教育情報化最前線

兵庫県宝塚市教育委員会 教員1人ひとりのICT活用スキルを把握
スキルに応じた研修で、指導力向上へ

兵庫県宝塚市教育委員会では、GIGAスクール構想によって整備された1人1台端末の活用を全校で一体的に進めるため、管理職研修の充実や「タブレット活用スモールステップ表」による教員1人ひとりのスキルに応じた支援に取り組まれています。同市の取り組みについて、兵庫県宝塚市教育委員会 学校教育部 教育支援室 教育研究課 山口 直人 課長、前川 真宏 指導主事にお話を伺いました。(2022年3月取材)

山口 直人課長

兵庫県宝塚市教育委員会 学校教育部 教育支援室 教育研究課

前川 真宏指導主事

兵庫県宝塚市教育委員会 学校教育部 教育支援室 教育研究課

端末の家庭への持ち帰りを前提に
1人1台端末の活用をスタート

宝塚市では、令和3年度に「GIGAスクール構想の実現に向けたICT環境整備」によって、児童生徒1人1台のタブレット端末を整備しました。併せて、普通教室と一部の特別教室に無線LANアクセスポイントを整備。当市では、タブレット端末は家庭への持ち帰りを基本としているので、充電保管庫は学年に1台のみとしています。持ち帰ることが前提ですので、タブレット端末は物損故障も保証される「Sky安心GIGAタブレット」を採用しました。

端末の導入時には、Sky株式会社のインストラクターに全校を訪問してもらい、導入講習会を実施しました。しかし、コロナ禍の影響もあり集合研修を行うことが難しくなったことから、『SKYMENU Cloud』の使い方などを解説する研修動画を数多く用意してもらい、それを活用しました。動画はそれぞれ3~5分という短時間で視聴できることから、先生方にも非常に好評です。また、ICTサポーター5名が月に2回程度のペースで各校を訪問し、フォローアップしてもらっています。

カメラなどの初歩的な活用から、
まずは使ってみることが大事

写真1 植物の生長を[カメラ]で撮影して記録

教育委員会としては、先生方に「まず簡単な使い方からスタートしましょう」と呼びかけ、カメラなどの初歩的な活用を推奨しました。1人ひとりが写真を撮影できることだけでも、これまでと違った取り組みができます。例えば、植物の観察カードを作成するときも、課題に適した構図を児童が自ら考え、工夫して撮影できます写真1

こうした取り組みは初歩的なものですが「実際にタブレット端末を使ってみる」ことが第一歩となり、使っていくうちにさまざまな活用方法に気づいていく、それが大事だと思います。例えば、これまでは実物を提出させていたノートを、写真に撮って提出させる。実物の場合は、返却するまで子どもたちは次の取り組みができませんが、写真データであれば急いで返却する必要はありません。さらに、写真を[発表ノート]に貼りつけてから提出させれば、先生がペンで添削を書き込んで返すこともできます図1

図1 ノートの写真を[発表ノート]に貼りつけて提出させると添削も可能

また、班活動では[グループワーク]がよく活用されています。ある小学校では、著名な絵本作家のいくつかの作品を読んで、そこに登場するさまざまなキャラクターを通じて、作者自身の人物像を想像し、みんなで話し合いまとめていくという活動をしたクラスがありました。このとき、自分が読んだ作品についてタブレット端末に書き込むと、ほかの子どもたちのタブレット端末にもその内容がすぐに反映されるので、みんながそれぞれの意見を確かめながら話し合えるようになり、意見交流がより活発になっていました。

教室で授業に参加できない子どもに、
1日1教科以上、オンラインで配信

そのほか、新型コロナウイルスの感染が拡大した令和3年度2学期早々に全校で「オンライン朝の会」にも取り組みました。その後の状況に応じてオンライン学習を実施した学校もありました。オンライン学習は、一定の成果が得られたように思いますが、定点撮影した動画の配信になるため、授業に参加している実感を得づらい。長時間見続けているのがつらい。動画を見るだけになり、「受け身」の学びになってしまうといった、課題も多く見られました。

