授業でのICT活用

教育情報化最前線

梶本佳照

校内ネットワークに対する管理の負担軽減を

― IT機器にはIT機器を使用してのサポートを ―

梶本 佳照(兵庫県三木市立教育センター 所長)

1.校務の情報化を進めるに当たってのサポート体制について

サポート体制について教職員の不安はあるか

CECが実施した「『校務IT化モデル要件調査』に関する調査報告」(2005)では、現在の学校においては、IT化に伴うサポート体制が少ないため、教師自身の負担感が増加する可能性が大きく、この不安感からIT化を推進していこうとする意識が醸成されない現実があると結論づけている。

図1 学校のシステム担当者数また、同じくCECが実施した「初等中等教育現場における情報セキュリティに係わる現状調査報告」(2004)では「学校運営予算の制約から、校内ネットワークやコンピュータの管理業務は付随業務として、わずかな担当教職員(図1)が放課後や授業の休み時間におこなっており、担当教職員の不在時にコンピュータの障害が発生した場合には、授業が不可能になるといった状況が予測される。」としている。校内ネットワークを学校の日常業務に使用している場合は、代替措置が取れないためになおさらトラブルが許されない。今後、学校においてますますネットワークを利用して校務をおこなうようになることが予想され、担当者の心理的・物理的負担は増加していくと思われる。

さらに、担当者からは「情報セキュリティに関しても、十分な知識があるわけではないので、技術的な対策が十分に行えない。」という要望もあがっているようである。

サポートの内容はどういうことが期待されているか

ソフトの使い方でわからないところは、すぐに教えてもらいたい。そして、ネットワーク及び機器に障害が発生した時はすぐに解決してもらいたい。この2つが教職員に共通した希望である。ソフトの使い方に関する疑問はそのソフトを使うにつれて減っていくが、ネットワーク及び機器のトラブルはIT機器を使う回数が増えるにしたがってむしろ増えていく。しかし、担当者の負担には、限界がある。

2.校内ネットワーク管理の負担を減らすために

学校で発生する最も多いIT機器のトラブルは

図1 学校のシステム担当者数2003年4月から2004年7月において市内小中養護学校21校に発生したIT機器に関するトラブルとそれに対して行った作業内容の記録をとった。そして、「コンピュータ教室・普通教室」と「職員室」のトラブルについて、そのトラブル項目を比較して調べた。「ネットワーク」と「印刷」のトラブルについては、その原因内訳を「コンピュータ教室・普通教室」と「職員室」とで比較して調べた。さらに、月別のトラブル発生件数の変化も分析した。

表3 機器の総数市内小中養護学校の機器の総数は、表3であり、トラブル集計は、図1、2の通りであった。

「コンピュータ教室・普通教室」と「職員室」を比較した場合、トラブル全体のコンピュータ1台あたりの発生率は、「コンピュータ教室・普通教室」0.11件、「職員室」0.32件であり、職員室のトラブル発生率が「コンピュータ教室・普通教室」の3倍近く多かった。トラブルの原因としては、「コンピュータ教室・普通教室」では、コンピュータ本体のトラブルが第1位であり、約50%であったが、「職員室」では、印刷関係のトラブルが第1位で、約40%であった。これは、校務で印刷を頻繁に行うことに原因があると考えられる。次にどちらも「ネットワーク関係」が16%をしめており、印刷に関係したネットワーク障害も含めると「職員室」では、20%になった。

トラブルの内訳は、「ネットワーク」については、「コンピュータ教室・普通教室」は「ネットワーク機器」、「職員室」は「コンピュータ本体」が主な原因であった。コンピュータ教室では、多くのコンピュータがハブに接続され同時にアクセスすることが多いことからハブに負荷がかかることが原因と考えらえる。

図1 月別トラブル件数(コンピュータ本体)、図5 月別トラブル件数(印刷)「印刷」については「コンピュータ教室」と「職員室」ともにプリンタ本体が最も多かった。「職員室」は、82%がプリンタ本体のトラブルであり、いかにプリンタを酷使しているかがわかる。「コンピュータ本体」と「印刷関係」の月別トラブル件数(図4、5)を見ると6月・7月・9月・2月・4月という授業や校務での使用頻度が多い月にトラブルが多くなっており、トラブルを未然に防ぐ為、プリンタ本体などは事前に整備点検することも考えていく必要がある。

しかし、印刷ができない原因には、他にネットワーク関係やコンピュータ本体も関係しており、原因の切り分けは、単純ではない。このことは、他のトラブルにも言えることである。

トラブルへの対応負担を軽減させるには何が必要か

「印刷関係」については、旧プリンタはpingコマンドでネットワーク的に問題がないかテストを行っていたが、新プリンタについては、それに加えて、ブラウザでプリンタの詳細情報がわかるツールが内蔵されていたのでプリンタ本体の状態もネットワーク経由で確認して対応した。トナーの残量や用紙の設定状態も把握することができた。

「ネットワーク関係」については、pingやtracertコマンド及びネットワーク管理ツールで状態を確認して対応した。

このようにトラブル発生時には、原因の切り分けの為にいくつかのツールを使用したり、当事者に質問をしたりしたのであるが、ツールをいくつか使い分けるのは煩雑であった。また、トラブルの状況によっては、当事者の報告で、トラブルの症状が的確に伝わる場合と伝わらない場合があり、実際の現象は報告内容とは違っていたという場合もあった。症状を的確に伝えるためには、ネットワークや情報機器についてある程度の知識が必要であり、どの学校にもこれを求めることは難しい。報告者の持つ知識や技能によっては、トラブルの原因を掴むうえでこちらが間違った先入観をもってしまう場合もあった。

このような状況から、専任の管理者がいない学校で、校内ネットワークを安定稼働させるには、常時ネットワークや機器を監視しトラブル発生時に警告を出すことにより、できるだけ簡単に原因を特定することができるネットワーク総合管理ツールの導入が有効であると考えられる。警告メッセージも出来るだけ具体的に表示するようなツールが望ましい。サービスマンコールの番号表示だけでは、ユーザにやさしいシステムとは言いがたい。原因を早く特定することができると、解決も迅速に行うことができる。

トラブルには人が対処することが1番である。では、それ以外の方法は?

トラブルには、人が対応することが一番良いのですが、教育センターから学校へ、いつも飛んで行けるとは限らない。「学校へ行って帰ってくる時間がない」「10分くらいでメンテナンスできるのに」といった場合も多い。

そこで、学校サーバの稼動状態の確認やメンテナンス、コンピュータ教室及び普通教室にあるコンピュータ本体の画面異常や文字入力のトラブル、ソフトの動作トラブル等については、教育センターからリモートメンテナンスで対応した(図6)。コンピュータの動作状況をリモートで確認することができるとトラブルへの的確な対応をしやすくなる。

図6 リモートメンテナンス概略図

参考文献

  • 財団法人コンピュータ教育開発センター:初等中等教育現場における情報セキュリティに係わる現状調査報告書(2004)
  • 財団法人コンピュータ教育開発センター:「校務IT化モデル要件調査」に関する調査報告書(2005)
  • 梶本佳照・堀田龍也ら(2004)、サポート状況から見た教育用ネットワークの安定的な活用の要件、平成16年度全日本教育工学研究協議会発表論文集