教育情報化最前線

ICT活用研究栃木県矢板市立片岡中学校 教員同士の教え合いが、1人1台活用推進の鍵 導入からわずか2か月で、若手からベテランまで活用が広がる

栃木県矢板市立片岡中学校は、2020年9月下旬から国のGIGAスクール構想によって配備された生徒1人1台端末の活用をスタートさせました。生徒は新しく導入されたChromebookを利用し、教員は既存のWindows端末を継続して利用しています。OSが混在する環境ですが、導入からわずか2か月で、生徒が日常的に活用しています。同校の1人1台端末活用推進の取り組みや授業づくりについて、お話を伺いました。(2020年12月取材)

小川 孝博 校長

栃木県矢板市立片岡中学校

津田 仁志 教諭

栃木県矢板市立片岡中学校

9月下旬から活用開始。2か月で1人1台端末の活用は日常の姿に

写真1若手からベテランの教員まで、1人1台を活用した授業が広がる

本校は、教職員25名、生徒189名の小規模な学校です。生徒の良さや主体性を引き出し、活力に満ちた学校づくりをすること、そして1人ひとりの可能性を高めることを合言葉に教育活動を推進しています。

2019年度は、学校課題を「主体的・対話的で深い学びに向けての授業改善」とし、全教員で授業改善に取り組んできました。2020年度は「ICTの効果的な活用を通して」という副題を新たに加えました。「効果的な活用」とありますが、まずはICTを使うことが大事です。「効果的に活用するためには、ICTを知る必要があり、まずは失敗を恐れず、どんどんやってみよう」と伝えて、取り組みを進めています。

それからコロナ禍による長期の臨時休業を経て、本校にGIGAスクール構想による生徒1人1台端末(Chromebook)が配備されたのは、9月中旬のことでした。9月下旬から1人1台端末の活用をスタートし、10月下旬から学習活動端末支援Webシステム『SKYMENU Cloud』の活用を開始。活用開始から、2か月程度で 写真1のような授業が展開されています。

若手の教員からベテラン教員まで、1人1台端末の授業に意欲的に取り組む

配備から比較的短い期間で1人1台端末の活用が進み、日常化へと進んでいます。このような進展の背景には、先生方が1つのチームになって協力して取り組めていることがあります。

まず、本校には、情報担当の津田先生を含めてICTに詳しい教員が4名います。4名の教員が連携し、チームとして全教職員のICT活用をサポートしてくれました。先生方は安心して活用することができたと思います。

加えて、本校の教職員集団は、和気あいあいとしていて、風通しの良い雰囲気があります。困ったことがあれば、誰かが声をかけて助けてくれます。何でも相談できる雰囲気があるため、若手の教員から、ICTに詳しくない50代のベテラン教員までが、1人1台端末の活用に意欲的に取り組めています。

「手が届きそうだ」と思える目標を設定する

冒頭でも述べましたが、校長や情報担当からは「まずは使ってみよう」「どんどんやってみよう」という方針を先生方に伝え、手が届きそうだと思える目標設定をしています。これは、教員は高めの目標を自ら設定する傾向があるためです。目標値を上げすぎてしまうと、人は失敗を恐れて挑戦ができなくなってしまうものです。それではICT活用が進まなくなり、本末転倒になってしまいます。

クリアできそうな「目標設定」と「何でも相談できる教職員集団の雰囲気」。本校はこれらがうまくかみ合い、どんどん挑戦する流れが生まれています。良い取り組みは、口コミで横展開されるので、教職員全体のスキルも向上し、短期間で日常化へと進んでいきました。

「教員1台」から「1人1アカウント」、そして「生徒1人1台」へ

もちろん、このような活用の広がりは、本校の取り組みだけで成し得たわけではありません。教育委員会による使いやすいICT環境づくりや手厚いサポートがあってのものです。そもそも当市はGIGAスクール構想の整備以前、2018年から教員1人1台の授業用タブレット端末が配付されていたので、指導者用デジタル教科書や学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』を使うことができていました。大型テレビにデジタル教科書の画面を投影して、分かりやすく説明する、ポイントとなる部分を拡大提示して、マーキングしながら説明するといったことは当たり前の教授方法として定着していました。

そうしたなかで2020年3月から長期の臨時休業になりました。当市は2020年5月初旬からGoogle Classroomの活用をスタートし、本校も教員用端末と各家庭の端末を結び、「生徒1人1アカウント」を使ったオンライン学習に取り組みました。そして、9月下旬から「生徒1人1台端末」の活用が始まったのです。

周囲を取り巻くICT環境が徐々に変化していき、私たちはその変化に合わせて、自然な形でステップアップしていきました。実際、1人1台端末の導入において、先生方から「抵抗感」のようなものを感じることはなく、「1人1台端末で、どのような授業ができるだろうか」という前向きな雰囲気がありました。

