授業でのICT活用

教育情報化最前線

岩井浩 指導主事

多忙な学校で、どう情報化を進めるか

実情に合わせ一つ一つ、「スローな情報化」を

平松 茂(岡山市立藤田中学校 校長)

学校は実に忙しい。授業と校務、部活動に生徒指導、質的、量的に比較できにくく終わりの見えない仕事が続く…。
平松茂先生(岡山市立藤田中学校長)は、「急速な情報化は、学校の実情にそぐわない」と、「スローな情報化」を進め、着実にICT活用を浸透させておられます。その取り組みについてお聞きしました。

「情報化」と「生徒指導」の関係

情報化における学校を取り巻く状況や課題についてお聞かせください。

私が平成18年度4月に校長として本校に赴任した当初、インフラの整備、ICT活用スキル、授業でのICT活用、情報セキュリティ対策など学校の情報化は、これからの段階でした。

学校の現実はといいますと、授業をはじめとして校務、部活動、生徒指導など大変多くの業務を教員は抱え、多忙感を感じています。特に中学校では、教員の職務時間の多くが生徒指導に割かれており、生徒指導に一番力を入れていると多くの教員は考えているのではないでしょうか。そのような学校の現実がある中で情報化や情報教育を進めることは、多忙な教員に更なる負担を強いることとなり、なかなか受けいれられるものではありません。

そこで、日々の授業やさまざまな行事を通して、生徒たちの個性を伸ばし、達成感を味わわせるといった体験を充実させ、情報化や情報教育に向けた地盤作りを行ってきました。このことにより、生徒たちに落ち着きを持たせることに精力を注いできました。

できるところから始めていく

情報化が進展していない中で、何から取り組まれたのでしょうか?

赴任して1、2年目は生徒指導の充実と平行して、とにかくできるところから始めるという思いで、情報化の基盤となる校内ネットワークなどのインフラの整備に取り組みました。

ネットデイ:コンピュータでネットワークの開通テストをする生徒たちまず、校務用サーバを導入し、教員にID・パスワードを配付してユーザ管理を始めました。そして、校内ネットワークの構築のため「ネットデイ」を開きました。「ネットデイ」には教育委員会、専門家、地域や保護者の方々、そしてこの取り組みに興味を持った本校の生徒など、合わせて約80名が参加し、校内にネットワークを構築しました。

3年目となる今年度は、各種の研究助成を得たこともあり、プロジェクタ、ノートPC、デスクトップPCなど、授業で必要なICT機器を導入し、いつでもICTを活用できる環境が整いつつあります。

変則的なスキルアップ研修

先生方はICT活用スキルをどのように身に付けていかれていますか?

学校の情報化はICT機器を整備することが終わりではありません。ICT機器を活用する人を育てることが重要です。

しかし、我々中学校教員はその職務の性質上、全員を集めてまとまった研修の時間を取ることが困難です。

そこで、平成18年度から外部のインストラクターを本校に招き、少しずつ先生方のスキルアップを図ることとしました。今年度は、週に1、2回の頻度で来校いただき、教員一人ひとりのニーズや時間に合わせたスキルアップ研修を実施しています。一方、このような研修では、教員一人ひとりに多少偏りが生じていることもあります。そこで、本校では独自のスキルチェックリストを作成しています。チェックリストの項目は、例えば「学級通信に写真を一枚貼り付けられますか」といった日常の業務に沿った具体的な内容にしています。

最終的には、すべての教員がすべての項目のスキルを身に付けてほしいと考えています。

校務の情報化とセキュリティ

セキュリティの問題は、さし迫った課題になってきていますが…

セキュリティを高めるために、まず新しく導入した校務用サーバを活用して、教員にID・パスワードを与えました。同時に、セキュリティを高めつつ情報共有を効果的に図るために、学年別、分掌別、共通、校長用、教頭用、事務職員用フォルダを作成し、それぞれに必要に応じたアクセス権も設定しました。

しかし、学年が移行し、教員が異動し、校務分掌の担当が年々変化する中で、専門家ではない情報担当の先生が専門家同様にメンテナンスを行うのは無理がありました。現在は、アクセス権を設定せずに、フォルダを使い分けています。

