学習指導要領/教育の情報化

1人1台これからの授業づくり ハイブリッドな学習をめざして オンライン授業においても学習目標と学習過程を示すことが重要

佐藤 和紀

信州大学助教

東北大学大学院情報科学研究科修了・博士(情報科学)。東京都公立小学校・教諭、主任教諭、常葉大学教育学部・専任講師を経て現職。文部科学省「令和2年度 ICT活用教育アドバイザー」「児童生徒の情報活用能力の把握に関する調査研究」企画推進委員、「教育の情報化に関する手引」執筆協力者などを務める。

新型コロナウイルス感染症への対応のため2020年2月末から始まった全国の学校での休校措置の中では、オンライン授業に取り組む学校が見られました。文部科学省が2020年7月17日に公表した『新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた公立学校における学習指導等に関する状況について(令和2年6月23日時点)』によれば、学校が課した家庭における学習の内容のうち「同時双方向型オンライン指導」を行った教育委員会の割合は15%でした。前回調査(同4月16日時点)の5%から10ポイント上昇しました。6月初めから休校措置が解除され、日常を取り戻したと思った矢先に感染者が増加し、児童生徒の感染が確認された自治体では夏休みを延ばすなどの対応をしています。

臨時休業中の家庭学習(単位:設置者数) 令和2年4月16日時点
回答数 割合
教科書や紙の教材を活用した家庭学習 1,213 100%
テレビ放送を活用した家庭学習 288 24%
教育委員会が独自に作成した授業動画を活用した家庭学習 118 10%
上記以外のデジタル教科書やデジタル教材を活用した家庭学習 353 29%
同時双方向型のオンライン指導を通じた家庭学習 60 5%
その他 145 12%

複数回答あり。割合は、臨時休業を実施する設置者のうち、各項目に該当する家庭学習を課す方針であると回答したものの割合。
出典 : 文部科学省「新型コロナウイルス感染症対策のための学校の臨時休業に関連した公立学校における学習指導等の取組状況について」(令和2年4月16日時点)

一方で、2019年12月に文部科学省からGIGAスクール構想が発表されました。GIGAとは「Global and Innovation Gateway for All」の略で、小学校の児童および中学校の生徒1人に1台の端末と全国の学校に高速大容量の通信ネットワークを整備し、多様な子どもたちに最適化された創造性を育む教育を実現する構想です。このGIGAスクール構想も、今年4月に閣議決定された政府の「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」では、次のような方向性が示されました。

  1. 2023年度までの児童生徒1人1台端末の整備スケジュールの加速
  2. 学校現場へのICT支援員等の配置の支援
  3. オンライン学習に必要な通信環境の整備
  4. 在宅で端末を活用した学習が可能なプラットフォームの実現

今後はGIGAスクール構想も踏まえ、新型コロナウイルス感染症の対応で再度休校になろうとも、いつでもどこでも子どもたちの学びを止めないために、対面授業とオンライン授業を組み合わせた「ハイブリッドな学習」を実現していく必要があります。

休校で子どもたちは何に困ったか

休校中、4月段階の文部科学省の調査では「同時双方向型のオンライン指導を通じた家庭学習」の割合は5%でした。一方で「教科書や紙の教材を活用した家庭学習」の割合は100%であり、多くの学校はプリント等を印刷し、感染対策として下駄箱等で配付して、児童生徒は配付プリントを家庭でひたすら取り組むというスタイルが多かったようでした。

通常、家庭学習の時間は「学年×10分」(例えば、4年生であれば40分間程度)と例えられることが多いですが、これは児童生徒にとって「自己調整が難しい年齢」だからでしょう。しかし学校では、小学校1年生の登校初期は別として、多くの児童生徒は毎日5時間あるいは6時間の授業を行っています。これは「先生がいて上手に学習へ導いていること」「先生に褒められたり、時には叱られたりしていること」「友だちが学習する姿を見ていること」「先生や友だちとコミュニケーションがあること」などが、学習に向かう姿勢を育んでいるから可能になっています。しかし休校中、多くの児童生徒にとっては家庭に教材だけがあって、問題が分からないときの解決手段もその手順も手だてもない状態でした。

休校で先生たちは何に困ったか

一方、学校現場の先生方もさまざまな試みで、子どもたちの学びを止めないためのサポートをしようと模索していました。休校期間中に多くの先生方と議論してきましたが、いつも目の前で子どもたちを見ているのは先生自身であり、子どもたちが何に困っているのかくらいは容易に想像できていました。そのため多くの学校、多くの先生方が「インターネットによる学習のサポート」を試みようとしていました。

