教育情報化最前線

大阪市教育委員会 「SKYMENU Cloud活用推進校」による実践・研究 ICTが子どもたちの文房具の一つに

大阪市教育委員会では、令和4年度に市内4校の小学校を「SKYMENU Cloud活用推進校」に指定。授業や学習活動における『SKYMENU Cloud』の活用方法の研究や、活用推進の方策を検証しました。「SKYMENU Cloud活用推進校」の取組から得られた成果と課題、活用推進のポイントについて、大阪市教育委員会事務局 学校運営支援センターの今利 康博 総括指導主事にお話しいただきました。(2023年3月取材)

今利 康博総括指導主事

大阪市教育委員会事務局
学校運営支援センター 給与・システム担当
GIGAスクールグループ

小学校では『SKYMENU Cloud』を活用してICTに慣れ親しむ

本市は人口約274万人の政令指定都市であり、小学校281校、中学校127校、義務教育学校1校において、約16万人の児童生徒が学んでいます。市内を第1教育ブロックから第4教育ブロックに区分けし、各ブロックが市区の行政や教育委員会と連携しながら、地域や各校の実情に応じてきめ細かくかつ的確な支援を行うことで、教育課題の改善や学校教育の充実を図っています。

本市では、令和2年度に、GIGAスクール構想に伴い児童生徒1人1台の学習者用端末整備を完了しました。その際、第1教育ブロックではChromebookを、第2・3・4教育ブロックではWindows端末を整備しました。翌年の令和3年度に校内ネットワークを再構築しました。学習系システムとしては、端末のOSに合わせて「Google Workspace」及び「Microsoft 365」を整備し、小学校では協働学習支援ツールとして『SKYMENU Cloud』を導入しています。

『SKYMENU Cloud』は、操作メニューにひらがなが多く使われており、ボタンも大きくわかりやすいアイコンで表現されています。低学年の児童でも感覚的に使えるため、児童の発達段階に応じた活用が可能です。特に、ひらがなを習得したばかりの1年生を考慮し、この点を重視しています。加えて、[ポジショニング]や[シンプルプレゼン]など、自分の思いや考えをまとめたり、表現したりする活動に適した機能が提供されており、高学年においても協働学習を進めるうえで有効と考えています。また、スライドに記載できる情報量に制限を設けられる[シンプルプレゼン]は、児童が「そもそもプレゼンテーションとは何か」を考えながら、自分の言葉で発表することができる学習素材であり、自分の考えや立場をマーカーで示す[ポジショニング]は、学習前後の考えの変容を自分自身で確認でき、メタ認知を高める効果も期待できます。

このように、小学校では『SKYMENU Cloud』を活用してICTに慣れ親しみ、徐々に「Google Workspace」や「Microsoft 365」という汎用的なアプリケーションに移行していくなど、児童の発達段階に応じて活用するシステムを選択できるようにしています。

大阪市学校教育ICTビジョンの実現をめざして各校を支援

本市における学校運営支援センターの役割は、校内のネットワーク基盤をはじめ、教職員端末や学習者用端末などのICT機器、校務系システム、学習系システムといったハードウェア、ソフトウェアの整備や利用維持に向けた運用です。約45名の体制のうち、指導主事は3名在籍しており、授業や学習活動の中で各システムがどのように活用できるのかを研究しながら、各校を支援しています。

また、本市の教育施策の企画、策定などを担う総務部教育政策課や、教員研修などを担う教育センターとも連携し、各校への支援をはじめ、「大阪市学校教育ICTビジョン」の実現をめざした取組を進めています。

「大阪市学校教育ICTビジョン」〔令和2年3月策定(令和4年3月改訂)〕は、市内小中学校におけるICTの活用推進の基本的な考え方と、進めるべき方向性、必要な施策や事業について具体的な取組方策を示したものです図1。4つの基本方針を掲げていますが、主に学校運営支援センターが担う領域は、基本方針4の「学びを支えるICT環境の整備」です。校内や家庭など、いつでもどこでも学習が可能な環境を構築することや、ICT活用における支援体制の構築などが主な取組になります。また、基本方針3の「安全・安心な教育環境の実現に向けたICT活用」に関しても、生活指導の状況や児童生徒の学びを見える化する「ダッシュボード」機能の活用や、いじめアンケートや相談申告のオンライン化に取り組んでおり、児童生徒が「先生がいつでも自分のことを把握してくれている」と感じられるような、安全・安心な教育環境の実現をめざしています。

