教育情報化最前線

山形県鶴岡市教育委員会 「授業の失敗」を切り口に、1人1台活用を提案
無理のない活用で授業改善へ 悉皆研修で『SKYMENU Cloud』の活用イメージを共有、操作を習得

山形県鶴岡市は、2021年2月からGIGAスクール構想による1人1台端末の運用をスタート。小学生から中学生、若手教員からベテラン教員まで、幅広く1人1台端末の活用が広がっています。短期間でどのように活用を浸透させていったのか。同市の取り組みについて、鶴岡市教育委員会 学校教育課の山中 秀人 指導主事に伺いました。

山中 秀人

山形県鶴岡市教育委員会 指導主事

小学校1年から中学校3年まで、児童生徒1人1台の端末を整備

当市は、山形県の西部に位置する人口約13万人の都市です。2005年に周辺の町村と合併し、東北で最も広い面積を有する市になりました。管内には、小学校26校、中学校11校、併せて37校の小中学校があり、約800名の教職員と約9,000名の児童生徒が在籍しています。

市内には、全国最多となる3つの日本遺産「出羽三山」「松ヶ岡開墾場」「北前船寄港地・船主集落」があり、ユネスコの食文化創造都市の指定も受けています。豊かな自然、文化に囲まれて、子どもたちはのびのびと育っています。

学校のICT環境については、コンピュータ教室をはじめ、普通教室の教員用コンピュータやプロジェクタ、実物投影機、指導者用デジタル教科書、など他市町村などと大きく変わらない整備を進めてきました。ICTが得意な先生を中心に活用を進めてきましたが、若手教員の増加に伴い、ICT活用が少しずつ広がってきたところです。

そうしたなかで、国のGIGAスクール構想によって児童生徒1人1台の端末整備が打ち出されました。当市では、小学校1年から中学校3年まで全児童生徒分の端末整備を早々に決定。Sky株式会社が提供する『Sky安心GIGAタブレット』を児童生徒機として採用しました。

2021年3月までに全校の校内ネットワークの更新や充電保管庫、端末の配備を完了させました。また補助対象外ですが、教員用端末の整備と高速大容量通信に耐えうるインターネット回線の契約も行いました。教員用端末は、今後の必要数を計算し、まずは、学級担任分のみを導入しました。端末は、指導のしやすさを重視して、児童生徒端末と同じ『Sky安心GIGAタブレット』を採用しました。

「充実した支援体制」を構築し、教員の負担感を取り払う

GIGAスクール構想の整備計画とともに、活用推進計画も練りました。多額の税金を使って整備された児童生徒1人1台端末ですから、学校で日々の授業を担う私たち教員の責任は重大です。

しかし、先生は多忙です。唐突に始まる1人1台端末活用を負担に感じる先生方は少なくありません。活用を前に進めるためには、まずは先生方の不安や負担感を取り払い、安心して使える環境づくりが重要だと感じました。その施策の一つとして、教育に関して知見のある地元の企業と5年間の「運用保守契約」を結びました。契約は主に「運用管理」と「活用研修支援」で結んでいます。運用管理では、端末に加えてネットワークの運用管理を含めました。クラウド型のシステムはネットワークを利用しますから、通信速度や安定性が使い勝手に直結します。実のところ、先生方はICTがなくても授業ができるので、「ネットワークに繋がらない、遅いな」と感じると、すぐにICTの活用を止めてしまいます。活用してもらうためには、常に快適で使いやすい環境を維持すること。困ったことがあればいつでも相談できるという安心感があること。1人1台端末の活用推進には、これらが欠かせないと考えています。

2020年10月から、学校単位で悉皆研修をスタート

GIGAスクール構想の実現にむけた1人1台端末活用に関する教員研修「教育ICT活用研修」は、2020年10月から実施しました。1人1台端末の運用開始が2021年2月ですから、4か月も前からの実施でした。

研修は、1人1台端末の活用方法や活用のメリットを周知して、早期に活用を習慣化することをめざしました。学校単位で受講することとし、学校ごとに研修日程を調整。先行して調達した教員用端末で「仮想教室」を構築して実施しました。

