教育情報化最前線

学校法人横浜学園 横浜学園高等学校 ICTで“一体感”と“集中力”を創出 生徒の「学びに向かう力」を引き出す授業へ

横浜学園高等学校は、2020年度に生徒1人1台のタブレット端末(Windows / Surface)を整備。ICT活用を、教員個人の資質や特性によらない学校全体の取り組みとするため、教科ごとに活用方法を協議しながら実践を重ねるといった工夫をして、活用促進に取り組まれています。同校のICT活用の現状と今後の展望について、斉藤 広昭 教頭、鮫島 宗英 教諭(教務主任)、木村 貴晴 教諭(情報科主任)にお話を伺いました。(2023年6月取材)

学校法人横浜学園 横浜学園高等学校

斉藤 広昭教頭

学校法人横浜学園 横浜学園高等学校

鮫島 宗英教諭(教務主任)

学校法人横浜学園 横浜学園高等学校

木村 貴晴教諭(情報科主任)

『SKYMENU Cloud』を活用する目的は「生徒に力をつけさせる」こと

本校は、明治32年に「横浜女学校」(当時)として創立され、平成13年より男女共学となり、本年度(令和5年度)は設立124年を迎えます。生徒数は794名、専任および常勤の教諭・講師が50名、非常勤講師が25名という規模の学校です。大きく2つのコースに分かれており、「クリエイティブコース」は一般選抜で大学進学をめざすとともに、グローバル社会で活躍できる力を身に付けることをめざします。「アカデミーコース」は、1年次では基礎・基本に徹底して取り組み、2年次にさらに3つのコースに分かれ、1人ひとりの個性に合わせて得意分野を伸ばせるように取り組んでいます。中学校までの学習内容が十分に定着していない生徒も少なくないのですが、それだけに高等学校であらためて学び直したいという意欲を持つ子が多いのが特色です。

1人1台端末は、2020年4月に現在の3年生が入学するタイミングで整備し、同時に『SKYMENU Cloud』を導入しました。それ以降、季節ごとに非常勤講師も含めた学校全体でICT活用に関する研修を実施し、本校におけるICT活用の趣旨を共有。当面は「基本的な機能」の「基本的な使い方」をすることを前提に、まずは[発表ノート]と[ポジショニング]を十分に活用できるようになることを最初のステップとしました。ただし、授業の効率化を図ったり、教員の手間を省いたりするための活用が先行しないことを確認。ICT活用が進めば自然に効率化が図れますので、その点に重きを置いて目的を見失わないように気をつけています。あくまでもICT活用の目的は「生徒に力をつけさせる」ことです。本校では特に、次の3つの力をつけさせることを意識してICTを活用しています。

基礎知識・技能
「調べる、知る、分かる、理解する、できるようになる」の成果向上につながる活用
一元的思考力
「自分で考える、考えてみる」ことにつながる活用
多元的思考力
「他者と考える、他者の考えを知る、自分の考えを深める」ことにつながる活用

生徒も教員も使い慣れるまでは、手の込んだ活用方法である必要はないと考えています。上記の活動につなげるというねらいを明確に持って取り組むのであれば、シンプルな使い方で十分です。そしてそれが「授業のなかで“一体感”と“集中力”を創出する活用」になることが理想だと考えています。

授業に一体感が生まれると、集中力は自然と高まる

例えば、取材時にご覧いただいた1年生の地理歴史科の授業では、導入時に[ポジショニング]を使い、校外研修での体験を通じて「自分の意識に変化があったか」を答えさせました写真1。これには、授業の開始にあたって生徒を確実に授業に参加させ、興味・関心を喚起するねらいがあります。本校の生徒には、勉学そのものに苦手意識を持つ子も少なくないため、自律的・自主的な学びを促すよりも、教員が適宜声を掛けて励ましながら学びに向かう集中力を高めることが大事になります。

