教育情報化最前線

ICT活用研究千葉市教育センター ギガタブ掲示板 / 操作動画の配信 / オンライン授業研修先生に寄り添う支援を素早く実行、地道に継続

千葉市では、小・中・中等教育・特別支援学校の計164校に1人1台端末を整備し、『SKYMENUCloud』を導入しています。その1人1台端末は、公募で決めた「ギガタブ」という愛称で、子どもたちに親しまれています。情報教育を所管する千葉市教育センターでは、ギガタブの導入直後から学校現場の困りごとに寄り添い、様々な研修や情報発信を継続して展開することで、ギガタブの活用を進めてきました。千葉市教育センターの活用推進の取り組みについて、情報教育・広報班の星野 充啓 主任指導主事、栗原 尊紀 指導主事、中村 雄司 指導主事に伺いました。

星野 充啓主任指導主事

千葉市教育センター
情報教育・広報班

栗原 尊紀指導主事

千葉市教育センター
情報教育・広報班

中村 雄司指導主事

千葉市教育センター
情報教育・広報班

市内約4,000人の教職員の支援と1人1台端末の活用を推進

千葉市は、児童生徒数が小学校で約47,000名、中学校では約23,000名、教職員数は約4,000名にも上る大規模な自治体です。私ども千葉市教育センターは、千葉市の目指す「夢と思いやりの心を持ち、チャレンジする子ども」の育成に向けて、「教育研究・総務班」「教職員研修班」「教育相談班」「情報教育・広報班」の4班体制で、学校や教職員、児童生徒をサポートしています。

また、学校現場のICT機器の活用を促し、教育効果をあげ、業務効率化を図ることも教育センターの役割の一つです。さらに、GIGAスクール構想による学校のICT環境の整備や1人1台端末活用促進に取り組んでいます。授業をする教職員にも児童生徒と同じ環境が必要だと考え、ギガタブを配付しています。

写真と動画を扱いやすい[発表ノート]と
意見を可視化できる[ポジショニング]の活用が広がる

1人1台端末に導入されている学習活動端末支援Webシステム『SKYMENU Cloud』は、千葉市の学校で幅広く活用されています。特に[発表ノート]は、教職員からの評判が良い機能です。その理由は、写真や動画で記録を簡単に残せることにあります。[発表ノート]は[カメラ]で撮影したデータをそのまま取り込めるので、写真や動画を手軽に活用できます。歌やスピーチ、体育での実技を動画に納めたり、図工で制作した作品を画像で残したりして記録することで、振り返りなどに役立てられています。

そして、子どもたちが[発表ノート]にまとめた学習の成果を教職員に[提出]し、そこから教職員が[添削]して[返却]するという流れが非常にスムーズに行えます。

さらに、調べ学習を行った際に内容をまとめた後、[画面一覧]機能や[学習者どうしで提出物を閲覧できる]機能を活用することで、学級全体や子どもたち同士で作成したものを比較することもでき、学習の深まりにつなげられると考えられます。

また、道徳の授業を中心に[ポジショニング]もよく利用されています。[ポジショニング]の良さは、意見の可視化が瞬時にできることです。児童生徒一人一人が自分の考えを入力した後、学級全体の意見分布を見ることができます。授業展開では、問題に対してのそれぞれの立場から話合い活動を行うことで、意見の分布が変化していくことがわかります。学習のねらいに沿って協働的な学びをすることで、学びが深まっていく様子がリアルタイムでわかります。このように[発表ノート]や[ポジショニング]を中心として授業での1人1台端末活用が広がっていることが千葉市の特長だと考えます写真1

写真1 理科:[発表ノート]に貼り付けられた画像に書き込み考える 道徳:子どもの意見の揺れ動きを[ポジショニング]で可視化

1人1台端末は、学校の授業だけでなく、家庭学習でも使われています。千葉市としては、1人1台端末で家庭学習ができる環境を早期から整えていますが、実施するかどうかは、各学校が学校や地域の状況に合わせて、判断できるようにしています。新型コロナウイルス感染症により、休校、学年閉鎖、学級閉鎖などになった際には1人1台端末を持ち帰り、オンライン学習での課題の提出や、健康観察等で活用する取り組みもありました。状況に応じて、学校で持ち帰りが行われています。

合言葉は
「役に立つセンター」「頼りになるセンター」
「気軽に使えるセンター」

1,000名を超える教職員が交流
「ギガタブ掲示板」をスピーディーに立ち上げ

このような千葉市の活用の広がりは、一朝一夕で実現できたわけではありません。昨年度から少しずつ、小さな普及活動を地道に続けてきたことで、全体の活用を押し上げることができたと思います表1。そのときに、私たちの指針となったのが、「役に立つセンター 頼りになるセンター 気軽に使えるセンター」という合言葉です。

