授業でのICT活用
教育情報化最前線

1人1台端末環境で進む、生徒主体の学び 北海道教育大学附属函館中学校が取り組むBYODによる教育活動の展開

北海道教育大学附属函館中学校(以下、本校)は、平成29年度からBYOD(Bring Your Own Device:各家庭が購入した生徒所有端末の学校への持参)による1人1台のICT 端末環境下での教育活動を展開している。生徒による端末の活用は、授業での学習だけではなく学級や委員会、部活動など多様な場に広がる。もちろん、その場は家庭・地域にまで拡張し、時間と場所に限定されないシームレスな活用が特徴である。さらには、活用の主体が教員だけではなく、生徒によっても展開され、1人1台の端末環境が、生徒の学習と生活の両面を支える機能を果たす必要不可欠な環境となっている。本稿では、BYOD実施までの経緯や1人1台環境での取り組みとともに、今般の新型コロナウイルス感染症拡大に伴う休業期間の具体的な取り組みを紹介する。また、これまでの取り組みを通して見えてきた成果と課題を整理し、これからの学びを少考する。

有金 大輔

北海道教育大学附属函館中学校教諭(研究主任)

郡司 直孝

北海道教育大学附属函館中学校教諭(教務主任)

北海道教育大学附属函館中学校のICT環境

本校における、1人1台の端末環境下での取り組みは、平成25年度に行った全生徒への学校所有端末の貸与に始まる。このときは校内設置の専用サーバの下、Android OSタブレット端末370台の全生徒への常時貸与を行った。しかし、取り組み開始から3年目を迎えた平成27年度に、2つの課題が顕在化した。1つ目は、継続的に端末を更新する経費が準備できなかったことであり、2つ目は、ICTに精通する教員の転出によってサーバを管理することが難しくなったことである。

そこで、こうした課題を解決するために、①企業が提供するセキュアなクラウドを利用すること、②ネットワークとセキュリティは学校が、端末は各家庭が準備すること(BYOD)、③安価な端末であること、という3つの方向性を検討した。そして、職員間での議論や保護者説明会を経て、平成29年度からBYODによる1人1台の端末環境の整備と、Chromebookの導入によるG Suite for Educationの活用を開始した。

導入1年次(平成29年度)では、主に授業での活用が進んだ。特にプレゼンテーションアプリを利用して学習の成果を表現する学習活動が、教科や総合的な学習の時間などで展開された。ここでは、同一ファイルを共有して他者と協働する編集機能(共同編集)が活用された。しかし、生徒のタイピング技能が十分ではなく、かえって生徒の表現が妨げられてしまうという状況も見られた。そのため、「朝タイピング」を実施し、タイピング技能の向上を図った。その結果、1分間の平均入力文字数は、当初(平成27年11月)の約21文字から、およそ1年後(平成29年2月)には、約61文字にまで増加した。

導入2年次(平成30年度)からは、授業に限らない幅広い場面での活用が進んだ。具体的には、学年や学級、教科、委員会、部活動などがクラウド型コミュニケーションツール(Google Classroom)によって、更新が容易で双方向性のあるプラットフォームを持つことができている。また、アンケートアプリを活用した健康調査やテスト、各種調査なども頻繁に実施されている。

導入から4年が経過した現在、1人1台の端末環境は本校にとって、生徒の学習と生活の両面を支える機能を果たす必要不可欠な環境となっている。

生徒にも教員にとっても、
普段の授業の延長というスタイル

新型コロナウイルス感染症拡大による臨時休業での取り組み【学びを止めないための試み】

こうした取り組みを経て迎えた3年目の末、新型コロナウイルス感染症の拡大による臨時休業が実施され、それは4 年目にも及んだ。休業期間中は、これまでの学習同様に1人1台の端末環境を活用した教育活動を基本とした。また、これまで実践していない新しいことに取り組む負担を考慮し、統一した形式ではなく、生徒の生活や学年、教科等の実態に合わせて実施した。

