教育情報化最前線

ICT活用研究茨城県那珂市教育委員会 小中教員の密な連携で、1人1台活用が日常化 学校生活からオンライン学習まで『SKYMENU Cloud』を徹底活用

茨城県那珂市教育委員会では、GIGAスクール構想により整備された1人1台端末を、学校生活のさまざまな場面で活用することを推進され、市内の小中学校では教科学習や学級活動、家庭との連絡など日常的にタブレット端末が用いられています。那珂市学校教育情報化推進委員会にアドバイザーとして関わられた、小林 祐紀 准教授に聞き手を担っていただき、那珂市教育委員会の臼井 英成 指導室長と中庭 一俊 指導主事にICT活用が広がった要因や今後の活用についてお聞かせいただきました。

臼井 英成指導室長

茨城県那珂市教育委員会 学校教育課指導室

中庭 一俊指導主事

茨城県那珂市教育委員会 学校教育課指導室

小林 祐紀准教授

茨城大学

那珂市学校教育情報化推進委員会アドバイザー

教科学習だけでなく学級活動にも『SKYMENU Cloud』を活用

1人1台端末としてiPadを導入され、先生方はタブレット端末の活用に非常に積極的ですね。那珂市や1人1台端末の活用の現状についてお聞かせください。

まず那珂市は、人口約5万人、水戸市のベッドタウンのような場所であり、大変自然豊かな環境です。市内には、小学校9校、中学校5校があり、学園制を敷いていることが大きな特徴です。中学校区ごとに5つの学園に分けて、小中一貫教育を行っています。

教科指導だけでなく学級活動などでも、『SKYMENU Cloud』を活用したさまざまな取り組みが行われています。例えば、[発表ノート]を使って、教員がワークシートを作成したり、算数や数学の授業で子どもたちが作図をしたり、作文を写真で撮って貼りつけ、友達と共有して文章を推敲するといった活用も見られました。また道徳の授業では、[発表ノート]で子どもたちの考えを一覧で表示し、ほかの人の意見と比較することでさらに考えを深めるという活用もあり、非常に有効だと感じました。

確かに、これは重要な活用ですね。一覧になった意見を共有することは、道徳に限らず、さまざまな授業の場面に生かせます。

撮影した写真に書き込みできることや何度も作業をやり直すことができ、試行錯誤しながら取り組めることもタブレット端末ならではの利点だと感じています。そしてその利点を生かした活用も行われています。私が特に印象に残っているのは、子どもたちがペアになってプログラミングを行い、互いのタブレット端末をのぞき込み、話し合いながら作業を進めていた場面です写真1

▲ 【写真1】互いのタブレット端末を見て話し合いながらプログラミングに取り組む

1人1台端末は、個で使う場面が多くなりがちですが、協働的な学びにも活用されているのですね。子どもたちが自分のタイミングで、文房具のようにタブレット端末を活用できるようになる。そのプロセスとして、大事な授業のシーンだと思います。

休業中のオンライン授業や家庭との連絡に
[ミーティング][電子連絡板]が活躍

さまざまな活用の中で、新型コロナウイルス感染症による臨時休業時に有効だったのが、Web会議システム「Zoom」と連携した[ミーティング]機能です。これはタブレット端末の活用が広がるきっかけとなった機能です。

この[ミーティング]機能は、学校現場の先生方が見つけてくれたものです。先生が参加者を選択して開始をクリックすると、子どもたちはほぼワンクリックでミーティングに参加できます。コロナ禍での休業により、先生方はオンラインでの授業に大変苦労していたため、この機能を各学校で共有しました。

先生は教室から授業を配信写真2。子どもたちはWeb会議システムで先生の話を聞きながら、[発表ノート]などの画面で作業するというように、画面を切り替えながら授業に参加しました。

