教育情報化最前線

大阪府豊中市教育委員会 GIGAスクール元年 成果と課題 教員が授業づくりに集中できるよう運用面を全面的に支援

大阪府豊中市では、2020年度に市内の小・中学校に児童生徒1人1台となる32,400台の端末を整備し、併せて各学校のネットワーク環境も見直しました。大規模なICT環境整備にあたり、教育委員会としてどのように取り組まれたのかを大阪府豊中市教育委員会の森 真理子 主幹と北村 崇子 主査にお話を伺いました。

大阪府豊中市教育委員会事務局 教育センター

森 真理子 主幹

大阪府豊中市教育委員会事務局 教育センター

北村 崇子 情報科学係 主査

LTEモデルのタブレット端末
『SKYMENU Cloud』を導入

当市は昨年度(2020年度)、文部科学省の「GIGAスクール構想の実現に向けたICT環境整備」の打ち出しを受けて、児童生徒1人1台にあたるiPad(LTEモデル)32,400台を整備しました。この端末整備に併せて、各校の校内LANの見直しや学校ごとに直接インターネットに 接続できるようにするためのブレイクアウト環境、充電保管庫などを整備しました。iPadは、同年9月中旬に中学3年生を対象に配備したのを皮切りに、中学2年生、1年生、小学6年生と学年ごとに順次配備。同年度2月末に小学1年生を対象とした配備が完了し、年度内に児童生徒1人1台端末の環境が整いました。加えて、市独自予算で本年度(2021年度)8月に教員用のiPad 1,600台を追加整備しました。

ICT支援員への研修も実施
学校への手厚いフォローを実現

これらハード面(機器や設備などのICT環境)の整備に併せて、ソフト面(人的支援)の整備も進めました。教育委員会では、2020年6月に「ICTを活用した学び方改革プロジェクトチーム」を発足。以前は3名体制だったICT担当者を10名に増員し、各学校の導入・活用を支援する「GIGAスクールサポーター(以下、サポーター)」も30名体制に拡充しました。

サポーターには、まず各学校の児童生徒名簿に、端末番号やID / パスワードを紐づけた台帳を作ってもらいました。これは、端末が配備されたときに子どもたちに必要な情報を渡し、すぐに活用を開始するための事前準備です。また、導入にあたって校内研修も担当してもらいました。コロナ禍への対応に追われている学校に、できる限り負担を掛けないためにも運用面のフォローは欠かせなかったと考えています。なお、このサポーターは今年度にICT支援員(以下、支援員)として、校務システムの活用や学校ホームページの更新サポートなどにも役割を広げて、各学校を支援してもらっています。

当市の支援員は、毎週月曜日に教育センターに集まって研修を行い、学校ごとの困りごとや校内研修の成功事例を共有したり、支援員のスキル向上のための学習に取り組んだりしています。学校を訪問する回数は減りますが、支援員が互いに経験を共有し、協力し合う関係が構築できた方が、結果的に学校への手厚いフォローにつながっていると感じています。支援員にとっても「豊中市ならば学校の情報を共有しながら、自らのスキルアップもできる」と、やりがいを持って取り組んでもらうことができていると思います。

教員の負担が増えないように
ルールや手順書の整備に注力

こうした環境面と人的支援の整備と並行して、当市としてICTをどのように学びに生かしていくのかという基本方針づくりと運用ルールの策定に取り組みました。まず、『ICTを活用した「学び」の基本方針』をまとめ、その中で6つの基本項目図1を定めました。

すべての施策は、この基本項目の実現をめざして取り組んできました。大規模なICT環境整備を進めるなかで、同時に運用ルールづくりや申請用の様式などを準備するのは大変な作業でした。しかし、教育委員会は端末を配備するだけで、運用や活用については学校に任せるということになれば、教員の負担が大きくなるだけではなく、混乱を招きかねないと危惧したためです。保護者としても、学校ごとに運用ルールが異なる状況では不安を感じるものです。ですから、文部科学省の資料や他自治体の事例などを参考にしながら、保護者や教員向けのマニュアルや端末の故障対応の手順、要望書の様式の整備などを進め、指導主事が協力して内容を練り上げていき「就寝前は30分以上タブレット端末を使用しない」といった子どもたちのための活用ルールも作成しました。

