教育情報化最前線

熊本県菊陽町教育委員会 情報共有を切り口に1人1台活用を日常化 [電子連絡板]に学習・校務などの情報を集約

熊本県菊陽町では、5年間の自然故障・物損故障の保証がついた『Sky安心GIGAタブレット』を児童生徒の1人1台端末として整備されました。充実した保証による安心感と『SKYMENU Cloud』[電子連絡板]による円滑な情報共有で、端末活用が日常化しています。ICT活用の推進や環境づくりの工夫などについて、菊陽町教育委員会 学務課の宗 洋 課長補佐 兼 指導主事と増永 純一 学校教育係長にお話を伺いました。(2023年6月取材)

宗 洋課長補佐 兼 指導主事

熊本県菊陽町教育委員会 学務課

増永 純一学校教育係長

熊本県菊陽町教育委員会 学務課

1人1台端末は「特別なもの」ではなく、日常に根づいたツール

菊陽町は熊本県の中央部に位置する人口43,537名の町です。町の東に阿蘇の連山を臨み、1級河川の白川が流れるなど、豊かな自然に囲まれています。「菊陽にんじん」をはじめとする農業が盛んなだけでなく、半導体関連企業も多く立地。新たに世界的な半導体の受注生産企業の進出が決まるなど、今後人口の増加が予想されています。町内には小学校6校に3,026名、中学校2校に1,507名が在籍。全校児童生徒が約90名の学校もあれば、約900名という大規模校もあり、学校の規模には幅があります。

熊本県教育委員会が「ICT教育日本一」を掲げていることもあり、本町もICTの活用に積極的です。2021年度には町内の全小中学校で、日本教育工学協会の学校情報化優良校に認定されました。GIGAスクール構想においても、1人1台端末の活用を推進し、早い段階から持ち帰りを実施。本町では、教員にとっても子どもたちにとっても、端末は「特別なもの」ではなく、日常に根づいたツールとなっています。

クラスごとに[電子連絡板]を作成。子どもが自ら情報をつかみにいく

1人1台端末の整備当初、活用促進に向けて『SKYMENU Cloud』の[電子連絡板]を情報共有の場として活用することにしました。端末の使い方などのマニュアルを入れておき、「困ったらまずはこの連絡板を見てください」や「何か共有したい情報がある場合はこの連絡板を活用してください」と案内しました。

現在では、教員からのお知らせを子どもたちが確認する場として、クラスごとに連絡板が作成されています図1。必要な持ち物などが記載されており、子どもたちはいつでも確認することができます。そのほかにも、自由研究に役立つ情報をまとめたり、落とし物の写真を載せたりした連絡板なども作成され、情報が集約される場になっています。

図1日々の連絡から学習まで[電子連絡板]で情報を共有
▲ 必要な持ち物などを記載するクラスの連絡板
▲ 教材のリンク先をまとめた理科の連絡板
▲ 落とし物の写真を載せた連絡板

授業においても、国語科の「防災ポスターを作ろう」という単元では、教員が町のハザードマップなどの資料のリンク先を連絡板にまとめておき、必要に応じて子どもに確認させるという取り組みが行われていました。このように、情報を自発的に[電子連絡板]で確認するという仕組みができ上がっていることが、端末の利用率が高い要因の一つだと分析しています。

また、閲覧を教員に限った連絡板を教科ごとに作り、作成した教材や教材として使えるリンク先などを蓄積して、教員間で共有。これにより小学校では、教科ごとに教材の作成を分担することができています。連絡板は次年度に引き継ぎ、前年度の教材をさらにブラッシュアップして活用することができるため、教員の働き方改革にもつながっています。クラスごとの連絡板も次年度に引き継いでおり、1年前の同じ時期に前年の担任がどんなお知らせをしていたのかなどを確認できることも、業務の効率化に役立っていると考えています。

保護者へのお知らせも電子化し、情報の伝達が正確に。教員の業務も効率化

さらに学校から保護者へのお知らせにも[電子連絡板]を活用しています。「Microsoft Word」などで作成した資料を連絡板に置くことで、保護者への紙での配付を大幅に削減することができました。印刷する手間を削減でき、教員が子どもたちと触れ合う時間が増えたと聞いています。学校からの連絡を直接保護者に届けることができるので、連絡漏れを防ぐことにもつながりました。

また、子どもの端末を介して一緒に[電子連絡板]を確認することで親子のコミュニケーションが増えたという声もありました。連絡板を確認する際に子どもが、今勉強している内容について話したり、図工で作った作品やリコーダーを演奏する様子を収めた動画などを見せたりして、会話が増えたそうです。より家庭と連携した学びが身近になったようにも感じます。

[発表ノート]の配付・提出は授業のスタンダード

教員の皆さんは、そのほかの機能についても創意工夫しながら、有効な活用方法を考えています。[発表ノート]で課題を配付・提出することはすでにスタンダードになっており、植物を撮影した観察日記をプレゼンテーションさせたり、体育の授業で動画を撮影して子ども同士で意見交換させたりしています。そのほか[ポジショニング]では、道徳の授業で子どもの心情の揺れを確認するだけでなく、授業後に「分かった」と「分からなかった」の間にマーカを置かせて、理解度をチェックしているという活用事例もありました。