その一方で、教室で授業に参加しにくいと感じている児童生徒や不登校気味な児童生徒でも、オンライン配信なら授業に参加できるという効果も見られました。

このことから、教育長から各学校長には「1日1教科以上を配信していこう」という方針をお伝えして、取り組んでもらっています。まだまだ課題は多いですが、この経験をコロナ禍への対応だけにとどめるのはもったいないと考えています。さらに工夫を重ね課題を解消していくため、先進的に取り組んでくださっている学校では、Webカメラ、教員用のサブモニターとマイクの追加整備を検討しています。これらの機器を活用して、オンライン配信の研究をもう一歩進めたいと考えています。

教員のICT活用度を客観的に確認する
タブレット活用スモールステップ表

当市では、GIGAスクール構想の実現に向けて、さまざまな教員研修を行っています。そのなかで、特に力を入れているのが管理職への研修です。先生方の取り組みを後押しし、学校全体を動かすのは管理職です。管理職への充実したサポートが、活用推進の肝であると考えました。具体的には、令和3年5月に1人1台端末の活用スタートに合わせて、外部講師を招いた管理職向けの研修を実施しました。さらにはオンライン学習などを見据えて、全管理職を対象に1時間半に及ぶ著作権研修なども行いました。

令和4年度からは、このような管理職研修を継続するとともに、全教職員により充実した研修を提供できるよう、先生ごとのICT活用度に合わせた研修を実現したいと考えています。そのためにも、現在のICT活用度を測る基準が必要だと考えました。そして、兵庫県の資料を参考に作成したのが「タブレット活用スモールステップ表」です。これは、授業支援ツールやデジタルドリルの活用度をそれぞれ1~5のステップに分けたものです図2。各ステップに対し「できる」「あまりできない」「できない」というチェックを入れるようにしており、先生自身が自分のICT活用度を客観的に確認できるようにしています。ただし、これはあくまで道具としてICTを使いこなすためのステップであり、ステップ1では良い授業ができない、ステップ5なら良い授業ができるというものではありません。先生方が自身のステップアップの指標としてもらうことを目的としています。

出展:宝塚市GIGAスクール推進計画(令和3年12月)より
ステップ 授業支援ツール
1 児童生徒に教科書の QR コード、カメラ機能を利用させることができる
2 ワークシートや資料の配布機能、提出機能を利用し、全体に提示することができる
3 プレゼンテーション機能(「発表ノート」・「シンプルプレゼン」等)を用いて学習活動が展開できる
4 SKYMENU クラウド機能(「発表ノート」・「シンプルプレゼン」・「ポジショニング」・Microsoft Power point 等)を用いて学習活動が展開できる
5 様々な機能を用いて、授業の中で、創造的な授業支援ツールの活用ができる
図2 タブレット活用スモールステップ表(授業支援ツールに関する項目)

令和3年度末に「タブレット活用スモールステップ表」を基にしたアンケートを実施し、先生1人ひとりのICT活用スキルの把握を進めました。そして今年度には、このステップごとに研修を実施することで、よりきめ細やかなフォローアップにつなげたいと考えています。

状況に合わせて、より柔軟に、より早く、
実行に移しながら改善を重ねていく

令和4年度には、教員1人ひとりのステップに応じた研修の実現や、教員用タブレット端末の整備をはじめとするICT環境の改善によって、学びの質の向上を図るとともに、学校間や教員間の差を解消していきたいと考えています。

この1年間を振り返ると、当初立てた計画は良くも悪くも想定どおりには進まず、まさに試行錯誤の連続でした。授業のオンライン配信などは、まだ先のことだと考えていたというのが本音です。しかし、めまぐるしい環境の変化に対応しながら、そのときそのときにベストだと考える施策に取り組んできました。

本来であれば「宝塚市は、GIGAスクール構想をこのように進めます」という中長期の計画を具体的に示せるのが理想です。しかし2年後や3年後どころか、半年先であっても、どのように状況が変わっているのかを予測することは難しいのが実情です。だからこそ状況に合わせて、より柔軟に、より早く、実行に移しながら改善を重ねていく力が問われていると感じています。

タブレット端末や各種ソフトウェアなどのICTが日進月歩でアップデートしていくように、私たちも常にアップデートしていくことが必要です。その試行錯誤のなかで、確かな方向性を見いだし、宝塚市ならではの取り組みへと発展させていけるよう、これからも取り組んでいきたいと思います。

(2022年6月掲載)