授業でのICT活用

教育情報化最前線

向井啓氏

ICTを使った授業をどうデザインするか

― ICTを用いた授業実践をデータベース化 ―

向井 啓氏(茨木市教育委員会 学校教育部 教育研究所 指導主事)

北大阪の交通・産業の要衝として重要な位置を占め、発展を続ける大阪府茨木市では、活力に満ちた文化都市づくりをめざし、教育・文化やスポーツの振興などに取り組まれています。
情報教育においては、小学校32校、中学校14校の校内ネットワーク整備を完了し、学校間教育用イントラネット「茨木市教育情報ネットワーク」を基盤に、子どもたちや先生方のICT活用を支援するさまざまな教育活動を展開されています。
このほど、茨木市教育委員会 学校教育部 教育研究所 向井啓氏 指導主事に、その活動内容や成果、課題などについてお話を伺いました。

中期にわたるICT環境整備

茨木市教育研究所はじめに、教育研究所で取り組まれている情報教育に関する事業の概要とICT環境の整備状況について、向井先生にお伺いした。

「教育研究所では、教職員向けの情報教育研修会や教育用イントラネットの構築、教材コンテンツの開発、ネットワークシステムの管理・保守などを行っています。茨木市が学校へのコンピュータ整備を最初に行ったのは昭和63年度です。普通教室を改装してコンピュータ教室を整備しました。当時は、子ども3人に1台の環境でした」

平成18年度現在の茨木市教育情報ネットワーク イメージ図平成10年度には、教育に特化したイントラネット「茨木市教育情報ネットワーク」が構築され、教育研究所のサーバを経由して、各校からインターネットに接続が可能となる。その後、段階的に中学校・小学校のコンピュータ教室のコンピュータが更新され、インターネットやマルチメディア機能が利用できる環境が整備される。さらに、インターネット回線の高速化、コンピュータ台数の増加、校内LANの整備などのICT環境整備計画に基づき、15年度には、イントラネットが光ファイバー化され、インターネットへの回線増強とともに高速化が実現された。16年度には、中学校のコンピュータ教室更新と校内LANを整備。17年度には、小学校のコンピュータ教室、校内LANの同様の整備が完了された。これらの整備により、市内で3000台を超えるコンピュータがネットワーク接続され、今年の夏は教育研究所の基幹サーバ群を更新し、高速化や大容量化、セキュリティ強化などの対応も行われている。

スタンドアロンからネットワークへ

校内LANは、普通教室、特別教室だけではなく、体育館にも整備された。そのねらいをお伺いすると、「体育の授業でも良いコンテンツがインターネット上には数多くあります。また、体育館は、さまざまな行事が催される会場に利用されることが多い施設ですので、将来的には、テレビ会議システムを使うなど、地域に発信する拠点にもなると考えました」といわれる。

普通教室で再利用されているコンピュータまた、校内LAN整備と並行して、今までコンピュータ教室で使用していた古いコンピュータが再利用されて普通教室に配備された。「予算が厳しい中、整備していただいた新しい機器のほかに、古い機器の再利用による有効活用も考えました。普通教室にコンピュータを設置するために必要なLANケーブルの作成や、コンピュータの再設定、校内LANへの接続作業などの校内ネットワーク構築作業を行いました」と向井先生。

茨木市教育情報ネットワークWeb教職員用と児童・生徒用トップページ一連の整備を機に、ネットワーク・コミュニケーションをテーマとして、イントラネットWebの全面リニューアル、Web掲示板の作成・運用、テレビ会議システムの実用化などに取り組まれる。「情報提供・ディジタルコンテンツの蓄積・教育関連サイトへのリンク集など、教育研究所から提供するものに加えて、学校の先生から教材を提供いただいたり、事務職員さんたちが専用掲示板を巧みに利用するなど、双方向的な利用が年々高まってきました。児童・生徒用のネットワーク・コミュニケーションソフトを授業に活用するための研修にも力を入れています」

