教育情報化最前線

香川大学教育学部附属高松中学校 ICTで探究の軌跡を記録、共有
意見交流の質を高める [提出箱]で異学年の生徒が集まるゼミの課題を共有、管理

香川大学教育学部附属高松中学校は、生徒数310名、教職員数32名が在籍する香川大学教育学部の附属中学校です。2023年度より、新領域「MIRAI」を立ち上げ、各教科における本質的な学びを基盤にしつつ、生徒が「協働」で取り組む探究学習と「個」で取り組む探究学習のカリキュラムを開発し、実践研究を進められています。
同校の研究活動や1人1台端末、『SKYMENU Cloud』の活用方法について、小野 智史 教諭、赤木 隆宏 教諭、左海 亮 教諭に伺いました。(2023年7月取材)

小野 智史教諭

香川大学教育学部附属高松中学校

赤木 隆宏教諭

香川大学教育学部附属高松中学校

左海 亮教諭

香川大学教育学部附属高松中学校

「自ら立つ」をめざし、1人1台端末も子どもの判断と責任で活用

本校の教育目標は「自ら立ちつつ共に生きることを学ぶ 今日に生きつつ明日を志すことを学ぶ」です。本校に在籍する生徒たちには「自ら立つ」ことを地で行く雰囲気があり、授業一つとっても、教え込みを期待するのではなく、1人1台端末などを用いて、自ら調べてまとめ、外に向かって表現することを好む子が多いと感じています。

そのため貸与している1人1台端末を使って自ら調べたり、まとめたりすることは当たり前になっています。端末も基本的に子どもたちの判断と責任で使わせており、持ち帰りも自己判断です。家で課題に取り組む必要がある生徒は持ち帰り、その必要がない生徒は、学校の充電保管庫に収めて帰っています。休み時間の端末使用も制限していません。1人1台端末は一つの文房具になっており、いつも生徒の手元にあり、必要なときに必要なだけ使っています。

「協働の学び」と「個の学び」の2つの探究を両輪で展開

こうした状況を基盤にしながら、本校ではカリキュラムの研究開発を進めています。具体的には、子どもたちが「『答えのない問い』に対して、その問いを問い続け、考え、判断する能力」である「知性」と、「多様な他者や社会との関係の中で、自己の生き方・在り方を問い直して調整していこうとするその人の態度や性質」である「省察性」を育むためのカリキュラムです。

その一環として、2015年頃から道徳と総合的な学習の時間の性質を併せ持つ「人間道徳」の時間を設けてきました。昨年度(2022年度)は「人間道徳」の時間に、他者と協働しながら学年集団で取り組むプロジェクト型学習の「協働の学び」と、異学年集団や大学生等からアドバイスをもらいながら個人課題を探究する「個の学び」を展開しました。

協働を通じた問題解決から自己を見つめる「協働の学び」

「協働の学び」は、生徒が同じ学年の中でグループを作り、地域や社会に働き掛けるプロジェクトを考案、実施する取り組みです。高齢者施設や幼稚園に行って出し物をしたり、農園活動を行ったりしました。

子どもたちは、こうしたプロジェクトを通じて、学年ごとに設けた「『自ら立つ』とはどのようなことか(1年)」「『共に生きる』とはどのようなことか(2年)」「『今日に生きつつ明日を志す』とはどのようなことか(3年)」という「問い」を省察します。プロジェクトの節目などに、「省察の時間」を設け、プロジェクトでの問題点を話し合って解決するとともに、プロジェクトを行った経験やその価値について意見交換し、これからの自己の生き方・在り方を考えました。このようにして、子どもたちに自分がこれから何を大事にして生きていくのかについて考えさせています。

「協働の学び」は、「個の学び」に先駆け、2020年度から展開してきましたが、グループのほかの人の意見に乗ってしまい、自分の個性を出し切れない子もいました。そこで昨年度から開始したのが「個の学び」です。

興味関心に応じて、ゼミで個別に探究する「個の学び」

「個の学び」は、すべての学年で子ども一人ひとりが自分の興味関心に応じてテーマを設定し、それぞれに探究して、その成果をまとめ、発表する活動です資料1。発表までの間に、教員や異学年の生徒、大学生が加わったグループを作って、意見交流するゼミ活動を定期的に設けています。他者からの意見をもらうゼミ活動は、多面的な思考や視点を身に付けるきっかけになるとともに、自らの学びを調整していくことにつながる大切な場です。

資料1

「人間道徳」として行った「個の学び」と「協働の学び」を、2023年度からは新領域「MIRAI」として展開しています。「個の学び」で学んだことが「協働の学び」で生かされ、「協働の学び」で友達から聞いたことが「個の学び」に生かされるといったように、個と協働が両輪となることをめざしています。

