教育情報化最前線

大阪府豊中市立第九中学校 GIGAスクール元年 成果と課題 自分の言葉で伝える力が育まれていることを実感 タブレット端末の活用、コロナ禍でも「なんとかなる。」

豊中市立第九中学校では、GIGAスクール構想以前から設置されている「情報委員会」が中心となり、1人1台端末の活用を推進しています。昨年(2020年)秋の端末整備から1年がたち、この1年間の成果と課題、2年目に向けた展望などを栗林 聡明 校長と増田 洋佑 教諭に伺いました。(2021年12月取材)

栗林 聡明 校長

大阪府豊中市立第九中学校

増田 洋佑 教諭

大阪府豊中市立第九中学校

GIGAスクール構想以前に「情報委員会」を設置

本校では、開校以来の教育目標を基にした「しなやかに つよく」という言葉を掲げており、学校経営の重点目標の筆頭項目を「しなやかにつよく、つながる力、関わる力を持った生徒の育成」とし、生徒同士が共に協働し、つながり合い、関わり合いながら学ぶことを大切にしてきました。

ICTの活用と言っても、以前は教員がプロジェクタを使って教材を投影するといった使い方がほとんどでした。その後、2017年度に普通教室用に10台のWindowsのタブレット端末が整備され、『SKYMENU Class』が導入されたことをきっかけに、増田教諭をはじめ数名の教員を中心にICT活用を推進していくことに。そして、その取り組みの一つひとつを、学校ホームページで紹介していました。すると、普段はICT活用に二の足を踏んでいた教員や、保護者の方からも反響が寄せられるようになり、一定の手応えを感じたことから「情報委員会」を中心にしてさらに、本格的な取り組みを開始しました。

いずれは、生徒1人が1台のタブレット端末を活用できる環境が整うことも想定して、さまざまな検討を始めたのですが「GIGAスクール構想」に伴うICT環境整備により思いがけず早期に1人1台端末が実現しました。現在は、12名の教員が情報委員として本校のICT活用を推進してくれています。

コロナ禍でも、自分の考えを共有する活動ができる

写真1調べた内容を[発表ノート]を使ってまとめる

本校では、以前から班やペアでの協働学習に注力し、特に4人班での意見交流をよく行っていました。これは「学んだことを、自分の言葉で適切に伝えられるようになる」ことをゴールと定めて理解を深めていく取り組みで、本校における学びのモデルケースとして確立されていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の感染対策として、4人で集まり話し合うような活動は難しくなっています。

順次、生徒用の端末が配備されたことで、新しい形での協働学習に取り組み始めました。1人1台端末があれば、1つの場所に集まらなくても自分の考えを共有することも、発表することもできます。

例えば、社会では与えられたテーマについて個人で調べ学習を行った上で、『SKYMENU Cloud』の[発表ノート(グループワーク)]を使って、班やペアで役割分担をして発表のまとめを行うことが多いです。写真1の授業では、3年生が消費者を保護するための法律としてクーリングオフ制度やPL法について調べ、その後ペアになって発表資料を作りました。[グループワーク]なら、自分の端末でペアになった生徒が作成している内容がリアルタイムで見られますので、相談しながらそれぞれに資料をまとめることで、新しい視点で理解を深めることができます。

以前なら、こうした活動は模造紙やホワイトボードを使って行っていましたが、大掛かりになってしまうため、それほど頻繁にはできませんでした。また、発表の準備にも時間が掛かってしまうため、制作と発表が別の時間になってしまうこともありましたが、現在は、調べて、まとめて、発表するという一連の活動を日常的に行えるようになりました。生徒たちが発表する内容を見ても、回数を重ねるごとに、伝える力や訴えかける力がついてきていることを実感します。

一人ひとりの理解度や受け止め方の把握にも役立つ

しかし当初は、発表資料の作成に凝りすぎる部分もありました。インターネットで参照したページを丸ごと貼りつけ、見栄え良くきれいにまとめているけれど、発表させてみたら掲載している文章をそのまま読み上げるだけということも少なくありませんでした。この点については教員が特に意識し、手早くシンプルにまとめて、自分の言葉で説明するよう指導していくことで、的確に発表するようになってきたと思います。

