授業でのICT活用

研究者と現場教員が共に創るー 実践の積み重ねと、学術的な検証を

片山 敏郎(日本デジタル教科書学会会長、新潟大学教育学部附属新潟小学校教諭)

新潟市小学校教員を経て、新潟大学教育学部附属新潟小学校に勤務。新潟市総合教育センター情報教育専門員、新潟市小学校教育研究協議会 情報教育部 研究推進委員長、同部長、ICT教育を考える会代表を務めるなど、新潟市を中心に情報教育を推進。
平成22年度には、全国組織「みんなのデジタル教科書教育研究会」、平成24年度には「日本デジタル教科書学会」を作り、デジタル教科書、児童生徒1人1台タブレット端末を推進に向けた活動を行っている。

「日本デジタル教科書学会」は、平成24年5月「デジタル教科書・教材やそれを活用した実践について、学術的に追究し、我が国の教育のこれからの発展に資すること」を掲げ、発足されました。 同学会は発足から2年目を迎え、現在会員は285人(平成25年9月現在)。同学会の発起人であり、会長を務められている、片山 敏郎先生(新潟大学教育学部附属新潟小学校教諭)に同学会の活動や今後の展望を伺いました。

研究者と実践者が互いを尊敬し、手を携えて運営する学会に

平成21年に「原口ビジョン」が示され、それまで電子黒板などが中心だった議論の中に「児童生徒1人1台コンピュータ」という新しい提唱がなされました。デジタル教科書、児童生徒1人1台のタブレット端末という新たな可能性についてTwitterなどを通じて全国の先生方と議論を重ねてきましたが、その議論をさらに発展させたいと考え、平成22年に「みんなのデジタル教科書教育研究会」を発足させました。現在、会員は約700人。研究会のグループウェアも開設し、全国から集まるデジタル教科書やタブレット端末活用に関する情報、知見、ノウハウが蓄積されてきています。

研究会の活動を重ねるうちに、デジタル教科書や1人1台の端末整備の実現のためには、もう一段ステップアップした動きが必要だと思いました。そのためには、1人1台のタブレット端末を活用すると「学力が上がる」といった効果の測定、「学術的な検証」が欠かせないと考えました。

日本デジタル教科書学会 運営の3本柱そこで、「デジタル教科書・教材やそれを活用した実践について、学術的に追究し、我が国の教育のこれからの発展に資すること」を志と定め、3つの「運営の柱」(右図)を掲げて、平成24年5月に「日本デジタル教科書学会」を発足しました。

研究者と実践者が互いを尊敬し、手を携えて運営する学会にしたい。研究者と実践者が出会い、実践を積み重ね、説得力のある「学術的な検証」を行っていきたいと考え、運営の柱には「研究者と現場教員が共に創る会とする」という文言を入れました。

また、中心となって運営している理事には、研究者と実践者をそれぞれ10人ずつ、同数の方に就任していただきました。

優れた実践を学術的に検証、論文化して広めていきたい

平成24年8月には、設立大会を青山学院大学で開催しました。運営の柱に「他の団体と幅広く連携する」とあるように、大会では他学会でも活躍されている先生方を講師陣に迎えました。当学会が、さまざまな学会の垣根を越えてつながり、大きな目標を実現するために活動することを示したいという考えからです。

日本デジタル教科書学会WEBサイトまた、論文などの研究成果を会員のみに公開されている学会も多いのですが、当学会は「オープンアクセス」の考えに立ち、会員、非会員に関わらず閲覧できるようにしていく予定です。研究者、実践者にとっても有益なことと思いますし、当学会の論文がさまざまな論文や資料に積極的に引用されることで、実践ひいては学会の活動が広まることにつながると考えています。

目標は、デジタル教科書、児童生徒1人1台端末の整備、推進であり、1人1台端末を子どもたちにとってより良いものにすることです。学会の活動はそのための手段だと考えています。

2年目を迎え、優れた実践を学術的に検証、論文化し広めていくために、さらに研究者と実践者のマッチングを進めることに注力しています。今夏、大阪大学で開催した第2回年次大会では、論文指導のワークショップを設けました。情報教育に限らず、教科の専門の先生など、多くの優れた実践者がご自身の実践を学術的に検証して広めてほしいという期待がありました。

