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愛知県愛知県日進市立日進中学校 1人1台活用は次のステップへ [発表ノート]でレポート作成・提出、[電子連絡板]で連絡事項を共有 教員、生徒が「便利さ」を実感すれば、学校全体が変わる

愛知県日進市立日進中学校では、授業をはじめ、毎日の連絡事項の共有、そして家庭学習まで、1人1台端末の活用が広がっています。生徒は端末を、鉛筆やファイル、便利なメモ帳のような文房具の一つとして扱っており、すでに学習に欠かせないものになっています。同校の取り組みについて、河村 敏文 教諭、上松 開 教諭に伺いました。

愛知県日進市立日進中学校

河村 敏文 教諭(教務主任)

愛知県日進市立日進中学校

上松 開 教諭(生徒指導主事)

本当に子どものためになることを

今年創立76周年を迎える本校は、当市で最も長い歴史を持つ公立中学校です。全校生徒数は約830名、教員数は約60名と、大規模な学校ですが、落ち着いた雰囲気があり、素直で明るく、前向きな生徒たちが通っています。

歴史のある学校ですが、2019年に愛知県内の公立学校で初めて校内に自動販売機を設置するなど、新しいことに積極的に取り組む学校でもあります。「本当に子どものためになる教育活動」の実現をめざして、生徒の意見を取り入れた校則の改訂や制服の変更、学校行事や教員の業務効率化などの取り組みも行っています。

端末は机やロッカーで管理。毎日自宅に持ち帰って充電

そうしたなか、2020年12月に本校に1人1台の端末(iPad)が整備されました。端末とともに授業支援ソフトウェアとして学習活動端末支援Webシステム『SKYMENU Cloud』が導入され、手探りの状態で活用を進めてきました。

運用開始から約1年半が経過し、今では1人1台端末は学校の日常の一部になっています。時期にもよりますが、平均して一コマあたり20学級前後は、何らかの形で端末を活用しています。そして授業時間に限らず、朝や帰りの会、家庭学習などでも使われています。ほとんどの生徒が端末を持ち帰っており、自宅で充電してきた端末は自分の机や教室のロッカーに置き、一つの文房具のように扱われています。

[発表ノート]でレポートを作成し、提出することから始める

『SKYMENU Cloud』についても、さまざまな場面で使われています。特に多いのが、[発表ノート]でレポートなどの課題を作成し、[提出箱]に提出するという使い方です。生徒の[マイページ]は、[発表ノート]で作られたレポートでいっぱいです。生徒の反応もよく、紙と比べて画像や写真を添えたレポートを簡単に作成できると好評です図1

生徒が[提出箱]に提出した[発表ノート]は、教員が[添削]機能で確認し、返却しています図2。特に技術の授業では、あらかじめ振り返りやレポートのワークシートを作成しており、生徒の提出物に[スタンプ]を押して添削しています。スタンプは、ワークシートの下部にあるS、A、B、Cの記載に合わせて押します図3。生徒は返却された[発表ノート]の[スタンプ]の位置を見て、自身の評価を確認するのです。

このような[発表ノート]の活用は、技術だけでなくさまざまな教科でも行っており、授業後に職員室で端末を開いて[添削]をするのが日常の光景になっています。

1年生を中心に[電子連絡板]の活用も定着しています。主に帰りの会で、教員から生徒への連絡に使われています。学級ごとに[電子連絡板]があり、教員は黒板に書かれた明日の時間割を撮影して挿入したり、テキストで連絡事項を入力したりしています図4。ほとんどの生徒は自宅から[電子連絡板]を確認し、明日の準備を行います。連絡帳にメモを取る必要がないので、時間短縮につながっています。

図1写真や図を挿入してレポートを作成し、提出
図2生徒が提出した習字の作品に[ペン]で朱書きし返却
図3S、A、B、Cに[スタンプ]を押し、評価を返す
図4[電子連絡板]で予定を共有。欠席した生徒も閲覧している

