教育情報化最前線

熊本県天草市教育委員会 研修で好事例を追体験、活用の底上げへ 毎朝の健康観察から授業まで、『SKYMENU Cloud』を幅広く活用

熊本県天草市では、朝の健康観察をはじめ、さまざまな学習活動で1人1台端末や『SKYMENU Cloud』の活用が広がっています。同市の活用推進の取り組みについて、熊本県天草市教育委員会 学校教育課 今福 恭仁彦 指導主事に伺いました。

今福 恭仁彦指導主事

熊本県天草市教育委員会 学校教育課

『Sky安心GIGAタブレット』を導入
小中で『SKYMENU Cloud』を活用

当市は、平成18年3月に2市8町が合併して誕生しました。熊本県の南西部に位置し、有明海、東シナ海といった美しい海に囲まれた天草諸島の中心にある都市です。市内には30の学校(小学校17校、中学校13校)があり、約5,400名の児童生徒が在籍しています。大小さまざまな規模の学校があり、地域によっては光回線による通信網整備が完了していない場所やLTE通信が受信困難な場所があります。

そうしたなかで、令和3年3月までにGIGAスクール構想による児童生徒1人1台端末や学校教育において高速大容量の通信ネットワークの整備が完了しました。児童生徒のタブレット端末はSky株式会社の『Sky安心GIGAタブレット』を採用し、市内全校でクラウド型の授業支援システム『SKYMENU Cloud』を活用しています。教職員用端末は、それまでコンピュータ教室に整備されていたタブレット端末を再設定して利用しています。

タブレット端末を
鉛筆や定規のような文房具の一つに

GIGAスクール環境の本格運用にあたり、令和2年度末に3年間のロードマップ(年次目標)を策定しました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響や、オンライン学習への対応など、さまざまな課題がありましたが、学校教育において優先すべき目標は、校内での「授業における活用」と定めました。その背景の一つには、「デジタルネイティブ」といわれる今の日本の子どもたちが、タブレット端末やスマートフォンなどのICT機器を学びのために使えていないという実態があります。ICT機器を、ゲームやSNSなどの遊びのためではなく、鉛筆や定規のような文房具の一つとして学習で使いこなせるようにすること。それが学校教育に課せられた使命の一つであると捉えました。もちろん、紙の活用を軽視するわけではありません。日々の学びのなかで、紙もICTも活用して、児童生徒にそれぞれを適切に選べる力を身に付けさせる。そのなかでICTを学びに生かすことの楽しさや有用性に気付かせたいと考えています。

ICT活用研究部会を立ち上げ、
教職員と連携して環境を改善

そうした私どもの想いとは裏腹に、GIGAスクール元年は端末本体やネットワーク等の周辺環境の問題が多数発生し、その対応や環境改善に追われました。実は、年度当初、活用方法を普及する指導係、備品整備の教務係、通信環境整備の情報政策課といった役割分担を行っていたのですが、多発する不具合には、それぞれの力を結集して対応する必要がありました。そこで、役割の垣根を越え、定期的な連絡会を行いながら、さまざまなトラブルへの対処や運用方法の改善を協働して進めていきました。幸い、県内にはICT活用の先進地域がありましたので、早々に視察をさせてもらうこともできました。充電保管庫のタイマー設定といった基本的な内容から一つひとつ情報を集め、運用を改善していきました。

また、学校現場の活用推進には教職員の協力が欠かせないと考え、市教育委員会が主導して「ICT活用研究部会」を新たに立ち上げました。ICT活用に意欲的な教職員8名を研究委員に任命し、さらに7月からは、ICT支援員にも加わってもらいました。教職員、ICT支援員、教育委員会で連携を密にして、大きなトラブルもなく、無事1年を乗り切ることができました。

