授業でのICT活用

「タブレット『の』研修」から「タブレット『で』研修」へ

静岡県富士市教育委員会 学校教育課 小滝 智之 指導主事

全43校にあわせて約3,500台のタブレット端末を導入

当市は、人口約250,000人の中都市です。市内には、小学校27校、中学校16校の計43の学校があり、約1,200人の教員と約20,000人の児童生徒が通っています。昨年度大規模なリプレースを実施し、市内全校に約3,500台のタブレット端末を導入しました。全校で2クラスの児童生徒が同時に1人1台使って授業を行えるICT環境を整えるとともに、大型提示装置の増設や無線LAN環境の増強も実施しました【図1】。

【図1】富士市のICT環境

こうした教育系のICT環境の充実だけでなく、校務系のICT環境の充実にも取り組んでおり、2011年からは校務用コンピュータや校務支援ソフトの導入を進め、業務の効率化を図っています。

伸び悩む「教員のICT活用指導力」

このように充実したICT環境が整っているのですが、当市教員のICT活用指導力は伸び悩んでいます。

「平成30年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」では、全国的に課題となっているC項目「児童生徒のICT活用を指導する能力」が全国平均よりさらに10%程度低い結果となりました。

この結果を受け、私どもは2018年度から教員のICT活用指導力の向上を目指して、ICTに関する3つの研修「情報教育研修会」「要請訪問研修」「アフター5研修」に注力して展開してきました。

「情報教育研修会」は、情報主任や教務主任など、研修の対象者を市で指定して実施する悉皆研修です。2018年度から現在までに13回実施しました。「要請訪問研修」は、各校の校内研修や教科の研修会に指導助言者としての要請を受けて実施する研修で、現在までに22回実施しています。「アフター5研修」とは、当市の教育プラザで勤務時間外に希望者を募って行う自由参加型の研修です。Word、Excel、PowerPointなどの講習から、レゴを活用したプログラミング教育、さらには今年度4月に実施された中学校英語の学力・学習状況調査におけるCBTのやり方、インストールの方法など、現場の先生方の要望をもとにした内容の研修を、現在までに24回実施しています。

このような研修を通して、確実に教員の知識やスキルの向上が見られ、徐々にICTの活用率は上がってきています。

働き方改革に向け、研修はできる限り勤務時間内で

ICTの活用率が上がる一方で、個人格差や学校間格差も少しずつですが、広がってきてしまっています。

私どもとしては、さらに研修を充実させて解消を図りたいですし、先生方からも「学ぶ機会を増やしてほしい」という声をいただいています。けれども、昨今の働き方改革の流れがあるなか、研修をできる限り勤務時間内で実施する必要もあります。

そこで、業務改善を実現する上での順番と視点を示した「ECRS(改善の4原則)」に基づいた「Combine型研修」を企画しました。具体的には、「Combine(結合)」の「複数の作業を並行して進める」という視点に立った、タブレット端末と学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』を活用したOJTの研修になります。

この研修が生まれたきっかけは、ある学校の研修主任からの「タブレット端末を使って研修したいのだが、良い方法はないだろうか」という相談でした。研修主任の先生は、同校の研修主題にある『学びを深める』という言葉について、教員間での理解を深め、共有したいと考えていました。当初は「児童の姿」と「教師の手だて」という視点で、先生方に2色の付箋紙に自らの考えを書かせ、KJ法で整理、共有する展開を構想されていました。

そこで、「付箋に書く」「KJ法で整理、共有する」という部分を『SKYMENU Class』の[グルーピング]機能と[グループワーク]機能に置き換えた研修を実施しました。

校内研の議題を、タブレット端末と『SKYMENU Class』で分類・整理

研修では、まず[投票]機能を使って「深い学びを具体的にイメージできているかどうか」を問い、先生方の実態を確認しました。その後、学年部に分かれて、タブレット端末を使ったKJ法で深い学びに関する考えの分類、整理をしました。最後は、学年部ごとに整理した結果を電子黒板に投影して、発表し全体で共有しました。

タブレット端末で分類、整理するにあたり、研修主任の先生は[グルーピング]機能を使って「ひな型」となるノートをあらかじめ作成していました【図2左上】。そのノートを、[配付]機能で学習者機に一斉に配付し、先生方は手元に届いたノートにある付箋にそれぞれの考えを入力していきました。

【図2】研修におけるSKYMENU Classの基本的な操作方法(KJ法の場合)

次に[グループワーク]機能で、グループの番号を選びメンバー同士の端末をつなぎます【図2左下】。すると【図2右】のように、左側にグループに参加している人のノートが表示されます。グループメンバーのデータが共有されるので、自分の画面の付箋をドラッグして1枚のノートに動かせば、その付箋がコピーされ、一つにまとめることができます。そして付箋が集まった後、みんなの意見をまとめた1枚のノートでKJ法のように分類、整理してまとめていきます。

