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ICT活用研究愛知県豊田市立上郷中学校 始業前までに全生徒の健康、出欠状況を把握 [出欠ノート]を活用した情報共有で朝の業務を改善

愛知県豊田市立上郷中学校では、生徒の出欠状況や健康状態をより素早く、より効率的に把握することを目的に、2021年9月から『SKYMENU Cloud』の[出欠ノート]機能と[健康観察]機能の活用を始めました。同校の運用方法や活用効果について、大村 斎人 教頭に伺いました。(2022年2月取材)

大村 斎人教頭

愛知県豊田市立上郷中学校

月の約半分の授業で端末を活用。授業外での活用も広がる

本校は、豊田市の一番南に位置する中規模校です。各学年5クラスずつと特別支援学級2クラス、計513名(2021年度)の生徒が学んでいます。1人1台端末の導入以降、若手の教員を中心として積極的に授業でICTを活用してきました。現在は、月に約1,000時間の授業で何らかの形でタブレット端末を使用しており、毎日半分程度の授業で活用しています。

教員は授業での活用に大変前向きです。だからこそ授業外でも、もっとICTを活用できるのではないかと考えました。例えば、コロナ禍においては、生徒の健康の状態を的確に把握することが重要です。そしてそれを素早く行うということも大切です。しかし、これまでは全校生徒の欠席状況を養護教諭が手書きで一覧表にまとめており、時間と手間が掛かることに課題を感じていました。

そこで、授業で活用していた『SKYMENU Cloud』に[出欠ノート]と[健康観察]機能があることを知り、課題の改善に向けて運用をスタートしました。

以前の運用では、出欠状況の把握完了は10時過ぎ

写真1保護者からの連絡内容を手書きで記入していたカード

まず以前の運用を振り返ると、保護者から欠席・遅刻の電話連絡を受けた教職員が、規定のカードに手書きで欠席・遅刻の理由などを記入していました写真1。同じ内容のカードを2枚用意し、担任と養護教諭の机上に置いていました。手書きすることはもちろん、同じカードを2枚用意することは手間です。

養護教諭はこのカードを持ってげた箱に行き、靴の有無を確認します。校内にいない生徒のうち、保護者からの連絡がない生徒がいないかどうかチェックするほか、教室を回って健康観察板も確認していました。併せて、全校生徒の1週間の欠席状況をまとめる「週間欠席状況」を手書きで作成し、学年主任や生徒指導主事ら約10人に順番に押印をもらいます。

最終的に校長の手元に「週間欠席状況」が届き、その日の全校の出欠状況を把握できるのはすでに授業が始まっている午前10時ごろ。さらに、この「週間欠席状況」では生徒の出欠状況しか把握できないため、欠席の理由などが知りたいときは、保護者の電話連絡を受けたときに記入したカードを確認する必要がありました。

[出欠ノート]に情報が集約。授業開始前に一覧で確認

現在は、保護者からの電話連絡を受けた教職員は、[出欠ノート]を開き、出欠状況と欠席理由など担任への連絡事項を入力します写真2。電話に対応しながら入力でき、作業に10秒もかかりません。

写真2 電話連絡を受けた教職員が入力した[出欠ノート]の画面
写真3[健康観察]を入力する生徒

生徒もこれまでは自宅で体温を測り、紙の健康観察カードに記入して保護者が押印したものを登校後に提出していましたが、これを『SKYMENU Cloud』の[健康観察]に置き換えました。本校ではタブレット端末の持ち帰りを行っているため、自宅でも学校でも入力が可能です写真3。また、体温と合わせて「体がだるい」「腹痛」などの体調に関する選択肢を用意しており、当てはまる場合はチェックを入れることになっています。

[健康観察]に入力した内容は[出欠ノート]へ反映されます。[出欠ノート]に情報が集約されることで、授業が始まる前にすべての教員が一覧で確認することができるようになりました。

学校として、生徒たちが登校しているかどうか、生徒の安全を確実に把握しておかなければなりません。そのため、養護教諭はタブレット端末を見ながらげた箱チェックなどを継続して行っています。

そして学年主任は朝の会が行われているときに、タブレット端末を見ながら自身の担当する学年の教室を回り、重ねて生徒の出欠を確認しています。

入力情報の並べ替えで欠席理由の傾向を把握

情報をリアルタイムで全教員が共有できることに、私自身は予想以上の効果を感じていますし、教員からも「便利になった」という声が挙がっています。手書きのカードがタブレット端末に置き換わり、押印によるチェックなどもなくなったことで、教員の業務改善の成果も実感できています。

