教育情報化最前線

オンライン学習、端末持ち帰り 最前線学校法人 成田山教育財団 成田高等学校付属小学校<レポート>ハイブリッド型授業の取り組み連絡帳のデジタル化をきっかけに、
クラウドと1人1台端末活用が定着

成田高等学校付属小学校は、2021年4月から、4年生以上の児童で、BYOD(Bring Your Own Device)による1人1台端末(iPad)の運用をスタート。『SKYMENU Cloud』の[電子連絡板]を使い、これまでの学校と児童、保護者との連絡手段であった「連絡帳」をデジタル化。情報共有の効率化をきっかけに1人1台端末活用を日常化し、2021年9月緊急事態宣言下で1か月間の「ハイブリッド型授業」を展開されました。同校の取り組みについて、山縣 秀雄 教諭、佐々木 健視 教諭に伺いました。

山縣 秀雄教諭

学校法人 成田山教育財団 成田高等学校付属小学校(教務主任)

佐々木 健視教諭

学校法人 成田山教育財団 成田高等学校付属小学校(ICT担当)

2020年の全国一斉の臨時休業、授業動画を毎日配信し学習を支援

本校は、「成田山新勝寺の宗教的使命の達成と地域文化の向上」を目的に創設された成田高等学校の付属小学校です。小・中・高等学校12年間の一貫した教育活動を進めています。

1学年約35名程度の単学級で構成しており、全校児童は211名。教職員は非常勤・事務職員合わせて19名と小規模な学校です。小さな学校ですが、教科別担当制を取り入れることで複数の大人の目で児童を見守り、きめ細やかな指導を行っています。

昨年(2020年)、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言が発出された際、本校も約3か月間にわたる長期の臨時休業となりました。丁度、教員用に導入したiPadが先生方の手元に届き、新しい授業づくりにむけて先生方が意気込んでいたところでした。「学校に子どもがいない」「授業ができない」という、前代未聞の状況に、私たちも大変困惑しました。

そして、学校に来られない子どもたちの不安をどうにか解消できないか。学びを届けられないだろうかと教職員で話し合い、導入したばかりの教員用のiPadを活用して、子どもたちの学びを支援することを決めました。初めてタブレット端末に触れる教員も多く、右も左も分からないなかで、急ピッチで準備を進めました。

当時は通信状況も良くなく、慣れない双方向のオンライン授業をいきなり実施しては、児童のストレスが大きいと判断しました。そこで、3月末までにいくつかの動画を撮影し、配信することから始めました。4月からは、毎日3コマ分の授業を撮影、編集して配信することを目標に設定して取り組みました。最初は、撮影や動画編集に慣れず、作業に丸一日費やしたこともありました。何度も繰り返すうちに速くなり、次第にすべての教員がスムーズに対応できるようになっていました。動画配信は緊急事態宣言が終わるまでの約2か月間、毎日欠かさず続けました。苦労しましたが、学校再開後、子どもたち、保護者から本当にたくさんの感謝の声をいただくことができました。

4年生以上児童1人1台へ 全学年で『SKYMENU Cloud』を活用

2021年4月、4年生以上の児童で1人1台iPadの体制、3年生以下の児童は約80台のタブレット端末を共有利用する体制で新学期が始まりました。あわせてクラウドで利用できる授業支援システム、学習活動端末支援Webシステム『SKYMENU Cloud』の運用もスタートさせました。『SKYMENU Cloud』を導入した理由は大きく2つあります。

1つは、教材の[配付]や[回収][提出]、そして[画面一覧]など、すべての教員が1人1台端末の活用をイメージできる、分かりやすい仕組みが必要でした。本校ではコンピュータ教室で『SKYMENU Pro』を活用してきたので、『SKYMENU Cloud』であれば多くの教員がなじめると判断しました。

もう1つは、[電子連絡板]機能の存在です。[電子連絡板]は、児童の端末だけでなく各家庭の端末から簡単にアクセスして情報を閲覧できる機能です。学校と児童、保護者をつなぐ機能として、本校の抱える次の2つの課題を解決したいというねらいがありました。