▲ 子どもに[発表ノート]を提出させ電子黒板に提示

5年間の自然故障・物損故障の保証が、端末の持ち帰りを後押し

1人1台端末活用の好事例は、各学校のICT担当者などが参加するICT推進委員会を開催して共有しています。そのほかにも、ICTにたけた教員が自主的に校内で研修会を実施するなど、教員の皆さんはとても前向きです。教育委員会としては、現場のニーズに応えることを大事にしており、端末活用においても、まずは教員の皆さんが使いやすい環境を整えることを考えてきました。

1人1台端末を整備する際にも、日常的に活用できるよう、5年間の自然故障・物損故障の保証がついた『Sky安心GIGAタブレット』のWindows端末を採用。これは、教員が校務用PCとして使い慣れていたことや子どもたちが社会に出た際に広く使われていることが想定されたためです。

さらに『Sky安心GIGAタブレット』の採用の決め手となったのは、回数無制限の物損保証が付帯されていたことです。特に低学年は破損が多いのではないかと懸念していたため、自然故障だけでなく物損も保証してくれることは大きな魅力でした。その分予算は上乗せされますが、端末を安心して活用してほしいという思いから、5年間という長期の保証は先を見据えると必要だと考えました。

現在運用3年目ですが、年間6%の修理対応が発生しています。5年間で3割の端末に修理が必要となる計算になり、この修理費用を考えると、導入当初にきちんと保証を入れて良かったと思っています。安心して端末を持ち帰らせることができるのも、十分な保証があるからです。中学校では、修学旅行に端末を持って行き、学校にいる教員とつないでやりとりするという活用を行うこともできました。

GIGA当初から「ローカルブレイクアウト」。教員・子どもの使いやすさを重視

さらに環境面の整備でこだわったのが、教員・子どもたちが使いやすいことです。そこで、各学校から直接インターネットへ接続する「ローカルブレイクアウト方式」を、端末の整備当初から採用しました。さまざまな事業者に話を伺ったことで、「センター集約型」では通信速度が低下する懸念があることが分かりました。日常的な活用には通信環境は大変重要な点です。こちらについても先を見据えた判断をしたことで、運用開始後に特に大きなトラブルは発生していません。

持ち帰り時の環境整備においても、モバイルルータを120台整備。通信環境のない家庭に貸し出しています。さらに、持ち帰り学習の充実につなげられるよう、2021年度にはACアダプタを追加で購入しました。これは、1人1台端末を家庭学習に使用した後、充電した上で学校に持ってこさせたいという、学校からの強い要望があったためです。協議の上、すぐに追加で予算を確保しました。

そのほかにもICT支援員の増員や有償のデジタルドリルの導入など、学校の要望に教育委員会として都度丁寧に対応しています。

「端末でアンケートを取っても良いですか?」と
子どもが自らICT活用を提案するように

「書くこと」へのハードルが下がり、子どもが学びに前向きになる

写真1子どもが主体的に係活動でのアンケートの実施を提案

ICTの活用が進んだことで、子どもたちの学習意欲の高まりを感じています。教員主導の授業に比べ、1人1台端末を活用したグループワークなどは、子どもが学習に参加でき、学びに向かいやすいです。こうした学びに向かう力が高まることにより、子ども自身で工夫しようとしたり、家庭学習で自ら学ぼうとしたりすることにつながっていると思います。すでに子どもたち自ら「端末を使って勉強していいですか?」や、授業以外の係や委員会の活動でも「アンケートを取っても良いですか?」と、教員に提案する場面も出てきています写真1

写真2書くことのハードルが下がり、より意欲的に取り組む

さらに、端末活用はこれまでノートに書く作業が苦手な子どもにとっても有効です。書いたり、消したりすることが簡単なので、書くことへのハードルを下げられ、意欲的に取り組めるようになっています写真2。端末を活用することで子どもたちが学びに前向きになることを多くの教員が感じており、さらなる活用につながっているのだと思います。

情報活用能力の育成・プログラミング教育に注力、グローバル人材の育成へ

1人1台端末を当たり前に活用するようになったからこそ、今後は情報モラル教育に、より一層取り組んでいく必要があります。「端末は何のために使うものなのか」と今一度しっかり指導していきたいと思います。「人の嫌がることをしない」「ルールを守る」ということは、日常の中でも、ネット上でも変わらないことです。より本質に迫った道徳の指導も併せて徹底していきます。

これからの社会を生き抜いていくためには、ICT機器の活用は不可欠です。本町には、半導体関連の企業に加え、エンジニアを養成する学校も立地しています。この地の利を生かし、今後はさらにプログラミング教育にも力を入れていきたいと考えています。また、グローバル人材の育成を教育目標の一つに掲げています。外国籍の方も多くいる本町は、異文化交流も盛んです。こうした素地を生かし、広い視野と国際感覚を持った人材育成のため、より一層、情報活用能力を伸ばす取り組みを展開し、子どもたちがさまざまなことに主体的に取り組む姿勢を育んでいきたいと考えています。

(2023年8月掲載)