教育情報化最前線

ICT活用研究仙台市立錦ケ丘小学校 <GIGAスクール元年 成果と課題> 1人1台で増える、子どものアウトプット
学習データを活用した見取りが不可欠に

仙台市立錦ケ丘小学校では、2020年12月にGIGAスクール構想による児童1人1台の端末が導入されました。授業における教員、児童の日常的な端末の活用から、校務の情報化などさまざまにICT活用が広がっています。GIGAスクール元年を振り返った成果と課題について、同校の菅原 弘一 校長、早坂 聖司 教頭、田中 啓介 主幹教諭、佐藤 優衣 教諭にお話を伺いました。(2021年12月取材)

菅原 弘一校長

仙台市立錦ケ丘小学校

早坂 聖司教頭

仙台市立錦ケ丘小学校

田中 啓介主幹教諭

仙台市立錦ケ丘小学校

佐藤 優衣教諭

仙台市立錦ケ丘小学校

子どもに力がつく情報教育を

本校は東日本大震災の後に新設された、開校7年目の新しい学校です。児童数1,056名、教職員数80名を抱える大規模校です。学習活動はもちろん、地域とのコミュニケーションを大切にしたいという願いから「対話=温かいコミュニケーションができる力の育成」を目標の一つに掲げています。

また本校は、GIGAスクール構想による整備以前から電子黒板などのICT活用や情報教育の研究に取り組んでおり、さまざまな機器やツールの活用研究に努めてきました。令和3年度からは仙台市教育委員会よりGIGAスクール推進校の指定を受け、「子どもに力がつく情報教育」をめざして1人1台端末の活用を推進しています。

キーボード入力は必須のスキル
毎朝の15分間や時間を見つけて練習

本校に1人1台のChromebookが導入されたのは、昨年の12月でした。教員用端末や予備機を含めた端末数は1,139台に上ります。そのうち1割程度は、Wi-Fi環境が必要な家庭の児童のためにLTE通信に対応したモデルです。

昨年度中は、1,000台を超える端末の運用管理の方法やWindows端末との違いを把握することが中心でした。運用を本格的にスタートさせたのは今年の4月でした。

最初に取り組んだのは、必須スキルであるキーボード入力の練習です。2年生以上の児童から入力練習をスタートしました。

練習にはWebサイト「キーボー島アドベンチャー」を利用しました。2年生以上の学級で、朝の15分程の時間を使って練習してもらいました。さらに、授業で子どもが学習課題を早く終えたときなどすき間の時間を使って、どんどん練習させました。今ではローマ字を学習していない2年生の児童でも、苦労せず入力できるようになりました。

授業での活用は、学校のインターネット回線の増強工事が今年8月までかかったため、できることから少しずつ実践しました。まずは高学年を中心に「Google Workspace for Education」の活用を進めました。中学年以下ではこれまで紙のノートで取り組んでいた「ノート展覧会」をデジタルで行うなど、授業以外の場面から始めていきました。教職員が慣れるために、職員用のClassroomなども開設し、活用推進も図りました。

授業支援システムで、授業を効率的に進める

そうしたなかで、クラウド型の授業支援システム『SKYMENU Cloud』を試験的に活用する機会を得ました。

私は教務主任としていろいろな学年の授業を見ることがあるのですが、『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]や[ポジショニング]がよく使われています。学級で意見を可視化し、共有する目的で使われているようです。

『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]をよく活用しています。学習に必要な機能を備えつつ、大きなボタンで分かりやすく作られていると感じています。少ない操作数で実行できるので、児童への指示も通りやすく、目的を速やかに達成できます。低、中学年の授業では特に効果的だと思います。

授業でよく使うのは[グループワーク]機能です。個で考えてから、グループで共有し、協働で活動する学習展開で重宝しています。1つのスライドを共有して編集することもできるので、協力して一つのものを作る際も利用しています。

