教育情報化最前線

兵庫県加古川市立加古川中学校 【一斉】【個別】【協働】3場面での1人1台活用を重視 意見共有や対話の充実で、学習意欲が高まる

兵庫県加古川市立加古川中学校では、同市教育委員会からスマートスクール推進モデル校の指定を受け、2021年度から充実した環境の中で1人1台端末活用の実践研究に取り組まれています。『SKYMENU Cloud』を活用するとともに、早期に端末の持ち帰りを実施したことを機に1人1台端末の活用が日常化。健康観察から授業まで『SKYMENU Cloud』を幅広く活用されています。同校の取り組みについて、山本 照久 校長と澤 伸明 主幹教諭に伺いました。(2023年2月取材)

山本 照久校長

兵庫県加古川市立加古川中学校

伸明主幹教諭

兵庫県加古川市立加古川中学校

ICT活用率、全国平均の2倍。生徒が「授業が分かりやすい」と回答

本校は、全校生徒928名の大規模校です。スマートスクール推進モデル校をはじめ、「SDGs School」「NIE School」としても生徒の課題解決能力や情報活用能力の育成に向けて積極的に取り組んでいます。

ICTに関しては、2020年度末にすべての教室に電子黒板が整備され、4月から1人1台端末の活用をスタート。モデル校指定を受けたことで、教員用にもタブレット端末を整備することができました。また、授業支援ソフトウェアや5教科のデジタル教科書も導入し、充実した環境を整えられました。

5月からは1人1台端末の持ち帰りをスタート。導入から1か月で実施に踏み切ったことで、現在、生徒は学校でも家でも当たり前に端末を活用することができています。

その結果として「2022年度全国学力・学習状況調査」では、授業におけるICT活用率が、全国平均の約2倍となりました。さらに、多くの生徒がICTを使った授業を分かりやすいと感じていること、ICT機器の活用が学習効率を高めると考えていることも分かりました。ICT活用が、子どもたちの学びに対するモチベーションを向上させることにつながっているのです。

早期に持ち帰りを実施。[健康観察]が毎日端末に触れる機会に

本校はそもそもICT活用の先進校ではありませんでした。モデル校指定を受け、そこから本格的な活用促進に取り組んできました。2021年5月に持ち帰りをスタートさせたことを機に、1人1台端末活用の定着を図る方法の一つとして、毎日の健康観察に端末を活用することにしました。生徒は登校前に、持ち帰った1人1台端末から体温やその日の健康状態を入力して送信することで、毎日端末に触れる良い機会になりました。

ただ以前は、ICTが得意な教員がマクロを組み「Google フォーム」と「Google スプレッドシート」を連携させて運用していました。しかしその教員が異動すると、メンテナンスができず、継続性がないなどの課題がありました。そんなときに『SKYMENU Cloud』の[健康観察]を知り、すぐに切り替えました。朝のSTが終わる頃には、私も養護教諭も手元のタブレット端末で全校生徒の健康状態を確認することができています。昨年11月の研究発表会で紹介し、市内のほかの中学校にも活用が広がっています。

図1 生徒が[健康観察]に入力した情報を一覧で確認できる

朝の業務がスムーズになったことを実感しています。また、教員機では生徒が[健康観察]に入力した情報を並べ替えることができるので、例えば「せき」にチェックを入れた生徒がいた場合は、養護教諭が個別に体調を確認するなど、生徒の体調面に細やかに気を配ることもできています図1

全教員が「一斉学習」「個別学習」「協働学習」の
3つの場面を意識してICTを活用しています。

[グループワーク]で協働学習に取り組みやすく

もちろん、授業でもICTや『SKYMENU Cloud』を活用しています。数学では、問題を示した[発表ノート]を生徒に配付。生徒に記入させて提出させ、電子黒板に提示するといった使い方をしています写真1

さらに、理科や社会では特に[グループワーク]機能が活用されています。グループ分けも簡単にでき、1つのノートを全員で編集できるのは大変便利です。グループで話し合い、考える場面が多い教科では大変有効な機能です写真2

そのほか、体育の授業では、バレーボールや陸上競技などに取り組む姿を撮影した動画を[発表ノート]で提出し、クラスで共有。互いに動画を見てアドバイスを送り合うという実践もありました写真3。いくつかのソフトウェアを試しましたが[発表ノート]は動画の送信がスムーズで役立っています。

こうしたICTの活用で、自分の考えを発表できなかった生徒も意見を入力し、それを瞬時に回収してクラスで共有することができるようになりました写真4。協働学習に取り組みやすくなったことは大きな変化です。

写真1数学:生徒が提出した[発表ノート]を電子黒板に提示
写真2理科:[グループワーク]機能でノートを共有して話し合う
写真3体育:撮影した動画を[発表ノート]で共有して確認し合う
写真4数学:[提出箱]で友達の考えを確認する

生徒たちはその場で分からないことを調べて解決することができる点で、ICTが役立つと感じています。これが、先ほど校長がお話ししたICTを活用した授業に対して「分かりやすい」と答える生徒が多いという調査結果につながっているのだと思います。

