教育情報化最前線

ネットワーク分離環境下で、職員室のインターネットアクセスを改善 業務の密度を高め、子どもと向き合う時間の創出へ

東京都清瀬市では、2023年4月に校務用端末や校務支援システムを導入し環境を一新。その際に採用したのが、シンクライアントシステム『SKYDIV Desktop Client』です。仮想ブラウザの技術で、教職員が1人1台の校務用端末から安心してインターネットにアクセスでき、効率的に校務を行える環境が整えられました。
同市の校務用端末にかかる整備の背景や運用について、教育委員会の太田 裕作 係長と鈴木 和也 主事に、導入後の学校現場の状況や変化について、清瀬第八小学校の杉山 太郎 副校長、折田 聡 主幹教諭にお話を伺いました。(2023年10月取材)

東京都清瀬市


人口:74,579人(2023年10月時点)
面積:10.23㎢
清瀬市は、水と緑に恵まれた豊かな自然環境、都内1位の出荷量を誇るにんじんをはじめとする生鮮野菜を供給する都市農業、多くの医療・福祉施設と関係高等教育機関が集積した、近隣市には見られない個性を持ち、程よい快適性と程よい利便性を兼ね備えたコンパクトシティです。


東京都清瀬市教育委員会 「仮想ブラウザ」で、校務用端末からインターネットを 安心して利用できる環境を構築

太田 裕作係長

清瀬市教育委員会 教育部 教育企画課 企画係

鈴木 和也主事

清瀬市教育委員会 教育部 教育企画課 企画係

『SKYDIV Desktop Client』で1人1台の校務用端末からインターネットを利用可能に

清瀬市には、小学校9校、中学校5校、合わせて14の学校があり、5,324名の児童生徒、311名の教員が在籍しています(2023年5月時点)。私ども教育企画課企画係は、教育委員会の業務に加えて市内小中学校のICT環境整備についても担当しています。具体的には、校務用端末やそれに関連したシステム、GIGAスクール構想による1人1台端末(以下、GIGA端末)などの整備、運用です。

2023年4月から運用を開始した新しい校務環境では、図1のように機器やシステムを一新するとともに、シンクライアントシステム『SKYDIV Desktop Client』を用いてネットワーク分離された端末でのインターネット利用環境を改善。「仮想ブラウザ方式」を利用することで、教員が1人1台の校務用端末から安心してインターネットにアクセスできる環境を構築しました図2

図1 『SKYDIV Desktop Client(仮想ブラウザ)』で校務用端末から安心してインターネットを利用できる

『SKYDIV Desktop Client(仮想ブラウザ)』で校務用端末から安心してインターネットを利用できる

図2 2023年度 清瀬市の校務用端末および校務支援システム等の整備内容

  • 校務用端末
  • 校務支援システム
  • シンクライアントシステム『SKYDIV Desktop Client』
  • クライアント運用管理ソフトウェア『SKYSEA Client View』
  • デジタル採点システム(中学校のみ)

インターネットアクセス環境の改善を、校務支援システムのリプレース予算内に収める

ネットワーク分離された端末でのインターネット利用環境については、以前は校長や副校長、事務職員が使用する行政端末を除き、職員室にある行政端末1台を全教員で共有して使用していました。学校現場からは、「教材研究や学校Webサイトの更新がしにくい」「校務用端末にデータを移動させる場合、管理簿に記録してUSBメモリを借りる必要があり、手間がかかる」といった課題を伺っていました。

また、新たに整備する校務の環境では、Webブラウザで保護者から欠席連絡を受けたり、学校から保護者へ情報配信ができる連絡ツールの運用を想定していました。そのため、教員の校務用端末からインターネットにスムーズにアクセスできる環境は欠かせませんでした。

導入検討時、複数の業者から仮想ブラウザによる環境改善の提案がありました。中でもSky株式会社の『SKYDIV Desktop Client』であれば、今回予定していた校務支援システムの更新にかかる予算内で整備できることが分かり、導入の後押しになりました。

