教育情報化最前線

実践児童生徒1人1台端末の日常的な活用のポイント 北海道教育大学附属函館中学校 データを活用した評価や教科の資質・能力の育成に『SKYMENU Cloud』を生かす 4年間のChromebook™の活用で見えてきた課題と新たな展開について

2017年より、BYODによる生徒1人1台端末の環境で教育活動を展開する北海道教育大学附属函館中学校。4年目を迎えた学校の取り組みや生徒の姿、そこから見えてきた成果と課題。そして、4年目からスタートした『SKYMENU Cloud』の活用から、これからの学びを考えます。

▶北海道教育大学附属函館中学校の4年間に亘る1人1台端末の活用についてはこちらからご覧ください

https://www.sky-school-ict.net/class/front/
発表者

有金 大輔 教諭

北海道教育大学附属函館中学校

発表者

郡司 直孝 教諭

北海道教育大学附属函館中学校

聞き手

佐藤 幸江 客員教授

放送大学

見えてきた活用面での課題① データの活用方法と教師の役割

1人1台端末が整備されたことで、これまで以上にICT活用が進んでいるなか、やはり課題も出てきています。お二人には、その課題についてのお話と、課題を解決するために『SKYMENU Cloud』を活用された授業づくりについて話していただきたいと思います。まずは、有金先生からお願いします。

課題の1つ目は、データの活用方法です。ICTを活用するとデータ量が膨大になります。そのデータを「どのように整理するのか」あるいは「どのように活用するのか」など、学習履歴を活用した指導方法について課題があると考えています。

次に教師の役割です。1人1台端末の環境では、生徒がより主体的に活用できるようになり、生徒同士の協働場面や会話場面が増えますが、そのときの教師の役割は何か。私は、教師は生徒の取り組みを把握し、適切に支援する必要があると考えています。その際「支援や助言をどこまで行うのか」「そのためにどのような活用をすればよいか」といった部分は、まだ課題となっています。今一度、教師の役割を考える必要があると思います。

それらの課題を改善するために『SKYMENU Cloud』を活用した事例をご紹介します。多様な考えや意見が発生する問いの場面で、1人ひとりの考えを共有することを目的として[発表ノート]を活用しました。そして、学習履歴を振り返ることが容易になるように、紙のワークシートと[発表ノート]の名前を統一しました。また、紙のワークシートを使って取り組む活動でも、一部[発表ノート]で行った方がよい部分に「SKY」と記載して、紙とタブレット端末の両方を使い分けています図1

図1

私は、ICTを活用する場面を次のように設定しています。

<ICTを活用する場面>
  • 多様な考えを共有したいとき
  • 瞬時に全員の意見をくみ取りたいとき
  • 深い学びにつながるとき(新たな問いや疑問)
  • 数値を変えたり、図形など動かしたりできるとき

▶ 紙では「できない・時間がかかる」

つまり、紙ではできなかったり時間がかかったりすることを、ICTで補完する形で活用するという考え方です。これは、紙の良さを残しつつICTを活用することで、考える時間や話し合う時間の確保につなげることを目的としています。

次に[添削]機能の活用です。これは[発表ノート]を用いた協働作業の場面で活用しました。[発表ノート]の[グループワーク]機能を使い、班でまとめた資料を[添削]機能を使って手書きで添削を書き入れたり、[評価スタンプ]を貼りつける簡易的な形で示してから生徒に返却し、学習履歴として残せるようにしました。

また[画面一覧]を活用することで[発表ノート]で作成している過程を把握できるようになり、教師からの適切な支援や助言が可能になりました。そのことで、単に表を埋める作業だけではなく、そこから分かったことや学んだことを記載するといった、深い学びへとつなげることができました。

『SKYMENU Cloud』を活用したことに対して生徒たちにアンケートを行いました。その結果、『SKYMENU Cloud』の使いやすさについては、約95%が肯定的な回答。また、[添削]機能についても約85%が「学習をより良いものにした」と回答しています。特に手書き入力による使いやすい[添削]機能によって、学習意欲の向上などにつながったと考えられます。

見えてきた活用面での課題② 膨大な情報にいかに関わるのか

私からも、タブレット端末活用の課題についてお話したいと思います。ICTが整備されたことで、発表資料を作成するような活動に頻繁に取り組めるようになりました。しかし表現の自由度が高い場合、あれやこれやと詰め込み過ぎてしまって情報量が多くなりがちです。このことから、膨大な情報にいかに関わるのかという新たな課題が見えてきました。

とにかく文字を詰め込んだというスライドも、決して少なくありません。それでは知り得た知識や細かい事象をただ羅列するだけになってしまい、本質的な部分がつかめなくなってしまうのではないでしょうか。そこで、[シンプルプレゼン]と[ポジショニング]を活用した実践をご紹介したいと思います。