図1 大阪市学校教育ICTビジョン〔令和2年3月策定(令和4年3月改訂)〕

約1年間で『SKYMENU Cloud』を活用した授業数が4.5倍に

図2 Sky株式会社の協力を得て、活用のポイントを紹介するリーフレットを制作・配付

『SKYMENU Cloud』を整備した令和3年度当初は、各校でICT活用について悩む様子が見られました。そのため、令和4年度に各教育ブロックから1校ずつの計4校(磯路小学校、今里小学校、加賀屋東小学校、長吉東小学校)を「SKYMENU Cloud活用推進校」(以下、活用推進校)に指定し、授業だけでなく学習活動全般において『SKYMENU Cloud』を活用した1年間の実践・研究を通して、「大阪市版SKYMENU活用モデル授業案(以下、モデル授業案)」をまとめました。また『SKYMENU Cloud』の開発・販売元であるSky株式会社の協力のもと、同社のインストラクター(以下、インストラクター)による週1回の活用推進校訪問、ICT活用推進のためのリーフレット図2を制作、さらにはオンラインセミナーの開催といった取組を進めました。

その成果として、『SKYMENU Cloud』を活用した授業数が4.5倍に増加(活用推進校の5月と翌年2月を比較)。また、活用推進校ごとに2案、計8案の作成を予定していたモデル授業案は18案も集まるなど、顕著な成果がありました。

また、活用推進校へのアンケート結果を見ると、先生方から「普段からICTが活用できそうな単元や活動を意識するようになった」、「職員室での会話の中で『SKYMENU Cloud』をはじめ学習系システムの各種アプリケーションの話題が増えた」といった意見が多く寄せられました。さらに、「日々使うことで、子どもたちのICT活用能力が向上している」、「ICTの活用が学習の中に溶け込んでいる」といった児童の変容に対する意見も多くあり、先生方もICT活用の進展を実感されたことがわかりました。

私たちも活用推進校を視察した際、1年生の図画工作科の授業で、学習者用端末のログイン、[カメラ]を使った撮影、[提出箱]への提出といった一連の操作を、全員が5分以内に終わらせている児童たちの使い慣れた様子にとても驚きました。

また、別の活用推進校では、授業で配付された課題に対して、児童自身が「ここでICTが必要だ」と判断し、自らの意思で学習者用端末を活用している姿が見られ、まさに文房具の一つとして、「鉛筆で書く」、「教科書や資料集を読む」と同じレベルで、「ICTを使って学ぶ」が定着し始めているのだと実感しました。

管理職や先生方と共に組織的・計画的な取組にできるかが鍵

写真1 ミニ校内研修やICT部会などの場を設け、組織的・計画的にICT活用を推進

ICT活用推進のポイントは、①ICT活用に向けた組織的な取組、②ICT活用指導力の向上、③児童の情報活用能力の向上の3点であると考えます。これらは①から順に取り組むべきことであり、成果もこの順に表れるため、①の組織的な取組が非常に重要となります。

これまでの2年間を振り返ると、ICT活用が進んでいる学校は、すべからく組織的・計画的に推進していることがわかります。例えば、インストラクターの訪問日は事前に決まっているので、ある学校では1時間目から6時間目、さらに放課後も含めて、あらかじめ、すべての予定を立てておき、訪問の機会を有効に活用するよう工夫しています。

また、インストラクターとは別に、週1回学校を定期訪問してサポートしてきた「ICT教育アシスタント」(以下、アシスタント)がいます。ある学校では、ICTに苦手意識を持つ先生に、このアシスタントが1日付き添い、ICT活用のポイントを基礎から伝えてもらいました。これらは、ともすると漠然と時間が過ぎてしまうインストラクターやアシスタントの訪問の機会を、その特性や目的に応じて効果的に活用している好事例だと思います。

その他にも、月に1度は30分程度のミニ校内研修を開催し、先生方が集まってICTのより効果的な活用方法について検討している学校もあります。このようにICT活用推進を担うICT教育担当教員が中心となりながらも、管理職や周りの先生方をうまく巻き込みながら「みんなで進める」という雰囲気がある学校は、ICT活用が進んでいると感じます写真1