内容は大きく3つに分け、最大2時間半のプログラムにしました。冒頭は座学で、GIGAスクール構想の概要や当市の整備内容、学校へのサポート体制などを説明しました。先述した当市の運用保守についてもお話しし、先生方が安心して使える環境や体制が整っていることを伝えています。

次の「全体研修(模擬授業)」では、私ども教育委員会の指導主事が先生役、先生方が子ども役になって、1人1台端末を活用した3つの授業を体験してもらいました。

その後の「グループ研修」では、模擬授業の事例を基に、各グループで「先生役」と「子ども役」に分かれ、交代で試します。時間があれば、自分の担当教科や学年に置き換えて活用アイデアを考えてもらいます。できるだけ多くの教員が「先生役」を経験できるようにしました。

事例1

カメラを使った事例(算数)

模擬授業では3つの事例を紹介しました。最初の事例は[カメラ]機能を使った算数の授業です図1。算数の授業では、ノートや学習シートで計算したり、自分の考えを書いたりすることが多くあります。学習指導要領の示す、「主体的・対話的で深い学び」の実現にむけては、自分の考えを学級の友だちと共有し、考えを深めることが重要です。これまでは、共有する場面で、子どもがノートに書いたことをホワイトボードに転記し、前で発表したり、グループの中で話し合ったりしていました。

図1カメラを使った事例(算数)で山中指導主事が提示したスライド

しかし、転記するという作業は、はっきり言って時間の無駄です。転記作業に時間が割かれ、全体解決やまとめ、振り返りに時間を十分に確保できなくなったこともありました。どうにかして「深める時間」をできるだけ多く取れないだろうか……。私の失敗談ですが、多くの先生も経験され、共感を得られる内容だと思います。

そして、その解決策として『SKYMENU Cloud』[発表ノート]や[カメラ]の活用を紹介します。紙のノートや学習シートを撮影して、画像データや画像データを貼り付けた[発表ノート]を、すぐに先生に提出できますし、先生は提出された画像データや[発表ノート]を大型テレビに投影して手早く共有できるメリットがあります。

もちろん、同じようなことは実物投影機でも可能です。ですが、実物投影機と『SKYMENU Cloud』の活用には決定的な違いがあります。それは「記録に残る」ということです。[発表ノート]で先生に提出すれば、必ず記録が残ります。記録が残れば、子どもの見取りに使う、次時の導入で前時の振り返りに使う、さらには評価にも使えます。もっといえば、子どものノートを預かって確認する必要もありません。教員の端末1つで、さまざまな情報を確認できます。研修では、こうしたメリットをできるだけ分かりやすく、具体的にお伝えするようにしています。

事例2

カメラ・発表ノートを使った事例(理科)

二つ目の事例は小学5年理科、ヘチマの観察です。この学習のねらいは、観察によって雄花と雌花のことを知り、その違いを理解することにあります。これまでは、外で雄花と雌花の違いを観察して、スケッチ。観察やスケッチを基に気付きを共有するという授業展開が多かったと思います。しかし、スケッチの早さには個人差があります。早く描けた子は教室に戻るように指示し、担任の先生は外で描けていない子を待つ。その間に、教室で待っている子ども達の中でトラブルが発生して……。同じようなことをどの先生も経験されていると思います。

ここで『SKYMENU Cloud』の[カメラ]と[発表ノート]の活用です。本時のねらいは、あくまで雄花と雌花について知り、その違いに気付かせることです。[カメラ]で撮影した写真を見て、気付いたことを書くという活動でも差支えありません。さらに[発表ノート]であれば、1人ひとりの考えを大型テレビに投影して効率的に共有できます。スケッチと共有にかかる時間を短縮できます。

研修では[発表ノート]で、観察シートのフォーマットを作成するところから紹介します。フォーマットづくりに欠かせない[背景化]の機能などを紹介しています。模擬授業の後のグループ研修では、実際の授業を想定し、フォーマットを作成して配付・回収する操作を体験してもらいます。中学校向けの研修では、国語の俳句作りを取り上げ、同じように[発表ノート]を活用する事例を紹介しました。