大きな変化に際しては、初めに十分な準備を行い、その後の実運用の中で中身を見直していく方が良いと考えたからです。

図1豊中市『ICTを活用した「学び」の基本方針』で示した6つの基本項目

あいまいな答えの聞き取りに最適な[ポジショニング]

例えば、当市のイントラネット内で閲覧できるサイトには、教員用のFAQを掲載していますが、現在は第3版を公開しています。これも、今後さらに見直していきたいと考えています。そのほか、このイントラネットサイトには、教員用にeラーニングに活用できるコンテンツや各学校から寄せられた実践事例などを学年・教科ごとに整理して掲載しています。また、各学校の情報担当者が参加する「ICT推進委員会」を年3回開催し、教員同士が交流を行うことでICT活用の推進に取り組んでいます。

実践の様子を聞くと、小学校では『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]の活用頻度が高く、特に低学年ではその傾向が顕著です。また、中学校では「Microsoft Teams」を使った交流が多いようです。小学校、中学校共に活用されているのは[ポジショニング]で、道徳などで子どもたちからあいまいな答えを聞き取るのには、最適なツールだという声を耳にすることが多く、クラス集団の中で他者理解にとても役立つ機能だと好評です。

▲ [発表ノート]は小学校低学年から活用されている
▲ [ポジショニング]はあいまいな答えを聞き取るのに有効

アプリ追加の要望書を作成
学校、教員の要望に応える

こうした学習用ツールは、当初導入したもの以外にも学校からの追加要望に応じてアプリを追加しています。学校全体で活用したいものや個別の児童生徒のために必要となるものなどさまざまですが、学校から要望書を受け、広告掲載の有無やアプリ内で課金ができるものではないかなどを確かめてから、教育的な意味があると判断できたものは、各学校が自由にダウンロードできるようにしています。

学校ごとや端末ごとに使用するアプリが異なることは、メンテナンスなどの運用上の手間が増大する懸念があります。しかし、学校には個別の支援を必要とする子どもも在籍していることから、一人ひとりに合わせた環境を用意することは、個別最適化の観点からも最優先事項だと考えて、こうした運用形態を取っています。

一人ひとりのアウトプットを共有し
多様な考えに触れる機会を増やす

この1年間を振り返り、学校は当初想定していた以上のスピード感で活用に取り組んでくれていると感じています。特に、8月に教員用の端末を整備してからは、目に見えて活用が進んでいます。それまでの教員用端末は、以前に整備したWindows端末だけでしたので、授業づくりを考えるときも、子どもたちと同じ環境がないことがネックになっていました。しかし、環境が整ったことで「こういう活動をさせたい」「こんな学びにつなげたい」と授業づくりの中で、ICTをどう活用するのかという観点が生まれていると思います。

一方で、現時点ではまだ、学校ごとや教員ごとにICTを活用するタイミングや頻度に差があることは否めません。子どもたちの表現力を向上させるにはどうすればいいか、情報活用能力を身につけさせるためには何が必要かという観点でICT活用を考えなくてはいけません。そして、それらを学校としてどのようにカリキュラムに組み入れていくのかが大切になってくると思います。しかしそれは、まったく新しい取り組みをするということではなく、従来型の授業づくりで大事にしてきたことに磨きをかけていきながら、さらに深い学びにつなげていけるようにICTを活用してもらいたいということです。

そのためにも、ICTを単なるインプットの道具に終わらせてしまうのはもったいないと感じます。インターネットを使った調べ学習などで知識を得るだけではなく、一人ひとりの意見をアウトプットさせ、共有することで、より多くの考え方を知ることができます。学校は、子どもたちが初めて多様性に触れる場であり、それこそが集団で学ぶ意義だと思いますので、表現や共有という場面での活用を、これまで以上に広げていけたらと思います。

(2021年12月取材 / 2022年3月掲載)