また[発表ノート]を提出させれば、子どもたちの手元にも残しつつ、教員も学びの成果をその都度見ることができます。定期的にノートを提出させなくても、一人ひとりの理解度や受け止め方を把握できるようになり、それが個別指導のきっかけにもなっています。

こうした授業では、顕著な変化として授業の中で教員が話をする時間が目に見えて減っています。生徒たちがお互いに話し合うことで、授業の多くが構成されるようになったのは大きな変化だと思います。

学びの記録が残ることで生徒自身が振り返ることができる

また、実技を伴う教科ではとても活用がしやすいと思います。写真2は、美術の授業の様子ですが、自分で考案したオリジナル“ゆるキャラ”のフィギュアを作っています。最初はワークシートに平面のアイデアスケッチを描き、それを基に粘土で型を作って和紙を貼ります。その後、型から外して張り子にして絵付けをするのですが、毎時間の終わりに作品の写真を撮って[発表ノート]に貼りつけて、コメントを添えて提出します。

教員は生徒一人ひとりの作品の実物とコメントを見ながら、完成までの過程を細かく見取ることができますし、生徒にとっても構想から完成までの細かな工程を、学びの記録として残し、自分で振り返ることができます。

そのほかに、生徒たちが制作した体育大会の応援旗のデザイン案をすべて写真に撮ってクラス内で共有し、投票させてデザインを決定したクラスもあります。また、夏休みの宿題として、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が主催する「ひろげよう情報モラル・セキュリティコンクール」の標語の公募に取り組ませ、ICTに関わる危険性を生徒自身が考えるきっかけとしたという例もあります。

写真2毎時間の終わりに[発表ノート]に記録を残し、コメントを添えて提出

小・中連携でタイピングスキルの平準化に取り組む

このように授業内外でのICT活用が始まるなか、課題も少なくありません。活用が始まってすぐに直面したのが生徒たちのタイピングスキルの差です。日頃から家庭でコンピュータを使っている生徒は、まさに水を得た魚のようにタイピングできましたが、まったくできない生徒もいました。また、スマートフォンを使い慣れていてフリック入力ならできるけど、キーボードは使えないという生徒も多いです。

タイピングスキルの差が学力の差につながってしまわないように、タイピングアプリでの基本練習に取り組んでおり、情報委員会からは夏休みの宿題にタイピングの基礎練習を加えました。現在は基礎的な力はついてきているので、学習活動に大きな支障が出ることはありませんが、今後も総合的な学習の時間などを使い、練習の時間を確保できるようにしたいと思います。また、本校の校区内にある小学校との小中連携委員会でも、この課題を共有し、中学校に進学する際に格差が生じないよう、小学生のときから基礎的なタイピングスキルを習得できるようにし、スキルの平準化に取り組んでいけたらと考えています。

少人数の教科会などを活用しICT活用のスキルアップに

教員にもよく似た課題があり、もともとICTが得意な教員もいれば、不得意な教員もいるのが実情です。現在は、情報委員会の教員が中心となって創意工夫しながら、ICT活用の推進をしていますが、不得意な教員もICT活用の機会を増やしながら、スキル向上に取り組んでいるという段階です。

そのため現時点では、教員間でICT活用の仕方が統一できていないという点で課題があるのは確かです。各教科においてどのように評価すべきかを検討しているところです。しかし、コロナ禍によりICT活用の必要性が増していることや、1人1台端末が整備されて環境が大きく変わっていることは、すべての教員が実感しており、積極的に取り組もうとする教員が多いことは間違いありません。本校の強みでもあります。

その意味で、1年目となる本年は端末や各種ツールの使い方に主眼を置いた研修が多くなっていました。情報委員会の教員でも、当初は「このツールをどう使うか」という部分に軸足を置いてしまっていた部分もあったと思います。2年目に向けては、ICTが使えることを前提としつつ、「この取り組みには、ICTが適しているから活用しよう」というように、教員自身がICTを道具の1つとして、目的を持って活用していけるようにしていきたいと思っています。現在は、ICT支援員に教科会などへ参加してもらい、各教科でどのように活用していけば効果的かを具体的に検討しています。教科会は少人数で行いますので、不得意な教員も疑問があればすぐに相談できます。こうした機会を生かし、学校全体にICT活用が広がっていくよう、継続して取り組んでいきたいと思っています。

(2021年12月取材 / 2022年3月掲載)