教育情報化最前線

オンライン学習、端末持ち帰り 最前線三重県四日市市立内部東小学校 <レポート>オンライン学習への方策 プロジェクトチームが主導し、
1人1台の活用、オンライン学習へ

四日市市では新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、夏休み明けの9月1日から約2週間、原則登校せず、学校と自宅をつないだオンライン学習が実施されました。四日市市立内部東小学校では短い準備期間にもかかわらず、校内で立ち上げた「ICTプロジェクトチーム」が主導し、全児童のタブレット端末にクラウド型グループウェアを導入し、Web会議システムと組み合わせた授業を行いました。児童の学びを止めない取り組みについて、前田 賢一 校長と今井 啓介 指導教諭に伺いました。

前田 賢一 校長

三重県四日市市立内部東小学校

今井 啓介 指導教諭

三重県四日市市立内部東小学校

昨年度から『SKYMENU Class』を中心とした
ICT活用を推進

学校の特徴や昨年度までのICT活用について教えてください。

本校は児童565名、教員30名の中規模校です。今年度定めた学校目標のなかで児童への「指導の重点」の一つとして、問題解決能力および主体的に学習に取り組む態度の育成を掲げ、その実現に向けてICTの有効な活用をめざしています。昨年度は、ICT担当だった今井が中心となって活用を推進してきました。

四日市市では早くから電子黒板やデジタル教科書が導入されていました。教員は、動画を再生したり、Microsoft PowerPointを活用したりするほか、教員用のタブレット端末を使って『SKYMENU Class』を活用する機会もありました。しかし、ICTの活用は面白そうだという思いはあっても、授業で児童への有効な指導に活用できるまでには至っていない段階でした。

昨年度当初は児童用のタブレット端末は40台ほどでしたが、まずはこのタブレット端末の稼働率を上げる取り組みを行いました。

具体的に、ICT担当としてどのように動かれたのでしょうか。

まずは既存設備を活用して、教員のICTへの関心を高めることから始めました。それに慣れたところで児童用タブレット端末の活用を進めるため、『SKYMENU Class』の[発表ノート]の使い方について研修を行いました。ところが教員だけが参加する研修では、子どもがタブレット端末を活用している姿がイメージしづらいという課題がありました。

そこで、今井が「タブレットPowerUp月間」として、自分の授業がないときにすべてのクラスを回り、出前授業を行ったのです。研修だけでなく、実際に授業で活用する様子を見ることで、教員はイメージをつかむことができました。さらに子どもたちの楽しそうに学習に取り組む反応を見て「やろう!」と前向きになりました。

GIGAスクール構想に先駆けた取り組みがあったのですね。

昨年度はICT活用の種まきの期間でした。そのかいあってか、本年度から『SKYMENU Class』の[発表ノート]を活用した協働学習が多くの教科で行われました。ほかにも体育の実技で動画を撮影し、[追っかけ再生]機能を使って実技の直後に子どもに自分の動きを確認させるなど、教員が進んで授業のツールとして活用するようになったと思います。

本当に頑張ってくれました。今年度はICT担当が今井から別の教員に変わりました。昨年度からのさまざまな取り組みがあったとはいえ、学級での仕事もあるなか、ICTを担当する教員が一手に関連する業務を引き受けることは無理があります。そこで、5月に「ICTプロジェクトチーム」を立ち上げました。1人の負担をチームで分担することにしたのです。

チームメンバーにはICTに詳しい教員だけでなく、逆にICTが苦手な教員、専科の教員や校長にも加わってもらいました。これにより、さまざまな視点でICTの活用を考えていくことができていると思います。

オンライン学習がスタート。学校全体で教材を共有

本格的に1人1台端末を活用していく上で、心掛けていることはありますか。

何より「子どもたちにとって有効かどうか」です。本校は決して先進的な活用をめざしているわけではありません。教員も子どもも無理をしては続かない。ですから、持続可能であることも重要だと思っています。

確かに「子どものため」と考えることで教員もエネルギーが湧きますね。あとは、教員にも楽しく活用してもらうことです。難しい導入時の作業や細かな設定はICT担当が担うことで、教員は指導への活用に注力してもらいたいと思っています。

四日市市では、新型コロナウイルス感染症の影響で、夏休み明けから約2週間オンライン学習が行われたそうですが、貴校ではどのように対応したのですか。

8月下旬に、夏休み明けはオンライン学習になりそうだという話が入ってきました。授業はどのように行うか、子どもたちに明日の予定をどう伝えるか、Web会議システムを使った場合に接続できない子どもへの対応など、たくさんの課題がありました。

そうですね。それらの課題を解決する方法の一つとして、クラウド型グループウェア「Google Workspace for Education」の活用を考えました。というのも、すでに4月から6年生を中心に試験的に使っており、私はその有用性を実感していましたので、ほかの教員へ導入を提案しました。

オンライン学習開始までの限られた期間のなかで、新しい取り組みを行うことを不安に思う先生もいらっしゃったのではないですか。

クラウド型グループウェアを使うことで、子どもたちに明日の授業の予定を伝えられることや、授業で使う動画や教材を送信できることなどの利点をプレゼンテーションしました。設定などについて不安を感じる教員のため、設定や登録はICT担当が担うこともお伝えしました。

何より、前回の臨時休校の際(2020年4月)に、各家庭に配ったプリントの答え合わせをどのように行うべきかなど、学習の進め方への課題に苦労した経験がありました。その経験から今回は、クラウド型グループウェアの導入は大変ではあるものの、子どもの学びを止めないために必要なものだと、教員も受け入れてくれました。