2年生の社会科(地理的分野)「世界から見た日本の自然環境」という、5時間構成の単元において、1~5の各単位時間の最後20分間に[シンプルプレゼン]と[ポジショニング]を使った授業を行いました。[シンプルプレゼン]の制約がある資料作りの過程で「何が大切なのか」「何が軸なのか」をじっくり考えてまとめ、[ポジショニング]のコメント欄には長めの文章で自分の考えをしっかりと記述するという2つの取り組みを行いました図2

この単元が終わった後、生徒へのアンケートを行ったところ、おおむね好意的な回答が寄せられました。[シンプルプレゼン]の活用によって、授業の中身をもう一度振り返り、どの部分が大事なのかをしっかりと捉えられる点。そして[ポジショニング]で後から自分の考えを見直すことができる点。特に、こういった部分が『SKYMENU Cloud』を活用することの良さだと感じています。

また、生徒たちが「授業の最後の20分間にやることがある」と意識しながら授業者の説明を聞いている様子が見て取れました。また授業者としても、最後にこうした学習活動を行うことを前提として、前半の説明部分をコンパクトにまとめ、中核的な部分をきちんと説明するようになりました。これらが、授業改善に役立ったと考えています。

図2

立ち止まって悩んだこと自体が、
教科の資質・能力を伸ばす上では重要

制限があることが、生徒の活動にどんな変化を与えたのか

お二人の話はとても興味深いですね。お二人とも普段から「学習者主体の授業」「シームレスな学び」をめざしておられますが、それぞれが違った課題を抱えていて、その課題をどのように解決しようかと試行錯誤されていることも分かりました。

ただ、有金先生や郡司先生だから、それぞれがお持ちの授業観をうまく転換しながら授業改善が行えるのだと思いますが、一般的には1人で取り組むのはつらいところがあります。せっかく1人1台端末が整備され、これからは全員が同時スタートになるわけですから、職場の同僚や管理職の皆さんと一緒になって「仲間と共に歩んでいこう」という姿勢が大事だと感じます。そのときには、自分の授業でどのような資質・能力を育んでいくのか、そのために授業デザインをどうすればいいのか、そして資質・能力をどう評価すればいいのか、といった部分を考えていくことが大切です。ぜひ授業を通して、そしてディスカッションしながらスパイラルを高めていきたいですね。

さて、お話を伺っていると、ICTが私たちの授業改善を手助けしている部分があると感じられました。郡司先生は、多くの情報の中から何を選択して自分の意見の構築に活用すればいいのか。その部分が、なかなか身につかなかったが、今回ご紹介された[シンプルプレゼン]では制限を設けられる点が良いところだったと。その「制限がある」ということが、子どもたちの活動にどんな変化を与えたのかについて、後で詳しくお話しいただきたいと思います。

有金先生は、いろいろな評価に使っているということでした。これからは教師だけではなく、生徒自身も学習履歴を見ることで、自分の学びを自覚したり、メタ認知につなげたりすることが大事になると思います。そうした点で、ICTが支えられる部分はどこなのかを伺いたいと思います。

制限がない状態では、情報を右から左に流してまとめるだけで完成としてしまうようなこともたくさんありますし、いろいろなWebサイトから画像を持ってきてペタペタと貼れば、それなりに見た目がいいものができてしまいます。しかし、それでは精選していない情報をただ集めて、見栄えよく貼りつけただけです。それを発表して終わりということでは、自分の考えをまとめるための悩みや工夫といった試行錯誤がないまま、形だけの発表をすることになってしまいます。これまでは、このような課題がありました。

もちろん、[シンプルプレゼン]によって厳しい制限が加わることで「不便だ」という生徒もいます。しかし、不便だと感じていること自体が成果だともいえます。「本当に言葉にするべきものは、何だろう」といった観点で試行錯誤することが、生徒の力を伸ばしてくれていると思うからです。教科書やWebページなどに掲載された情報を、そのまま持ってくるのではなく、「この情報のどこが核になるんだろう」と考えた上で「ここが核になるなら、逆にこの部分は必要ない」といった取捨選択をする。それを、それぞれの生徒ができるようになってもらいたいと考えています。

なるほど。制限を与えるということは、生徒が立ち止まってもう一度考えるという機会を与えるということなんでしょうか。

そう思います。本当に書くべきものは何なのか。そこに立ち返ることができるのではないかと考えています。たとえ、出来上がったものの見栄えがいまひとつであったとしても、立ち止まって悩んだこと自体が、教科の資質・能力を伸ばす上では重要だと考えています。

