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ICT活用研究大阪府大東市立北条中学校 GIGAスクール元年 成果と課題 学び合いに1人1台端末を生かし、
生徒の表現力を育む 学んだ知識をアウトプットすることで学力向上に

大阪府大東市立北条中学校では、昨年度1人1台端末が整備され、これまで「協働学習」に取り組んできた土壌を生かしながら、1人1台端末を活用し、生徒同士が学び合う授業づくりを行っています。この1年間で行われた授業での1人1台端末を活用した実践事例やその成果について、西村 晋作 教諭に伺いました。

西村 晋作教諭

大阪府大東市立北条中学校

ペアや班での活動を増やし
生徒同士の学び合いに力を入れる

本校では「将来を見通して学び続ける子を育もう」という教育目標の下、その実現に向けて協働学習を取り入れた授業づくりに力を入れています。大東市は13年ほど前から協働学習に注力する方針を掲げており、本校でもペアや班で取り組む活動を増やしたことで、生徒同士が互いに学び合う形ができてきました。今後はより一層、学力の向上につなげていくために、学んだことをアウトプットする機会を増やすことが必要です。そのためには、学んだことが「分かる」だけでなく、分かったことを「使ってみる」ことを大切にしなければならないと考えており、ICTの活用はその実現に役立つものだと感じています。

本校では、2020年12月と2021年2月の2度に分けてタブレットPCが整備されました。学校のICT環境が大きく変わったことで教員にも戸惑いはありましたが、2020年春の臨時休業の際にICTを活用することへの必要性を感じていたこともあり、前向きに取り組みを進めていきました。

「とにかく使ってみよう」
生徒を信じて活用を進める

生徒たちの1人1台端末が整備される以前は、教員用のノートPCで教材をプロジェクタに投影して提示する以外の活用は、校内であまり見かけませんでした。そこで、最初の目標としては「とにかく使ってみよう」ということからスタートし、まずは1年間使ってみた成果と課題を基に、その後の方向性を決めていくことにしました。

また、本校では当初から、タブレットPCを家庭に持ち帰らせる方針を掲げていました。せっかく整備されたタブレットPCを最大限活用するには持ち帰りは不可欠だからです。持ち帰りに踏みきれたのは、子どもたちとの間に「必ず節度ある使い方をしてくれる」と確信できる信頼関係があったからです。実際に、活用を進めるなかで運用に影響するような問題は起きませんでした。

当初は、多くの教員が、調べ学習を行ったり、「Microsoft Teams(以下、Teams)」のチャット機能で意見交流したりという活用から始めました。私が担当する理科でも、まずは調べ学習を行い、調べたことや自分の考えをまとめて発表するという活動に取り組ませました。子どもたちの発表を聞いて、1人1台端末であれば自分のペースで調べることができ、インターネットを活用することで図書室の書籍などで調べる以上に、中学校という枠を超えてより幅広く深い内容について調べられるということを実感しました。

社会科では『SKYMENU Cloud』の[ポジショニング]を使った研究授業も行われました。「政治に大きく影響したのは『武士』『市民』『天皇』のどれか」という問いに対し、生徒たちがいずれかを選んで、意見交流をする活動です。まずは自身の意見をマーカで示し、同じ考えを持つ生徒と一緒に意見をまとめた後、異なる考えの生徒とも意見交流し、最後に自分の考えが変わった場合はあらためてマーカを配置し直し、生徒たちの思考の変容を確認するという内容です。さまざまな人の意見を聞いた上で、あらためて自分の意見を考えるという協働学習の良さが現れた授業だったと思います。

表現することが苦手だった生徒も、
自信を持って思いや考えを
表現できるようになっています。

タブレットPCの活用で、
発表の機会が増え、表現力が向上

写真1学んだことをペアになって説明し合うことで、表現力が向上

1人1台端末の活用が広がったことで、発表の機会が格段に増え、子どもたちの表現する力は高まっています 写真1。特に、『SKYMENU Cloud』の[シンプルプレゼン]を活用することで、スライドに記載できる情報が制限されるため、記載する内容をよく吟味するようになり、発表の際は、書いてある文章を読んで説明するのではなく、相手の目を見ることや自分の言葉で伝えることを心掛けるようになったと思います。

また、表現方法の選択肢も増え、これまでは表現することが苦手だった生徒も、自信を持って思いや考えを表現することができるようになっています。

学んだことを動画でアウトプット。
教員は動画で個々の理解度を把握

調べ学習に用いるだけではない工夫した活用も見受けられるようになりました。英語の授業では、語句をランダムに並べた[発表ノート]を用意し、生徒に正しい順番に並べ替えさせて英文を完成させる問題に取り組んでいました。英作文の問題でも、[発表ノート]にヒントになる語句をいくつか並べておくことで、書くことが苦手な子どもでも挑戦しやすくなったのではないかと思います。

学んだことをアウトプットさせるために、理科の授業では生徒たちに「電気分解」についての説明をペアで行い動画撮影する活動を行いました 写真2。[発表ノート]に、「電気分解」の説明に必要な原子記号や図などのパーツをあらかじめ用意し、生徒がパーツを動かしながら解説している様子を撮影し、1分間程度の動画を提出させました 図1。自分の言葉で説明することで理解が深まるとともに、教員も提出された動画を確認することで子どもたち1人ひとりの理解度を把握することができます。1分程度の動画であれば、ノートを回収して添削する場合と大きく変わらない時間で、より確実にチェックができました。