この方法が、模造紙や画用紙、紙の付箋での取組と大きく異なるのは、自分が書いた付箋がなくならないということです。自分の考えを入力した付箋は、自分の手元([発表ノート])に残しておくことができます。それから、模造紙などでは紙の向きがまとめ役に見やすい向きになってしまいがちですが、この方法は、自分の画面で情報を読み取りつつ、共同で作業することができます。この研修に参加した教員の8割は、初めてこれらの機能を使ったそうですが、「付箋入力10分」「グループでのまとめ20分」と、あわせてわずか30分程度で【図3】のようにまとめることができました。

【図2】研修の課題を[グルーピング]を使って分類・整理

使い慣れている模造紙や画用紙、紙の付箋を使った場合と時間的な差がなく、効率よく研修が進み、さらには、これまでICT活用に消極的だった先生が、自分事で研修に参加している姿が見られました。参加者のICT活用に対する意識にも変化をもたらすことができ、研修の手応えを感じました。

ICTが、研修の「目的」から「手だて」へと変化

この研修がきっかけとなり、これまで多くの学校で行われてきた「タブレット『の』使い方を学ぶ研修」から、「タブレット『で』、これまでと同じような研修を行う」という形になり、ICTを研修の「目的」から「手だて」へと変化させることができました。

今、さまざまな研修で展開しており、例えば情報教育研究委員会では、昨年度のICT機器整備後の成果と課題を、20分程度で【図4】のようにまとめることができました。

【図4】情報教育研究委員会でICT機器整備後の成果と課題を整理

学校教育課の人事担当部局から臨時任用教員の研修への協力依頼を受けた際にも、タブレット端末で研修を行いました。各自の自己実践の成果と課題をタブレット端末に入力し、グループでまとめ、[グループワーク]で全体共有しました。こちらも20分程度でできました。

このほかにも、ICT研究指定校の公開授業後の事後研修会やいくつかの研修会で実践、紹介しており、これまでに延べ200人以上に周知しています。

研修で体験した[グルーピング]や[グループワーク]を活用した授業実践が市全体に広がっています。

国語や算数の授業で[グルーピング]や[グループワーク]を活用

ただ、こうした研修の改善の取組は、その後の授業でどのように生かされたのかが重要です。ある小学校の5年国語「意見こうかん会をしよう」という単元では、まず1人ずつで「意見こうかんカード」を作成した後、ペアでまとめ、それをまたグループで更に集約するという授業が行われました【写真1、2】。

【写真1】【写真2】

別の小学校の5年家庭科「寒い季節を快適に」では、あたたかさを生かす素材の分類を、[グルーピング]で実践し、6年算数「比例と反比例」では、[発表ノート]にある友だちの考え方を[グループワーク]で共有するといった実践が行われていました。

ご紹介したのは全体のほんの一部の取組にすぎません。研修で体験した[グルーピング]や[グループワーク]を活用した授業実践が、市全体に着実に広がっています。

一石二鳥を超え、一石何鳥にもなる研修をめざす

私どもの「タブレット『の』研修」から「タブレット『で』研修」する取組は、本来の校内研修とタブレット端末およびソフトウェアの操作法習得を同時に行える一石二鳥の良さがあります。

加えて、子どもが授業で失敗するであろう操作や場面を、教員があらかじめ体験でき、授業における対処法を習得できるというメリットがあります。

また、苦手意識からICT活用を遠ざけていた先生が、研修という「使わざるを得ない状況」で触れたことをきっかけに「自分にもできるかもしれない」という自信を持つことにつながり、「苦手意識が緩やかに克服される」といったメリットもあります。

それから、研修での年代を超えた教員同士の教え合いをきっかけに、若手の教員がタブレット端末の操作を教えて、ベテランの教員が授業内容を精査するという新たな授業づくりの取組が生まれています。一石二鳥を超えて、一石何鳥にもなるように、さらにブラッシュアップをかけて効果的な取組にしたいと思います。

「ICT活用能力」の向上から「ICT活用指導力」の向上へ

課題も多くあります。

3つ挙げると、まずは、良い実践、グッドプラクティスの共有不足です。この点については、43校1,200人の教職員にグッドプラクティスを1人1台の校務用コンピュータから発信してもらうことや、各教科等研究部会との連携の中で進めていく予定です。

次に、台数の不足です。

良い実践が広がっている学校ほど、「タブレット端末を使いたい」という先生が増えており、すでに台数の不足を訴える学校もあります。今、国が児童生徒1人1台のタブレット端末等の整備に向けて大きな動きを見せているため、今後急ピッチで検討を進めていく予定です。

そして最後に、冒頭でもお話したように「教員のICT活用指導力の向上」です。教員のICT活用能力は向上していますが、まだまだ文部科学省が実施する「教員のICT活用指導力調査」が意識されていないと感じています。具体的にどのようなチェック項目があり、私たち教員にどのような指導力が求められているのかを広く周知し、ICT活用指導力の向上を図っていきたいです。

そして、このような取組をさらに推し進めることが、当市のめざす「学びを楽しむ子」の育成につながり、さらには先生方の笑顔にもつながると考えています。

「学校とICTフォーラム」(名古屋会場)講演より
(2020年3月掲載)