オンライン学習に必要な設定は、8月30日、31日の個別登校日を利用して行いました。ICT担当やICTに詳しい教員が中心となって児童が持参したタブレット端末へアカウント設定や登録を行い、そのほかの教員が操作手順について説明するなど、役割分担することで効率良く進めることができました。

日々の教材はどのように準備されたのでしょうか。

オンライン学習は、クラス単位ではなく学年全体で教材を共有して取り組むことにしました。一つの学年の教員が、教科を分けて教材を作成することで負担軽減にもつながります。

専科の教員も頑張ってくれました。体育の担当が体操、栄養教諭が食事のバランスについて、養護教諭はタブレット端末を使う子どもたちの目が疲れないように、目の体操などの動画を作りました。これは学年を問わず使用できる教材ですよね。

学校全体で共有する資料などを保存しているフォルダの中には、新たな教材が増えていき、学年を問わず教材をシェアできる体制が徐々に整いました。子どもたちから、体操の動画を見ながら家族でやってみたなどの感想があると、教員もより前向きになり、教材研究が活発になりました。

また、教材の作成には使い慣れた『SKYMENU Class』が役立ちました。動画の撮影に使うほか、[タイマー]機能をチャイムの代わりに利用する教員もいました。

▲ 算数の教材を動画で作成
▲ 体育の担当を中心にラジオ体操を撮影

核になったのは「ICTプロジェクトチーム」
学校一丸で取り組み同僚性もアップ

具体的にはどのようにオンライン学習が行われたのでしょうか。

一日の学習の始めと終わりに30分ずつ、Web会議システムで1日の予定の確認やその日の学習の振り返りなどを行いました。それ以外の時間は、あらかじめクラウド型グループウェアに送信した教材に取り組むスケジュールです。

先ほど校長がお話ししたように、大事なのは「子どもたちにとって有効かどうか」ということです。もしクラウド型の『SKYMENU Cloud』が導入できていれば、[発表ノート]を使うことができ、オンラインでも双方向型の学習が可能だったと思います。対面の授業に近い形で指導ができ、より深い学びに活用できたのではないかと感じています。

トラブルや苦労されたこともあったかと思うのですが、どのように対応したのでしょうか。

オンライン学習スタート時にはWeb会議システムに接続できないトラブルがありました。本校でも、接続できない家庭から問い合わせの電話が多くかかってきました。朝、担任を持つ教員は教室からWeb会議システムで配信しており、電話に出ることができないため、ここでも専科の教員が活躍してくれました。保護者からの連絡に対応し、対応策を丁寧に伝えてくれました。

Web会議システムにつながらなくても学びに差が出ることはありませんが、やはり保護者や子どもたちは接続できないことへの不安を感じていました。先生たちは不安解消のために各家庭にきめ細かく対応をしてくれました。

電話などのアナログな方法も取り入れたことが、保護者の安心感につながったと思います。教員も臨機応変に対応してくれて、本当に学校が一丸となった取り組みだったと感じています。

オンライン学習によってどのような収穫がありましたか?

教材を共有することなどを通じて教員同士が協力し合い、教員の同僚性が確実にアップしました。また、Web会議システムを使ったり動画を撮影して教材を作成したりと新たな挑戦をしたことで、教員の急速なICT活用のスキルアップにもつながったと思います。

ベテランの教員を頼っていた初任の教員も、いつの間にかICTに関しては「任せてください」と積極的に取り組んでいました。この経験が今後の自信になったと思います。

▲ 教材の共有などを通じて教員の同僚性がアップ

短期間で先進的な取り組みができたポイントは何だったのでしょうか。

「ICTプロジェクトチーム」があったからです。私が何か新しい活用を提案しても必ずチームで話し合い、方向性を定めた上で教員に周知することができました。

先ほどもお話ししましたが、チームは専科の教員やベテランの教員など多様な教員がメンバーです。ICTに詳しい教員は、さまざまな活用方法を提案してくれます。それに対してベテランの教員からは「慣れない教員には負担が大きい」「保護者に伝わるか」など、冷静な意見が出ます。ICTの扱いに慣れてくると、より進んだ活用方法を取り入れることに夢中になってしまいがちですが、客観的な指摘をしてくれたことで、無理のない活用を進めることができたと思います。

少人数で割とフランクな雰囲気でしたので、活発に意見交換することもできました。校長もメンバーとして、文書の作成や保護者への呼び掛けという役割を担ってくださいました。

それぞれの立場から意見を出し合うことができる「ICTプロジェクトチーム」という核があったからこそ、学校全体の取り組みへと広げることができたのだと強く実感しています。

今後の1人1台端末活用の展望について教えてください。

子どもたちがタブレット端末を自ら使いこなせるようになってほしいです。教員が主導するのではなく、子どもたちが文房具のようにタブレット端末を使いこなし、授業の場面に応じて「この機能を使いたい」など、自ら提案できるようになってほしいと思います。

そのためには、検索やキーボード入力、写真や動画の撮影など、子どもたちがスキルを習得することが大切だと思います。1~6年生まで通して使用するチェックシートを作って、身に付けているスキルを把握する取り組みを行うつもりです。

また、「主体的・対話的で深い学び」の特に「対話的で深い学び」に向け、タブレット端末を活用したいです。それには、タブレット端末を使って友達と意見交換したからこそ、新しい考えや意見が生まれたという実感を、子どもたちが持てる取り組みが大事になると思います。

そうですね。今回のオンライン学習の期間を終えて、教員へのアンケートを実施しました。現在集計していますが、結果を分析して続けられる取り組みを見極めていきたいです。今後も子どもたちのために、ICTの活用を無理なく続けていきたいです。

(2021年10月取材 / 2022年1月掲載)