教育情報化最前線

大阪府豊中市立桜塚小学校 教員研修 / 保護者会 GIGAの目的を共有し子どもの資質・能力を一体で育む

大阪府豊中市立桜塚小学校では、端末の持ち帰りが日常的に行われ、授業では1人1台端末を使わない日がないほどICT活用が定着しています。保護者の理解を得ながら、学校全体で活用を進める同校。その取り組みの工夫について、後藤 るみな 校長、松田 渉 教諭、大橋 創 教諭にお話を伺いました。(2023年5月取材)

後藤 るみな校長

大阪府豊中市立桜塚小学校

松田 渉教諭

大阪府豊中市立桜塚小学校

大橋 創教諭

大阪府豊中市立桜塚小学校

なぜICT活用が必要なのか。目的の共通理解が第一

令和6年に創立100周年を迎える本校は、各学年3クラス編成で556名が学ぶ、本市の中では一般的な規模の小学校です。令和3年度に後藤が校長として赴任した当時は、1人1台端末は充電保管庫に置かれ、授業で使用する際に取り出すという運用をしており、本格的な活用はこれからという段階でした。そこでICT活用を積極的に進めるため、最初の目標を「端末の日常的な持ち帰り」と定めて活用推進に取り組み始めました。

当初、端末の持ち帰りにはさまざまな意見があったのは確かです。また、実際に持ち帰りを始めると保護者からも「端末の持ち帰りをやめてほしい」という声が寄せられたこともあります。だからこそICTの活用推進にあたっては、教員や保護者との共通理解を深めることを最も大切にしました。

学習指導要領やGIGAスクール構想がめざすのは、これまでの活動をタブレット端末に置き換えて行うという単純なものではありません。将来の「Society 5.0」や「超スマート社会」と呼ばれる予測困難な時代の到来に向けて、そうした社会の中で子どもたちが生きていくために必要な力をつけることが求められています。

その目的観に立って現在の教育を考えると、1人1台端末は「生きる力」を育むための重要なツールに位置づけられます。その意義と目的を、教員には校内研修、保護者にはオンライン説明会を通じて説明しました図1。また保護者からの個別の問い合わせには、必要に応じて校長自ら対応し、なぜ1人1台端末の活用が必要なのかを丁寧に説明。こうした地道な対応により保護者からもおおむねご理解をいただけています。もちろん現在もご相談が寄せられることがありますので、その都度対応しています。

図1保護者に対しても、1人1台端末の活用の目的と実際の活用例を紹介(保護者向け説明資料「タブレットを活用した学習活動について」)

将来を生きる子どもたちにとって、ICTはこれまでの「読み書きそろばん」と同等以上に欠かせないスキル・ツールとなるため、教員と保護者が目的を正しく理解した上で、子どもたちと向き合うことが大切だと考えています。

端末を毎日使うきっかけとなったのは[電子連絡板]

令和3年の2学期以降は1年生を除くすべての学年で、端末の持ち帰りを実施しています。なお、1年生には端末が少し重たいことと、まずは持ち物の用意が自分でできるようになることを優先しています。

持ち帰りを始めたときから、3年生以上では毎日の連絡事項を[電子連絡板]に掲載して知らせるようにしました。1~2年生は連絡帳を書き、3~4年生は各自の連絡帳と[電子連絡板]を併用、5~6年生は[電子連絡板]のみで連絡しています図2。特に5~6年生は、自宅に帰ると端末を起動し[電子連絡板]で翌日の予定を確認することが日課となっています。

図2 5~6年生は[電子連絡板]のみで連絡事項を確認している

こうした授業以外の活用は、学校のみならず家庭においても日常的にICTを活用するきっかけとなり、その後の活用促進に大いに役立ちました。端末の持ち帰りが定着し、当たり前の文房具の一つとして扱えるようになるにつれ、自然と[発表ノート]や[ポジショニング]などの学習活動をサポートする機能の活用も広がっていった印象があります。