そこで障壁となったのは「児童生徒全員に同じようなサービスやサポートを受けさせることが可能か」ということでした。文部科学省からは「やれる人から、やれることを」という強いメッセージが出されていました。しかし、全校児童生徒のうちの数人がインターネットにアクセスできない環境だったため、「全員ではない」ことを理由にインターネットによる学習のサポートを断念していた学校が多かったように思います。もちろんすべての児童生徒をサポートできればベストです。しかし今回は緊急事態でした。もし、インターネットを接続できない数人の児童生徒がいたとすれば、同じかそれ以上のサポートと価値を提供すればいいように思います。

ある自治体の学校では、学習動画を先生が作成しました。しかし、全員がインターネットにつながっていないため、作成した学習動画をインターネットで配信するのではなく、DVDにコピーして配付していたといいます。全校児童生徒分のDVDを作成することは、かなりの労力と時間を要します。新たな動画を追加する際は、すべて回収してコピーし直したそうです。ICT活用が不得意な先生にとってこうした動画制作は大きな負担となりました。

また、各区市町村のセキュリティポリシー等によって「使いたいアプリケーションが使用不可能とされている」という壁もありました。特に同時双方向のオンライン授業に取り組むためのアプリケーションには制限が多かったように思います。

このように教員のICT活用指導力、学校や家庭のインターネット環境、セキュリティポリシーによって、同時双方向のオンライン授業や学習情報の提供が不可能だった学校が散見しました。一方で、5%の同時双方向のオンライン授業に取り組めた自治体・学校は、計画的にインターネット環境を整え、日常的にICTを活用していた学校だったといわれています。

学習目標と学習過程を示すことが
学習をはかどらせるための重要な要素です。

休校中のオンライン授業実践

学習内容だけではなく、学習過程が示されていること

前述したように、子どもたちが困ったことの一つに「教材」つまり学習内容だけが配付されていた状態があります。学習がはかどった子どもたちの学校では、プリントや動画のリンクなどを配付したり示したりしただけではなく、学校Webサイト等にその日の時間割が示され、学習内容に合わせて学習目標や学習過程が示されていました。

例えば「プリントを○日までに○枚取り組みましょう」「リンクの動画を視聴して復習しましょう」ではなく、「算数の○○○について復習することがめあてです。(1)プリントの全体を確認します(2)教科書○ページを開いて学習した内容を確認しましょう(3)プリントを取り組みましょう(4)終わった後に答え合わせをして、間違えた箇所は教科書を見てもう一度取り組みましょう」というように指示します。このように示せば、どのように学習に取り組めばいいかが伝わりますし、同時にどのように自学自習すればいいのかを指導することができます。もちろん、日常的に自学自習の学習過程が当たり前になっていれば、学習過程を詳しく指示する必要はありません。教室での授業でも、めあてや学習の見通し、学習の方法を示していますので、どういった形でも学習目標と学習過程を示すことは、学習をはかどらせるための重要な要素になります。

休校で自学自習の時間が増えたことで、学習内容だけはなく、どのような学習過程、どのような学習方法で取り組めばいいかを、これまでに教えてきたかが問われたようにも思います。また、日常的に各教科等で見方・考え方を働かせるための学習過程を意識させてきたのか、教えてきたかというようにも捉えることができるでしょう。

動画配信の取り組み

児童生徒への教材はプリントの配付にとどまらず、学校Webサイト等での動画配信の取り組みも行われていました。この動画配信の方法には、次のようなパターンが多く見受けられました。

  • [パターン1] いつものように授業をしての様子を撮影する
  • [パターン2] スライドで授業を作成して音声を入れ込んで動画にする
  • [パターン3] 実物投影機等で教科書を撮影する

大学の授業の一環で動画教材を調査したところ、動画の時間は短くて5分、長くても30分、平均して10分程度の動画が多いことが分かりました。

▼ 教科書を指し示す様子を撮影しながら授業動画を制作

右の写真は、パターン3の撮影の様子です。日常的な教科書をベースにした授業展開をし、発問、指示、説明などをいつもどおりに行っています。最初は撮影に慣れず撮り直すこともあり、技術的な負担感を感じたという声が多かったように思いますが、繰り返すごとに慣れていくなかで動画を量産した学校や自治体も多く見られました。先生方が日常的に取り組んでいるスタイルで撮影されていた学校や自治体が、無理なく配信していた印象を持っています。

同時双方向のオンライン授業を始めるために

休校中に「Zoom」や「Google Meet」「Microsoft Teams」といったWeb会議システム等を活用した同時双方向のオンライン授業という新しい授業実践にもチャレンジした学校も多く見られました。筆者も、いくつかの学校のオンライン授業のスタートアップに関わってきました。