まず、生徒の健康状態を把握するために、毎朝10時までに健康調査を入力するアンケートを、アンケートアプリ(Google Forms)を活用して毎日実施した。また、身体に関する内容に加え、困っていることや悩んでいることを入力できる項目を追加した。生徒が入力した結果は、養護教諭を含めすべての教員が把握できるように設定し、一定期間入力がない生徒に対しては、教員が積極的に連絡を行った。

また、各教科等がそれぞれのクラウド型コミュニケーションツール(Google Classroom)を活用して、毎週金曜日17時に1週間分の課題の配信を行い、生徒それぞれの取り組みをオンライン上で継続的にサポートすることに取り組んだ。

例えば、国語科では、文章作成の際のポイントを説明する動画を教員が作成・配信し、生徒はその動画を視聴した後、課題に取り組んだ。生徒が取り組むファイルは、教員と共同編集の設定を行い、作成した文章に対して教員がコメント機能を用いてアドバイスするサポートを行った。また、コメントの文面だけでは伝わりづらい場合は、Web会議システムを用いて、個別にアドバイスをした。

数学科では、AI型タブレット教材を活用し、生徒がそれぞれ学びを深めていくことのできる課題を配信するとともに、活用の際のポイントや、より力を高めるための活用方法などを説明した。また、希望する生徒を対象にして、それぞれの生徒の自宅と学校をWeb会議システムでつなぐ遠隔授業も実施した。ここでは、AI型タブレット教材を併用することで、生徒の理解の状況を把握した上での指導を行うことを意図した。

理科では、アンケートアプリ(Google Forms)を活用して実施した学習内容の振り返りのミニテストについて、生徒の取り組みや回答の状況をオンライン上で担当教員が把握し、その内容を踏まえた学習のサポートを行った。さらには、1年間の学習内容の参考となる動画(NHK for School)のリンクを貼り、生徒の学習をサポートした。

他教科でも、それぞれ普段の授業の延長として、課題を配信したり、教科書やワークなどのページを指定したり、おすすめの学習サイトなどのリンクを貼ったりなどを行った。

総合的な学習の時間「探究」では、本校では2学年11月から3学年12月まで、自分の興味や関心に基づいた研究課題を設定し、その解決をめざす「卒業研究」に取り組んでいる。生徒は全教員の指導の下、それぞれ「ゼミ」に分かれており、普段はそれぞれの担当教員から論文指導を受けている。そのうちの1グループは、東京大学の教授とWeb会議システムでつないで指導を受けており、臨時休業中では、東京大学と本校教員、生徒それぞれの家庭をWeb会議システムでつなぎ、遠隔での論文指導も実施した。

繰り返しになるが、これらの取り組みはすべて新しい取り組みではなく、生徒にも教員にとっても、特別な前段階などの準備がなく、普段の授業の延長というスタイルをとったものである。つまり、BYODによる1人1台の端末環境下での教育実践の積み重ねが、臨時休業の状況でも対応できた要因であると考えている。

1人1台環境によって見えてきたこと【成果と課題】

1人1台の端末環境は、「シームレス化」と「主体の移行」を本校にもたらしつつある。

生徒が常に自身の端末を活用できる環境下では、生徒の学びは、学校や授業に限定されるものではなくなり、時間や場所によって途切れることがない。実際に本校では、課題の提出について、期限が休日に設定されたり、提出方法がメールへの添付とされたりすることも多い。授業で終わりきらなかった取り組みを、休み時間や放課後等に教室、図書室、家庭等で取り組んでいる生徒の姿もある。そしてその活用は学びに限らず、さまざまな場面へ拡張している。動画サイトを見ながら学校祭で披露するダンスを練習したり、修学旅行での訪問先へのアポイントメントをメールで行ったりすることも、本校ではよく見られる光景である。