事例3

発表ノートを使った事例(社会)

三つ目の事例は社会です。社会では、教科書や資料集などの資料から根拠を見つけ、自分の考えをまとめるという学習活動が多くあります。子どもがノートに資料を切り貼りしてまとめられるように、あらかじめ関連する資料を1枚のプリントにまとめて印刷。授業で配付するという先生も多いと思います。

そして授業中は、プリントをハサミで切り、ノートに貼り、活用します。紙くずは出ますし、作業時間の確保も必要です。「深める時間」を十分に確保することができるかどうか、授業をよりよく改善し、さらには先生方の働き方改革のために、ICTを上手く使えないだろうか、と考えたところです。

そこで『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]と[資料置き場]の紹介です。まずは事例2と同様に、あらかじめ[発表ノート]でひな型を作成します。そして教員の画面に表示される[資料置き場]内の「教材・作品を追加」のボタンで、グラフや画像などの資料を保存するのです。すると子ども役(先生方)の[発表ノート]の[資料置き場]から資料を引き出せるようになります。[発表ノート]に簡単に資料を貼り付けられることを体験してもらいます図2

図2[資料置き場]で素材を共有
使いたい素材があれば、子どもは指でスライドさせて挿入する。

この事例も「グループ研修」で試していただいたのですが「これで前日の準備はいらないね。」「切り貼りする時間がいらなくなるね。」という会話が交わされていました。メリットを感じてもらえているようでした。

研修後、自宅に端末を持ち帰って教材研究。
1人1台の運用開始に備える

早期に研修をスタートしましたが、ネットワーク整備の関係で、児童生徒1人1台端末を学校の授業で活用できるのは2021年の2月以降です。間が空くと研修でせっかく得た知識も、授業をする前に忘れてしまいます。「鉄は熱いうちに打て」というように、できるだけ早いタイミングで先生が操作を復習したり、自分の担当学年、教科に置き換えて授業での活用アイデアを考えたりしてほしいと考えました。

そこで、研修終了後に、学校に配置する予定の端末(教員用端末)を学校に持ち帰ってもらい、その持ち帰った端末は、学校長の許可のもと教員の自宅に持ち帰ってよいことにしました。当市が採用した『Sky安心GIGAタブレット』は端末本体にウイルス対策ソフトやフィルタリングソフトがインストールされているので、教員の自宅のWi-Fiに安心して接続できます。こうして早期に研修を受けた先生は、教材研究を重ねて2月の運用開始を迎えられました。この仕掛けが1人1台端末のスムーズな活用展開につながりました。

校種、学年を問わず、若手から年配の先生まで、研修で体験した活用が浸透

写真11人1台端末を持ち歩き、見つけた模様を[カメラ]で撮影

2月には、学校から、子どもたちが目を輝かせて端末を活用しているという、うれしい声が聞こえてくるようになりました。授業では、研修で紹介した[カメラ]や[発表ノート]を活用した実践をやり始めたようです。例えば、小学校1年生の図工「模様探し」の単元では、児童が見つけた模様を[カメラ]で撮影し、[発表ノート]等を活用して先生に提出し、みんなで共有していました写真1

ほかにも、2月から3月にかけて、さまざまな学年、教科で[発表ノート]に課題を記して提示・配付したり、考えを入力して提出させたりするといった活用が見られました。

校種、学年を問わず、若手から年配の先生まで、研修で体験してもらったことが浸透しており、悉皆研修の効果を実感しています。

3年目には、教員自ら授業実践を市全体に発信。授業アイデアを共有したい

当市では、3年計画でGIGAスクール構想の実現にむけた研修を進める予定です。今回お話しした悉皆研修は2020年度の内容です。2020年度は「周知」、2021年度は「吸収・使用」、最終年度である2022年度は「活用・発信」を位置づけています。3年間かけて基本から応用へと、市全体でステップアップしていく計画です。

