授業でのICT活用

教育情報化最前線

菅野徳明

学校は情報の宝庫、発信・共有の場を

― 6つの柱で情報教育関連事業を推進 ―

菅野 徳明(山形市教育委員会 山形市総合学習センター 指導主事)

山形市教育委員会では、「感動・感謝・信頼」の3つのキーワードを学校教育の基本理念として、健やかな体・豊かな心・確かな学力を持つ、知性と品性にあふれる子どもの育成に取り組まれています。その中の重点施策の1つとして、情報活用能力を高める情報教育の推進が掲げられています。その推進の拠点となっているのが山形市総合学習センターです。今年度、山形市総合学習センターでは、山形市教育情報ネットワークシステムを核に6つの柱で情報教育の推進に取り組まれています。
このほど、山形市教育委員会 指導主事 菅野徳明先生に、その取り組みの内容や成果、課題についてお話を伺いました。

(2005年10月取材)

ポータルサイトから各種教育情報サービスを提供

山形市総合教育センター菅野先生は、平成13年同センターに赴任。ネットワークの具体的な運用や活用プランはこれからという「まさにスタートラインに立った心境だった」と当時を振り返られた。これからの時代、ネットワーク活用が伸びていくと確信していた菅野先生は、当時、各学校が直接インターネットにつながっていたネットワーク環境を、センターで集中管理できるよう構想し、平成15年12月の同センター設備の更新にあわせ、新しい「教育情報ネットワークシステム」を構築。市内すべての学校が地域イントラネットで結ばれた。

平成16年度からの本格稼動に伴い、このネットワークシステムを効果的に活用する、さまざまな取り組みが進行している。

情報関連主要事業等

表1 「YCLC portal」を通じて利用できるシステムこのネットワークシステムは、市内の各学校にインターネット環境を提供するだけではなく、同センターに設置されたサーバ群より、各種教育情報サービスを提供し、児童・生徒の学習、教職員の教育活動等の支援を行っている。

現在では、「Yamagata City Learning Center」の頭文字から「YCLC portal」とネーミングされた地域イントラネット内のポータルサイトを通じて、山形市内の小中学校、教育機関に所属する児童・生徒、教職員は、表1のような機能が利用できる。

「YCLC portal」のトップ画面

学校は情報の宝庫、キーワードは情報の発信と共有

同センターでは、教育データベースの整備にも力を入れている。菅野先生は、データベースの仕組み自体を使いやすいものにすることはできても、中身が充実していないと活用されない。また利用促進の視点から、使用者=情報の提供者という関係をつくることが重要といわれる。その思いから、コンテンツ作り、情報の発信と共有をキーワードにさまざまな取り組みを行っている。

「学校は情報の宝庫」、「先生、子どもたちの持つ有用な情報はお蔵入りになっている」という菅野先生は、平成14年度から、各学校より情報の提供を受け、そのデータを共有化するプロジェクトを立ち上げた。その中の1つが、市で平成15年度に取り組んだ「学校の樹木プロジェクト」。このプロジェクトは、文部科学省「教育情報共有化促進モデル事業」の採択事業の1つで、校地内にある樹木の画像や説明などのデータを市内全小中学校ごとに作成し、それを集約してコンテンツ化するものだ。このプロジェクトによって、300種類以上の樹木に関する情報が収集され、データベース図鑑が完成。各学校は情報の提供者でありデータの使用者でもあるという関係が築かれた。

今年度は、情報の共有と子どもたちの発信する力を育てることをテーマに、学習したことを人に伝え、その成果をお互いに共有する場として、「Web-GISプラットフォームシステム」による「学習情報共有化計画」を推進。その第1弾として、地域学習で得た学区内の文化・歴史・環境などの特徴や自慢を、Web上の地図情報とリンクさせて紹介する「学区探検プロジェクト」を実施中だ。