ねらい① 正確に情報を共有する手段の確立

以前は災害時の対応を想定して、学校から保護者に連絡する手段として、メールの一斉配信システムを契約していました。しかし、災害時はメールの遅配が発生しやすく、保護者に無用な心配を与えてしまったことが度々ありました。[電子連絡板]は、インターネットに接続できれば、いつでも任意のタイミングで情報を閲覧できます。メールの遅配対策に加えて、何度でも情報を発信できることから、課題解決につながると考えました。

ねらい② 毎日の連絡帳の指導を改善

学級にはさまざまな児童がいます。なかには板書を写すのが苦手で、帰りの会で連絡帳に連絡事項を書き留めることに時間がかかる児童もいます。もちろん教員の日々の指導も大切なのですが、毎日の学校生活に関わることですから、支援を充実させたいと考えていました。

例えば、[電子連絡板]で日々の連絡を行えば、児童が連絡帳に記入する行為が必須でなくなります。児童も、教員も日々の連絡帳にかかる負担を軽減でき、さらに情報を正確に共有できることで、学校と家庭がより連携を密にして教育活動に取り組めるようになります。

もちろん、このような取り組みは「Google Workspace for Education」などのクラウド型グループウェアでも可能です。しかし、掲示板という単純明快な仕組みや、「日付」で情報を整理できる仕組みを持つ[電子連絡板]が、本校の運用により適していると考えました。

4年生以上で連絡帳を廃止し、『SKYMENU Cloud』の[電子連絡板]で連絡事項を共有

4月から早速[電子連絡板]の運用を開始しました。「児童・保護者用」の連絡板を1~6年生分で6枚、「教職員用」を1枚用意し、計7枚作成しました。

「児童・保護者用」の掲示板の中身は、これまで連絡帳に書いていた明日の時間割や持ち物、宿題、保護者への連絡事項を設定しました図1。[電子連絡板]と連絡帳との併用期間を経て、10月時点で4年生以上の全児童が連絡帳の利用をやめ、[電子連絡板]で連絡をしています。1~3年生は、書くことの大切さも考慮し、[電子連絡板]と連絡帳の併用を継続しました。

図1『SKYMENU Cloud』の「児童・保護者用」の連絡板

保護者には、各家庭の端末から『SKYMENU Cloud』にアクセスし、[電子連絡板]の内容を確認してもらっています。

児童が連絡帳を書かなくなることに対して、「忘れ物が増えるのではないか」「宿題をやってこないのではないか」と、当初は教員からさまざまな懸念の声が上がりました。

しかし、やってみると不都合な点は見られず、むしろ保護者から「子どもの書き忘れや書き間違いがなくて良い」「宿題の有無が正しく分かる」と、肯定的な反応をたくさんいただきました。

教員も、「保護者にお願いしたい事が正確に伝わるようになった」「伝え漏れがあっても、[電子連絡板]で連絡できるから助かる」と次第に良さを実感していきました。特に学級担任をしている教員は、連絡帳を確認する時間がなくなって、帰りの会が短くなったと喜んでいました。

こうした成果を得て、出欠連絡や健康観察、さらには簡易なアンケートで各種行事への保護者の参加有無なども確認できる[保護者連絡]機能の活用を検討しています。今はまだクラウド型グループウェアを活用しているのですが、教員が確認したい情報を得るためには、情報を少し編集する必要があります。[保護者連絡]機能の活用で、余計な一手間を削減してくれることを期待しています。

教職員用の連絡板で、情報共有を効率化。打ち合わせの時間を短縮

「教職員用」の連絡板は、教職員のみが閲覧できるので、教職員の情報共有に活用しています図2。どこにいても、自分の端末でいつでも最新情報を確認できるので、非常に便利になりました。

図2『SKYMENU Cloud』の「教職員用」の連絡板

ほとんどの情報共有は[電子連絡板]で事足りるようになり、全教職員を集めた打ち合わせは、週2回程度で済むようになりました。[電子連絡板]の運用ルールはとても単純で、「必ず前日までに共有したいことを入力する」「朝の8時までに閲覧する」の2つだけです。入力が間に合わなかった場合は、職員室のホワイトボードに書いて周知します。