児童が作って提出した[発表ノート]は、教員の端末から[添削]機能で丸つけをして返しています。手書きで書き込んだり、[スタンプ]を押したりして手早く返却できるので、紙で丸つけをしているような感覚があります。授業での活用をイメージしやすく、教員に優しい作りだと思います。

「情報活用スキル・チェックリスト」を作成。児童の実態をつかむ

1人1台端末の活用を進めている本校ですが、例えば情報活用能力の系統表などを詳細につくりこんで、厳密に取り組んでいるわけではありません。あまり堅苦しく考えず、情報活用能力の系統表は目安であって、「伸びるところまでどんどん伸ばそう」という考え方で進めています。

とはいえ、児童に力をつけさせるためには、情報活用能力の実態を把握することが重要です。そこで田中先生が中心となって「情報活用スキル・チェックリスト」を作成し、全校児童を対象にして調査を実施しました。

チェックリストはレベル1~3まで作り、低、中、高学年でそれぞれ実施しました。例えばスキル面では、ログインができるか、キーボード入力練習サイトは何級かといった項目を設けて調べました。個人差はあるものの、高学年の4分の1の児童はいろいろな文字で長文を打つことができるという実態が見えました。

「インタビューができますか」「あらかじめ質問を考えて、詳しく人から話を聞くことができますか」「相手に伝わるように大きな声で話せますか」といったICT機器の操作スキル以外の設問も設定し、「自分でできる」「人に聞けばできる」といった項目を設けて回答してもらいました。

調査結果を基に、今後の指導内容を考えたいと思っています。とにかく大切なことは小学校を卒業したときに、中学校の学習にスムーズに接続できる力を身に付けていることだと考えています。

今回のチェックリストには、あえて「表計算ができますか」という趣旨の質問を入れました。するとある先生が「表計算はまだ教えていなかった。これも教えたほうがいいのですね」という気づきを話していました。やはり教員は、情報活用能力がどのような要素で構成されているのかを理解しておくべきです。今回のチェックリストは、教員の意識を高める上でも意味がありました。

仙台市立錦ケ丘小学校版 情報活用スキル・チェックリスト
▲ チェックリストは、レベル1(1・2年)、レベル2(3・4年)、レベル3(5・6年)の3つの段階で用意されている。上図はレベル3の内容の一部。端末の基本的な操作スキルからキーボード入力のスキル、情報の読み取りや整理、表やグラフでの表現などのICT 機器の操作に関わらない情報活用の項目も設けている。

端末の活用や情報教育の充実に教員の情報活用能力が欠かせない

子どもたちの吸収力はとても高くて驚かされています。インターネット検索で情報を調べて、教えていないことも知っていたり、いつの間にかできるようになっていたりします。

一方で、手軽さから安易にインターネット検索という手段を選択していることを心配しています。本を使って調べるような場面を教員が意図して作る必要があると考えています。

やりたいことがあるときに、使う道具や材料の特長を理解して、適切に選べるようになってほしいですね。ただ、変化の激しい今の時代に、情報の正確性を見極めることは本当に難しいと思います。例えば、インターネットの情報は信頼できないというけれど、きちんとした編集者がいて、信頼できる情報を発信しているWebサイトもあると思うのです。

だからこそ、情報を判断する方法を子どもに伝えることがより一層重要になると考えています。先ほどの話と重なりますが、情報活用能力は、子どもだけでなく、教員にも強く求められているのは間違いありません。

メモ的な資料と説明のための資料
場面に応じたまとめ方の指導を

▲ [グループワーク]でお互いの[発表ノート]を共有して話し合う

キーボード入力ができるようになり、高学年を中心に[発表ノート]などでアウトプットする量が圧倒的に増えています。

児童がアウトプットする場面は大きく2つあります。一つは、自分のために考えを整理するために詳しく書く場面。もう一つは、自分の考えを人に伝える場面です。前者は情報が多ければ多い方がいいですし、後者はできるだけ分かりやすく、簡潔にすべきです。しかし、今は自分のために詳しく書いた資料をそのまま説明用の資料として示している様子が見られます。

