教育情報化最前線

1人1台活用の壁「持ち帰り」「家庭学習」 1人1台端末の持ち帰りをどう進めるか?

夏休み、冬休みなどの長期休みにおける端末の活用をどうすればよいでしょうか。そんな学校の悩みや質問をよく受けるようになりました。1人1台端末の活用の次のステップとして、これから取り組もうと考えている学校や地域も多くなりました。これから始める予定の学校や地域に対して、持ち帰りの必要性や背景を解説するとともに、家庭への持ち帰りや家庭学習での活用ポイントを整理してみます。

山本 朋弘教授

中村学園大学教育学部

1人1台端末を取り巻く状況

これからの社会を生き抜く子供たちにとって、さまざまな場面で学び続けることが求められます。授業の中で、教師から教えてもらうのではなく、自ら考え、自分で決めた方法や内容で学習を深めることが必要です。そういった主体的な学びの中で、GIGAスクール構想で整備された児童生徒1人1台の情報端末を、どのように活用していくか、その積極的な活用が求められています。

特に、子供たちが家庭での学習に情報端末を積極的に活用することが期待されています。しかし、2021年度の文部科学省が実施した調査結果※1では、家庭で情報端末が十分活用されているとは言えません。児童生徒1人1台の情報端末の持ち帰りを実施している自治体や学校は全体の1/4程度にとどまり、家庭での学習に活用している割合も低い状況にあります。

※1:文部科学省(2021)端末利活用状況等の実態調査 令和3年7月末時点(確定値)

なぜ情報端末を持ち帰るのか

「1人1台の情報端末を家庭に持ち帰って、どうするの?」と言った意見を聞きます。「授業の中で活用するだけでも十分」、「そこまでやる必要があるのか?」と言った意見もあるようですが、子供たちが情報端末を家庭に持ち帰るのには、以下のような理由が挙げられます。

OECDが実施した調査では、日本の子供たちは海外と比較して、家庭での余暇でICTを活用する割合は高いのです。ゲームや動画視聴など、学習とは直接関係の少ない、余暇での活用は他国と比べても高い状況です。一方で、家庭で学習に必要な情報を検索したり、調査したことをまとめたりするなど、学習でICTを活用する頻度は他国と比べても極めて低い結果でした。家庭で情報端末などを活用した学習が十分ではなく、情報端末を授業の学習場面で活用していても、家庭や地域での「日常の学習ツール」として活用できていない現状にあります。

これまでの持ち帰り学習

子供たちが情報端末を家庭に持ち帰り、家庭学習に活かす試みは以前から行われていて、試験的に情報端末を家庭に持ち帰る取組が進められてきました。また、いわゆる反転授業では、情報端末持ち帰りと動画の事前視聴によって、授業と家庭学習をつなぐ取組も進められてきたわけです。

今後期待される持ち帰りの学習は、これまでの取組と何が大きく異なるのでしょうか。これまでの持ち帰り学習とは、以下の2点が大きく異なると考えます。

1つ目は、単一の学校だけでなく、地域全体が取り組んでいくことです。そのためには、家庭や地域と協力しながら、情報端末の持ち帰りを組織的・計画的に実践していく必要があります。これまでは、学校が中心となり、家庭から協力を得ながら進めているケースが多く見られます。しかし、1人1台端末が学習の日常的なツールとなったことからも、学校だけでなく、家庭や地域でも有効に活用することが期待され、そのためには、家庭や地域との連携が必要となります。

2つ目は、子供たちの主体的な学びにつなげることです。従来の学習では、授業での学習課題を家庭で事前に視聴するなど、授業の内容を家庭で取り組むために取り組んでいました。どちらかというと、受動的な活用であるケースも見られましたが、今後は、子供たちが自分で判断して、情報端末を持ち帰り、自分で学習内容や学習方法を決定するなど、主体的な学びの中で活用していくことが求められます。

できることからスタートする

情報端末の持ち帰りは、どうやってスタートすればよいのか?全家庭のネット環境が十分でないから、公平に進めることができないといった声も聞きます。新しいことを始めるには、難しい課題も出てきます。できない理由を見つけるのではなく、「できること」を見つけて、そこからスタートすることが重要です。

情報端末のカメラ機能を用いて、家庭で録画して、録画した動画ファイルを提出するなど、ネット環境がなくても家庭で情報端末を活用することは可能です。

▲ 広島県東広島市立小谷小学校 提供

例えば、音楽のリコーダー演奏を家庭で録画する学習などが挙げられます。東広島市立小谷小学校では、演奏の様子を家庭で撮影した動画を教師に提出して、学習成果を評価するようにしています。また、撮影した動画を友だちとクラウド上で共有して学び合うことも可能です。コロナ禍において、教室でリコーダーの演奏が容易でない場合の対応にも有効です。このような家庭での活用は、音楽だけでなく、体育での演技や、図画工作・美術での作品を撮影するなど、複数の教科で、「できるところから」始まっているようです。