そして、こうした「いつ・どこで」学ぶのかの選択が生徒によってなされることは、必然的に「何を使って・どのように」学ぶのかの選択も、生徒によってなされることにつながっていく。本校では、学習の場面においても、生活の場面においても、使用するアプリの選択・活用や、Webを活用した情報の収集などは、基本的に生徒それぞれの判断によってなされている。

1人1台の端末環境がありさえすれば、
自動的に生徒の学びが加速するのではない

例えば、情報を整理する段階ではクラウド型ホワイトボードアプリを活用して議論することもあれば、クラスで行うレクリエーションの調査をアンケートアプリを活用して決定することもある。これらは、生徒が自らの取り組みに最適だと考える方法を選択・活用して、自らや自らが属するグループでの学びを加速させようとする姿であり、生活をより良くしようとする姿である。こうしたシームレス化と主体の移行による生徒の姿は、臨時休業という非常時においても基盤となって機能したことは上述のとおりである。

ただし、本校の現在の取り組みは学校からの貸与による実践の蓄積や経験、セキュアなクラウドの活用によって実現できたものであることは、改めて付言しておきたい。

一方で、さまざまな課題を有している。生徒が関わるさまざまなトラブルのほかにも、大きく次の2点が課題であると考えている。

1点目は、膨大に蓄積されるデータをいかに活用するかという点である。アンケートアプリによる調査結果はもちろん、各種アプリを活用した学習履歴を指導に活用するための方策について工夫・検討が必要だと考える。

2点目は、授業における教員の意義を改めて大切にするという点である。1人1台の端末環境がありさえすれば、自動的に生徒の学びが加速するわけではない。むしろ、1人1台だからこそ、取り組みの様子が見えにくくなることも多い。例えば、生徒がプレゼンテーションアプリを使って発表資料を作成するとき、スライド内に含まれる情報量が多くなりすぎて整理できていなかったり、作成に活用した情報の信頼性を十分に検証されていないものをそのまま引用したりしている様子を、教員は画面上で「眺める」ことはできていても、リアルタイムに生徒の考えや取り組みの過程を「把握する」、そして「指導に生かす」ことはきわめて難しい。だからこそ、生徒同士の協働や対話をいかに支援するのか、取り組みの過程を的確に把握した指導・助言をいかに行うのかを検討し、方策や仕組みを準備する必要があると考える。もちろん、そのためには授業づくりが肝要になることは論をまたない。

また、BYOD環境下での故障対応は、学校が介在せずに家庭と購入先とのやりとりによって行われている。ただし、修理によって端末が手元にない生徒に対しては、学校所有の端末を貸与することとしている。

生徒1人ひとりの情報活用能力と
デジタル・シティズンシップの育成が必要

これからの学びのために

GIGAスクール構想により、全国の小・中学校で1人1台の端末環境下での教育が開始される。

GIGAスクール構想の目的は、「誰一人残さない個別最適化された学び」の実現である。本校のこれまでの取り組みで、日常的なICTの活用、協働学習、オンライン学習、情報活用能力の育成、個人の学習状況の蓄積など、さまざまな教育活動の実践を積み重ねてきた。その成果が臨時休業中にも、学びを止めない教育へとつながったと考えている。

しかし、「主体の移行」が進みつつあるとはいえ、生徒個々人による差は大きく、また、教員が設定する学習や、学校行事等の枠内や指示の下でのICTの活用であることは否めない。これでは、本当の意味での個別最適化された学び、完全に主体が生徒にあるという状況にはなっていない。

今後は、生徒1人ひとりが主体となり、教員の指示や想定を超え、場面場面に適したものを自ら考えて活用できる情報活用能力。さらには、デジタル・シティズンシップを育成するための取り組みが必要であると考えている。

詳細な経緯や具体的な取り組み事例は、北海道教育大学附属函館中学校Web サイトの「研究活動」ページ内で紹介されています。

(2020年11月掲載)