授業指導用、校務用2種類のユーザアカウントを発行

学校の情報セキュリティ対策については、平成10年に作成された「茨木市教育情報ネットワークの利用に関する要綱」にそって、個人情報は各校でリムーバルメディアに保存し、施錠保管することとなっている。「16年度以降の新しい整備により、各校には、ネットワークにログインするために、授業指導用と、成績処理など校務用の2種類のユーザアカウントを発行しています。現在、この2つを使い分けることで、情報セキュリティへの対応を行っています」

これからのコンピュータ教員1人1台時代を見据えての取組については、「将来そのような環境が実現したときに、すべての先生方にICTを効果的に活用いただくためのハードルをどれだけ低くできるか、今のうちに研修などできることをやっておこうと思っています。また、情報の入出力制限や自動暗号化、復号化認証システムの導入などについて研究・検討しているところです」

SKYMENU Proを効果的に活用

学習者機の環境復元機能が便利

次に、ICT活用教育支援ソフトウェア『SKYMENU Pro』の活用状況についてお聞きした。

「本市では、11年度のコンピュータ教室整備のときから、『SKYMENU Pro』を利用しています。さまざまな機能が搭載されていますが、先生の画面を一斉送信できる[教員画面送信機能]がよく利用されています。子どもたちは夢中になると先生のいうことをなかなか聞いてくれませんので、そんなときにも有効に利用されています。また、校内サーバにバックアップを取っておいて、とにかく困ったときに、最終手段として、フロッピーディスク1枚でリカバリーできる[ディスクメンテナンス]も活用しています」

16年度は中学校に、17年度は小学校に導入いただいた『SKYMENU Pro』の新バージョンについては、次のようなお話をいただいた。

「教育研究所では、[サーバ/ネットワーク診断]の[診断状態メール通知機能]を利用して、毎朝、各校の校内サーバの状態を確認しています。異常が見つかればすぐに調査し、校内サーバやネットワークトラブルの切り分けができています。学校では、校内LANに接続されているコンピュータの電源管理や、コンピュータの利用状況の確認が、離れた場所からでも簡単に行えることが大変便利です。また、[クライアント復元機能]が搭載されたことで、再起動するだけで学習者機の環境を簡単に元に戻せることが、学校現場で重宝されています」

さらに、運用面で、次のような工夫も行われていた。
「『SKYMENU Pro』の[ソフト起動]に、ファイルの残ったマイドキュメントごと削除して新しいマイドキュメントを作り直すプログラムを登録しています。作品ファイルを提出した後、このプログラムを[ソフト起動]で学習者機に一斉にかけることで、学習者機のメンテナンスを効果的に行えるようになりました」と運用面でのアイデアを披露していただいた。

リモートコントロールでサポートも

教育研究所では、各校から寄せられるICT機器に関するさまざまな問い合わせに対応されており、そのサポート活動にも『SKYMENU Pro』を活用されている。

「その場ですぐ、電話で解決できない場合は、学校の許可をいただいて、リモートコントロールでサポートを行うことがあります。教育研究所のコンピュータから校内のサーバにリモートログインしてアクセスします。そして『SKYMENU Pro』の[校内ネットワーク運用支援]を起動します。ネットワークに接続されているコンピュータなどの状態を確認して、場合によっては、こちらで操作をして解決します。[校内ネットワーク運用支援]を利用することで、学校に行かずに解決できるケースが増えました。現在は、私を含め3名体制で、学校のコンピュータのサポートを行っていますが、管理者としての責任の重さを痛感しています。セキュリティ意識をしっかり自覚して、日々の業務に取り組んでいます。また[校内ネットワーク運用支援]を使用する先生方にも、その重みを理解したうえで活用してもらうよう、研修会をしています」

普通教室でのICT活用の普及に取り組む

ディジタル教材の利用を促進

また、教育研究所では、ディジタル教材の利用促進や開発にも、積極的に取り組まれている。

「ディジタルコンテンツは、国や民間で作成されているものなど、今では選ぶのに時間がかかるほどたくさんあります。はじめて使う先生には、まずは既製のディジタルコンテンツを、授業の一部分と置き換えてもらうことを勧めています。慣れてくると、ご自分でデジカメやビデオカメラで撮影したものをプレゼンテーションソフトウェアに貼り付けて、授業の中で提示できれば、これは立派なコンテンツになります。その先生にとって最良のコンテンツでもあると思います。また、Webベースでコンテンツを作成して校内サーバに保存すれば、どの教室からもすぐ利用できるようになります。このようなコンテンツ自作のための研修会も開いています」