連絡帳の場合、連絡事項を書くのに時間がかかったり、正確に書き留めることが難しい子もいます。その結果、保護者は学校に問い合わせなくてはならず、保護者と教員の双方に負担が増していました。そのため、業務改善という観点でも非常に役立っており、『SKYMENU Cloud』の機能の中で現在最も活用しているのは[電子連絡板]だと思います。

「なぜ、いけないのか」が理解できるように“情報の仕組み”を伝える

本格的な活用促進に取り組み始めてから2年以上が経過しました。当然ではありますが、活用頻度が増すのに比例して発生する問題も増えます。実際に、本校も大小さまざまな問題に直面しました。

大きなトラブルの事例を挙げると、ほかの子どものIDとパスワードを使ってログインする「なりすまし行為」と、本来は使用が制限されているはずの「SNSへの登録」があります。詳細は控えますが、これらの根本的な原因を掘り下げると、いずれの場合もIDやパスワードなどをはじめとする個人情報の取り扱いの重要性が理解できていなかったことに起因していました。当然ですが、本校でも折々に情報モラル指導を行ってきました。しかしそれらは一般論の域を出ず、子どもたちにとってはどこか「人ごと」であり、自分の「現実の生活」に結びついていなかったのだと痛感しました。

トラブルが発覚したとき、まずは実態を正しく把握するために教育委員会とも相談し、すべてのログ(操作記録)を詳細に調べて何が起こっていたのかを確認しました。その上で、子どもたちを厳しく指導するのではなく、時間をかけて対話することで問題意識を共有するようにしました。IDを自分の名前や住所、パスワードは家の鍵に例え「自分の家の鍵を人に作ってもらう?」「鍵をみんなに配ったりする?」と尋ねると、現実味を感じながら理解することができます。さらに「学校では、校門から職員室、校長室まで5つの鍵があるの。そうやってみんなの大切な情報を守っているのよ」と伝えると、子どもたちは一様に「大変なことをしてしまった」と深く反省し、行動を改めてくれました。子どもたちと話しながら気づいたのは「情報の“仕組み”を正しく理解させること」がいかに重要かということです。

トラブルは、正しく判断する力をつけるためのチャンス

こうしたトラブルが起きることは初めから覚悟していました。むしろ「トラブルが起きたときこそチャンス」と捉え、校内で相談を積み重ねて対応してきました。トラブルが起きないよう制限を加えたり、ルールで縛ったりする方が簡単なのかもしれません。しかし制限をすり抜けたり、ルールを守れない子もいます。また、学校の端末を使わなければ、問題は表面化こそしませんが、家庭の端末を使って同様の問題が起きているかもしれません。しかし、それでは大切な指導の機会を失ってしまいます。

ですからトラブルに直面しても慌てず、子どもたちが「なぜ、それがいけないのか」をきちんと理解できるよう伝えることが大事だと考えています。近年は「デジタル・シティズンシップ教育」が大切だと言われていますが、実際のトラブルのなかで何が起きていたのか、自分たちの行動にどんなリスクが潜んでいるのかが理解できれば、自ら考えて行動を改められます。

将来、子どもたちが社会に出たときには、自分自身で判断してICTを活用しながら予測困難な時代を生き抜かなければなりません。そして、1人ひとりが新しい時代を創る主体者となってほしいと願っていますので、さまざまなトラブルも、その力をつけるために必要な指導の機会として生かしたいと考えています。

なお、これらの経験を経てGIGAスクールの研究主任の松田が、子どもたちにも分かりやすいよう現実の事柄を題材に用いて「情報の仕組み」を説明した資料を作成し、各学期に1回「GIGA朝会」を行うことで、全校児童への指導にも生かしています。

学びの探究化と情報活用能力の育成を両輪で進める

現在1人1台端末は授業内、授業外を問わず文房具の一つとして活用されています。本校として進めているのが、プレゼンテーションを切り口とした情報活用能力の育成と、学びの探究化です。プレゼンテーションは、情報を「集める」「考える」「整理する」「伝える」という情報活用能力を駆使します。中でも問題を発見し、解決する探究のプロセスを重視しています。それは、何かしら特別な活動をするのではなく、算数科でグラフを読んだり書いたり、社会科で統計データを読み解いて伝えるといった活動を、より意識的に取り組むということです。