特に2022年度では先生方が自分の実践を自発的に発信し、共有することをめざしています。実践は、グループウェアのファイル管理等で共有します。ファイル管理等を見れば明日の授業アイデアが得られるようにしたいと考えています。子どもたちは、これからどんどん情報を発信するようになります。私たち教員も情報活用能力を身に付け、情報を受ける側から発信する側へと変わる必要があります。これからの3年間で、全教員でステップアップしたいと思います。

充実したサポート体制やYouTube動画が活用の下支えに

2021年4月からは、先生方から関心の高かった[ポジショニング]機能の活用をテーマにした悉皆研修を展開しています。研修プログラムは、Sky株式会社の専門のインストラクターと打ち合わせを重ねて構築しました。「グループで取り組む研修にしたい」という私どもの要望にあわせて、さまざまな提案があり、助かりました。

また『SKYMENU Cloud』は、WebサイトやYouTubeで参考になる資料や動画が多数公開されており、情報収集には困りません。研修で先生方に案内したところ、アクセスして操作方法を勉強していました。充実したサポート体制が『SKYMENU Cloud』の魅力の一つだと思います写真2

写真2Webサイト 使ってみよう!『SKYMENU Cloud』

使ってみよう!『SKYMENU Cloud』

ご利用いただく際の操作方法を動画でご紹介します!
https://www.skymenu.net/how-to-use/

定期的なアップデートによる新機能の追加や改善も魅力の一つです。2020年12月の更新で新たに搭載された[画面送信]機能は、当市の多くの先生方が望んでいたものでした。学校現場のニーズに合わせた機能改善は、『SKYMENU Cloud』を使い続ける理由の一つになっています。

2021年4月「ICT推進係」が発足。役割分担を明確にしつつ、密な連携を図る

昨年度まで、GIGAスクール構想をはじめとする学校のICT環境の整備は、学校教育課の指導係や管理課の経理係の比較的ICTに長けているメンバーが通常業務を抱えながら兼務で進めていました。

2021年4月に、学校教育課内に「ICT推進係」が新たに組織されました。これにより1人1台端末の運用管理はICT推進係、活用研修推進は指導係と、役割分担が明確になりました。それぞれが役割に責任を持ちつつ、今まで以上に連携を密にして先生、子どもたちを支援したいと考えています。

写真3教育ICT通信「GIGA,アイシテる?」

1人1台端末の導入によって一番大変なのは、日々子どもたちと接し、活用を担う学校の先生方です。私ども教育委員会は、先生方の状況を想像して、適切で丁寧な対応をしたいと思っています。しかし、そうした思いとは裏腹に、行政の視点から対処を考える必要もあります。例えば、情報セキュリティ対策に関する問題は、学校の利便性を重視しすぎると、対策として不十分になる可能性があります。もちろん行政の視点だけでは教育活動に支障がでる場合がありますから、学校や時代に即した適切な内容へとルールを見直す必要があると考えています。

また広く先生方にご理解いただけるように、今まで以上に丁寧に説明する必要があります。その一つの方法として、昨年度末から教育ICT通信「GIGA,アイシテる?」にまとめ、グループウェア上で情報を発信しています写真3

検討すべきことはたくさんあります。しかし、まずは先生、子どもたちに使ってもらうことが重要です。大枠を決めたら、細かな部分は先生の声を聞きながら改善していく。私どもは、走りながら決めるスタイルで、1人1台端末活用を進めています。

まずは今までの授業の延長から始めよう

先生方は本当に真面目で、毎日の授業に真剣に取り組まれています。これまでも新学習指導要領がめざす、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて、授業研究を重ね、さまざまな改善を重ねてきました。

そもそも、授業のねらいにたどり着く方法は一つではありません。どの方法が正解というものではありません。多くの先生方は「今のやり方では何かうまくいかないな」と悩み、「もっと良くできないだろうか」という向上心をもって授業に臨まれています。先生方には、課題解決やよりよくする手段の一つとして、1人1台端末の活用を考えてほしいと思います。

「まずは今までの授業の延長で、1人1台端末の活用を始めてみましょう」「やり方をちょっと変えるだけで、大丈夫ですよ」。先生の背中をそっと押すような声掛けや研修をこれからも大切にしたいと考えています。

(2021年3月取材 / 2021年7月掲載)