学習に集中させるためには、
操作が少なくて、シンプルな仕組みが必要。

使い慣れたICT環境を基盤に、新たに『SKYMENU Cloud』を導入

教育委員会のICT環境づくりについては、既存の教員用タブレット端末や『SKYMENU Class』など、私たちが使い慣れた環境を継続して使えるようにしてくれたことがとても良かったと思います。使い慣れた環境の上に、教員と生徒を結ぶクラウド型の学習ツールとしてGoogle Classroomや『SKYMENU Cloud』が新たに導入されました。まったく異なる、新しいICT環境から1人1台端末の活用を始めるわけではなかったので、先生方の不安や心理的なハードルが低くなりました。

特に『SKYMENU Cloud』は、[発表ノート]などの操作性が『SKYMENU Class』と共通する部分が多くあったため、既視感や安心感があり、「これならできそう」と教員の背中を押してくれました。

「操作が少なく、シンプルであること」 授業中の使い勝手を重視

Google Classroomには、さまざまな機能が豊富に搭載されています。長期の臨時休業期間中に運用をスタートして以来、授業や教職員間の連絡など、さまざまな用途で活用されています。

一方で、授業のなかで効果的に活用することが難しいことも分かってきました。例えば、学習課題を配付して生徒に取り組ませるという行為だけでも、複数の操作が必要になります。また、教員と生徒で表示される画面が異なる場合もあり、オンライン学習などの非対面型の授業では指示の通りにくさがありました。

教員も生徒も、ICTの操作スキルはさまざまです。学習に集中するためには、より操作が少なくて、シンプルな仕組みが必要であると多くの教員が感じ始めていました。

そうしたタイミングで『SKYMENU Cloud』が使えるようになったという連絡が入りました。すぐに職員室にいた何名かの先生が集まり、『SKYMENU Cloud』にアクセスしてみました。画面を確かめながら「[ポジショニング]って面白いんじゃないか」「早くやってみたいね」などと語り合い、大いに盛り上がりました。

Chromebookにログオンすれば、すぐに『SKYMENU Cloud』を使える

図1Googleアカウントとシングルサインオン連携

毎日1人1台端末を活用するなかで、アプリケーションを使用するたびに「パスワード入力」を求められると、教員も生徒も嫌になってしまいます。そこで、当市はGoogleアカウントと『SKYMENU Cloud』を連携させています(シングルサインオン連携)。

Chromebookを開いて一度パスワードを入力するだけで、『SKYMENU Cloud』を使用できます 図1。日々の使いやすさにつながっており、教員、生徒ともに好評です。このほかにも、ボタン一つで大型テレビに画面を提示できる『SKYMENU Class』の[投影]機能などは、日々のちょっとした手間を削減してくれています。あまり目立たない部分ですが、このような仕組みが活用促進の下支えになっています。

また、生徒たちは『SKYMENU Cloud』について、「操作性が良い」「シンプルで使いやすい」と言っています。実際、生徒たちは操作を説明しなくても、直感で操作を把握して使っています。先生方も作成した教材を生徒に一斉配付でき、生徒は簡単な操作で提出できるので「やりたいことが簡単にできる」と好評です。今、英語や国語、理科など、さまざまな教科で活用が広がっています。今後は、提出された[発表ノート]にマーキングで赤を入れたり、スタンプを押したりして返却できる[添削]機能もうまく組み合わせて活用したいと考えています。

まずは教員が使い、教員同士が互いに教え合うことから始める

1人1台端末の活用の推進は、まずは1人ひとりが試行錯誤することが大切です。そうすると1 人では解決できない場面に必ず直面しますから、そこで教員同士が教え合い、学び合うことを大切にしてほしいと思います。本校では、教員同士の交流で知識が共有されることによって悩みが解消され、新たな活用アイデアが生まれていきました。教員1人ひとりの気づきや身につけたことを持ち寄ることで、素早く情報が横展開され、教職員集団全体のスキルアップにつながりました。その土台となっているのが、和気あいあいとして、何でも言い合える教職員集団です。職員室の雰囲気づくりも大切にしてほしいと思います。

また、若手教員の力や知識を生かすことも重要です。若手教員は、ICT活用に抵抗感がなく、活用にも意欲的です。しかし、組織のなかでは、年長者に遠慮しがちで、自分の考えをなかなか述べにくいものです。ベテランの先生方は、ぜひ彼らが何でも言える雰囲気を率先してつくってほしいと思います。まずは私たち教員が教え合い、学び合うことを大切にしたいと考えています。


1人1台端末の活用中学3年 道徳 ごみ箱を増やすことに「賛成」か「反対」か思考を可視化し、把握
授業展開に工夫

樋山 貴洋 教諭

栃木県矢板市立片岡中学校

学級全員の言葉から、学習のめあてをつくる

初めて『SKYMENU Cloud』に触れたとき、「面白そうだな」「授業で使ってみたいな」と思ったのが[ポジショニング]機能です。課題に対する生徒の考え(ポジション)や、その変化をリアルタイムに、そして視覚的に把握できるの で、「思考の変容」を捉えながら授業を展開できると考えました。