仮想ブラウザの環境構築は、準備から運用までスムーズに展開

昨年度末、成績処理などの先生方の業務が落ち着くタイミングを待って、校務用端末や校務支援システム、そして新たに導入する『SKYDIV Desktop Client』の導入準備を進めました。『SKYDIV Desktop Client』は、運用のための準備から開始まで、私ども教育委員会側ではファイル無害化やフィルタリング強度について要望を伝えたことと、一度だけ開催した学校の担当者向けの『SKYDIV Desktop Client』操作講習会の日程を調整したくらいです。運用開始直後も大きなトラブルや問い合わせはなく、仮想ブラウザはスムーズに現場に浸透していった印象です。

各校務用端末で安心かつ効率的にデータをダウンロードできるように

今(取材時)、整備から約半年が経過したところですが、「仮想ブラウザによって、教員1人1台の校務用端末からいつでもインターネットにアクセスできる」「仮想ブラウザ上で入手したデータをUSBメモリなどを介さず円滑に校務用端末のローカル環境に移動させられる」など、利便性が向上したという声を伺っています図3

図3 校務用端末のみでデータのダウンロードや移動ができるようになり利便性が向上

校務用端末のみでデータのダウンロードや移動ができるようになり利便性が向上

仮想ブラウザから校務用端末のローカル環境にデータを移動させる際は、セキュリティ対策のため[ファイル無害化連携]機能でデータを無害化しています。ファイルの無害化は、システムが無害化する過程で元データを破損させてしまうケースがあるため、あらかじめ当市の校務用端末の運用を支援してくれているSky株式会社と打ち合わせ、セキュリティレベルを保ちつつ、できるだけ先生の仕事に支障をきたさない設定にしています。

なお、昨年度まで使用していたUSBメモリやSDカードなどの記憶媒体は、すべて『SKYSEA Client View』の[デバイス管理]機能で登録を行い、教育委員会で一元管理しています。『SKYSEA Client View』に登録・許可されているUSBメモリのみ使用できるようにし、さらに使用状況を可視化することで、より高いセキュリティレベルを実現させています。

『SKYSEA Client View』のログデータから成果を客観的に分析し、次の整備へ

学校現場で活用が進むにつれて、さらなる業務改善のためさまざまな意見や要望をいただいています。このような要望は、整備した校務用端末が学校で活用されているからこそ挙がってくるものです。GIGA端末の活用にも影響を与えているということですから、整備の手ごたえを感じています。

今年度末までに、アンケート調査やログデータの分析を行い今回の整備の成果をまとめる予定です。指導要録の作成など、先生方にとって負担のかかる作業がどれだけ変化したのか。勤務時間の短縮につながっているのか。さらにはシステムの使い勝手などの満足度についても調査します。ログデータの分析については、グラフなどで利用状況や傾向を可視化してくれる『SKYSEA Client View』の[レポート]機能で、効率的に行いたいと考えています。


東京都清瀬市立清瀬第八小学校 「仮想ブラウザ」の活用で、教員の「仕事の動線」を改善 校務、教材研究に集中できる職場環境へ

杉山 太郎副校長

東京都清瀬市立清瀬第八小学校

折田 聡主幹教諭

東京都清瀬市立清瀬第八小学校

東京都清瀬市立清瀬第八小学校


全校児童416名、教職員26名。御殿山の雑木林に見守られ、豊かな自然環境に囲まれた学校です。1973年に開校し、今年度開校50周年を迎えます。「よく考え進んでやりぬく子」「みんなで仲よく助け合う子」「明るく強い元気な子」を教育目標に掲げ「読む力(言葉の力)」の育成に重点をおいた教育活動や、全面芝生の校庭を生かした運動や遊びで体力向上にも取り組んでいます。