『SKYMENU Cloud』とアンケートフォームを組み合わせて使う

『SKYMENU Cloud』と「Microsoft Forms」で作成したアンケートフォームを組み合わせた活用も進んでいます。

図5教科で[電子連絡板]を作成し、アンケートフォームのURLを掲載

国語や理科、社会、技術では、アンケートフォームで、授業の感想や振り返り、気付きを生徒に入力させています図5。教科の[電子連絡板]にフォームのURLを貼り付けておき、生徒がいつでも入力できるようにしています。ある生徒は、家でテレビを見て知ったことと、授業で学んだこととの間につながりを発見し、その驚きを入力して知らせてくれました。授業後も学びが続くという新しい学びの可能性を感じています。

ほかにも技術や社会では、アンケートフォームに入力された毎時間の授業の振り返りを出力して、生徒の「主体的に学びに向かう態度」の評価に活用しています。

技術では、さらに一歩踏み込んで、評価にICTを生かしています。まず、本校では実技4教科の定期考査を廃止し、単元テストで評価を行っています。アンケートフォームで単元テストを行い、採点を自動化。教員の丸付けにかかる負担を軽減させています。そして、最終的な評価はアンケートフォームから得た授業の振り返りと単元テストの結果、日々[発表ノート]で提出されるレポートの評価を参考にして決定しています。データを組み合わせることで、短時間で評価を付けられます。以前、800枚にものぼるテスト用紙を採点していた頃と比べると、心身にかかる負担は軽く、非常に助かっています。

[マイページ]をポータルサイトとして利用する

日進市では、『SKYMENU Cloud』の[マイページ]や[電子連絡板]に、クラウド上のアプリケーションやコミュニケーションツールにアクセスするための入口(URLのリンク)を設定しています。これは教員や生徒のアクセスのしやすさを確保することと、何か運用上のトラブルが発生した際の迅速な対応を目的にしています。『SKYMENU Cloud』をポータルサイトに位置づければ、ポータルサイト1つのコントロールで1次対応ができるのです。『SKYMENU Cloud』は、国内のメーカが開発しているので、サポート体制が充実しています。何か問題が起こった場合に、いつでも気軽に相談できます。こうした安心感があるからこそ、端末を積極的に活用できるのだと思います。

「便利さ」を理解できれば、生徒はルールの中で積極的に活用する

1人1台端末の活用は、学校生活のあらゆる場面に広がっています。しかし、生徒はいつでも自由に端末を使えるわけではありません。決められたルールの中で活用しています。例えば、授業中は、基本的に教員が指示した際や、教員に相談して許可を得られた場合に使えます。また休み時間や放課後は、教員に使用する目的を説明して、許可が得られた場合のみ使えます。

このようなルールでは、教員に相談することが煩わしく、生徒は端末活用を躊躇するのではないかと思われるでしょう。しかし、そのようなことはありません。生徒は、端末が「ノート」「メモ帳」「連絡帳」「筆箱」「カメラ」「提出ボックス」などの機能をすべて網羅した、非常に便利な道具であることをすでに理解しています。必要があれば、ためらうことなく相談をしてきます。また、相談を受けた教員は、生徒の端末活用を安易に否定したりしません。生徒に目的を尋ね、学習に関連したものであれば、積極的に活用を認めています。

トラブルは起こる。生徒に語りかけ、適切な活用を促す

端末は、生徒が自ら判断して持ち帰っています。端末が適切に利用されるように、いくつか制限が掛けられています。例えば、YouTubeで動画を視聴できますが、フィルタリングソフトウェアでカテゴリーブロックをしています。また、スクリーンタイム機能を使って、21時~7時の時間帯でインターネットに接続できないようにしています。

もちろん制限するだけではありません。学校から貸与された1人1台端末は「学習のための道具」であると何度も伝え、適切な利用を促しています。とはいえ、生徒の端末の使い方に起因するトラブルは発生します。発生するたびに情報モラル指導を行い、適切な活用を呼び掛けています。

その際、私たちが気を付けているのは、端末を使用禁止にしたり、端末を取り上げたりするという懲罰的な対応を安易に行わないということです。問題が起こったときには、「便利な道具だから、先生たちも使いたいと思っている。学習のための端末だから、みんなが適切に使わなければ使えなくなってしまう。みんなも協力してほしい」と生徒に語りかけ、協力を募る姿勢で接しています。