さらに[出欠ノート]で役立っているのは、「欠席」や「体温」など必要な情報ごとに並べ替えができることです。「欠席」を選んで並べ替えると、1つのクラスで何人欠席しているのか、ひと目で確認することができ、欠席の多いクラスがすぐに分かります。また「体温」を選ぶと、体温が高い順に並び替わります図1。心配な生徒に対しては担任が個別に声を掛けて体調を確認できるほか、体温の高い生徒が多いクラスで全員の検温を行う対応をとったこともありました。並べ替えられることで、学校全体で生徒の健康状態や欠席理由の傾向が把握できることは、コロナ禍での危機管理に大変有効だと感じています。これらのことは紙での運用では決してできなかったことです。

さらに[健康観察]では、任意の項目が追加できるので体調に関する項目の中に「同居者に発熱などのかぜの症状がある」という選択肢を用意しました。チェックを入れた生徒の家庭に、担任が電話をかけて状況を確認することも可能で、同居家族が新型コロナウイルス感染症に罹患した場合にも、学校としていち早く把握することができます。

そして[健康観察]は、不登校生徒への在宅支援にも有効だと感じています。不登校の生徒の中には、毎朝7時に入力している生徒もいて、家での生活リズムが垣間見えるようになりました。担任が「保護者への連絡」に入れたメッセージは生徒も見ることができるので、学校に来られなくても担任とのつながりを持つことができ、担任は不登校の生徒に対して、[健康観察]に毎日取り組むよう投げかけをしています。

ポイントは基本的な運用のルールを
紙での運用と変えていないこと。

デジタル化で効率化しつつ、欠席した生徒の保護者に電話で確認

新たな仕組みを導入するにあたっては、ICTの活用が得意な先生だけではなく、学校一丸で進めていくという意識が大切だと考えました。そこで約1か月かけて段階的に進めることで、学校内での意思統一を図りました。校長、教頭、校務、教務の役職者で、生徒の登校状況を確実に把握できるか、本当に業務改善につながるかなどを検討し、まずは2年生を対象に2週間かけて試行しました。そのなかで、教員が有効性を実感できるかどうかや問題点などをあらためて確認し、全教員で最終検討を行った上で完全実施へと乗り出しました。

検討、試行を進めていくなかで運用のマニュアルを作成し、問題点を随時更新していきましたが、最も重要なポイントは、これらの機能を新たに導入しても、基本的な運用のルールは紙での運用のときと変えていないということです。

まず、あくまで[出欠ノート]は生徒の登校状況を素早く把握するための補助簿だと位置づけています。公式な記録は、これまでどおり豊田市の校務支援システムの出席簿への入力によるものです。最終的な欠席理由も放課後に担任が各家庭に電話で確認しており、これも以前と変わりありません。

先ほど現在の運用手順についてお話ししたとおり、欠席・遅刻の場合には保護者から電話連絡していただいていますし、養護教諭らによるげた箱の確認や教室の巡回も必ず行っています。これらも紙での運用と変更していない点です。例えば出欠状況のICT活用にあたり、二次元コードを家庭に配って保護者がスマートフォンで読み取って欠席の連絡をするという運用も可能だったのかもしれませんが、やはり中学校においては生徒の安全を確実に確認できる仕組みが必要で、そこには細心の注意を払っています。

生徒においては、[健康観察]の運用に乗り出した直後は、入力し忘れることも多くありましたが、担任による声掛けなどにより現在では忘れる生徒はほとんどいません。問題なく運用できていると思います。

今後も[出欠ノート]の運用は継続。
授業の質を高めるICT活用をめざす

[出欠ノート][健康観察]は、コロナ禍での生徒の健康状態の把握に大変役立っていますが、もちろんコロナ禍が収束しても活用を継続していこうと思っています。インフルエンザの流行などでも、どのクラスに何人発熱者がいるのかという情報を把握しておくことは危機管理に役立つと考えています。

そして今後に向けては、さらに授業での活用の質を高めたいと考えています。現在は、教員が生徒たちにテーマを与えて、インターネットやデジタル教科書など幅広い資料から情報を集めてまとめさせ、ほかの生徒と共有するという活用が多くの授業でみられるようになってきました。さまざまな情報の中から、自分が大事だと思ったことをまとめて、相手に伝える、個別最適な学びの実現に向けた取り組みが進んでいます。この個別最適な学びを、協働的な学びへとつなげていくこと。その授業設計が難しく、本校における大きな課題だと考えています。

今年、学校が一丸となってICTを活用した新たな取り組みに乗り出すことができたことを自信にして、『個別最適な学び』と『協働的な学び』を一体的に充実させる授業改善に向けて取り組んでいきたいと考えています。

(2022年7月掲載)