授業でのICT活用

教育情報化最前線

津田秀哲

ネットワーク活用による校務の省力化と、教員1人1台の時代に対応出来る職場づくり

― セキュリティを高めた活用実践 ―

津田 秀哲(岡山県立興陽高等学校 教頭(前・岡山県立瀬戸南高等学校教頭))*本稿は前任校での実践です

はじめに

本校は、1月に岡山市に合併編入された旧赤磐郡瀬戸町にあり、岡山市の最も東に位置している。学科は、農業に関する学科として生物生産科と園芸科学科、家庭に関する学科として生活デザイン科があり、定員は480名の中規模の専門高校である。

本校のネットワークは、岡山情報ハイウェイに接続されている。ルータで教職員用セグメント(以下、行政系)と生徒用セグメント(以下、公開系)に切り分けがなされており、両セグメント間の通信はできない設計になっている。現在、行政系は職員室や事務室など教職員が常駐する場所に情報コンセントがあり、公開系は教室・特別教室・準備室・農場の温室など57カ所に情報コンセントがある。本校の農場は43,000㎡(甲子園球場は39,600㎡)の広さがあるが、無線LANによってほぼ全域をカバーしている。

教職員の意思改革に向けた取り組み

全教職員にIDとパスワードを配付

私が赴任した平成15年当時は、サーバは未設置でフロッピーディスクでのデータのやりとりが主流であった。ファイアウォールも無く、岡山情報ハイウェイ上の他の学校などから容易に本校のネットワークに入ることができる状態であった。このため、2方向からセキュリティ強化に向けた取り組みを始めた。

一つは、機器の整備である。サーバとファイアウォールをまず導入し、セキュリティ強化を図った。これについては、ある程度のお金と多少の知識さえあれば可能である。

もう一つは、ネットワークを使用する「人」の意識改革である。これには気長で、継続的な取り組みが必要となってくる。取り組みの第一歩として、ワークグループで教員用のコンピュータを管理するようにした。あわせて、データを個人のコンピュータに保存するのではなく、サーバに保存するようお願いし、教職員がファイルを共有することによって校務の省略化を図った。 毎週金曜日には研修会を開催し、アプリケーションソフトの活用方法からWindowsのアップデートの方法までを懇切丁寧に指導した。

平成16年度は、全教職員にIDとパスワードを配付すると共に、情報セキュリティポリシーを作成し、ドメイン管理に移行した。当初はIDとパスワードを入力することに抵抗もあったが、ネットワークを活用する者の最低限のマナーでると考え、安心・安全なネットワークの構築と自己防衛のためには必要不可欠であることを説明した。

また、成績処理をネットワーク上で行う仕組みにしたため、サーバにログインする習慣が次第に根付いていった。

ネットワーク活用の現状

「校内WEB」で情報の共有化、校務の省力化

「校内WEB」の活用平成17年度からはファイル保存のためだけのネットワーク活用に加え、情報の共有化と校務の省力化を目的として「校内WEB」をスタートさせた。

誰でも入力や閲覧が可能だが、そのためにはサーバにログインをしておく必要がある。

このWebサイトには職員朝礼の伝達事項が入力されており、これを活用することで、朝礼が数分で終わるようになった。捻出された時間は、学年の打ち合わせや登校指導などに有効に活用されている。あわせて、シートは出張、休暇、生徒の出欠状況も入力するようになっており、印刷すれば学校日誌になるようになっている。

日誌の担当者の労力削減にも大きく貢献している。

入力シートはどのコンピュータにも入っているエクセルを使用しており、一日ごとのエクセルファイルにトップページからリンクする形になっている。 また、学校組織は前年のものを踏襲することが多いため、過去の「校内WEB」も残している。

入力シート前年の「校内WEB」を参考にすれば、この時期に何を準備すればよいかがわかり、サーバ内のファイルを元に本年度の計画を立てることができる。以上、ネットワーク活用による校務の省力化と、教員1人1台コンピュータの時代に対応できるスキルフルな職場づくりの一環を紹介した。

現在の行政系には67台のコンピュータ(内28台が私物)と2台のサーバが接続されている。

校内の約束として、よりセキュリティを高めるためにデータはすべてサーバに保存し、コンピュータには残さないよう約束を定めている。個人情報等の校外への持ち出しは厳禁としているが、プリントなどの教材類の持ち出しについては制限していない。