▲ 【写真2】[ミーティング]機能を使い、オンラインで授業を実施

これはコロナ禍では特に便利な機能ですね。休業期間はICT活用のハードルを下げたとも言えますね。そのほかにもコロナ禍で活用された機能はありますか。

家庭との連絡に活用できる機能もコロナ禍で大活躍しました。[出欠ノート]は、子どもの体温や体調をひと目で把握できるため、市内のほとんどの学校で運用されていました。また[電子連絡板]は、連絡帳代わりとして活用し、1日の予定などを家庭と共有したほか、先生同士の情報共有の場としても使われていました。

ICTは授業でどのように活用するのかという話になりがちですが、『SKYMENU Cloud』は先生たちの業務の効率化にも役立つ機能がありますね。このような機能も、先生方が見つけたのですか。

そうです。積極的に先生方が機能を活用し、教育委員会に共有するということを繰り返してくださっています。

オンラインで授業ができるようになった先生が
小学校で88%、中学校で79%にも上りました。臼井 英成 指導室長

「学園の子どもは、学園で育てる」
小中教員の連携でICT活用が広がる

機能を見つけ、活用方法を創造することができているのですね。さまざまな事例について伺うと、タブレット端末の活用が学校現場に根づいているように感じます。先生方が前向きだということはもちろんですが、そのほかにそれを実現できた要因はどこにあるのでしょうか。

小中一貫教育を行っていることが大きいと思います。冒頭でもお話ししましたが、本市では学園制をとり、「学園の子どもたちは学園で育てる」をキーワードに取り組んでいます。一斉臨時休業時、小学校では学童の子どもたちを積極的に学校で受け入れていたため、自宅と学校のそれぞれの場所にいる子どもたちに向けて、ハイブリッドな授業を行う必要がありました。小学校の先生たちの負担が大きいのではと、同じ学園の中学校の先生方が、小学校に出向いてサポートしました。そのときに小学校でのICT活用の方法を学び、自分たちの学校に持ち帰ったのです。

学園制というこれまでの土台があったからこその活用の広がりということですね。中学校でのタブレット端末の活用はどのようなものだったのですか。

教育委員会で、オンライン授業に関するアンケートを実施したところ、『SKYMENU Cloud』やWeb会議システムを使って授業ができるようになったと答えた先生が小学校で88%、中学校で79%にも上りました。中学校でのタブレット端末の活用率は、小学校に比べて低かったのですが、コロナ禍での連携により中学校にも活用が広がりました。これは「学園の子どもたちは学園で」のキーワードで取り組んだ大きな成果だと思っています。

そしてもう一つ、教育委員会として良い事例をリアルタイムで各学校に共有できたことも大きいと思います。

リアルタイムでの共有というのは大事ですね。年度末に事例集などを作ることは決して悪いことではありませんが、やはり休業中の活用については、そのときに共有できなければ意味がありません。どのように各学校へ情報共有したのでしょうか。

ポータルサイトを作りました。先生方から活用の事例をもらっては掲載していくという形でサイトを更新していきました。

そして小林先生にもご参加いただいたICT活用推進プロジェクトチームの存在も大きかったと思います。チームの発足が臨時休業と重なり、ICTを使えばこの難局を乗り切れるのではないかと思いました。チームで集まる場は、学校現場でのICT活用の事例や有効な機能などについて情報共有する大事な機会でもありました。

教育委員会、プロジェクトチームは
先生たちの伴走者のような存在でありたい。中庭 一俊 指導主事

キーワードは「日常化」。
学校生活におけるICT活用場面を共有

プロジェクトチームではICTの日常的な活用を紹介する「E-なかスタイル」も作成しました。私も携わったところではありますが、あらためて「E-なかスタイル」について教えていただけますか。

1日の学校生活の各場面で、ICT活用について紹介するものです。例えば、朝の登校後の「健康観察の記入」、授業での「課題の配付・提出」や学習の「振り返り」など、10の場面を設定しています。

「E-なかスタイル」は教科ごとではなく、日常の場面での活用を想定したものであることがポイントですね。

そうですね。これを作成する上で大切な考えが「ICT活用を日常化する」ということでした。ICTの得意な先生だけが使う道具ではなく、すべての先生がICTを使って授業ができる。そして子どもたちも日常的にICTを使って学ぶことができる。そういう土台を作りたいという思いが反映されています。