サーバの活用については、それぞれの学校において、利便性とセキュリティを秤にかけながら、最適なサーバの設定や運用方法を考えていくことが必要でしょう。

また、本校ではUSBメモリでのデータの持ち出しや重要なデータの暗号化などについてセキュリティポリシーを作成し、ルールを定めています。これらも先生方のスキルや予算の問題を考え、実態にあった内容に変えていかなければならないでしょう。今後は、学校ごとにそれぞれの実情に合わせてセキュリティポリシーを定める必要があると思います。

校長自らがICT活用を率先

情報化・ICT活用を進める上で、管理職の役割についてお聞かせください。

全校集会でICTを積極的に活用まず、管理職が率先してICT機器を活用している姿を見せなければなりません。校長自ら、全校集会などがあれば率先してプロジェクタでプレゼンを行うようにしています。

全国には、情報担当の先生に情報化やICT活用の推進をすべて任せている学校もありますが、それでは担当者に大変な負荷がかかります。本校では、情報担当の先生にはメンテナンスや先生方のICT活用のサポートといった基本的なところを担ってもらっています。

情報化やICT活用の推進は、校内のリーダーが周りの若手を巻き込みながら進めるべきだと考えます。

良い授業を教員間で共有する

ICT活用を広げるために、どのような工夫をされていますか?

先生方にICT活用を広めるために、今年度から、年間を通して他の先生の授業を必ず3回以上参観するという取り組みを始めました。

多くの先生方はICTの効果を感じると、ICTを活用します。今、さまざまなWebサイトで、ICTを活用した授業の一場面やシーンを切り取ったビデオクリップなどが配信されていますが、それではICT活用の効果は伝わらないと私は感じています。授業におけるICT活用の効果を本当に先生方に感じてもらうには、実際にICTを活用した授業に参加してもらい、生徒たちの表情を見て、その効果を肌で感じてもらうことが必要です。

また、私は一方的な教え込みではなく、「生徒とやり取りしながら、学習状況を確かめて授業展開を続ける」という基本的な授業のサイクルや効果的なICT活用をしている良い授業を教員間で共有させたいと考えています。授業を見せ合うことで、ICT活用に明るくない先生から「ICTを活用して、あんな授業がしたい」という声が上がることを期待しています。

ポイントは「スローな情報化」

情報化のポイントは何でしょうか?

情報化のポイントは、「スローな情報化」にあると考えます。スピードを上げすぎるとカーブを曲がりきれないように、先生方も急激な変化には精神的にもスキル的にも追いつきません。ソフトランディングをめざし、あせらず、周りを巻き込みながらゆっくりと情報化やICT活用の輪を広げることが重要です。

先生方には、すべての授業でICT活用をするのではなく、適切な授業場面で適切にICTを活用していただきたいと考えています。そのためにとにかく一度は授業でICTを活用してその効果を体験して欲しいと思います。

また、先生方には異動があります。本校でICT活用の経験を積んだ先生が、やがて岡山市内の学校に赴任した際には、ICT活用ひいては情報化を発展させるリーダーになっていただきたいと考えます。将来的には、「情報教育」といえば「藤田中学校」と認識されるような学校をめざしています。

教員活動全般に広がるICT活用

同校では授業での活用だけでなく、教育活動全般にわたってICT活用が広まってきています。先生方に具体的なICT活用場面についてお伺いました。

総合 岸本貢一教諭

調べ学習など、PC教室の利用が盛んに

コンピュータ教室でインターネットを使った調べ学習1年の総合的な学習の時間に、岡山や日本の「自然」「歴史・文化」「人物」について、調べてまとめるという学習活動を行っています。調べ活動は、コンピュータ教室でインターネットを利用して行っています。インターネット上には大変興味深いWebサイトもあり、生徒たちは夢中で調べていました。

また、インターネットだけでなく、図書館で本を使った調べ活動にも取り組ませています。最終的には、調べた内容を模造紙にまとめ、文化祭で発表させる予定です。

このようなICTを活用した取り組みも、昨年度末にコンピュータ教室のコンピュータ40台が更新され、生徒たちに一人一台の環境が整ったことで可能になりました。今年の4月からはコンピュータ教室が盛んに活用されています。この環境を生かし、学習活動の幅をさら広げていきたいと考えています。

美術 金井啓教諭

調べ学習など、PC教室の利用が盛んに

プロジェクタでUD商品を作っている企業のWebサイトを提示私は、この10年ほど、美術の時間でユニバーサルデザイン(以下UD)を題材として取り組んでいます。先日は、校内ネットワークでどこからでもインターネットに接続できる環境を利用して、普通教室でWebサイトを見せながら授業を行いました。