根気強く取り組んだかいがあってか、今年度に入ってから大きなトラブルや大きくルールを逸脱するような活用は見られていません。

まずは生徒に「学習で端末を使いたい」と思わせる

ここまで本校の活用状況をお話ししてきましたが、端末活用を日常化するために、私たちが何か特別な取り組みをしたという感覚はありません。強いて挙げるとすれば、生徒たちに[発表ノート]の使い方を伝えて、生徒たちが「端末を学習で使いたい」と思うように仕向けたという点でしょうか。

具体的には、年度当初に、私たちを含む本校の技術科教員3名が率先して、技術の時間で1人1台端末や『SKYMENU Cloud』を積極的に活用しました。その目的は、生徒に今後の端末活用のベースとなる[発表ノート]の操作スキルを定着させることでした。1コマを使って、教員が配付した[発表ノート]を開き、画像を挿入したり、テキスト入力をしたりして課題をまとめる。そして[提出箱]に提出する、という一連の流れと操作を教え、生徒たちが戸惑うことなく端末を扱えるようにしました。あわせて、その授業の様子を校内の先生方に参観してもらい、1人1台端末を活用した授業のイメージも共有。数人の教員がすぐに[発表ノート]を使うようになり、そこから横に広がっていきました。

ですので、端末やソフトウェアの使い方に関する教員研修などは、導入当初に一度行ったきりです。教員の操作スキルの習得は、研修のような改まった場ではなく、むしろ職員室での何気ない会話や情報交換の中で進んだように思います写真1

写真1端末活用に関する情報交換は、職員室で日常的に行われている

「置き換え」と「転用」の視点でICTを取り入れ、業務を効率化する

端末やソフトウェアの操作に関する研修はしていませんが、先生方にICT活用のメリットをお伝えし、ICT活用に対する抵抗感をなくすための研修は時間を割いて行いました。研修の中で、特に意識して先生方にお伝えしていたのは、「置き換える」と「転用する」という視点です。「置き換える」とは、例えばこれまで印刷して配付していたプリントなどの資料を、PDFファイルに置き換えるということです。PDFファイルであれば、1分もかからず『SKYMENU Cloud』の[教材・作品]から生徒一人ひとりに配付できます。わざわざ輪転機を回しに行く必要はありません。

「転用する」とは、一つスキルを習得すれば、さまざまな場面に転用できるということです。例えばアンケートフォームの使い方を覚えれば、さまざまなアンケートの収集をはじめ、保護者懇談会の予定調整、学習の振り返りの入力などにも使えます。

「置き換え」や「転用」の視点でICT活用を考えれば、多くの業務は効率化できます。効率化が進めば、先生方に時間的な余裕が生まれ、私たちが本当にしたいことに時間をかけられるようになります。本校の先生方は、そのことに気が付いて、「こんな便利なものを使わなければ損だ」と感じて、めきめきとスキルを向上させ、端末を使いこなしていきました。

「本当に子どものためになることをしたい」「今の学校の常識を見つめ直し、より良く改善したい」。そのような先生方の意識の変化があり、そこにGIGAスクール構想による1人1台端末がタイミングよく整備された。その結果として、今の本校の状況につながったのだと思います。

10年先を見据えれば、もっとICTを使って理解しなければならない

昨年度はとにかく1人1台端末を使ってみるという段階でした。2年目を迎えた今年度、全国の学校では、ICTを使ってみる段階から、ICTを効果的に活用できる場面を探すことにシフトしているように思います。しかし、今後10年を見据えるならば、教員も生徒も、もっと端末に触れて、端末を使い倒すくらいの姿勢で取り組むべきだと感じています。ですので、本校では今年も「少しでも端末が使えると思ったら、ためらわずに使おう」と呼び掛けています。

一方で、新型コロナウイルスの感染対策が落ち着きを見せ始めたことで、コロナ禍以前の生活様式や学校行事、学習スタイルに戻そうとする動きも見られます。ICTを活用した授業や業務の効率化の動きは、コロナ禍の有無に関わらないものです。「本当に子どもたちのためになること」を実現するために、これからも1人1台端末やクラウド環境を生かした取り組みを進めたいと考えています。

(2022年10月取材 / 2023年3月掲載)