せっかく導入したタブレット端末です。教科書やノートと同じように机の上に出ているものとして、日常的に活用を図れるような形を作っていこうという意見が基になっていますね。

「E-なかスタイル」ができたとき、私は教育委員会ではなく学校現場にいましたが、これの良いところは「簡単だ」ということだと思いました。活用の場面だけでなく、使用する機能の操作方法まで写真とともに掲載されているので、ICTが苦手な先生も入りやすいだろうと感じました。

日常化に向けては、はじめの一歩が大切ですよね。

プロジェクトチームのメンバーとして、近くで教育委員会の皆さんを見ていると、タブレット端末の選定から、しっかり現場の意見を聞くなど、学校の先生たちの声をとても大切にしていることを感じます。ICT活用の推進に向けて心掛けている姿勢はありますか。

子どもたちと一緒に学習活動を作っていくのは先生たちですので、やはり先生方の使いやすいものを、というスタンスは持っています。文部科学省の会議で「誰一人取り残さない」というフレーズが使われていますが、本市では先生方も「誰一人取り残さない」という意識で、学校をサポートしていこうと取り組んでいます。

そして、本市の教育施策の軸は小中一貫教育です。先進的な取り組みを追いかけるのではなく、あくまでその軸の中で、ICT活用していくべきだという考えです。

そのとおりです。そして教育委員会、プロジェクトチームは現場の先生たちの後方支援や伴走者のような存在でありたいという思いで取り組んできました。

プロジェクトチームには教育委員会の整備担当の方も入って、予算の面でも折り合いをつけながら進められたことも良かった点だと感じています。そして「E-なかスタイル」をさらに発展させることもできましたよね。

タブレット端末の活用場面を10から15に増やしました。授業の場面として、「考えの揺れ動きを可視化する」「意見を共有する」などを新たに盛り込み、[発表ノート]や[ポジショニング]など活用の幅を広げる提案ができたと思います写真3

▲ 【写真3】15の場面ごとに具体的なICT活用の方法を紹介する「E-なかスタイル」

自分に適した学び方に気がつくために、
授業を探究的な学びへと
シフトチェンジする必要があります。小林 祐紀 准教授

「みんな一律の学び方」から、
「自分に適した学び方」へ転換する

プロジェクトチームは情報共有の場であり、ICT活用を推進するための大きな存在でした。さらなる活用推進に向けた今後の展開についてお聞かせいただけますか。

昨年度はプロジェクトチームをさらに発展させました。チームのメンバーに校長、教頭にも加わっていただき、学校教育情報化推進委員会として「情報化推進計画」を策定しました。計画では、「児童生徒の情報活用能力の育成」「ICTを活用した学びのイノベーション」「校務の情報化の推進」「安心・安全なICT環境の整備」という4つの基本方針を掲げています。

校長、教頭先生が入ることで実行性が高まりますね。この計画を通して、これから子どもたちにどのような力を身に付けてもらいたいと考えていますか。

那珂市を拠点にICTという強力なツールを使って世界に情報発信していく力を身に付けてほしいと思っています。そのためには、目の前にある学びに能動的に関わっていく姿勢が必要です。その実現に向けて重要なのは、個別最適な学びの推進です。ゆっくり勉強したい子もいれば、新しいことをどんどん追究したい子もいる。今まではいかに授業の中でICT活用するのかが焦点でしたが、これからは1人ひとりの学びを大事にしていかなければなりません。基本方針でいう、学びのイノベーションが求められるということです。

みんな一律の学び方をするのではなく、自分に適した学び方に気づいていく。そのためには、授業自体を探究的な学びへとシフトチェンジしていく必要があり、やはり学びのイノベーションは欠かせませんね。先生たちの校務の情報化も基本方針となっていますが、これについての見通しはいかがですか。

働き方改革においては、業務の小さな効率化を積み重ねていくことが重要です。少しずつ効率化を図って生み出した時間で、より良い授業を作ることや子どもと関わる時間を増やすという方向に進めていきたいです。『SKYMENU Cloud』を出欠の確認や健康観察、連絡帳代わりに活用する取り組みを続けていきます写真4

