指導主事にお話を伺いました。

ICT活用時間、2年間で2倍以上の伸び

京都市立学校園は、「京都市教育ネットワーク(光京都(ひかりのきょうと)ネット)」と呼ばれる光ファイバー等の高速通信回線を用いたネットワークで接続されています。

小学校では、コンピュータ教室に20台の学習者用コンピュータ、各学級に1台のコンピュータと大型のデジタルテレビを導入しており、5、6年の教室には、電子黒板機能付きのデジタルテレビを導入しています。中学校では、コンピュータ教室に40台の学習者用コンピュータ、各学級に大型デジタルテレビ、そしてボード型電子黒板を各校に1台整備しています。また、小・中学校ともに教材提示装置を2学級に1台の割合で整備しており、大型デジタルテレビと接続して利用しています。

京都市独自に整備してきたICT環境に加え、平成21年度のスクールニューディール政策を効果的に活用し、小・中学校でのICT活用が飛躍的に進んでいます。平成21年度と23年度の「ICT機器の活用実態調査」の結果を比較すると、1学級あたりの平均活用時間数が、小学校では約2.6倍、中学校では約2.1倍に伸びています。

特に、小学校の外国語活動や中学校の英語科でのICT活用が進んでおり、外国語活動では標準時数の約8割で活用されています。これは小学校の校内研修などで文部科学省が配付する「Hi,friends!」のデジタル教材などの活用に関する研修が盛んに行われたためと思います。もちろん、国語や算数など各教科指導の中でも、教科書の挿絵を教材提示装置で撮影し大型デジタルテレビに大きく映したり、実物では見せられない物の画像やインターネット上の情報を提示したりといった普段使いの活用が進んでいます。

情報モラル指導 各学級で年間2回以上

市内小・中学校では、各学級で年間2回以上の指導をお願いしており、各校の年間指導計画に位置付けられています。

各校の情報モラル指導を支えるために「情報モラル」ポータルページを開設しています。各学年の発達段階に応じて「情報社会の論理」「法の理解と遵守」「安全への知恵」「情報セキュリティ」の4つの観点ごとに、つけたい力や指導案などを整理した「情報モラル指導カリキュラム」や、それに基づいた指導計画を各校で検討する際に参考となる「情報モラル指導計画モデル」を公開しています。その成果もあってか、情報モラル指導の実施状況に関する調査では、小学校では平均4.5時間、中学校では平均4.2時間実施されていることがわかりました。しかしながら、新学習指導要領で求められている各教科指導の中での情報モラルの指導事例がまだまだ少ない状況です。今後さらに実践事例を蓄積し、多くの先生方に参考にしていただきたいと考えています。

家庭向けに携帯電話のリーフレットを作成

京都市教育委員会が作成・配付するリーフレット。Webサイトからダウンロードできる。http://www.edu.city.kyoto.jp/school/また、本市では、リーフレット等を積極的に配付し、啓発活動に努めています。平成20年度からは家庭、児童生徒向けに携帯電話依存に対応したリーフレット「ケータイの落とし穴」を作成し、家庭内のルール作りの必要性や携帯電話依存の危険性などを訴えました。昨年度は保護者向けに子どもたちの携帯電話利用実態をまとめた「家庭で話そう!~携帯電話やインターネットの利用実態~」を作成し、今年もその続編として「家庭で話そう!~ケータイ利用のルールとマナーについて~」を作成しました。

本市から「家庭」の役割について情報発信し、子どもを取り巻く「学校」「家庭」「地域」が一体となり、携帯電話に対する情報モラル指導を進めています。

子どもの情報活用能力を育む指導力を

当センターでは、平成23年度に電子黒板やノートパソコンを活用した研修ができる「情報化研修室」を整備しました。教員のさらなる指導力向上をめざし、さまざまな研修内容の中にICT活用を取り入れています。今年度は、児童生徒の発達段階に応じてICTを効果的に活用して、情報の収集、分析、まとめ、発信、伝達等ができるようにするための学習活動、つまり情報活用能力の育成を図る指導の充実を図ることを重点に位置付け、研修を行っています。当然、その中には、情報モラルの指導も入っており、各学習活動の中で求められる情報モラルの要素を研修の中に取り入れています。