▲ 上級生のアドバイスで課題設定や探究の方法を考える

異学年の生徒が集まるゼミ。ワークシートの提出、共有が課題に

特に「個の学び」では、1人1台端末や『SKYMENU Cloud』が調査や交流、表現する場面などで有効に活用されています。

「個の学び」では、追究する課題や課題設定の理由、計画書などを「Microsoft Excel」で作成したワークシートにまとめさせています資料2。ゼミ活動を行うグループごとに、担当の教員がこのワークシートを確認して子どもたちの進捗を把握し、子どもたちはゼミ活動で提示して意見交換しています。

資料2生徒が作成した課題設定のワークシート(2023年度)

そのため、ゼミ活動のグループごとにワークシートを管理したかったのですが、異学年が入り交じる普段の授業とは異なるグループのため、効率の良い管理方法が課題でした。それを解決したのが『SKYMENU Cloud』の[授業グループ]と[教材・作品]です。

ワークシートは[教材・作品]からファイルを選んですぐに配付ができました。さらに[授業グループ設定]を活用することで、学年の異なる子ども同士でも授業グループを作成することもできました。あらかじめ、教員がグループを設定してこのグループごとに[提出箱]を作成することで、子どもたちはワークシートを随時提出することができます。[提出箱]に提出したワークシートは、子どもたちが互いに内容を確認できるように設定しており、ほかの子の進捗を確認したり、研究の方法について刺激を受けたりすることもできます。ほかの子が提出したものは閲覧するだけで、編集ができないことも良い点だと思いました

子どもたちは、ワークシートを基にしながら、発表用の資料を[発表ノート]や「Microsoft PowerPoint」を使って作成していきます。ワークシートの言葉を、発表資料にコピー、ペーストできることも1人1台端末を活用するメリットです。教員にとっても、紙でまとめると分厚いファイルをめくって点検する必要がありますが、ICT活用により、発表資料と併せてワークシートをチェックできることで一人ひとりの学びの軌跡を確認でき、評価の時間の短縮にもつながっています。

さらに、ゼミ活動はオンラインで行われることもあります。そうしたときに[電子連絡板]を活用し、Web会議システムのURLを貼りつけて子どもたちに知らせています。2023年度も同様に、このような流れで『SKYMENU Cloud』を活用しています。

教科学習の授業に、探究的なプロセスを取り入れる

本校の探究的な学びは「MIRAI」にとどまりません。教科学習においても、「教科する教科学習」をキーワードに、探究的なプロセスを取り入れた授業づくりに取り組んでいます。例えば理科では、「探究マップ」を授業に活用しています。探究マップは、各単元の内容に応じて、子どもたち自ら日常生活での気づきや疑問から課題を設定し、仮説を立て、それを検証するための計画を立案、結果の考察までを記入するものです。「探究マップ」やそれに基づく実験を考察した結果を書き込む「ラボノート」、レポートなどは、『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]で提出させています。

教科の学習では、学んだことを生かして課題を解決しようとしたり、知らないことを探究して仮説を生み出し、それらを問い直したりすることをめざしています。そうしたことが、各教科ならではのおもしろさや魅力、その教科を学ぶ意義を実感することにつながるのだと思います。

このような教科での学びが「個の学び」「協働の学び」のベースにあります。「個の学び」や「協働の学び」で探究の仕方を学ぶのではありません。教科で学んだ物事の迫り方を生かし、それぞれの教科で学んだことを組み合わせながら、イノベーションして新たなものを生み出すというスタイルで進めています。

「自分は何がしたいのか、何ができるのか」自分探しの3年間に

中学生になると、自分を出す、個性を出すという機会は少なくなります。本校では「協働の学び」に加えて「個の学び」という機会をつくることで、今まで集団の中で埋もれていた子が輝くこともありました。

教科での探究は教員から題材を渡されますが、「個の学び」では生徒が自ら題材を決め、主体的に動かなければなりません。テーマを絞らないことが本校の「個の学び」の特長の一つです。例えば2022年度は「さぬき市の現状 人手不足を考える」「本当の自分とは」というテーマ、2023年度は「実家のうどん店の回転率を上げるには」といった身近な課題をテーマに設定する子もいました。

こうしたことは、教員が子どもについて知るきっかけにもなっています。そして子ども自身にとっても、自分の長所や短所についてメタ認知することにつながっています。

「MIRAI」の時間は自分自身を見つめ、自分の武器を見つける時間です。今後も教科と「MIRAI」での活動を通じ、自分探しができる3年間にしていきたいと思います。こうした経験により、子どもたちは年齢を重ねても自分の得意なこと、苦手なことを自ら問い続けることができるはずです。これからの予測困難な社会のなかでも、「自分は何がしたいのか、何ができるのか」と考え続ける力を身に付けさせられるように、取り組んでいきます。

▲ ゼミで課題設定の理由や研究の計画を発表。多様な意見を募る

(2023年11月掲載)