また、生徒同士でお互いに意見を持ち合ったり、調べ合ったりすることで主体的になり、これまで以上に積極的に取り組もうとする意欲が、生徒の表情ににじむようになったと実感しています。

本校は現在、「主体的・対話的で深い学びの実現を目指す」をテーマに授業改善に取り組んでいます。具体的な方法として全教員が「一斉学習」「個別学習」「協働学習」の3つの場面を意識しながら、ICTを活用するという共通認識を持っており、これを来年度以降もさらに深めていきたいです。

そうですね。この2年間はとにかくICTを使うことから始め、3つの場面を意識することにも挑戦していきました。来年度からはそれをさらに発展させ、生徒が主体的に考えられる授業をどのように組み立てるかという点を、より一層意識していきたいです。

推進委員会を10グループに分け、多くの教員で協働して進める

図2スマートスクール推進委員会の10のグループ

本校ではすべての教員がICT活用できることをめざし、まずは「スマートスクール推進委員会」を立ち上げました。澤先生を含む13名の教員が「授業活用」「教職員研修」など10のグループに分かれて活用促進の方向性を話し合っています図2。私も「教職員研修」のメンバーに加わり、必要な研修について考えました。

研修で特に効果的だったと感じたのは、教科別研修です。少人数かつ教科の適正に応じた内容となり、知見を深められました。さらに大学教授による全体研修も実施し、先ほどお話しした「主体的・対話的で深い学びの実現」や「学習者主体の授業」をめざすこと、それらに向けて先ほどの3つの場面を意識するなど新たな視点を取り入れることもできました。

生徒会と策定した「Chromebookの使い方 10箇条」

図3生徒会が提示した1人1台端末活用の10箇条

端末活用が日常化した背景には、持ち帰りの早期実施があると思います。持ち帰りにはもちろんリスクがあり、「YouTube」の閲覧やメールの使用などを制限しているとはいえ、やはりルールは必要です。そこで、生徒会から1人1台端末活用のルールを10箇条として全校に提示してもらいました図3

生徒会からルールを示したのは、生徒が納得し、必要だと思ったルールでなければ意味がないからです。

こうしたルールだけでなく情報モラルの指導にも取り組んでいます。例えば月1回、動画の教材を帰りのSTで視聴させ、振り返りを書かせて理解を深めています。

それでもルールを守れない生徒もいます。そのときは、規制するという対応ではなく、その都度指導しています。多くの生徒は、学校で配付された1人1台端末のほかに、家庭でスマートフォンやタブレット端末を使っています。身近に、当たり前にあるツールだからこそ、「規制するのではなく、正しい使い方について考え、身に付けさせることが大切」だという認識で取り組んでいます。

こうした持ち帰りなどの取り組みを推進できたのは、校長のリーダーシップあってこそのことです。[健康観察]やテストを教員がタブレット端末で採点できるシステムの導入など、教員の業務効率化も考えながらさまざまな取り組みを後押ししてくれています。

先生方の頑張りのおかげです。そもそも本校にはICTの活用に限らず、生徒のためになることに柔軟に取り組んでいく風土があります。例えば、制服のデザイン変更の際には、ワッペンやボタンは生徒からデザインを募集しました。また、給食後に仮眠の時間を設ける「加古川シエスタ」を実施していますが、これも生徒の発案です。こうした風土も、ICT活用促進の推進力になっているのかもしれません。

個別最適な学びと協働的な学びを充実させ、次のステップへ

1人1台端末やICTの活用で生徒が授業に集中しやすくなったことは間違いありません。だからこそ、ここで終わらせてはならないと思っています。教室の中には多様な子どもたちがいます。誰一人取り残すことなく学びを進めるために、一つの授業のなかで、発展学習に取り組む子もいれば、基礎学習に取り組む子もいるというのが理想です。来年度は、個別学習を取り入れていければよいと思います。

また現在は、生徒が取り組んだものを集めて共有することはできています。ここからは、友達の意見と比較して自分の考えを改善するなど、協働学習を通じてさらに深い学びにつなげていくことに、より一層取り組んでいかなければなりません。先生たちがそういったことを踏まえて授業づくりをしていくことが次のステップだと思います。

そのためには、教員も「教える」という形ではなく、ファシリテーターのようになっていかなければなりません。もちろん「教える」場面は必要なので、メリハリをつけながら取り組んでいきたいと思います。

授業の中で1人1台端末を生かすためには、これまでの考え方を大きく変える必要があります。そうしたなかで、ICTという慣れないツールでワークシートなどの教材や資料を作成することは大変な面もあります。この状況は、まだしばらく続くと思います。ですが、作成した教材や資料がある程度蓄積されたら、それを有効に活用することで今度は効率化が図れ、より良い取り組みができるようになると考えています。今はその土台作りの期間として、前向きに粘り強く取り組んでいきます。

(2023年4月掲載)