まず、生徒たちに実際にUD商品を渡し、触れさせる時間を設けました。そして、プロジェクタでUD商品を作っている企業のWebサイトを紹介し、たくさんのUD商品が私たちの身近なところにあることを知らせました。生徒たちはWebサイトを見てUD商品に大変興味を示してくれました。視覚に訴え、短時間でわかりやすく説明できるのはICT活用の大きな利点だと感じています。今回はじめてWebサイトを映し出して授業に取り組みましたが、こうした取り組みも、校内ネットワークや、プロジェクタなどICT機器が気軽に活用できる環境が構築されたからだと思います。

HP制作 森岡万希子教諭

ホームページコンテストに入賞

制作した藤田中学校のホームページをコンテストで発表昨年度、本校は岡山県内の児童生徒を対象にしたホームページコンテスト「岡山県スクールインターネット博」で入賞を果たしました。コンテストに参加して2年目での入賞でした。

ホームページ制作活動は生徒たちから希望者を募り、一昨年は6名、昨年度は21名の生徒たちが参加しました。昨年度は、部活動や地域と連携したボランティア活動などさまざまな取り組みを行っており、生徒たちには自分たちの活動を表現したいという思いが高まっていました。そのような思いとリンクして、この活動はやがて全校生徒を巻き込み、教員や学校司書も一体となって取り組む活動に発展しました。

生徒たちは、ホームページを制作するにあたり、一人ひとりが取材記者となり、掲載する情報や写真集めに奔走しました。また、デザインを考えるために絵コンテを何枚も検討するなど、大変な作業をこなしていました。

コンテスト当日は、代表者3名が堂々と自分たちの作品や活動を発表しました。残念ながら最優秀賞は逃しましたが、この活動を通して、生徒たちは自分自身に自信を持つことができたようでした。

私たち教員としても、ホームページ制作活動の過程には、生徒たちにたくさんの学びがあることを知り、ICTを活用した教育の可能性を感じました。

理科 小野田誠教諭

コンテンツの活用で植物の特徴をつかむ

ディジタルコンテンツに花の特徴を入力し、検索する生徒たち理科の「春の植物」の時間、理科教室にノートPCを10台持ち込み、「理科ねっとわーく」のコンテンツを活用して実践しました。利用したコンテンツは、花の特徴を入力して検索すると、その花や植物の名前がわかるというものです。

本時では、生徒たちが学校の中庭で採集した花の特徴を、検索条件に沿って入力させました。この入力する作業から、植物の特徴をつかむための観点やポイントに気付かせることをねらったのです。図鑑の利用も考えましたが、図鑑では情報量が多すぎて、見分ける観点を持たない生徒たちには情報をつかみきれません。そのような点で、本時でのディジタルコンテンツ活用が非常に効果的だったと思います。

この他にも本校では、生徒たちにICTを活用した発表活動に取り組ませています。2年生は1学期に、職業体験を通して学んだことをパワーポイントで発表しました。学年の生徒が全員コンピュータを操作しながら発表することができました。

技術 水川基員教諭

『SKYMENU Pro』を使って、情報モラル指導も

コンピュータ教室でプレゼン用資料を作る生徒たちコンピュータ教室の運用を支援するICT活用教育支援ソフトウェア『SKYMENU Pro』は便利なツールとしてとても重宝しています。[画面送信]機能をはじめとして、調べ学習では、授業開始時に[教材配付・回収]機能で学習者機にファイルを配付し、インターネットで調べて編集したものを授業の最後に回収しています。また、[静止画受信]機能でつまずいている生徒を見つけ、[リモート操作]ですぐにフォローしています。

私が一番重宝しているのは[お気に入り編集]機能です。インターネットで調べきれない生徒に対して、調べやすいWebサイトをいくつか転送し、生徒が調べやすいように支援をしています。

また、『SKYMENU Pro』は情報モラル指導にも役立っています。本校ではユーザ管理を行っており、個人認証の環境にあります。生徒たち一人ひとりにIDとパスワードを与え、責任を持って管理させています。さらに[ログ]機能のログ収集画面を生徒に見せることで、実社会でも同様に「誰が・いつ・どんなことをしているのか」という履歴を簡単に調べることができることを教え、責任あるコンピュータの利用を促しています。

今、本校では技術科以外の教科でも『SKYMENU Pro』の活用が広まってきています。

これからさらに活用の輪を広げていきたいと思います。