まずは、先生がオンライン授業を体験するという研修が最初になります。研修前は不安で仕方がなかったという意見が多数を占めましたが、体験してみるとすぐに授業をイメージできたという先生も非常に多い印象がありました。

その後、校内で数回の練習をして、オンラインによる「朝の会」から始める学校が多くありました。しかし、学校中で同時にインターネットにつなげることで回線速度が遅くなることや、1人で取り組むことに不安のある先生がいることを鑑みて、8時半からは1年生、9時からは2年生といったように時間差で取り組みつつ、教員全員でオンライン授業の仕方を確認するという工夫をする学校もありました。また、家庭への連絡には「接続できる人から」と設定し、無理なく一歩一歩進んでいく工夫がされていたように思います。

まずは全員で短く取り組むだけで、
はるかに効果があることを実感した先生が多かったように思います。

オンライン授業を実施する上での工夫と効果

オンライン授業では普段よりも情報量が制限されているため、先生が子どもたちに問いかけをしても、それが伝わっているのか聞こえているのかすら分からないことがあります。また、全員のマイクがオンになっていると家庭音が入り込み、先生の言葉がよく聞こえないこともあります。そういった状況に対応するために、オンライン授業の初めに「ジェスチャーで○、×を示してください」「話をしないときはマイクをオフにしましょう」といったルールを示す工夫がされていました。

オンラインの朝の会を取り組んだ先生方からは、「子どもたちの生活リズムを整えることができる」「一日の予定を示すことができ、オンライン授業をしていなかったときよりも学習状況がよくなった」などの意見が聞かれました。オンライン授業のはじめの一歩として、まずは全員で短く取り組むだけで、取り組まないでいるよりもはるかに効果があることを実感した先生が多かったように思います。

管理職の判断と学校のチームワーク

オンライン授業を実施するには、さまざまな状況を考慮した上で、校長先生の判断が左右したように思います。ある自治体では当初、教育委員会が難色を示していましたが、学校の判断で実施したところ、後になって教育委員会が応援してくれる立場を取ってくれたという事例がいくつもありました。新しい取り組みにはどんな問題が起こるか想定ができないものの、実践前、実践中、実践後の管理職や先生のフォローアップによって、好事例が生まれてきたように思います。また、スタートすることができた多くの学校では、チームで取り組んでいる姿が見られました。

休校でなくても、ときどきは
オンライン授業を実践しておくことも大切です。

ハイブリッドな学習に向けて

こうした休校中の取り組みから、ハイブリッドな学習へ向けた取り組みのヒントはたくさんありました。今後、GIGAスクール構想の実現に向けた整備で1人1台の端末と共に、1人1アカウントが想定されます。そうした学習環境の中で、これらを日常的に活用しておくことがハイブリッドな学習を展開する上での第一歩となります。

例えば、日常的な対面の授業でもオンライン上に対面授業と同じ教材、学習目標、学習過程を示しておくというようなことを実践します。このことで、お休みした児童生徒への学習の提供の機会となるでしょう。また休校でなくても、ときどきはオンライン授業を実践しておくことも大切です。

1人1台の端末を常に持ち、自宅に持ち帰ることを前提にするならば、情報モラルやメディアリテラシーの学習も日常になります。これまでの情報モラルは、主に学校外の事件や事故を指導してきました。そのために指導が後手に回っていました。しかしこれからは、日々、目の前で児童生徒が使うなかで指導することが可能になるので、指導しやすくなるはずです。禁止ばかりではモラルやリテラシーは身につきません。また、常に新しいメディアやサービスが登場するなかで、一つの事柄を禁止したとしても、メディアは常に新しくなり、その禁止したことは形骸化していくことになるでしょう。1人1台の端末を持つことで常に新しい情報に触れながら、使い方を議論していくというような指導体制が望まれます。

1人1台端末を活用した際の児童生徒の行動の一例
  • 許可なく写真を撮影しようとする。
  • 被写体となった人に許可を得ずに写真を使う。
  • 友達の端末にWi-Fiで写真を転送する。
  • コピー&ペーストが当たり前になってくる。
  • 録画機能を使い、自宅でテレビ番組を撮影してくる。それを休み時間に見合う。
  • 学校という場にふさわしくない画像を検索する。それを友達に見せ不快な気分にさせる。
  • 学習等に夢中になっていると、廊下等で歩きタブレットをする。
  • 慣れてくると大切に扱わない行動が目につく。

出典 : 堀田龍也・佐藤和紀 編著『情報社会を支える教師になるための教育の方法と技術』(三省堂 / 2019年)より

(2020年11月掲載)