後者の場面では、[シンプルプレゼン]が役に立つ可能性があります。[シンプルプレゼン]は、入力できる文字数や画像の数が制限されるので、情報を吟味することを通じて伝える力を鍛えられます。自分が知りたいことや関心を持ったことを[発表ノート]に詳しくまとめる活動と、[シンプルプレゼン]に簡潔にまとめる活動を切り分けて往復させられると良いと思っています。

児童のアウトプット量の増加によって、45分の授業で見取ることがより難しく

▲ 子どもの考えがまとめられた[発表ノート]

児童のアウトプット量が増えたことで、教員の見取りにも変化が求められています。例えば以前のアナログの授業では、A4サイズ1枚のワークシートに45分間の授業の子どもの思考が収まるように設計されていました。この情報量は教員にもちょうどよく、机間指導をしていればおおよその状態を把握できました。けれども1人1台になり、アウトプット量が増えたことで、記述内容を瞬時に見取ることが本当に難しくなっています。

そうですね。授業中に1人ひとりの内容を読み解いて理解するのは難しいです。今は、[画面一覧]で大まかに進捗を見て、気になる児童は拡大して見ています。あとは机間指導で会話の内容を聞きながら状況を把握しています。

クラウド上の学習データを活用し、子どもの学びを見取る

先生方の授業をよく参観していますが、子どもの思考を瞬時に見取ることがどんどん難しくなっています。45分の授業ごとに見取ろうとするのではなく、もう少し長いスパンで見取る必要があるのではないかと、このところ考えています。

確かにデータがクラウド上に集約されているので、授業後に自分の端末でじっくりと確認する機会が増えています。

蓄積されたさまざまなデータから何をどのように見取るのか、濃淡をつけたり、焦点化することも大切になると思います。子ども自身が蓄積された情報の中から取捨選択して、編集したものを提出するようなことも大事になってくると思っています。

その場合は、ある程度、子どもにまとめる力がないと、良い気づきや言葉を削って提出してしまいそうです。

そうですね。そう考えると、大量の学習の記録がクラウド上に残っていて、先生も子どもも学びを俯瞰できる状態にあるのは、とても素晴らしいことだと思います。例えば、子どもが自分の振り返りを簡潔にまとめて示したときに、先生は「あなたの学びは、本当はこうだったじゃない」「もっとこうしたら良くなるよ」と記録を基に話し合って、気づきを与えられる。もちろん、そのためには、データを活用した評価の手法の確立が必要ですし、教員の見取りを支援するようなシステムの開発が期待されるところですね。

出欠連絡や保護者への連絡に
[出欠ノート]や[電子連絡板]を活用

出欠連絡のデジタル化
既存のアンケートツールでは、集計作業が教員の負担

授業でのICT活用に加えて、校務でもICT活用を進めています。例えば、朝の出欠連絡のデジタル化を試行しています。

最初はクラウド型グループウェアのアンケート機能を活用しました。朝の出欠連絡に関する電話対応が減り、業務改善の効果が見られたのですが、教員間で情報を共有するにはひと手間をかけてデータを加工する必要がありました。具体的には、「情報の並べ替え」や「2重回答の削除」などです。また、できる限り多くの児童の情報を集めて、正確な情報を展開したいので、授業が始まるまでに何度もデータをエクスポートし、最新の情報に更新することも行っていました。毎朝電話に張りついていることからは解放されたものの、今度はコンピュータに張りつくことになっていました。

[出欠ノート]で、出欠連絡に関する業務をさらに効率化

デジタル化で一定の効率化は見られました。でも、「誰かが苦労して実現する」方法では、働き方改革の実現とはいえないと考えました。そうしたなかで、『SKYMENU Cloud』の[出欠ノート]を使った出欠連絡を試験的にスタートさせました。

[出欠ノート]の運用開始によって、状況は大きく改善されました。まず、[出欠ノート]には、保護者の端末から入力された情報が自動的に集計されて表示されます図1。集計データのエクスポートや並べ替えなどの集計作業は一切必要がなくなりました。[出欠確認]の画面を見れば、見たい情報がすぐに分かるので、今は学級担任が自分の端末で確認しています。「出欠状況をいつでも、どこからでも正確に把握できる」と好評です。

