教育情報化最前線

大阪府豊中市学校法人履正社 履正社学園豊中中学校 多様な考えを可視化・共有し、多くの課題演習に挑む 『SKYMENU Cloud』を個別指導の充実と授業の効率化に生かす

履正社学園豊中中学校は、1985年に履正社高等学校の併設校として開校。全国の難関高校への入学をめざす3ヵ年独立コースと中高一貫教育の6ヵ年コースの2つのコースで、生徒の多様なニーズに応える教育を展開する。2 0 2 3 年度からは、6 年間の中高一貫教育コースを「学藝コース」へと改め、カリキュラムを一新。さらに校名も「履正社学園豊中中学校」から「履正社中学校」へと変更して、新たなスタートを切る。

学校法人履正社 履正社学園豊中中学校

森田 靖志 校長

学校法人履正社 履正社学園豊中中学校

平賀 英児 企画部部長

学校法人履正社 履正社学園豊中中学校

小西 正祥 企画部部長補佐

建学の精神を守りながら、多様化する生徒のニーズに応える

本校の校訓は、建学の精神である「履正不畏(りせいふい)」「勤労愛好(きんろうあいこう)」「報本反始(ほうほんはんし)」です。「履正不畏」とは、「自ら正しいと信ずることを、何ものも畏れず正々堂々と実践する」こと。「勤労愛好」とは、「勉学をたのしみ、夢中になって物事にとりくむことがより良い未来につながる」という考え方。「報本反始」とは、「自分の今があるのは縁ある人々のお陰であることを自覚し、その思いに報いるように行動する」ことを指します。これらを、すべての教育活動の根源としています。

一方で、世の中は常に変化していますから、多様化する生徒のニーズに耳を傾け、丁寧に応えることも大切です。2021年度4月からスタートした1人1台端末は、日々の授業における個別最適な支援をはじめ、オンライン授業への対応、新型コロナウイルスの感染などで学校に登校できない生徒への対応など、さまざまな用途で活用しています。

生徒が1人1台端末を道具として使いこなし、楽しみながら学ぶ姿を実現したい

1人1台端末の活用によって、生徒たちの学びの可能性は、これまでになく広がっています。そうしたなかで、私たちがめざすのは、学力の向上とともに、生徒が端末を道具として使いこなし、楽しみながら学ぶ姿の実現です。特に今、高等学校では探究学習が注目されており、学びの在り方が大きく変化しています。生徒たちが自分の興味関心に応じて自ら学ぶ力が求められています。そこで、本校では中学校段階において、まずは生徒が自ら学ぶための基礎・基本を身に付けることが重要であると捉え、さまざまな指導を展開しています。その基礎・基本のなかには、さまざまな情報を収集し、判断するための情報活用能力をはじめ、Microsoft Officeなど社会で一般的に利用されるツールを使いこなせることも含めています。

そのため、生徒が扱う端末はマイクロソフト社の「Surface Go 2」と自然・物損故障保証がセットになったSky株式会社の端末『Sky安心タブレット』を選定。合わせて、生徒の学習活動を支援するシステム『SKYMENU Cloud』も導入しました。『SKYMENU Cloud』は、豊富な機能とともに、先ほどお話ししたようなMicrosoft Officeをはじめさまざまなファイルのやりとりができること、さらにはこれまで本校のコンピュータ教室で活用してきた『SKYMENU Pro』の運用実績やサポートの手厚さを評価して選定しています。

1、2年生のオンライン授業は、すべて『SKYMENU Cloud』で実施

『SKYMENU Cloud』の活用は、コロナ禍によるオンライン授業への対応によって一気に広がりました。オンライン授業自体は、1人1台端末が整備される以前からWeb会議システムを使って取り組んでいました。しかし、教員も生徒も、オンライン授業やWeb会議システムの利用は初めてのことです。Web会議システムの操作自体が不慣れで、遠隔でのコミュニケーションの取りづらさから、さまざまな戸惑いや不安を抱えながら取り組んでいました。