研究推進校で
「半歩先」の実践を展開し共有

▲ [カメラ]でアサガオの観察記録

ハード面の課題への対応とともに、学校間や教職員間のICT活用に対する意識やスキルの差を埋めて、市全体の活用を推進していく動きも進めました。

まず令和3年度当初に、天草市立河浦小学校と河浦中学校をICT活用研究推進校に指定しました。「天草市の小中学校の半歩先を進んでいく研究」を合言葉に、GIGAスクールの環境を率先して活用してもらい、その効果や課題を市内全体に周知する役割をお願いしました。具体的には、授業で『SKYMENU Cloud』に搭載されている諸機能を活用してもらい、活用例の作成、蓄積、そして効果の検証などを行ってもらいました。先生方の実践は「ICT活用レポート」にまとめてもらい、市内全校から閲覧できる共有フォルダ「K・Iライブラリー」に保存して共有しました。

授業に限らず、授業以外でもさまざまな場面で1人1台端末を活用し、検証してもらいました。例えば、教職員の監督の下、昼休みも自由に端末を使って良いというルールで運用してもらいました。ある児童は「先生、アンケート機能で、みんなにアンケートをとっていいですか」と、すぐに主体的に活用し始めました。教職員の監督が前提になりますが、授業時間外に使わせることで活用が一気に広がることを実感しました。このような情報も市全体に速やかに共有し、各学校の取り組みの参考にしてもらいました。

また、河浦小学校と河浦中学校は、かねてより小中連携の研究を行っていたので、小中学校9年間における情報活用能力の育成に関する系統表の検討も進めてもらいました。しかし、1人1台端末の活用が進めば進むほど、児童生徒のスキルは変化します。学年で目標を定めても、想定以上にスキルアップする子どもが次々と現れ、目標と実態に大きなずれが生じました。そこで今は「どこまでも児童生徒の情報活用能力を伸ばして、学びに生かそう」という考え方に立ち、学年で区切らない「無学年の情報活用能力の系統表」の作成を進めています。

ログデータを手掛かりに、
好事例を発掘

▲ [グループワーク]で[発表ノート]を共有して話し合う

各学校の活用推進には校長、教頭など管理職の協力が欠かせません。そこで月に1回程度開催される管理職研修や会議に少しだけ時間を割いていただき、ICT活用に関する各校へのお願いや各校の活用状況の共有を行いました。活用状況の把握には、各学校の教職員、児童生徒端末のログデータ(アプリケーションの起動履歴)を利用しました。ログデータは数値的に状況を把握できるので非常に便利なものです。ですが、数値を提示しただけでは活用の推進にはつながりません。具体的な事例が必要です。そこで、ログデータを手掛かりに、教育委員会が活用率の高い学校を視察。好事例を発掘して、管理職に紹介することにしました。

活用率の高い学校は、
[健康観察][出欠ノート]を毎日活用

▲ 児童生徒は毎朝端末を取り出し、[健康観察]に体温などを入力。活用率の向上や朝の業務の効率化につながった

具体的にどのような好事例を共有したかというと、例えばある小学校では毎朝、児童生徒が『SKYMENU Cloud』の[健康観察]に自分の体温や健康状態を入力していました。充電保管庫から端末を取り出して起動し、[健康観察]に入力するという簡単な行為なので、小学校低学年から高学年まで、すべての児童が端末に触れる機会になり、活用率を向上させていました。

もちろん朝の業務の改善にもつながっています。コロナ禍以降、当市の児童生徒は毎朝、自宅で検温し、その結果を「健康観察ノート」に書いて登校していました。学級担任は、毎朝全員のノートを確認しなければならず、負担になっていました。それが[健康観察]と[出欠ノート]の活用によって改善されました。学級担任も養護教諭も、児童生徒が入力した情報を[出欠ノート]で確認するだけでよくなったのです。

また、副次的な効果ですが、毎朝、授業前に端末を起動するので、端末の動作確認の機会にもなっていました。授業前に端末やネットワークの不調に気付くことができ、端末の再起動をしたり、もしくは別の手段に切り替えたりできるので、ICT活用に対する教職員のストレスも少なくなっていました。このような好事例の共有をきっかけに、小学校を中心に[健康観察]と[出欠ノート]の活用が広がり、活用率の向上につながっています。

研修で好事例を追体験して習得
校内アドバイザーとして横展開

教職員研修も工夫しました。限られた勤務時間で、研修の機会や時間を確保することは容易ではありません。また1人1台端末の活用にあたっては、教職員と同じ目線で、気軽に相談できるような人がそばにいてくれると、大変心強いものです。各校で先生方のICT活用を支える教職員、「校内アドバイザー」ともいえる人材を育成したいと考えました。