写真2 図1 教員が[発表ノート]に用意したパーツを使い、生徒同士で電気分解について説明する動画を撮影

こうしてアウトプットを増やしたり、取り組みへのハードルを下げたりすることで、子どもたちが前向きに課題に取り組むようになったと感じます。それは、単元テストの点数にも現れていて、継続して取り組むことで学力の向上にもつながるという手応えを感じることもできました。

そのほかにも、あらかじめ送っておいた予習動画を視聴して予習させ、授業前に確認課題に取り組んで、授業では発展的な学習を進めていく「反転学習」の実践もありました。

家庭学習でチャットを活用
生徒同士が質問し合い、学び合う

生徒たちにタブレットPCを自宅に持ち帰らせることで、家庭学習でも活用が可能になりました。夏休みには、「Teams」を使って宿題を1週間ごとに送り、生徒たちに写真を撮らせて提出させました。定期的な目標が明確になり、継続した学習に取り組むことができました。本校では、「Teams」にクラスごとの「チャット」を用意しているのですが、宿題で分からないことがあれば、チャットで質問してもいいことにしました。最初は、教員が質問に答えていましたが、あえて教員が少し我慢して質問に答えずに、様子を見ていると、生徒同士で質問に答え始めたのです。学校外でも学び合う姿が見えたことは、協働学習に取り組んできたことの一つの成果だと思います。学び合いの土壌があったからこその動きだと思っています。

夏休みが明けた2学期からは、普段の宿題も『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]で取り組ませて、授業前日の夜に回収するという使い方もしています。提出の締め切り時間という目標があることで生徒の取り組み姿勢も変わりますし、教員も授業までに生徒たちの成果を確認できます図2。これはプリントなどではできないことです。

図2 [発表ノート]で配付した課題をその日に回収

当初は、こういった活用の広がりを意図してタブレットPCの持ち帰りを決めたわけではありませんでした。しかし、充電保管庫に入れておくだけでは、このような活用の広がりはなかったと思います。もちろん、持ち帰らせることによるリスクもありますが、それ以上に返ってくるメリットの方が大きいと考えています。

「ルールはいらないというルール」。
文房具としてタブレットPCを活用

この1年間で本校におけるタブレットPCの活用は着実に広がっています。この背景には、教員1人ひとりの柔軟さがあるからだといえます。1人1台端末が整備されるにあたり、校長との話し合いで「ルールはいらないというルール」という方針を定めました。一つの文房具として活用することで、良い活用につながるという思いがあり、当市が示すルール以上にあえてルールを作らないということを意識してきました。教員もそれを前向きに捉えて、創意工夫することを楽しめたのだと思います。

また、授業でのタブレットPCの活用頻度を把握するために、職員室の入口に張っている1週間の授業予定に、タブレットPCを活用した授業を行う際にはシールを貼ってもらうようにしています。5月末ごろまでは、タブレットPCを使った授業は1週間に約8時間、全体の5%ほどでしたが、校内研修で「タブレット体験」を実施した直後から増え始め、現在は1週間に約40時間、全体の20%を超える授業で活用されています。このように活用状況を見える化することで、ほかの教員が興味のある授業を見学することもできるように配慮しました。

本校には同じ学年の教員同士で常に交流し、授業について困ったときは気軽に相談し合える雰囲気があり、教員同士で授業づくりについて話をするなかで、タブレットPCの使い方の教え合いも活発になっています。

授業で「取りあえず使う」から、
「ICTを効果的に活用する」段階へ

この1年の「取りあえず使う」という段階から発展し、来年度は「授業づくりのなかで効果的にICTを取り入れていく」ことを意識していかなければなりません。先ほど、生徒の表現力が高まったとお話ししましたが、今後は何か根拠を示した上で表現ができたり、何かを比較した表現ができたりと、目的に合わせて適切な表現ができるようになってほしいと思っています。そして引き続き、ICTでの取り組みが学力向上につながる活用にしていかなければならないと考えています。

実現できるかどうかはしっかり検討しなければいけませんが、授業づくりに生徒たちの意見を反映できないかということも考えています。例えば、委員会活動で「授業委員会」といったものを作って、生徒たち自身がICTを活用した学びを考えていくことで、新しい視点での活用も広がるのではないかと思います。

ICTの活用は、誰かと気軽につながることができるのもメリットの一つです。今はクラスの中だけで授業をしていますが、例えば小学校と交流するときにグループ交流だけでなく、1対1の交流もできるようになると思いますし、今まで出会うことのできなかった企業の方とも交流できる可能性があります。

インターネットを使って調べ学習をすると、中学校という枠を超えて幅広い情報に触れることができ、それが生徒たちの良い刺激や気づきになりました。学校の外にいるさまざまな人とつながり、話を伺うことで、本を読むだけでは知ることのできないことを生徒たちは学ぶことができます。今後はそういう機会をつくっていきたいと思っています。

学び合いや家庭での活用を進め、
授業の時間を超えた新しい学びへ

将来的には、「これはタブレットPC」「これは紙」というように、生徒自身がどちらかを自然に選ぶことができるようにしていきたいです。生徒がタブレットPCをあくまでも学びのための手段、道具として捉え、必要なときに自分たちで選択でき、当たり前のものとして使えるようになってほしいです。さらに、生徒同士の学び合いや家庭での活用などが十分に定着していけば、授業の時間を超えた新しい学びに活用できると思います。

だからこそ、決してタブレットPC上位の授業になってはならないと思っています。最も大切なのは、人と人のぬくもりを大事にした「良い授業をすること」であり、やはりその根幹は「学び合う授業づくり」にあるということを忘れることなく、引き続きICTの活用に取り組んでいきたいと思います。

(2021年12月取材 / 2022年3月掲載)