電話の出欠連絡も毎朝2、3件にまで少なくなりました。デジタル化する以前は、毎朝20~30件の電話連絡があったので、大きな変化です。以前は次から次に電話がかかってきたため、机はメモでいっぱいになり、名前の聞き間違いなどから情報が不正確になることもありました。その点、[出欠ノート]は、「腹痛」「体調不良」「発熱」などの入力項目に加え、コメント欄から自由記述で回答してもらえるので、より正確に情報を得られるようになりました。入力項目は、公簿に反映しやすいように公簿と同じ項目に設定するといった工夫もしています。

もう1つ、想定外の効果として、学校に足が向きにくい児童のいる家庭からも毎日連絡が来るようになりました。毎日学校に欠席の電話連絡をすることに、保護者の方もストレスを感じていたのだと思います。端末から文字で連絡できることで、抵抗感がなくなったようです。

そもそも、朝の時間帯の電話はとても気を使うものだと思います。今は共働きの家庭が当たり前になっています。保護者は出勤前の忙しい時間に電話をする必要があり、負担に感じられていたのではないでしょうか。保護者も学校もICTで完結できるものは積極的にICTを取り入れていくべきだと思います。ただ、対応が事務的、機械的になってしまうという懸念はあります。よりコミュニケ―ションが必要な家庭と学校のつながりが希薄にならないように注意したいですね。

その点でいえば、むしろ[出欠ノート]で正確に出欠情報がつかめることで、データを根拠にした教員同士の声掛けが行われるようになっています。[出欠ノート]の履歴を見て、「〇〇君が連続して休んでいる。声を掛けたほうがいいのでは?」といった会話が職員室でより交わされるようになりました。

[電子連絡板]で、保護者への情報発信が容易になり、内容も充実

保護者との連絡という点では、保護者向けに作成した[電子連絡板]で、文字数を気にすることなく情報を編集できるようになり、とても発信しやすくなりました図2

本校では、主に緊急時の連絡メール配信のために導入されている「メール一斉配信システム」を保護者への情報発信の手段として平時から積極的に利用しています。しかし、そもそも緊急時を想定した仕組みですから、配信できる「文字数」が決まっています。ですので、伝達できる情報量には限度がありました。今は、[電子連絡板]と[保護者向け連絡]機能のメールを組み合わせて、文字数を気にせずに情報配信できるので、以前よりも情報を発信しやすくなりました。

[電子連絡板]に閲覧率が表示されるのですが、毎回9割以上の保護者が閲覧してくれています。保護者へのアンケート調査などは行っていないのですが、好意的に受けとめられていると思います。

付属の登録用紙で保護者への依頼も円滑に

初めに保護者にメールアドレスなどの登録をお願いする必要があったのですが、大きな混乱もなく完了しました。製品にあらかじめ用意されている[登録用紙]をそのまま使えたので助かりました。保護者の登録に対する抵抗感のようなものもなく、スムーズに進みました。

本校では、これまで働き方改革に向けて、さまざまにICTを取り入れてきましたが、なかなか実を挙げられませんでした。出欠連絡は、成果を感じられる取り組みになりました。

そうですね。事実として、私は今では校門の前で子どもを迎え入れられそうなほど余裕が生まれています。学校も保護者も、みんなが助かる仕組みだと思います。

資質・能力を育むために、「子ども主体の授業」にシフトチェンジ

GIGAスクール2年目に向けては、校務の効率化を図りつつ、やはり子どもの資質・能力を高める授業を実現させたいと考えています。そのためには「子ども主体の授業」へのシフトチェンジは欠かせません。難しい課題ですが、一歩ずつ確実に進めたいと思います。また、プログラミング教育については1人1台端末の環境であらためてスタートを切りたいと考えています。

(2022年3月掲載)