職場全体の雰囲気としてネットワークが浸透し、活用にあたっては特別に意識することもなく、水や空気のような存在となっている。

生徒用セグメント(公開系)の現状

生徒の心の成長とモラル教育の成果を実感

公開系のすべてのコンピュータとネットワークはICT活用教育支援ソフトウェア『SKYMENU Pro』で管理している。全校生徒・全教職員にIDとパスワードを配付しているが、教職員がサーバにログインする習慣が定着しているため、すべての教職員が生徒にそのことを指導できる状況になっている。

このネットワーク管理ソフトウェアの優れた面は、個人のIDとパスワードでログインするため、使用者の特定やログを簡単に取れるところである。これが歯止めとなり、生徒のマナーやモラルの育成に役立っている。また、[復元]機能がついていることで、生徒が誤って操作したり、興味本位に設定を変更したりした場合でも再起動すれば元通りに戻る。この機能も、我々が生徒に自由にコンピュータを使わせることの担保となっている。

さらに、『SKYMENU Pro』は生徒・教職員へのIDとパスワードの発行が簡単であり、学年進行の処理も簡単に行うことができる。どのコンピュータからでもログインすれば、自分のフォルダに自動的に入ったり、自分専用のメーラーを活用したりすることができる。

当初は、自分のIDやパスワードを忘れたために、また、いたずら目的のために、他人のIDやパスワードでログインする生徒も見られた。しかし、自分のフォルダには何一つ保存できないため、授業成果が残せず不利益を被ることがわかり、そのような生徒は次第にいなくなった。さらに、職員室で生徒の使用状況が把握できる[画面受信]機能など、遠隔管理ができる機能も備わっており、「いつも見られている」という意識が生徒たちに根付いている。

公開系では、現在、情報教室・第2情報教室(旧物理教室)・各普通教 室・図書館・生徒会室などに、82台のコンピュータと2台のサーバが接続されている。特に、平成15年度2学期より、情報教室以外の場所では生徒が自由に使うことができるようにした。使用上のルールは、「自分のIDとパスワードでログインすること」「コンピュータから離れるときは必ずログオフすること」の2つだけである。

コンピュータが壊されたり不適切なサイトにアクセスしたりするのではないかなど、多くの懸念があったが、4年間で破損したケースは、あやまってモニターをカバンに引っかけて床に落としたという1件のみであった。また、生徒間でのメールや掲示板での誹謗・中傷の報告は今年度になって無くなり、生徒の心の成長とモラル教育の成果を実感している。

予算の確保ができた今年の7月より、すべての普通教室にコンピュータ1台を設置した。生徒が自由に利用できるようになったのは当然のことながら、教員が教室にコンピュータを持って行く必要が無くなった。今後はこの環境を最大限活用し、普通教室でのICT活用授業を実践していきたい。その際には、プロジェクタやスクリーンを普通教室に運んでコンピュータに接続するする作業を生徒に手伝わせたい。「授業支援隊」なるものを、生徒たちの中で組織させたいと考えている。また、教員からの連絡事項や時間割変更等を伝えるための「生徒用WEB」の活用を予定している。

本校に、視察でこられる方や異動により他校に転出された先生方から、「フロッピーでデータを交換している」「サーバがない」「情報コンセントは普通教室だけで特別教室にはない」などという話題がよく出る。IT新改革戦略などの施策により情報環境が各学校で整備されている中、学校間格差は一層拡大しているように思われる。

最後に

最低限のルールを守る規範意識と実践力を

生徒は、大変順応性が高く、応用力も兼ね備えている。このような生徒に対応するため、安全・安心なネットワーク管理ソフトの必要性を痛感している。加えて、最低限のルールを守る規範意識と実践力を、高校教育の中で生徒たちに身につけさせたい。

ユーザにとって、ネットワークセキュリティを高めることは、慣れるまでに、多少の不便を感じることになる。しかし、それによってネットワーク全体が守られ、自分自身も守られていることが理解できれば、次第にログインの操作もやむを得ないという気持ちになるであろう。そうするうちに操作が当たり前になり、いつの間にかネットワークを意識しないで活用できるようになる。

「水道」にたとえられることがよくあるが、蛇口をひねるのと同じ程度の操作で有効な情報を得たり共有したりすることができるのである。生徒の指導に関しては、情報教育に堪能な先生だけが生徒に対応するのではなく、すべての教職員が同じ意識で対応することの重要性を感じている。

生徒に安心感と信頼感を植え付けることになるからである。そういった意味からも、ネットワークの基幹部分は企業に任せるとして、それを活用する生徒の教育は我々全教職員が担当し、健全なネットワーク活用のできる社会人の育成に努めていきたいと考えている。