GIGA時代の持ち帰り学習

1子供たちが決める

従来の宿題を家庭でやってくるように、全員が同様に情報端末を持ち帰り、家庭での学習に活かすことも必要です。家庭での「主体的な学習」につなげていくには、情報端末を持ち帰って学習するには、子供が「自分で決める」ことが大切です。

石川県立金沢錦丘中学校では、家庭への端末持ち帰りをスタートさせています。全員が同様に持ち帰るのではなく、持ち帰る生徒は保管庫の名札を変更して分かるようにしています。子供たちの必要感に応じて、情報端末の持ち帰りを進めることで、主体的な学びにつなげています。

2長期の休みで活用する

夏休みや冬休みといった長期の休み期間に、1人1台の情報端末を家庭で活用することが考えられます。長期の休みに、学習の内容や方法を子供が自分で決めて、自主的な学習をじっくり進めることができると思います。以下のように、日頃の授業ではできないような学習に挑戦することも考えられます。

  • Web上の博物館や美術館を訪問して、有名な作品や作者を調べてまとめる。
  • デジタルマップやWebサイトを活用して、住んでいる地域を調べる。
  • プログラミングやタイピングを練習して、ICTスキルをアップする。
  • オンラインで、休み期間の学習成果を発表し合う。
  • 家庭で調理に取り組んで、できあがった料理や調理の過程を記録する。

子供たちの豊かな発想で、いろいろなことに試行錯誤しながら挑戦する機会として、家庭での活用に取り組ませることが考えられます。

3家庭での友だちとの協働学習

友だちと協力しながら学習に取り組むことは、子供の学習意欲の向上にもつながります。長期の休みでは、1人で学習する場面が多くなりがちですが、ネットワークを経由して、お互いに協力したり教え合ったりする場面を設けることで、学習意欲が向上します。

鹿児島大学教育学部附属小学校の三宅倖平教諭は、算数で難易度のある学習課題を出して、端末を持ち帰って家庭で解かせるようにしました。クラウド上のチャットを用いて協力して解決してよいとしたところ、子供同士で解き方や考え方を共有するなど、お互いに教え合うようになりました。そして、難しい算数の学習課題についても、よく分かるようになったと答えた子供が増えたようです。

このように、情報の共有など、1人1台端末とクラウドを有効に活用することで、協働的な学びを支援することが可能となります。一方で、チャット等の利用を制限している地域や学校もありますが、子供たちの主体的な学びも制限してしまうことにもつながることを十分踏まえておくことも必要です。

保護者や地域との共通理解

1人1台端末を家庭学習で有効活用するには、家庭で活用する際の環境や条件等を保護者や地域と共通理解することが求められます。文部科学省の通知※2の別添資料では、教育委員会や学校等に対して、家庭での利用に関するルール作りを促し、丁寧な説明によって、保護者や地域の十分な理解を得られるように働きかけています。そして、保護者や地域との共通理解を図るためのポイントとして、以下の4点が示されています。

  1. 児童生徒が端末を扱う際のルール
  2. 健康面への配慮
  3. 端末・インターネットの特性と個人情報の扱い方
  4. トラブルが起きた場合の連絡や問合せ方法等の情報共有
※2:文部科学省(2022)学校設置者・学校・保護者等との間で確認・共有しておくことが望ましい主なポイント

上記の4点は、学校整備の1人1台端末に限らず、家庭で所有するスマホやタブレットも同様に対応していく内容であり、家庭において保護者や子供が一緒に考えていくように、教育委員会や学校が積極的に働きかけることが必要です。

活用が進んでいる地域や学校で見られる課題として、「充電」をどうするかです。充電器を家庭に配付し、家庭で充電しながら活用して、学校の授業でしっかり活用できるように進めている学校も見られます。

これらの内容を教育委員会や学校等が組織的・計画的に進めていくことが必要です。家庭での活用の意義やその方法・留意点等について、保護者や地域に丁寧な情報提供を進めることで、十分な理解を得られるようにします。

1人1台の情報端末の家庭への持ち帰りは、既にスタートしている地域や学校が少しずつ増えてきています。冬休みや春休みなどの長期の休み期間を有効に活用して、子供の主体的な学びにつながる活用が進むように、教師が伴走者となって支援していくことが今後求められます。

(2022年12月掲載)