教材開発、指導法の研究も

茨木の先生の提供・協力によるWebコンテンツ教育研究所では、小中学校の先生方数名を研究所員として委嘱し、教育研究所の指導主事とともに「所員会」という組織を作り、活動を行っている。「言語教育所員会では、小学校英語活動に向けたビデオ教材なども制作し、イントラネットで配信しています。理科教育所員会では、茨木市の自然環境について、実際に先生方がフィールドワークを行って、小動物や植物の情報を集約したコンテンツや、実験・観察の事例集などを作成しました。そのほか茨木の歴史など、茨木市オリジナルの地域教材の開発にも力を入れています」と向井先生。

情報教育所員会では公開授業研修会を軸に、ICTを活用した授業イメージの普及にも取り組まれている。18年度は所員の先生方の学校を含め、7~8校で公開授業研修会が実施・計画されている。

情報教育推進研究協議会を組織

また、茨木市では、「情報教育推進研究協議会」という組織があり、全小中学校の情報教育担当の先生方が、月1回教育研究所に集まり、さまざまな取り組みを行っている。「15年度は光ファイバーが整備された年ですので、それに伴う、ガイドラインや注意事項についてFAQを作成しました。16年度は中学校、17年度は小学校のICT環境が整備された年で、それぞれICTを使った授業実践の事例づくりに取り組みました。また、この協議会を通してアンケートを実施し、各校の情報スキルやモラル指導の取組のようすを分析し、市内での標準化を目指す活動も行っています」と活動内容の一例を紹介いただいた。

ICT授業実践データベースを稼働

さらに、18年度からは、ICTを使った授業をどうデザインするかという研究テーマのもと、新たな取り組みも行われている。

ICT授業実践データベース「授業の中に、コンテンツをワンポイントで入れるだけで、子どもの興味関心を高めたり、理解が深まることがあります。授業のどの部分にICTを組み込むかを工夫して、「わかる授業」を実現し、子どもたちの学力向上につなげていきたいと考えています。その一環として、今年の秋より、「ICT授業実践データベース」を稼働させました。コンピュータやネットワークを使って授業された先生方は、自作コンテンツやワークシートなどのディジタルファイル、Webで公開されているコンテンツを利用された場合はそのURLなどを準備されています。それをこのデータベースに登録していただこうというしくみです。登録いただく先生方ご自身には、活動の記録になりますし、市内の先生方にとっては、検索して見ることで実践事例の参考になります。同じ茨木の先生が、この学年で、この教科で、こんな授業をやっているということがデータベースから検索できれば、親近感もわくと思います。市内で実践事例を共有することで、ICT活用が広がり、効果的な授業実践が増えていくよう期待しています。まずは先生方にデータベースへ実践事例を登録していただいて、登録件数を増やすことですね」

子どもたちにできるだけ多くの体験を

情報モラル指導の重要性

最後に、これらの情報教育に関する取組や課題についてお伺いした。

「情報モラルや情報安全教育ということが、最近よくいわれますが、家庭ではなかなか指導しにくい部分があります。学校にはネットワーク・コンピュータがあって、子どもの顔が見える環境で、メールや掲示板を書きあうことができます。その中でマナー違反があれば、すぐに顔を見て指導が行えます。保護者の意識を啓発しながら、学校のネットワーク環境を練習場とし、子どもたちにできるだけ多くの体験をさせてあげて、実際のインターネットの世界で被害者にも加害者にもならないように指導していくことが必要だと考えています」と情報モラル指導の重要性をお話しいただく。

次の取組に向けて

「学校側のスキルと環境が、ある程度整ってきたことで、『ICTを使って、こういう授業をするよ』と教えてくれる先生が増えてきました。とても嬉しいことです。その先生方の授業や子どもたちのようすを通して、次の時代に、どんな研究や研修、機器や環境があればよいのか、新たに見えてくる部分があります。それを1つ1つ実現に向けて取り組んでいきたいです」とお話いただいた。