そこで各校から1、2名の教職員に集まってもらい「ICT活用講習会」を企画しました。講習会で、参加者に授業における簡単な活用方法を習得してもらい、その情報を各校に持ち帰り、実践および横展開をしていただくことをねらいました。ICT活用講習会の実施にあたっては、先ほどご紹介した、ICT活用研究部会の研究委員の先生に研修講師を依頼しました。研究委員の先生方には、日々の授業で行っている活用方法を紹介してもらい、講演を聴くだけでは習得には至らないので、参加する先生方には、各校から教職員用の端末と学習者用の端末を持参してもらいました。聞いた内容をその場で追体験し、確実に習得してもらいました。参加した先生方の満足度は高く、早速、各学校で実践したり、校内研修をしたりと横展開をしてもらっています。

このような教職員主体の研修だけでなく、タブレット端末や『SKYMENU Cloud』などのソフトウェアの基本操作については、ICT支援員やSky株式会社の専門のインストラクターによる研修も行っています。ICT支援員については、今年度当初はハード面に関する質問やトラブルへの対応が多くあったのですが、今では、教材作成などの授業づくりに関わる対応依頼が増えてきています。当市の目標であるタブレット端末の「授業における活用」の実現に少しずつ向かっていると感じています。今後、さらに連携を密にして活用を推進したいと考えています。

[シンプルプレゼン]の活用で、
教科のねらいに迫る指導へ

図1 6月と10月に児童が作成した[シンプルプレゼン]の比較。継続して活用することで情報活用能力が身に付き、教科のねらいに迫る学習を展開できた

「授業における活用」という点で、『SKYMENU Cloud』の[シンプルプレゼン]について、興味深い事例がありました。[シンプルプレゼン]は、1枚のスライドに入力できる文字数や添付できる画像の数が制限されているなど、少し変わった仕組みのプレゼンテーションツールです。しかし、図1のように活用を進めると、「分かりやすく伝えるために、文章を要約する」「相手により伝わりやすい画像を選ぶ」ことを通じて、教科の理解を深め、授業のねらいに迫るような学習活動を展開できる。さらには情報活用能力の育成につながる、といった特長が見えてきました。先生方から一般的なプレゼンテーションツールの活用について指導の難しさを聞いていたので、この事例は学習のために作られたソフトウェアの有用性を感じました。

このような好事例を、より広く、効率的に共有するためにMicrosoft Teamsを使った情報交流も始めています。ICT活用研究部会やICT活用講習会に参加した先生方に声を掛けて、先日スタートさせました。今後、先生方の多様なニーズに応えるべく、さまざまなチャネルを用意する予定です。

1人1台活用と学びの深まり、
実践を振り返って評価、改善へ

今年度は、校内での「授業における活用」の充実や「できるところから、少しずつ」といった方針を掲げて、活用推進に取り組んできました。しかし、コロナ禍における活用、つまり端末の持ち帰りやオンライン学習への対策に注力せざるを得ない状況もあり、バランスを取りながらの活用推進活動になりました。先生方からは「具体的な活用イメージをもっと知りたい」といった意見もあるので、学年別や教科別の実践交流会のような研修を企画していく予定です。

今後は「授業でタブレット端末を使う」段階を超えて、「授業でより効果的に活用する」段階へと転換していきたいと考えています。そのためには、1人1台端末の活用と子どもの学びの深まりについて、教職員が実践を振り返り、評価して改善していく必要があります。一般的な授業づくりや指導の省察と同様に取り組めるよう、ICT活用に関する評価基準を作成しています。基準は、教科や学年という視点ではなく、「提示」「作成・表現」「共有・交流」「評価・蓄積」「共同編集・協働学習」といった学習活動場面を軸にしました。そうすることで、学年や教科を越えて議論したり、検証したりすることができます。まだ少し時間はかかると思いますが、いずれは学年、教科も異なる先生方がICT活用について職員室で何気なく意見を交わすような姿が広がることを期待しています。当市の教職員が学び合い、高め合えるような環境をつくりたいと考えています。

(2022年2月取材 / 2022年4月掲載)