▲ 【写真4】コロナ禍で連絡帳代わりに活用した[電子連絡板]

人を増やすなどの抜本的な改革をすぐに行うことは難しいですからね。小さな効率化を図るためには、やはり先生たち1人ひとりがスキルを身に付けることが必要になります。ICTの活用がうまく回り始めると、先生たちもどんどん使ってみたくなるものですよね。

そうですね。使ってみると良さが分かり、工夫が生まれます。教育委員会としては、工夫した点をうまく共有してもらい、市内の学校へ広めていきたいと思っています。

そのときそのときの単発的な活用ではなくて、校務や授業の改善にもつながるし、子どもたちの資質・能力の獲得にもつながるというように、それぞれの活用を意識的につないでいく役割をすでに教育委員会がうまく担っていると感じます。

確かに「つなげる」という意識は大変重要です。小中一貫教育や個別最適な学びなどさまざまな施策を行っていますが、これらは別々の取り組みではなく関連性のあるものです。それらをうまく紐づけ、価値づけるのも教育委員会の役割です。

ICT活用を通じて変化する、教師の授業観

先生方もICTを使う前には不安がありますが、やってみると子どもたちの反応が手応えになり、授業観を揺さぶられていますよね。最初は自作の教材を見せて、分かりやすい授業を行うことに注力していましたが、やがて子どもたちに任せ始め、最終的には課題だけ与えて子どもたちに自由に取り組ませるという、授業スタイルに変化していく先生もいました。

そうですね。子どもたちは、タブレット端末だけでなく、鉛筆やものさし、電子黒板など、そのときに必要なツールについて自ら考えながら学習を進め、その自由な学びをしっかり受け止めようとする先生の姿が多く見られます。これには先生が大きく授業観を変え、力量を高めていったことを感じました。

課題の設定にこだわり、学びの意味づけをしようとする先生方の姿をよく目にするようになりましたね。子どもたちも学んでいますが、先生たちも学んでいるというところも成果です。

成果といえば、オンラインでの授業の経験を不登校の子どもたちに対して生かすことはできそうですか。

Web会議システムを活用して授業を配信している学校が増えてきました。『SKYMENU Cloud』を使って、課題の配付や提出などのやりとりも行っています。オンラインでの経験により、学校に来られない子どもたちとのつながりを作れるようになってきたことも成果だと感じるところです。少しでも学校とつながりを感じられれば、家庭からしても安心です。

「ねばならない」から脱却。
ICTで「何ができるか」を考えたい

那珂市で順調に活用が進んだのは、教育委員会が小中一貫教育というぶれない軸を持って、1人1台端末の環境整備と授業支援を着実に行ってきたことが大きな要因だとあらためて感じられました。

タブレット端末を子どもたちは当たり前に使っているし、先生方は授業でも校務においても活用している。家庭学習や授業の中で、個別最適な学びや協働的な学びが展開されるところまで、目前のように感じます。これからのICT活用をどのように見据えていらっしゃいますか。

「ICTを使った授業をしてください」という言葉が使われなくなってほしいと思っています。子どもたちが探究的な学びをするために、自然とICTを使って調べ、まとめる。それを当たり前にしてくのが教育委員会の仕事です。先生方は本当に協力的で、さまざまなアイデアを持っているので、先生同士が協働的に学ぶということも大切だと思います。そのお手伝いをしていきたいですね。

そうですね。今は多様性の時代であり、「ねばならない」がどんどんなくなっている時代です。先生も子どもたちも「ねばならない」ではなくて、ICTを使って「何ができるか」と考え、自分の最適解を見つけられる人になってほしいと思います。例えば、自分の意見を伝えるために、タブレット端末とノートのどちらを使って、どのように伝えるのかなど、自分に合ったものを選択しながら、得意なことを追究できるようになってほしいです。そして教育委員会も「ねばならない」ではなくて、先生や子どもたちにとって良いものは何だろうと柔軟に考え、動いていきたいです。

(2022年9月掲載)