加えて[ポジショニング]のコメントから数人の意見をピックアップして「こう書いている人もいるよ」と投げかけながら、一体感が生まれるようにしています。授業自体に一体感が生まれると集中力も自然と高まっていきますので、導入時の活用は多いです。また、授業のなかで自分の考えが取り上げられ、肯定的に受け止められた経験がモチベーションとなり、学びに向かう姿勢が変わっていく生徒も多くいます。

写真1導入時に[ポジショニング]を使うことで、学びに向かう意識を持たせる

毎週の教科会議でICTの活用を考える

もう一つ大切にしているのは、教科ごとに教員同士で協議・検討しながらICT活用を進めることです。各教員が思い思いに活用すると頻度やレベルに差が生じ、それが授業の質の差につながる恐れもあります。ICT活用に限らず、授業の質が教員の資質や特性に依存することは好ましくありません。そのため本校では、1人1台端末の整備以前から教科会議を中心とした授業改善を大切にしてきました。

ICT活用もその方針にのっとり、本年度からは教科会議の中に時間を設けて活用を促進することにしました。ICTを活用する授業については、「どの単元のどの場面で」「何のために」「どのように」ICTを使うのかといった内容を整理した指導案を作成し、それに基づいて教員が実践するという進め方を基本としています。

特に、国語科ではこの取り組みが活発に行われており、これまではICT活用が得意ではなかった教員も、具体的な“ねらい”を持ってICT活用に取り組めるようになり始めています。同時に、その場がベテラン教員の学習指導のノウハウを若手教員に伝える機会にもなっており、授業改善の取り組みがさらに充実し始めています写真2

国語科におけるICT活用を協議するなかで、例えば[ポジショニング]のコメント欄を使用するときなどに、他教科では「書く(論述する)こと」についてどのように指導しているのだろうか、といった国語科以外の指導方法や指導状況に関心が寄せられるようになりました。そこで早速、情報活用能力の指導で先行する情報科や、国語科同様に記述・論述が重要となる地理歴史科・公民科の教員と相談し、教科を横断した協議をスタートさせています。これからは、ICT活用を一つの軸として教科等の垣根を越えた連携を深め、より生徒に力がつけられる指導を展開していきたいと考えています。

写真2教科会議の場で、実際に『SKYMENU Cloud』を操作しながら活用方法を検討・共有し合う

より日常的なツールとして、どのように学びに生かすのか

そのほか、ICT活用促進のために専任のスタッフが常駐するICTサポートデスクを設置し、生徒と教員を支援しています。ICT活用において分からないことがあれば質問できるほか、タブレット端末の不調や破損等があれば必要に応じて代替機を貸し出すなど、気軽に相談できる環境を整えています。

このようにICT活用の促進に向けた環境が少しずつ整ってきました。教科ごと、教員ごとに集計したICT活用状況(回数・時間)を見ても、整備当初に比べて伸びてきましたので、「使ってみる」という段階は超えつつあるのかもしれません。しかし、まだ非常勤講師も含めた全員が同等に活用できているわけではありませんし、活用方法もオーソドックスなものが多いです。今はまだICT自体に目新しさがあり、授業のなかで使うことで興味・関心を喚起できる部分もありますが、来年度には中学校の3年間で1人1台端末を使ってきた生徒が入学してきますので、ICTはより日常的なツールとなります。そのため、どういった工夫ができるのかが重要になってくると考えています。

また、こうした取り組みの成果をどのように検証するのかも課題になると考えています。ICT活用はペーパーテストの点数や大学進学実績に、即座に反映されるという類いのものではありませんので、何を物差しとして成果を測っていくのかを、しっかりと突き詰めていく必要があります。ただ、先日行った公開授業では、ある生徒が「授業が楽しかった」と生き生きと話してくれました。このように、学びに向かう姿勢が変わり始めていることは確かですので、今後も試行錯誤しながら本校らしい活用を進めていきたいと思います。