教科の本質を理解されている教科の専門性の高い先生方がタブレット端末を使うと、本当に質の高い実践を行われます。素晴らしい実践を広めて、さまざまな先生方がつながること。そして、志ある先生方がさらに伸び、それぞれが芽を出すこと。これがやがて大きな流れになって、デジタル教科書、児童生徒1人1台端末の整備の実現につながっていくことを期待しています。

「探究的な学習」を充実させるタブレット端末

新潟大学教育学部附属新潟小学校では、全校で81台のタブレット端末が整備されており、それらを活用した「総合的な学習」の実践に取り組んでいます。

タブレット端末は、総合的な学習で最も重視されているキーワードである「探究的な学習」を充実させ、「協同的に取り組む態度」の育成に効果があり、これまでとまったく異なる実践を生み出せる学習ツールであると考えています。

探究的な学習における生徒の学習の姿「探究的な学習」は「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」の4つの過程で成り立っています。学習指導要領に示される探究のモデル(左図)「探究のサイクル」の「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」のそれぞれの過程においてタブレット端末の効果を得られます。

例えば、これまでの総合的な学習では、「人と出会ってメモをする」「デジタルカメラで撮影した写真は、学校でコンピュータにSDカードを差し込んでデータを取り出す」「プレゼンテーションソフトウェアに写真を貼り付けて、まとめて発表する」という活動以上の展開が難しかった。

しかし、1人1台のタブレット端末があれば、写真や動画を撮影して、すぐにプレゼンテーション画面にまとめて発表できる。あるいは、それを簡単な操作でインターネット上に公開できます。「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」が、難しい操作もなく、シームレスに行えるのです。

また、これまでは、グループで調べたことをまとめて発表する際は、得意な子どもがグループをリードしていました。「やったふり」になっている子どももいました。1人1台のタブレット端末があれば、プレゼンテーション画面を一人ひとりが簡易に作成し発表できます。個が埋没せず、全員が自分なりにまとめたことを発表できます。そこにアプリケーションなどもあれば、個々にまとめたものを、グループで協同してまとめることもできるのです。

子どもたちの学びの足跡を蓄積していく仕組みが必要

タブレット端末を活用して、子どもたちの活動の足跡を「デジタルポートフォリオ」として残したいと考えています。子どもが個々にさまざまなものを作れるようになるからこそ、そのデータを整理して蓄積し、最終的には教員の評価にまで繋げることが、今後ますます大切になります。

しかし、現状では、さまざまなアプリケーションごとに、それぞれ違ったフォルダにデータが保存されている、検索で見つけにくいなどの不便さもあります。子どもたちの作品の評価の際は、タブレット端末を1台1台起動して、確認しなければなりません。教員の負担も大きいです。

子どもたちがアナログで描いた絵や彫刻、粘土で作った作品なども、子ども自身が撮影して、それがどんどん蓄積されていく。学年の終わりには、1年間の学びの足跡が分かるような仕組みが必要です。

一つひとつの作品に教員のコメントなども添えることができれば、すごく暖かみがあると思います。

日々の活用の中で、メディアリテラシーを育む

今、子どものスマートフォンや携帯ゲーム機の利用でさまざまな問題が起こっています。しかし、学校でその指導を十分に行えていません。今も全国で同時多発的にさまざまなトラブルが起きているはずです。

本校でも、最初の頃はタブレット端末で遊んでしまう子どももいます。しかし、それではダメであることを、子どもたち自身に気付かせ、本当のメディアリテラシーを身に付けさせたいと考えています。

児童生徒1人1台のタブレット端末があれば、日常の活用の中で情報モラルの指導ができます。机上の空論ではなく、その怖さを子どもたちに伝えられます。今起こっているさまざまな問題を考えながら、普段の授業の中に情報モラル指導を位置付けられる。これは大きなメリットだと思います。

1人1台のタブレット端末の環境で実現できる新しい“総合”の授業を

タブレット端末は、確かに一つのツールに過ぎません。また、全国的にみて、1人1台の環境が整っている学校はわずかだと思います。しかし、文部科学省の「教育情報化ビジョン」(2011)では、2020年までに1人1台のタブレット端末を用いた授業の実現を示しています。そう遠くない未来です。そのときに、現場のニーズに即していないものが導入されることがないようにしっかりと検証、提案をしていきたい。そして、未来の環境で実現できる新しい総合的な学習の授業を、今まで実現できなかった総合的な学習を作りたいと思っています。

(2013年10月掲載)