道徳の授業を中心に活用しており、中学3年 道徳「ごみ箱をもっと増やして」の授業でも活用しました。この題材は、日本国内のごみ箱の設置に関するさまざまな立場の意見を知り、誰もが気持ちよく過ごせる社会の実現を考えます。

まず、日本や海外のごみ箱の設置の現状をまとめたPowerPoint資料を示しました。生徒たちは資料を見て、ごみ箱を増やすことに「賛成」なのか「反対」なのか、[ポジショニング]機能で作成した2軸の設問に、自分の最初の考え(ポジション)を回答させました写真2。生徒が回答すると、教員機では写真3のように生徒全員の考え(ポジション)が表示されます。学級全体の傾向や誰がどのような意見を持っているのかがひと目でつかめます。

写真2 自分の端末で自分の立ち位置とコメントに理由を入力する
▲ 自分の立ち位置を明示する(1回目)
写真3コメントから言葉を分析するワードランキング

このときに注目したのは、「ワードランキング」です。生徒たちが入力したコメントは、[ポジショニング]機能で分析され、使用頻度の高い言葉が順位付けされて表示されます。上位に表示されている言葉を参考にして、本時の学習のめあてをつくっていきました。[ポジショニング]を使えば、すべての生徒の言葉から、学習のめあてをつくれます。以前は一部の生徒を指名し、その発言からしか学習のめあてをつくれていませんでした。授業づくりが大きく変わると感じました。

可視化された生徒の思考を素早く読み取り、効果的な手だてをとる

写真4考えが揺らぐ意見が拡散する様子を可視化

GIGAスクール構想による整備以前は、[発表ノート]に考えを書かせ、机間指導や教員機の[画面一覧]で進捗や考えを確認するという授業をしていました。生徒の考えを把握しながら授業を展開できるので、当時から便利に感じていました。

ここに新たに『SKYMENU Cloud』の[ポジショニング]機能が加わりました。生徒の思考が可視化され、学びを深めるためのより効果的な手だてを考えられるようになりました。本時では、生徒が「賛成」の意見に傾いている様子を[ポジショニング]の画面で見取り、T2のベテラン教員から「反対」の意見をより強く推して朗読してもらいました。その後[ポジショニング]で再び考えを回答してもらうと、「賛成」から「反対」へと立ち位置を変更している生徒がみられました。明確な考えを持てないまま「賛成」を表明していた生徒は、考えが揺さぶられたようでした。

このように[ポジショニング]は、生徒たちの思考を瞬時に可視化し、授業者に説得力のある示唆を与えてくれます。これまで教員の勘や職人技に頼っていた部分をICTが補ってくれるので、授業改善にも効果があると感じています写真4

[ポジショニング]は、思考を瞬時に可視化し、
授業者に説得力のある示唆を与えてくれます。

『SKYMENU Cloud』で、一斉から協働への移行がスムーズに

1人1台端末の配備から約2か月、さまざまな授業でGoogle Classroomや『SKYMENU Cloud』を活用しました。

『SKYMENU Cloud』の良さは、一斉学習から協働学習へとスムーズに学習形態を移行できることにあると感じています。例えば、[発表ノート]の[グループワーク]は、生徒が任意のグループ番号を選択するだけで、ほかの生徒とグループになれます。理科の授業では、各班に[発表ノート]で実験結果をまとめさせておけば、[グループワーク]で瞬時に共有し、すぐに結果を見比べて考察できます。

Google Classroomなどでも、学級全体でデータを共有したり、1つのファイルを協働編集したりして情報を共有することが可能ですが、教員や生徒の操作が煩雑な部分があります。『SKYMENU Cloud』は、限られた時間で授業のねらいを達成するための有効なツールになっています。

授業の準備、授業の方向性は練り直しが必要

1人1台端末を活用した授業は、「生徒にどのように学ばせるか」という視点で考えなければなりません。授業の構成の仕方や教材づくりが、これまでとは異なるため、これまでにない難しさがあると感じています。

しかし、教員が問いや教材を作って配信すれば、あとは生徒が課題解決に一生懸命に取り組んで提出します。提出されたデータは、教員機で確認できるので、落ち着いて評価をすることもできます。これまで教員が、事前にプリントを印刷して授業中に配って取り組ませ、プリントを回収したら、急いで確認して返す……と行っていたことを考えると、効率化され、負担軽減にもなっています。

これからの1年間は、新しいことへの挑戦で特に大変な時期になると思います。しかし、2、3年もすれば、教員にも児童生徒にも1人1台端末の活用は当たり前のものになっていると思います。授業改善や働き方改革に欠かせないツールになっていると思います。

(2021年6月掲載)