教職員の情報共有という点では、[電子連絡板]は、教務主任の業務に大きなメリットがあります。それは全学級の連絡内容の確認です。手元の端末で全学級の連絡板を閲覧できるので、伝達漏れの有無、宿題の量などを確認し、必要に応じて学級担任にアドバイスができるようになりました。これは連絡帳を使っていたときは実現できなかったことです。

[電子連絡板]をきっかけに、日々の授業にICT活用が広がる

▲[発表ノート]で作成したワークシート

このように本校の1人1台端末の活用は、[電子連絡板]による情報共有から始まりました。そして今では[発表ノート]などを活用した授業づくりへと広がってきています。

例えば、国語では[発表ノート]で作成した教材を児童に[配付]。児童が書き込んで[提出]したノートを、[添削]機能で丸付けをして[返却]するという一連の学習サイクルを回しています。背景を固定化したり、背景の色を変えたりして、簡単に分かりやすいワークシートを作成できるのが、[発表ノート]の良さです。

家庭科でも活用されています。家庭科では、コロナ禍のために学校で調理実習を行えません。そこで自宅で行った調理の様子を動画で撮影し、そのデータを[教材・作品]機能で[提出]させていました。本来、手間のかかる動画ファイルの受け渡しが、容易に実現されていました。

[教材・作品]を使ったファイル配付の仕組みは、算数でも重宝しています。計算問題のプリントをPDFファイルで[配付]できるので、印刷して配付する手間を削減できるのです。これはオンライン学習時に非常に有効でした。

端末とクラウドの日常的な活用で、9月からのハイブリッド型授業に対応できた

オンライン学習については、今年度9月末まで緊急事態宣言が延長された際に、本校は約1か月にわたって「ハイブリッド型授業」を展開しました。具体的には「登校を希望する児童」と「自宅学習を希望する児童」をWeb会議システムで接続して、授業を実施しました。授業は、普段どおり『SKYMENU Cloud』やクラウド型グループウェアなどを使いました。

教室では、端末を2台使います。1台は黒板の板書や電子黒板の内容を撮影し、Web会議システムを介して自宅の児童に届けるために。もう1台の端末では『SKYMENU Cloud』を開き、教材ファイルや[発表ノート]を[一斉配付]に使いました。教室の児童も自宅の児童も、一緒に学習に取り組みました。[画面一覧]機能を使えば、すべての児童の学習状況を把握できるので、自宅にいる児童の指導に困ることはありませんでした。通常の授業と変わらない対応ができるので、教材準備の負担も少なく、助かりました。

工夫して対応した点があるとすれば、自宅の児童がWeb会議システムに入りやすいように、「オンライン授業入り口」と題した[電子連絡板]を新設しました。各学年のWeb会議のURLを貼り付けることで、毎日児童が迷わず参加できました。

▲ 2台の端末を使って、ハイブリッド型授業を実施した。1台(教員用iPad)は、黒板の前に設置。Web会議システムを使って、自宅の児童に板書を配信した。

ICT活用は、コロナ禍における既存の教育方法の代替手段ではない

本校のICT活用の躍進には、一つはコロナ禍における「必要性」があったことは否めません。しかしICT活用は「コロナ禍における既存の教育方法の代替手段」で終わるものではありません。そのように考えて、平常の教育活動から活用を積み重ねてきました。だからこそ9月からのハイブリッド型授業にも対応することができたのです。そして、『SKYMENU Cloud』はその下支えとして機能してくれました。

私たちは教員ですから、授業や教材づくりに苦労するのは当たり前のことです。しかし、手段であるツールの使い勝手で苦労するのは間違っています。そもそも、苦しいこと、つらいことは大人も子どもも長続きしないものです。持続可能な努力で、1歩1歩前進していくために、使いやすいICT環境づくりを大切にしたいと考えています。

最後に、教育では「不易と流行」という言葉がよく使われます。けれども、変化の激しい時代のなかで、私たちが不易であると認識していることが、いつまでも不易といえるのかは分かりません。「これからの子どもに本当に必要な学びとは」と常に問い続け、10年、20年先の社会を見据えた教育活動を全教員で協力して進めていきたいと思います。

(2021年10月取材 / 2022年1月掲載)