また、オンライン授業を開始する以前の、準備の段階でも対面の授業以上に手間がかかり、負担になっていました。例えば、オンライン授業では、ミーティングURLを生徒に都度発行しなければなりません。毎日、グループウェア上にある学年、クラスの掲示板にミーティングURLを掲載する必要がありました。特にクラスの枠を越えて行う選択授業や習熟度別授業では、複数のURLを案内する必要があり、手間や分かりづらさがありました。

このようなオンライン授業における不安や手間感の解消に役立ったのがWeb会議システムと連携した『SKYMENU Cloud』の[ミーティング]機能です。この機能は、『SKYMENU Cloud』上で授業を行う「学年、組」や選択授業などをあらかじめ設定しておけば、「授業開始」のボタンを押すだけで自動的に「Zoom」のミーティングが作られます。生徒は『SKYMENU Cloud』にログインしておくだけで、そのままオンライン授業に参加できるのです。生徒には「SKYMENU Cloudにログインしておいてね」と伝えておくだけでよくなりました。

オンライン授業中は[発表ノート]を使えば、教材を[配付]できますし、生徒の解答状況を[画面一覧]で閲覧することもできます。解答や成果物は、生徒に[提出]させたり、教員が[回収]したりして、[添削]して返すこともできます。

また「どこに資料があるのか分からない」「誤って資料を消してしまった」ということもよく発生します。そうしたときも『SKYMENU Cloud』は、生徒を選択してサッと個別に資料を[配付]できるので、余計な混乱が生まれず、スムーズにオンライン授業を展開できます。こうした利便性によって、今では1人1台端末を持つ1、2年生のオンライン授業はすべて『SKYMENU Cloud』が使われています。

毎朝[健康観察]で生徒の体調を確認。業務の効率化や端末活用の習慣づくりに

コロナ禍により、[健康観察]機能の活用も定着しました。発熱症状など、生徒の健康状態の把握や記録に役立てています。この機能の活用以前は、生徒の自己申告や学級担任が毎朝健康観察を記したプリントを集めて確認していました。ただでさえ慌ただしい朝の時間にやるべき業務が増え、先生方の負担になっていました。

そうしたときに、本校の教員から「[健康観察]を活用してはどうか」という提案が上がりました。そこで、生徒が毎朝登校したら、自ら端末を開いて[健康観察]で体調や体温を入力してもらうことにしました。入力されたデータは、教員の画面で一覧表示されますから、回収や集計の作業も必要なくなりました。また、この取り組みによって、生徒が毎日端末を持参して触れることが習慣化。端末活用が定着するきっかけになりました。

[発表ノート]に解答を書き込ませ、[画面一覧]で添削。生徒の理解度に応じた指導と授業の効率化を図る

毎日の授業でも、さまざまに活用が広がっています。そのなかで私どもが実感しているのは、生徒の個別最適な学びの充実に1人1台端末や『SKYMENU Cloud』が役立つということです。

そもそも学校という仕組みは、生徒に学習内容を効率的に教えるために発展してきました。しかし、時代の変化により、一斉画一的な指導から、生徒一人ひとりに応じた個別最適な学びがより重視されるようになってきました。「一斉指導のなかで、どのように個別最適な学びを充実させられるのか」。私たち教員はその方法に悩み、考え続けてきました。

例えば、数学の授業であれば、紙のノートで問題を解かせた後、数名の生徒に黒板に問題の解答を書いてもらい、それを教員が添削するという流れが一般的です。授業時間内で添削できる生徒や問題の数には限りがありますから、個に応じた指導には限界がありました。

そこで、本校の数学の授業では、個別指導の充実を図るために1人1台端末や『SKYMENU Cloud』を活用しています。具体的にお話しすると、まず前提として紙のノートで解き方を考えるという手法は変えません。生徒が解き方を考える上では、まだ紙に優位性があると考えます。ICTを活用するのは、その後の段階です。特定の生徒が黒板に解答を板書するのではなく、全員に[発表ノート]に解答を書かせるのです。その間、教員機では生徒の解答を見たり、電子黒板に生徒の考えを[画面一覧]で投影したりします。学習を学級全体で進捗を共有して進めるのです。