ただ、これはICT活用推進に限った話ではありません。どのような取組であっても「みんなで進める」学校は、明確な成果につなげられていると思います。特にICT活用は、ICT教育担当教員が1人で推進しようとしても限界があるので、学校全体の取組にできるか否かが、大きな鍵を握ると考えています。

一点突破 ~スモールスタートから活用の幅を広げる~

写真2 すぐに活動に取り組めるよう、教材はシンプルなものが良い
写真3 さまざまな活動に活用できる教材を、繰り返し使うことで、児童も迷わずに取り組める

初めから手を広げ過ぎず、1つずつ取組を進め、そこから広げていくことも重要だと考えます。ひと言で表現すると「一点突破」です。学校として「まずは、ここからスタートする」と決めて取組を始め、そこに留まらずに、ICTに慣れるに従って活用範囲を広げていくことが大切です。あれこれと手広く取り組もうとして、始める前に二の足を踏むのであれば、最初の取組はシンプルなものに絞ってスタートする方が良いのではないでしょうか。

教材も細かく作り込むのではなく、さまざまな学習活動で活用できるシンプルなものが良いと考えます。なぜなら、教材作成にかかる先生方の負担を軽減するだけでなく、児童生徒にとっても、シンプルな教材の方が細かな説明を受けなくてもすぐに取り組めるからです写真2写真3

今は目新しさもあり、ICTを活用した学習活動に楽しく取り組めているかもしれませんが、ICT活用が定着すれば、それが当たり前の環境になっていきます。そのときに「わかりやすい」ということが、持続的な取組の前提になっていくのではないかと考えています。

そういう意味では、ICT活用の良さの一つである「共有のしやすさ」を生かすことがポイントになるのかもしれません。例えば、個々の取組の結果を大型提示装置に映して発表し、全体で共有します。その発表に対して「そういう考え方もあるのか」、「ここがすごいね」といった肯定的な反応があれば児童の自信につながります。また[画面一覧]で、全員の画面を映すだけでも「○○さんは私と一緒だ」、「自分だけじゃないんだ」といった安心につながります。もちろん、より深い学びのために自分とは異なる多様な考えに接することは大切ですが、まずはその前に、児童生徒の安心や自信につなげていくような活用も大切にしたいと考えています。

1校の取組から得られた知見を市内全体に広げていく

今年度(令和5年度)はこれまでの取組を踏まえ、その成果を市内全体にどのように広げ、ICT活用をどのように促進していくかが一番の課題になると考えています。昨年度、前述の活用推進校のほかに、小中学校合わせて4校を「ICT活用デザイン協力校」(以下、協力校)に指定しました。協力校は、『SKYMENU Cloud』などの学習面でのICT活用に限らず、「ダッシュボード」機能や「相談申告機能」の活用などの生活面も含めて、どの学校でも実践できる効果的なICT活用のデザイン設計に取り組みました。その成果として、登校時から下校時、さらには家庭学習までの1日の流れに沿って、ICTがどの場面で、どのように活用できるかをまとめ、市内の学校へ展開します。これらは、いずれも机上で考えたものではなく実践をもとにしてまとめたものです。具体的な実践事例も含めて提供されていますので、他校が参考にしやすいものになっていると考えています。

昨年度より、各校の「運営に関する計画」において、ICTの活用に関する目標・取組を設定いただいており、多くの学校でICT活用が増えてきています。今年度、私たちも学校訪問を増やし、各校の取組状況やお困りごとをヒアリングしていきます。そして、それらを各校に配付している「学校教育ICTニュース」や校務支援システムにかかる広報誌を通じて全校に発信し、1校の取組から得た知見を市内全体に広げていけるようにしたいと考えています。

先生方は多忙を極めるなか、これまでの取組に追加してICT活用にも取り組まなくてはいけないと、負担を感じている方もいるかもしれません。しかし、ICT活用により、先生方の負担軽減につなげることもできます。ですから、今ある環境をうまく活用していただけるよう、私たちは全力で支援していきます。

子どもたちが生きる未来は、ICTが今以上に“当然のもの”として生活に溶け込む社会です。子どもたちが社会に出て、グローバルな世界の中で生きていくためにも、ICT活用を通じた情報活用能力の育成は、教育者として重要な取組だと考えます。

(2023年6月掲載)