データや物理的なモノの整理から業務改善を進める

本校に私ども杉山、折田と校長である相蘇が着任したのは昨年の4月のことでした。教職員全体で連携して、校務のペーパーレス化や情報共有の円滑化に向けた業務改善の取り組みに注力してきました。

始めに取り組んだのは、共有サーバのデータ整理でした。共有サーバのフォルダ内には、2006年度のフォルダなどが残っており、サーバの記憶容量を圧迫していました。そこで「データを保管するのは過去6年分のみ」というルールを決めて、協力してデータを削減。結果、30GBものデータを減らすことができました。

データの整理だけでなく、物理的なモノの整理も進めました。学校には過去から置かれているものがたくさんあります。それらを整理整頓することで、みんなが仕事をしやすい環境づくりを進めました。

仕事の動線を見直し、ノッキングが発生しない職員室に

仕事をしやすい環境をつくる上で、私どもが重視しているのは仕事の「動線」です。動線が短くてシンプルであれば、それだけ業務が効率的になります。一方でノッキング(仕事の流れや気分を妨げる障害やストレス)が多い職場は仕事の効率や質が低下するといわれています。

例えば、本校の職員室ではプリンタが先生方の席から離れたところに設置されていました。印刷するたびに遠くまで移動する必要があり、ノッキングを発生させていました。

そこで、プリンタの位置を見直し、みんなが使いやすい場所に移設。併せてトナーや紙など関連備品も移設しました。これによって使い勝手が向上し、ノッキングが発生しにくい環境になりました。小さな改善ですが、このような改善の積み重ねによって、先生方の業務が効率化されていく。それがやがて働き方改革の実現につながると考えています。

校務処理、教材研究でノッキングを発生させていたインターネット利用環境

先生方の業務におけるノッキングの要因はさまざまにありますが、特に大きな要因となっていたのが「ネットワーク分離による、インターネット利用のしづらさ」でした。

まず職員室で教員がインターネットを利用できる端末(行政端末)が1台しかないため、インターネット検索がしづらい。そして行政端末やGIGAスクール構想によって整備された端末(以下、GIGA端末)を使ってインターネット検索をしても、ダウンロードしたファイルなどを校務用端末に移動させるには、学校に1つしかないUSBメモリを使う必要があります。USBメモリ使用の順番待ちをしたり、都度USBメモリが保管されている金庫から取り出して、使用記録をつけたりする必要がありました。

加えてUSBメモリは、副校長を経由して教育委員会などに提出しなければならない書類データを受け渡す手段としても使われていました。提出物が集中する時期は、USBメモリの使用待ちが発生し、先生方の業務がたびたび滞っていました。

仮想ブラウザで教員が自分のペースで業務に取り組めるように

こうした状況が解消されたのが、今年4月の校務用端末および校務支援システム等の更新でした。『SKYDIV Desktop Client』の「仮想ブラウザ」 によって、教員の手元にある1人1台校務用端末から自由にインターネットを利用できるようになったのです。これは職員室に劇的な変化をもたらしました。

本校の教員に「仮想ブラウザが使えるようになって良かった点」についてアンケートで調査したところ、次の2点について多くの回答が挙がりました。

最も多かった回答は、仮想ブラウザとGoogleドライブを併用することで、校務用端末とGIGA端末で、データを共有しやすくなったというものでした。あくまで校務用端末の仮想ブラウザ上でGoogleドライブにアクセスして編集するため、データ移動はありません。安心して編集できることや使い慣れた校務用端末、つまりWindows端末で作業できることが評価の理由となっていました。

仮想ブラウザでGoogleドライブにアクセスし、校務用端末で教材を効率良く作成

仮想ブラウザでGoogleドライブにアクセスし、校務用端末で教材を効率良く作成

その次に回答が多かったのは、ワークシートの作成などの教材研究に取り組みやすくなったという点です。以前はワークシートひとつを作るにしても、行政端末やUSBメモリを使用するための順番待ちをしたり、インターネット検索のためにわざわざGIGA端末を持ち歩いたりしていました。そのようなノッキングがなくなり、自分のペースで集中して教材研究ができるようになったことが評価されていました。