各教科で広がる『SKYMENU Cloud』の活用

前出の国語科以外では、ICTをどのような観点で活用されているのか。理科、数学科、英語科、地理歴史科・公民科の教科主任にお話を伺いました。

理科

活動中に[発表ノート]を共有すると、
新たな気づきが生まれる

藤田 晟那教諭

これまで生徒の考えを知りたいときは、教員が発問して答えさせていましたが、それでは活発に発言する生徒の意見が多くなることが課題でした。ですので、[画面一覧]で全員の[発表ノート]を俯瞰できるようになったことは大きな変化です。理科では考察が多いですが、活動の途中でも生徒の[発表ノート]をピックアップしながら「こんな考え方もあるよ」と示すことで、新たな気づきが生まれます。また、プロジェクタで[画面一覧]を映しておくと、考えがまとまらない生徒もヒントが得られます。

理科に苦手意識を持つ生徒も少なくありませんが、ICTの活用を通じて身近な物や事象から理科を見つけられるようになり、自分なりに学びに向かおうとする姿勢が見られるようになったことが、とても喜ばしいです。

理科[発表ノート]を使い考察をまとめることで共有がしやすくなる
数学科

[発表ノート]は視覚的に捉えられ、
理解が進みやすい

吉清 祐介教諭

特に図形やグラフを用いる分野でICTを活用すれば、視覚的に捉えられるようになり理解が進みやすくなると考えています。例えば、[発表ノート]の上で図形を動かしたり、色を塗ったりして解答するようなシンプルな使い方であっても、授業に変化が生まれ生徒たちが前向きに取り組む姿勢が見て取れるようになりました。

また、授業の時間が余ったときなどに[発表ノート]で作問させ、[提出箱]を使って共有するといったこともしています。こうした場面では、手早く課題を配付したり、個々の成果物をすぐに共有できるICTの良さが生かしやすいです。

今後は、課題を終えた生徒に追加の問題に取り組ませたり、欠席者に同じ課題を配付したりするなど、1人ひとりに合わせて対応し、個別最適な学びにもつなげたいと思っています。

英語科

[画面提示]で教材を示すことで、
集中力を切らさず取り組める

野田 隆男教諭

本校では、学び直しのために独自の冊子を教材として授業を行うことがあります。このとき[画面提示]を使って、学習者機に対して冊子のPDFを転送しながら進めています。手元の端末で教員がどの箇所のことを話しているのかが確認できるので生徒が迷うことも減り、集中力を切らさずに授業に取り組めるようになりました。

また、本校では独自の「国際環境論」というカリキュラムがあり、そのなかで[発表ノート]を使ってレポートを書かせています。これは、自分の好きな作品について調べた上で日本語と英語でまとめ、発表するという活動です。生徒の自由度を残すため、ワークシートを自由に編集できるようにすると、非常に細かく調べて教員も知らなかったような知識を発表する子もいて、とても積極的に取り組んでおり、手応えを感じています。

地理歴史科・公民科

[ポジショニング]で意見を確認し、
物事を多角的に捉えられる

鈴川 雄太教諭

18歳で成人となることへの自覚を促すため、物事を多角的な観点で捉え、自分の考えを述べる力をつけることを大事にしています。その意味で[発表ノート]や[ポジショニング]は、自分の考えをまとめたり表現したりする活動はもちろん、他者の意見に触れて気づきを得たり、考えを深めたりする場面で非常に有効なツールだと思います。

例えば、授業の導入に[ポジショニング]で1人ひとりの意見を確認しておき、授業での学びを通じて知識を得た上で再び回答させると、生徒たちの思考の変容が明確になります。併せて入力されたコメントを見ることで、人によって観点や判断基準、表現が異なることが意識でき、物事を多角的な観点で捉えることにつながっていると感じています。

地理歴史科授業の導入で[ポジショニング]を使い、生徒の考えを確認する

(2023年9月掲載)