とても大事な点だと思います。続いて、有金先生よろしくお願いいたします。

添削されて返ってくることで、意欲の向上につながっている

私がICTの活用で一番のデメリットだと感じていたのが評価の部分でした。特に、子どもたちにうまくフィードバックができなかったのが、これまでの課題でした。学習用ツールによっては、コメント機能などを使ってフィードバックをすることもできますが、時間がかかりますし、子どもたちのデータがいろんなところに散在してしまい、評価や振り返りには使いづらい部分があったというのが実感です。一方で、今年に入ってから『SKYMENU Cloud』の[添削]機能図3が使えるようになり、簡単に手早く添削できるようになったのは大きなメリットだと感じています。

特に[評価スタンプ]を使って区別できるのが良かったです。生徒に返却する前にスタンプの区別について話しておくことで「こういうところが足りないんだ」「こういうことが必要なんだ」と伝えられます。また、必要なときには手書きでサッとコメントを書き添えることができるのも[添削]機能のすごくいいところだと感じます。子どもたちからも、添削されて返ってくることで、意欲の向上につながっているという話がありました。やはり評価については、システムをうまく使うことが必要だと考えています。

図3

生徒たちにとっては、評価が返ってくると「なるほど。ここは、こういうふうに考えればよかったのか」といった振り返りにつながりますね。もう一つ、追加の質問ですが、今のお話はひと並びのある時点での評価と、生徒が学習履歴を見ながら自分の学びを振り返るというところでしたが、それが蓄積されてくると時系列で自分の成長が見られると思うのですが、そのあたりについて、『SKYMENU Cloud』では何か補助的な機能があるのでしょうか。

ワークシートの名称を整えるといった工夫はしてみましたが、現時点の『SKYMENU Cloud』では、まだ難しいようです。名前などを統一すればファイルが閲覧しやすくなるといったことができるなら、子どもたちも振り返りやすくなったのではないかと感じています。ただ、それぞれの授業における学習履歴の残し方、あるいは振り返りの仕方についても工夫や改善が必要だと思いますので、それは教師の課題の一つになるのではないかと感じています。今後は、そのあたりも考慮した授業デザインが必要になるのではないでしょうか。

1人1台端末は令和の学びの「スタンダード」

そうですね、これからは評価も含めた授業デザインを考えていくことが必要だと思います。どうも、ありがとうございました。ここまでのお話のまとめをさせていただきます。

お二人とも、本当に楽しそうに「自分の授業では、こういう部分が足りていないから、もっとこうしたい」「そのためにこんな活用をした」と話されていました。そういう姿勢がとても大事だと思います。これからは、ぜひみんなで「私の授業改善はここから」とワクワクしながら取り組まれるようになっていけばいいなと思います。そのためにも、私から2つの点について話をさせていただきます。

まずは1つ目。一緒に共同研究に取り組んでいる放送大学の中川先生がよく提示されている図4を拝借しました。タブレット端末などが導入されたとき、どうしても私たちは①の部分の授業でどうやって効果的に活用しようかと考えがちです。今日もその話をしていただきました。しかし、函館中学校では、そこに至るためのプロセスがあったはずです。子どもたちに②や③のように授業以外でどう使わせればいいか、④の授業においてもっと簡単に日常的に使える方法はないだろうかと、先生たちは試行錯誤されてきたと思います。こうしたプロセスを経て、また①に戻ってくるという取り組みを、ぜひ考えていただければと思います。①だけにフォーカスせずに、もう少し引いた広い視点で、どういうふうにアプローチしていけばいいのかも考えていただくことが大事だと思います。

図4②③④にどうアプローチするか?

そして、もう一つ。図5は、研究者の方々によく用いられている「SAMRモデル」と呼ばれているものです。最初の段階は「代替」です。今までは紙に印字して配っていたものを、PDF形式のファイルでタブレット端末に配付するといったことから始めましょう、ということです。その次に「変容」です。だんだんと配付したものを先生が回収して、さらには全員で共有するといったこともできるようになります。そして、もっと学習者主体にするには、例えば事前に配信しておき、子どもたちが「分からなかった」「もっとここを深めたい」という部分を協働的に学べるように増強していく。そして、最終的には「再定義」し、空間や時間にとらわれずに授業を再設計していこうということです。

図5AMRモデルで表す学びの段階

これらをめざして「まず、自分はどこから出発していこうか」と考えるとどうでしょう。ワクワクしてきませんか?ぜひ、このプロセスを見て、今の自分はこの段階だけれども「次の段階に行くには何をしていけばいいか」と考えていかれると良いのではないかと思います。

こうしたアプローチによって、タブレット端末を使うことを目的にするのではなく、教師は「どのような資質・能力を育むのか」を考えて、そして学習者に対しても「新しい文房具であるタブレット端末は学びのために使うもの」という意識を育てながら、教師と学習者とで新しい学びを創りあげていっていただければ、本日の私たちのセッションも、わずかばかりはお役に立てたことになるのかなと思っております。ありがとうございました。

(2021年7月掲載)