平成15年度より取り組んでいる、山形の伝統行事や工芸、文化遺産等を、授業で利用可能な動画コンテンツに編集しデータベース化する「ふるさと映像ライブラリー」の構築も進行中で、その数は今年度末までに760コンテンツを備える予定である。

ふるさと映像ライブラリーのトップ画面

現場の先生と研究員会を組織し、調査結果を施策に反映

また、情報教育の推進にあたり、現場の先生方の声を大切にしたいと考えた菅野先生は、教育研究所内に組織する「情報教育推進調査研究員会」の事務局を担当。市立小中学校の教職員から委嘱された9名の研究員の先生方とともに、学校の情報化の推進や教育情報ネットワーク・教育コンテンツ利用に関する調査研究を実施。その成果を広く提言し、山形市の情報教育の推進・充実に生かしている。

この研究員会で毎年実施している、市立小中学生を対象とした「情報活用能力の実態に関する調査」では、情報リテラシーや、家庭でのコンピュータの利用状況、情報モラルの定着の実態を調査し、その結果分析を行っている。この調査結果から浮上してきた課題の1つが、情報モラルの教育だ。「情報モラルは道徳心を育てることと同じで一番難しい課題」と菅野先生。家庭にもコンピュータが浸透している今日、情報モラルの教育は学校と家庭が連携して取り組むことが重要といわれる。

個別対応で研修が受けられる「情報教育開放講座」を開設

同センターでは、子どもたちのIT活用能力を育てるために、それを指導する先生方を対象に、年間20を超える研修講座を開設している。先生方の要望が多い内容については、テーマ別講座を設け研修会を行うことはもちろんのこと、だれでも、いつでも、どんな内容でも個別対応で研修が受けられる「情報教育開放講座」を開設。先生方が基礎的な知識を気軽に学習できるように、「選択モジュールメニュー」を設け、学習したい内容のテキストをダウンロードして自習できるシステムを整備している。また、講座開設日には、自己課題の解決に向け個別にじっくりと研修できるということで、参加者にはたいへん好評のようだ。

これ以外にも、ネットワーク取扱責任者会で、ネットワークの円滑な運営に向けた研修を実施したり、情報ネットワーク管理支援事業として、ヘルプデスクの開設やTV会議利用時の直接支援なども行っている。さらに、情報ネットワーク運用支援事業として、学校に対して、教育の情報化全般に関するコーディネートやコンサルテーションを行うとともに、コンピュータを利用する授業などへの支援者派遣も実施している。

これからは各学校の実態に即したカリキュラムの整備が重要

さまざまな形で情報教育の推進に取り組んでいる菅野先生は、子どもたちの情報活用能力を高めるためには、実態に即した情報教育のカリキュラムを整備し、学校全体で計画的に実践することが非常に重要だという。特に小学校では、情報リテラシーに格差が生じないよう、各学校で「全体計画」「年間指導計画」「ガイドライン」を作成し、すべての先生方が情報教育のねらいや内容を理解し、協力して情報活用能力の育成にあたることを求めている。

これまでの、情報教育の推進の成果についてお伺いすると、「教室の殻を破って学習を行うといった学習の広がりや深まりが出てきた。遠隔地との情報共有や協同学習、専門機関と連携した授業づくりなどに、その成果が見られます」と菅野先生。これからは、その良さをどのように広げていくか、またそれをうまく伝えていくかが今後の課題という。

また、子どもたちの情報活用能力を育成するために、コンピュータ教室をうまく利用する必要があるといわれる。

山形市では、市内のすべての小中学校にコンピュータ教室の運用をサポートする授業支援ソフトウェア『SKYMENU Pro』が導入されている。「『SKYMENU Pro』には、IT授業を力強くサポートしてくれるさまざまな機能が備わっており、先生方の工夫によって実に多様な使い方ができる。これを有効に活用することで、子どもたちにとってわかる授業、子どもたち相互にわかりあえる授業づくりが可能になる。学校のニーズに対応した商品づくりを今後とも大切にしてほしい」といわれた。