欠席連絡や保護者からの連絡を、教室と職員室でリアルタイムに共有

ほかにも校務支援システムと仮想ブラウザの併用で、欠席連絡や保護者との連絡が取りやすくなり、業務が効率化しています。欠席連絡や保護者とのやりとりが校務用端末の仮想ブラウザやGIGA端末からできるため、毎朝教職員全員で状況を共有しながら対応できるようになったのです。例えば、欠席連絡の際に保護者から「オンラインで授業に参加できるのは何時間目ですか?」といった質問がよくあります。こうした場合、以前は職員室や事務室で保護者からの電話を受け、教室まで直接確認に行っていました。確認後、保護者に返電してもなかなかつながらず困った、ということがたびたび発生していました。

今では、教室の担任や職員室の教職員が書き込みを確認して、コメントを返すことも可能ですから非常に効率的です。毎朝学校にかかってくる電話の数も大幅に減りました。

教員の業務の密度が高まり、新しいことに積極的にチャレンジする姿勢も

導入から約半年。年度当初の予想よりもハイペースで校務の情報化や業務改善が進んでいます。仮想ブラウザや校務支援システムは、もはやあって当たり前の環境です。

便利で効率的な環境によって、先生方の業務の密度が高まっています。感覚値ですが、整備以前は1時間のうち7割程度の時間が業務に集中できていたとすれば、今は8割、9割まで業務に集中できている印象です。ノッキングがなくなったことで、先生方は自分のペースで集中して業務に臨めています。事実、以前の職員室で頻繁に交わされていた「今、誰がUSBメモリを持っていますか」という声掛けは、ほとんど聞かなくなりました。

それから、先生方の業務に対する姿勢やマインドも変化してきています。新しい技術や新しい方法に関心を持ち、積極的に取り入れてチャレンジするようになりました。

実は、以前はGIGA端末でインターネット検索をして、業務の効率化につながるようなMicrosoft ExcelやMicrosoft Wordのファイルを見つけても、それを校務用端末で使うことができませんでした。GIGA端末にファイルをいったんダウンロードして保存すると、ファイル形式が変換されてしまい、使えなくなるケースが多かったのです。そのような苦い体験が繰り返されたことで、「新しいことにチャレンジしよう」という意欲が弱まり、教員にとって都合の良い手段を選択してしまいがちになっていました。

それが今では「この方法のほうが、子どもにとって良いはずだ」「新しい方法にチャレンジしてみよう」と、児童にとってより良い方法を選択しようとする様子や会話があちらこちらで見られています。環境が変化したことで、先生方に物理的にも精神的にも余裕が生まれて、新たな発想やアイデア、意欲が生まれているのです。良い方向に進んでいると感じています。

職員室での教え合いで、優れた取り組みを共有し、さらなる業務改善へ

今、職員室では、「こうやったらうまくいくよ」「どうしたらできるの」という教え合いがあちらこちらで行われています。そこに人が集まり、ミニ研修会のような場が自然なかたちで生まれています。先ほどご紹介した校務用端末の仮想ブラウザでGoogleドライブにアクセスして編集するという方法も、校内の先生が発見し、それが口コミでどんどん広がりました。今では、昨年度まで「パソコンはあまり得意じゃない」と言っていた教員が、当たり前のように校務用端末やGIGA端末を活用しています。

このような本校のICT活用の広がりから、私どもが学んだことは、まずは教員同士で優れた取り組みを共有し、実行していくことの大切さです。その積み重ねで、少しずつ業務が改善され、教員の働き方改革が前進するのです。教員が自分自身を大切にすることで、今まで以上に子どもたちを大切にした教育活動を実現できるようになる。そのことを信じて、これからも業務改善を進めたいと考えています。

(2023年12月掲載)