写真2情報共有や交流の場になっている「ギガタブ掲示板」

昨年度1人1台端末が導入された当初は「整備されたけれど、何をしたらよいのか?」という戸惑いが教職員にありました。活用推進のため、教育センターは有益な情報発信や学校を訪問した研修を行いました。教職員の戸惑いを少しでも解消するために考えたのが、情報共有できる場を用意することでした。そこでスタートしたのが、Google Classroomを活用した「ギガタブ掲示板」です写真2。昨年、運用開始直後の4月に開設し、教職員同士の質問し合う場だけでなく、教育センターからの情報発信も行ってきました。今では参加者が1,000名を超えたため、2つ目の掲示板を作成し、運営しています。こうした交流の場があることで、1人1台端末の活用事例を募り、100例程の実践事例を速やかに共有することもできました。

また、『SKYMENU Cloud』の新機能がリリースされた際には、操作手順を説明する動画を作成して紹介する取り組みも行いました。動画自体は3分ほどで、視聴に負担がかからないようにしています。整ったものを作るというよりは、教職員にいち早く情報を展開するというスピード感を大切にしています。

そのほかにも「ギガタブNews」という情報誌も発行しています(現在19号)。情報モラルに関する注意喚起、オンライン学習に関するテーマなど、その時々に必要とされる情報を提供しました。

さらに「GIGA@CHIBA」というWebサイトも立ち上げ、1人1台端末を活用するための有益な情報や、設定変更などのお知らせを掲載しています。これまでに発行した「ギガタブNews」を閲覧することや、研修会で使ったスライドなどを格納している「共有フォルダ」へのアクセスができるようになっています。今後もこのWebサイトに情報を集約していく方針です。

オンライン学習に『SKYMENU Cloud』を活用
タイムリーに研修を届ける

これまでに紹介した教育センターの取り組みは、学校現場のニーズを捉える「マーケティング思考」、学校現場の困りごとを解消するための手立てをスピーディーに行う「アジャイル思考」を大切にしてきました。

この2つの思考が特に発揮されたのが、新型コロナウイルス感染症の拡大により、オンライン学習を実施するよう教育委員会から各学校に通知したときです。オンライン学習という新しい取り組みに、教職員に不安が広がることが予測されました。そこで、文書発出と同時に、オンライン授業に関する研修の開催を案内し、短い期間で『SKYMENU Cloud』の活用方法などの研修内容を検討し、文書発出から1週間後に初回の研修を開催しました。さらにその1週間後には、2度目の研修を実施することができました。自由参加だったにもかかわらず、2回の研修には、計104校約700名という多くの教職員が参加しました。このときに改めて、必要なときに必要なものを提供すること、タイミングを逃さず即座に実行することの大切さを実感しました。

また、このような教育センターの活動は所長の理解があったからこそ進められました。組織のトップの前向きな姿勢と学校現場の役に立つことを最優先に考えることが、スピーディーに支援することにつながっているのだと思います。

「活用推進に魔法はない」
ニーズに沿った情報発信や研修の継続が重要

1人1台端末の導入後、様々な取り組みを展開していく中で強く感じているのは、「活用推進に魔法はない」ということです。常に学校ファーストで、学校現場の悩みや困りごとを推し量り、迅速に手立てを講じていく。そして、それを継続し続けることが、活用促進につながっていくのだと思います。

現在、ギガタブ掲示板の参加者は約1,300名です。1人1台端末導入校は164校ですので、平均すると各学校に7名ほど参加者がいることになり、市内の学校に向けて情報発信できるツールになっています。参加者数の推移は案内をしたときに一斉に増えたのではなく、少しずつ増え続けています。研修などの機会に案内を続けたことが参加者の拡大につながったと思います。地道で継続的な支援こそ活用促進への道であると考えています。

このような間接的支援だけでなく、学校を訪問して各校の要望に応じた研修を実施するような直接的支援も行っています写真3。昨年度と本年度で計78校と全体の約半数の学校を訪問する予定で、研修に参加する教職員は約1,500名となります。研修では、1人1台端末活用の第一歩として、毎回[発表ノート]の活用を中心にして紹介しています。調べ学習をしてノートにまとめて提出させ、教職員が添削するという取り組みは、これまで日常的に行われてきたものです。その取り組みを「[発表ノート]というデジタルに置き換えればよいだけ」という紹介をしています。ICT活用のハードルを下げるようにアプローチし、それを一貫して伝え続けたことが、千葉市の活用の広がりにつながったのかもしれません。

写真3 訪問研修の様子。[発表ノート]に考えを書き込み、電子黒板で比較するなど、具体的な授業場面を共有している

初年度「活用の促進」から2年目「効果的な活用」へ

初年度は「とにかく使ってみよう」という視点で、研修の内容についても使い方の習得に向けたものを多く開催しました。しかし、導入から2年目となる本年度は積極的に活用することから一段階進み、学習への効果的な活用についての研修へと変化しています。子どもの資質・能力を伸ばすという目的に向かい、1人1台端末はそれを実現するために効果的に活用していくべきだと考えます。1人1台端末を文房具の一つとして日常的に使用していくと同時に、効果的な活用について意識していくことが必要だと感じています。

ICT機器が社会の中に当たり前のようにある中で、それらを効果的に活用するにはどうすべきか、人と人とが直接関わらないからこそ相手を思いやるためにはどうしたらよいかなど、子どもたちのデジタル・シティズンシップ教育も併せて行っていきたいと考えています。

(2022年8月取材 / 2022年11月掲載)