教育情報化最前線

宮城県仙台市学校法人聖ドミニコ学院 聖ドミニコ学院小学校 子どもの発想を生かしたICT活用で主体性を育む 授業や宿題はもちろん、日直スピーチや学級活動など幅広い場面で活用

聖ドミニコ学院は、13世紀に設立された聖ドミニコ女子修道会の精神を受け継ぐ学校法人として1953年に創立。幼小中高の一貫校として、統一された理念や方針に基づいて全人教育に取り組んでいます。小学校は、2021年4月に児童1人1台のタブレット端末(iPad)を整備し、導入から1年間でICT活用が定着。子どもたちは豊かな発想で、主体的にICTを活用しています。

学校法人聖ドミニコ学院 聖ドミニコ学院小学校

梅津 郁也 教諭

(体育専科、情報主任)

学校法人聖ドミニコ学院 聖ドミニコ学院小学校

船越 美佳子 教諭

(研究主任、副担任)

学校法人聖ドミニコ学院 聖ドミニコ学院小学校

杉田 麗愛 教諭

(宗教専科、副担任)

学校法人聖ドミニコ学院 聖ドミニコ学院小学校

守屋 一将 教諭

(6年担任)

全教員が携わり、タブレット端末整備を進める

本学院は幼小中高の一貫校であり、小学校は1学年1クラスの単学級制、児童数228名の小規模校です。カトリック系のミッションスクールであり宗教の授業も行っています。特に「社会との関係」を大切にし、社会貢献できる子どもを育てることを目標に、児童会の活動を中心として子どもたちの主体性を育む取り組みにも注力してきました。

実のところ、2021年4月に費用を保護者にご負担いただき児童1人1台のタブレット端末を整備する以前は、とりわけて積極的にICT活用に取り組んできた学校ではありませんでした。2019年12月に教員が使う授業用のタブレット端末(Surface)を全学年(全クラス)分と、専科教員用に整備し、その後も児童の学習用端末の整備について検討を重ねていました。2020年になると、全国で「GIGAスクール構想」に基づいた1人1台端末の整備が進み、コロナ禍によってやむなく臨時休校に踏み切らざるを得ない状況に直面したことなどから、次年度(2021年度)開始時にはタブレット端末が活用できる環境を整えると決めました。

情報主任の梅津先生がリードし、先進的な取り組みをされている他校へ視察や研修を申し込む者、業者とコンタクトを取る者、教育計画を策定する者などに分担。校長も全面的に協力しながら全教員が何かしらの役割を担当し、それぞれに集めた情報を持ち寄って急ピッチで準備を進めていきました。そして、2020年12月には学年ごとに保護者説明会を開催。年度末までにすべての準備を済ませて、新年度からの活用スタートにこぎ着けました。

校長や研究主任も率先して実践し、教員に共有

しかし、当初はICTの活用に慣れている教員ばかりではありませんでした。研究主任の船越先生も、以前からICTが得意だったわけではなかったのですが、学習用端末の整備が完了する前から率先して授業用端末を活用しました。そのなかで、自分が感じた「子どもたちはどこでつまずきやすいのか」「どういうふうに伝えれば理解しやすいのか」といったことを、ほかの教員に共有していきました。さらに学習用端末が整備されると、校長自ら『SKYMENU Cloud』の[シンプルプレゼン]を使って授業を行ったこともあります。そのとき、記載できる画像の点数や文字数に制限があることなど、ソフトウェアの使い方を教え合っている姿を見て、子どもたちの適応力に驚かされる場面もありました。こうした取り組みを経て、子どもたちと一緒に使っていけば、きっと有効活用していけるという手応えが感じられました。

半年くらいたつと、教員にさらに活用していこうという雰囲気が定着してきたように思います。本校は教員数が少ないので、当初からすべての教員が何かしらの準備作業に携わっており、自然と当事者意識が醸成できたこともプラスだったと思います。何よりも「失敗を恐れず、まずは使おう」という意識でスタートを切れたことが功を奏したのだと感じています。

毎週末の作文の宿題も[発表ノート]で思い思いに作成

授業の内外を問わず、子どもたちの意見や要望を取り入れながら日常的に活用しているという点が、大きな特長と言えるかもしれません。その一つが、杉田先生が2年生の生活科の宿題として昨年度の1年間を通じて取り組んだ「Sky日記」です。