情報活用能力を高める指導力向上講座

  • 調べたことを効果的にまとめる「レポート」「新聞」制作と情報モラルの指導
  • 写真を使った動画成果物の制作指導
  • 受け手を意識した「CM」「ニュース」制作の指導
  • 資料の整理・分析と情報モラルの指導
  • 自分の考えを効果的に伝えるプレゼンテーションの指導

具体的には、先生方の情報活用能力を高める指導力向上講座と題し、年間5回の指導講座を実施しています。

どれも夜間の講座にも関わらず、大勢の先生方が参加され、学習活動のねらいや指導のポイントをもとに、実際にICTを活用して実習しています。その他、採用1年目の教員研修などの年次別の研修や各教科の指導講座にも組み込んだり、各校の情報教育のリーダー的な先生方に参加いただく情報教育の主任研修会も年に1回実施しています。

研修会で情報化の今日的な課題や実践を共有

教育情報化総合研修会の様子平成16年度から毎年夏季に実施している「教育情報化総合研修会」は、本市における情報教育に関するもっとも大きな研修会です。ICT活用指導力を伸ばす演習、ICTを活用した授業や校内研修の実践報告、教育の情報化に関する今日的な課題の講演などを通して、教育の情報化に必要な教員の資質、力量の向上を図ることを目的にしています。

今年度は、「プレゼンテーション」と「動画編集」をテーマにした2つのワークショップと、授業や校内研修に関する4つの実践報告、目白大学の原克彦教授による講演を催しました。

SKYMENU Proでプロフを疑似体験

私が担当した「プレゼンテーション」のワークショップでは、情報モラルとプレゼンテーションの指導の両方について理解を深めることをねらいとしました。

授業を想定したワークショップでプロフの特徴や問題点を体験し、その危険性を話し合うまず、『SKYMENU Pro 仮想携帯』で、先生方にプロフを疑似体験してもらい、その特徴や危険性を把握してもらいました。先生方の中には、初めてプロフを知った方もいらっしゃり、子どもたちが行っている情報発信の実態に驚き、どんなに注意してプロフを作成しても、関連したページをたどれば、個人情報を推測されてしまう危険性に気づかれた様子でした。そして、プロフなどとうまく付き合っていくためのポイントを3点考え、プレゼン資料にまとめ、先生方同士で発表、交流してもらいました。

情報モラル指導については「○○してはいけない」という一面的な指導ではなく、例えば、自分が個人情報を発信していなくても、関連するページから個人情報が特定されてしまうことに気づかせ、「なぜそうなるのか」「どう対応したらいいのか」を子どもたちに考えさせ、判断させる指導を行っていただきたいと考えています。ワークショップの内容は、そのような授業を想定して組み立てました。機器やソフトウェアの操作を伝えるのではなく、授業の中で先生方がそれらをどのように活用すればよいのかをイメージしていただける研修を意識しています。

ICT活用を通じて教員の授業力を高める研修を

ICTの技術はこれからも変化していきます。そして、ICT環境はあくまで指導のねらいを達成するためのツールであり、教材です。今後の教員研修では、技術の進化に併せてその使い方を研修するのではなく、子どもたちに求められている力をつけていくために必要な教員の指導力・授業力を高める研修がますます求められると考えています。

そして、当センターの研修に参加された先生方がその内容を市内各校に持ち帰っていただき、より多くの先生方に子どもたちの情報活用能力を育む指導方法を展開いただくことを期待しています。「点」から「線」へと、情報教育の輪が広がることを願っています。

(2012年10月掲載)