そして解き方を紹介したり、添削をしたりするときは、特定の生徒の画面を選択して電子黒板に[投影]。[ペン]で書き込みながら指導します。生徒全員の思考が一覧で可視化されるので、解答の傾向や理解の状況が今まで以上につかめます。

さらに生徒が[発表ノート]にまとめて[提出]した課題は、教員の端末でいつでも確認できます。[添削]機能を使えば、コメントを添えて個別の指導も行えます。一斉指導のなかで個に応じた指導を展開することは、以前と比べて、格段によくできるようになりました。

授業が効率化され、より多くの生徒の解答を共有して添削する、演習課題に取り組むといったことも可能になりました。授業の密度が高まったと思います。

今、ご紹介した活用方法は、決して難しいものではありません。

これまでの授業スタイルのなかにICTを取り入れて、個に応じた学びの充実と授業の効率化を図っています。このような積み重ねのなかで、教員それぞれの工夫が出てきて、やがては「ならでは」の活用へと発展していくと考えています。

1人1台端末で教室での議論を充実させ、生徒の学ぶ意欲を高める

1人1台端末や『SKYMENU Cloud』の活用により、教室で授業を受けられないような生徒も、オンライン授業で一定水準以上の学習を受けられる環境が整いました。学びの可能性は格段に広がっていると感じます。

しかし、「いつでも学校とつながれるから、学校に行かなくてもよい」となれば本末転倒です。私どもは、友だちと一緒に、対面で学べる学校だからこそ実現できる学びを大切にしたいと考えています。そもそも、生徒が学ぶことを楽しいと感じたり、学ぶ意欲を持ったりするためには、生徒同士の関わりや対話が重要です。生徒がお互いに考えを伝え合うなかで、異なる考え方に気が付き、それが新たな気づきになったり、次の学びへと向かう意欲につながったりするのです。

そこで本校では、生徒同士で対話したり、相手に分かりやすく、論理立てて伝えたりする力を育むために、「言語技術」の導入を来年度より予定しています。例えば、一見関連がなさそうな数学の授業においても、生徒が文章題をどのように読み解いて式を立てたのか、自分の考えを論理的に説明できるのかどうかに注目して指導をしています。その際、『SKYMENU Cloud』や[発表ノート]の機能が役立ちます。[発表ノート]は自分の考えをまとめやすいですし、電子黒板に[投影]すれば、全員で一つの考えを共有しながら説明や議論ができます。

生徒の言語技術を育む指導にICTをうまく取り入れ、「みんなで学ぶ」という学校の良さを、これまで以上に引き出したいと考えています。

生徒のために、ICTを使って一体何ができるのか。学び続け、考え続けたい

私どもは、生徒たちには「自分が幸せである」という感覚を持って卒業してほしいと思っています。そのためには、「人の役に立っているという感覚や自信」が必要です。ICTは、人と人が協力して何かを成そうとするときに役立つツールです。授業だけでなく、学校行事などに積極的に取り入れて、何か一つでも自信を得られるような経験をさせたいと思っています。

また、生徒たちは本当に多様です。例えば、自分の想いや考えがあっても、口に出して積極的に表現することに抵抗感がある生徒もいるでしょう。そうしたときに1人1台端末やICTは、生徒の想いを表現することを助ける。さらには、生徒の気持ちや考えを見取って支援したりする際に、教員を助けるツールになります。「弱者の味方」として、この強力なツールを生かしたいと思っています。そして、そのためには私ども教員の弛まぬ研鑽が必要です。生徒たちのために、ICTを使って一体何ができるのか。学び続け、考え続けたいと思います。

(2022年9月取材 / 2023年1月掲載)