以前から毎週末に作文の宿題を出していたのですが、「日記に写真を貼りつけたい」という子がおり、それならばタブレット端末の操作やキーボード入力に慣れさせるためにも[発表ノート]が使えるのではないかと考え「Sky日記」をスタートしました。

回を重ねるうちに、多くの子どもたちが写真や動画を貼りつけたり、背景に色をつけたりと工夫を凝らすようになり、[発表ノート]の使い方が上達していることが見て取れました写真1。今年度は、まだ作文の基本が学べていないので、しっかりと基礎ができれば始めたいと思っています。

写真1 2年生が[発表ノート]で作成した「Sky日記」の例

さまざま考え方に触れさせ、考える力を身に付ける

授業の中でも多くの教科で活用しています。守屋先生が担当する6年生の算数、分数同士のかけ算を例にすると、事前に塾で習っている子どもは、授業前から「分母と分母をかけ、分子と分子をかける」という解き方を知っていることが多いです。しかし「なぜ、そうなるのか」が理解できているのかといえば、そうではないことも少なくありません。

そこで、分数×整数の「3/7×2」という問題を例に、なぜ分母同士と分子同士をかけるのかを説明できるよう、[発表ノート]を使って考えをまとめさせました。このとき使用するのは白紙の[発表ノート]です。子どもたちは自分でマス目を表示させて図を描いたり、手書きで式を書いたりして、思い思いに考えをまとめました。

こうした取り組みは紙のノートを使っても可能です。しかし[発表ノート]の場合は、ノートを提出させると[提出箱]に保存され、すべてのノートを見られるようになります写真2。子どもたちは、ほかの子どものノートを見ることで、さまざまな考え方があると知ることができます。知識として解き方を教えるために教員が答えを示すのではなく、自分で「なぜ、そうなるのか」を考え、さらに自分以外の考え方にも触れることで考える力を身に付ける。こうしたサイクルが、子ども同士で課題を解決する取り組みにつながっていると思います。

写真2[提出箱]で見るとほかの子どもの考え方が見られる

学級全体の考えの変容が視覚的に感じられる[ポジショニング]

本校の特色でもある宗教の授業では[ポジショニング]を活用する機会が多いです。授業を担当する杉田先生は、最初は、宗教の授業にICTは合わないのではないかと思っていたのですが、国語の授業でも活用されているのであれば、活用できるだろうと考え、ICTを活用した授業に取り組みました。

2年生の授業では、聖書に登場する例え話を題材に「道に倒れた人を見つけたとき、自分なら助けるかどうか」を問いかけました。初めは「助ける」と答えた子どもが多かったのですが、助けると自分に不利益がある場合はどうだろう、実は過去からの遺恨がある相手だったらどうだろうと、背景や条件を加えて問いかけると、次第に「助けない」という子どもも増えていきます。

写真3 発表した子以外の意見にも触れながら、考えを深める

以前は、挙手することで自分の意見を表明させていましたが、意見が決められず手を挙げられない子がいても、その場では気づけないこともありました。しかし[ポジショニング]なら、全員の意見がそろっていることがひと目で確認できますし、何人ずつかに分かれていることも表示されます。さらに、理由をコメント欄に書かせることで、あらためて「なぜ、そう思うのか」を考えるきっかけとなり、教員はリアルタイムに意見を確認して発表する子を決められます。そして、子どもたちも全員のコメントが見られるので、授業で発表した子以外の考えにも触れることができる写真3、といった多くのメリットがあります。

背景や条件を変えて問いかけることで生じる考えの揺らぎを、子ども自身が視覚的に体感したり、自分と異なる意見に触れたりした上で、どんな場合でも「自分のこと」ではなく「相手のこと」を起点として考えることが大事だということが、効果的に伝えられたと感じています。

学習カードに自分の努力の積み重ねを残していく

梅津先生が担当する体育では、以前から振り返りを大切にしてきました。従来は紙の学習カードに記入させていたのですが、5年生と6年生は今[発表ノート]を使ってまとめています。初めはタイピングの練習も兼ねてスタートしたのですが、動画や写真を貼りつけられるので、子どもたちはさまざまに創意工夫しながらまとめるようになっています写真4

写真4 5、6年生は[発表ノート]を使い毎時間振り返りをしている

また、それを[提出箱]に提出することで、全員で共有することもできます。低学年や中学年の場合は、実技の様子を撮影した動画ファイルだけを提出することで、同じように全員で共有しています写真5。こうして全員で共有することで「○○さんは、上手になったね!」といった気づきがあります。加えて、動画なら何度も繰り返し見られるので、「ここが良くなった」「ここを変えるといいのでは」といったように、振り返りの内容がとても具体的になっていることも大きな変化の一つです。これらは、子どもたちが自分以外の子の動きにも注目できていたことを意味しますし、運動の流れやポイントをしっかり理解している証しだと言えます。