例えば、社会科で「すし屋はネタによって値段が違うのはなぜか?」という問いから水産業について調べました。教科書などを参考に疑問点を掘り下げていき、最終のプレゼンテーションでは自分がすし屋ならどんな値段をつけるかを発表。これは正解のない問題に対して、自分なりの納得解をどう見つけていくのかという活動です。

「考えを共有」する場面で生きる『SKYMENU Cloud』

今回の取材で大橋が行った6年生の社会科の授業は、[発表ノート]に縄文時代と弥生時代の生活の様子を描いたイラストを貼りつけて配付し、それぞれに「気づいたところ」と「疑問」を書き込んで[提出箱]に提出させるというものです写真1。このとき[提出箱]は、ほかの子の[発表ノート]も見られるように設定しているので、おのおのが自分と友達の考えを比較できます写真2

写真1イラストを見て、個々に「気づいたところ」と「疑問」を書く
写真2ほかの子の[発表ノート]を見て、自分の考えと比較する

その後「白い服は1人しかいないから特別だと思う」「やぐらの上に人がいる」「川を作っているのかも」と気づきを発表。大橋はそれらの発言をすべて肯定的に受け止めながら、時折「やぐらは何のためにあるんだろう?」などと問いかけました。すると、ある子が「見張りをしているんだと思う」と答えます。そこで「何を見張っているんだろう?」と問いを重ねると、別の子が「敵を見張っているんじゃないかな」と発言。そして、大橋は「なるほど、じゃあ敵がいるっていうことだ」と返します。この場面、普通であれば「やぐらというのはね……」と教えてしまうところですが、あえて問いを重ねることで子どもたちの気づきを深掘りするよう意識していました。

もう一つ仕掛けがあり、先に弥生時代のイラストを題材に活動をした後で、次に縄文時代のイラストを配付しています。それは、あらかじめ知っている時代の時系列で判断するのではなく、目の前にあるイラストから情報を読み取って判断することに集中させたいと考えたからです。

この授業では『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]と[配付][提出]というシンプルな機能しか使っていません。「資料から情報を読み取る力を育む」という点に集中した活動なので、特に凝った活用手法は必要ありませんでした。これだけなら、ほかの学習用ツールでも同様の活動が可能です。ただ『SKYMENU Cloud』は「考えを共有」する場面で生きます。30名以上の子どもたちが一斉に作業し、それを一気に集約、さらに互いに見合って意見交流する。こうした活動が、これほどスムーズに行えるツールはほかにありません。

これは重要なポイントです。これまでなら発表した子には学びが多くあっても、ほかの子は聞くだけになることも少なくありませんでした。しかし[提出箱]を通じて自分の考えを共有することが発表と同等の意味を持ち、その体験が積極性を育むことにつながっていて、発表だけにとらわれない授業づくりができるようになりました。今では授業が終わった後でも、新たに気づきを追加したいと言ってくる子が増えました。自分のためだけのノートなら授業が終わった後から追加しようとは思いません。友達や先生に見せるノートだから、より良くしたいと積極的に取り組むのではないでしょうか。

あえて「教えないこと」で子どもたちが動き出す

私たち教員は「分かりやすく教えること」に長けているからこそ、ともすると全部に答えてしまいたくなります。しかし、めざすのは「予測困難な時代を生き抜く力をつけること」です。そのために、あえて教えないことで子どもたちが自ら考え、調べ、動き出すようになります。今は1人1台端末の整備によって、子どもたちが自分で調べて考えることがやりやすくなりました。すでに、端末はとても身近な道具として使われ始めていますので、さらに上手に使えるようにしていきたいと思っています。

本校もまだまだ試行錯誤の途中です。しかし、子どもたちは着実に自ら考え、行動を始めていると感じていますので、それを生かしきれるかどうかは私ども教員次第だと受け止め、これからも取り組み続けていきます。

(2023年9月掲載)