写真5 1~4年生は、実技を撮影した動画や写真のみを提出

体育の実技は、すぐにできるようになる課題ばかりではありません。けれども、[発表ノート]を使った学習カードを残していくことで「今回の課題はうまくできなかったけど、前回の課題はクリアできたので、自分としては合格」といったように振り返りながら、自分の努力の積み重ねを残していけるのは、とても大切だと感じています。

子どもたちの提案で日直スピーチに[シンプルプレゼン]を活用

守屋先生が担当する6年生は今、毎日行っている日直の2分間スピーチに[シンプルプレゼン]を活用しています。活用が始まったきっかけは昨年、5年生のときでした。ある日直の子が「スピーチのときに[発表ノート]を使ってもいいですか?」と聞いてきたのです。そのスピーチは非常に出来が良く、それ以降はどの子も[発表ノート]に内容をまとめてスピーチするようになりました。

写真6 子どもたちの提案から、日直スピーチで[シンプルプレゼン]を活用

[発表ノート]の活用によって資料を見せながら話すことが定着したことで、さらにステップアップとして「自分の言葉で話す」ということに焦点を当てた取り組みにしていきたいと考えました。ですから6年生になった今年度からは、記載できる画像の点数や文字数が制限される[シンプルプレゼン]を活用することにしました。制限のレベルは子どもたちに任せていますが、あえて上級の制限を設定して「難しい」と言いながらも頑張って発表する子もいます写真6

[シンプルプレゼン]を使い、資料に頼ることなく話すようになったことで、資料に何を載せるべきかをよく考えたり、資料にないことを自分の言葉でどう補足しながら伝えるかを考えたりすることができるようになってきたと思います。

この例のように、子どもたちの発想が出発点となって活用が広がっているケースが多いのが、本校の特長だと思います。また、教員があらかじめテンプレートなどを用意して子どもたちに取り組ませるより、子どもたちが白紙の状態から作ることが多いのも特長の一つかもしれません。

学校行事は子どもたちが運営、教員はサポートに徹する

子どもたちの発想が出発点となった活用例といえば、学級活動などで小集団になって話し合うときに「意見をまとめるのに[グループワーク]を使いたい」と提案した子がいました。例えば係活動について、これまでは係の人数や今学期の仕事、当番などを話し合う際に学活ノートというものにメモを取らせるようにしていましたが、この学活ノートの代わりに[発表ノート]の[グループワーク]を使いたいというのです。

学活ノートでは、それぞれに自分用のメモを取るだけですが[グループワーク]であれば、自分が書いたメモがほかの子どものタブレット端末にもすぐに反映されて共有できます。ですから「○○さんが、こんな意見を書いてるよ」とか「○○さんのまとめ方は分かりやすいね」と、今まで以上に意見交換が活発になっています。

冒頭でも申しましたが、本校は児童会の活動に注力しており、運動会やお祭りなど多くの学校行事の運営を6年生が取り仕切っています。5年生は、6年生をサポートしながら「来年には自分たちがリーダーとなって、全校をまとめなくてはいけない」と強く意識しますし、4年生以下の子どもたちも高学年生の姿を見ています。教員は安全に気を配りながら、基本的には子どもたちの発想を大切にして、サポートに徹しています。もしかすると、こうした校風がICTの活用にも生きているのかもしれません。

本校は大きな環境の変化に対応するために急ピッチでタブレット端末の整備を進めたので、十分な準備ができたわけではありませんでした。しかし、全教員が当事者意識を持って取り組んだことと、子どもたちも当事者となって自由な発想で活用を広げてくれたことで、ICTを道具の一つとして日常的に活用するようになってきたのだと感じています。

しかし、タブレット端末はあくまで学習用具でありますし、子どもたちの好きなように使わせればいいということではありません。情報モラルや情報セキュリティについても指導を重ねながら、見守るべき場面と適切に指導する場面を常に考えていきたいと思います。

そして、こうした取り組みを土台として、優れた表現ツールであり、学びの記録の置き場でもあるICTを、学びの質の向上に生かしていけるよう、引き続き子どもたちと共に取り組んでいきたいと思います。

(2022年6月取材 / 2022年8月掲載)