学習指導要領/教育の情報化

21世紀にふさわしい学びと学校の創造 齋藤晴加(文部科学省生涯学習政策局参事官)

文部科学省では、平成22年度から今後の学校教育(初等中等教育段階)の情報化に関する総合的な推進方策について検討を行う「学校教育の情報化に関する懇談会」を開催され、同年8月に「教育の情報化ビジョン(骨子)」を取りまとめられました。その後、本骨子に関して、当該懇談会の下にワーキンググループを設置し更なる検討を進め、このほど「教育の情報化ビジョン」を公表されました。齋藤晴加 文部科学省生涯学習政策局参事官に、そのポイントをお聞きしました。

(文責:Sky株式会社)

2020年度に向けた教育の情報化ビジョン

平成21年度の補正予算によって、多くの学校に情報通信機器が整備されましたが、まだ十分とは言えません。今後、それらの機器を含め、21世紀を生きる子どもたちを育む基盤となるようソフト・ハード・ヒューマン面の充実を図り、教育の情報化を進めていくことが重要な課題です。

本ビジョンの検討にあたっては、平成22年4月から「学校教育の情報化に関する懇談会」を開催し、平成22年11月からはその下に、「教員支援ワーキンググループ」「情報活用能力ワーキンググループ」「デジタル教科書・教材、情報端末ワーキンググループ」を設置。学識経験者、学校関係者、地方公共団体の長、地方教育行政関係者、民間事業者・団体等と多角的、専門的な視点からの意見交換を行いました。また、「熟議」に基づく政策形成に取り組む文部科学省のWebサイト「熟議カケアイ」においても広く教育現場等に関わる様々な立場の方から意見を募るなど、新しい試みに取り組みました。

このたびの東日本大震災では、多くの学校が避難所等としての役割を果たしていることも踏まえて、災害時に対応した安全・安心な学校の実現が求められていること等もあらためて認識されました。

これらのことを踏まえ、2020年度に向けた教育の情報化に関する総合的な推進方策「教育の情報化ビジョン」を本年4月に取りまとめ公表しました。

【第一章 21世紀にふさわしい学びと学校の創造】

本ビジョンの総論として、懇談会の中でも特に時間を割いて議論されました。

知識基盤社会化やグローバル化が進む21世紀に生きる子どもたちは、「生きる力」や「情報活用能力」などの力を身に付けることが必要になります。そのためには、一人一人の子どもたちの多様性を尊重しつつ、それぞれの強みを生かし潜在能力を発揮させる個に応じた教育を行うとともに、異なる背景や多様な能力を持つ子どもたちがコミュニケーションを通じて協働して新たな価値を生み出す教育を行うことが重要です。

そして、そうした教育を行うために、学校において、教育の情報化を推進し、教員がその役割を十分に果たした上で、情報通信技術を活用し、その特長を生かすことによって、一斉指導による学び(一斉学習)に加え、子どもたち一人一人の能力や特性に応じた学び(個別学習)や、子どもたち同士が教え合い学び合う協働的な学び(協働学習)などを推進できる、すなわち学びのイノベーションを起こすことができると考えられます。

【第二章 情報活用能力の育成】

子どもたちの情報活用能力を育成するために、新学習指導要領を円滑かつ確実に実施すること、その際、情報活用能力を身に付けさせるために学校現場で展開された好事例等の収集・提供に努め、それらを学校現場へ周知することの重要性を記しています。

特に、情報モラル教育の充実については、このたびの震災においてインターネット上で、国民の安全や安心に資する有益な情報が伝達された反面、国民の不安をあおる言葉などが飛び交いました。こうした状況も踏まえ、より一層の充実が必要と考えています。

今後の教育課程に向けては、研究開発学校制度等を活用して、情報活用能力の育成のための教育課程について実証的に研究していきます。

【第三章 学びの場における情報通信技術の活用】

第一章で述べた学びを創造する観点から、学習者用デジタル教科書の開発、子どもたち一人一台の情報端末環境や超高速の校内無線LAN環境の構築、それらを活用した教育の効果や指導方法等について実証研究を行う必要性などをまとめています。

本ビジョンでは、デジタル教科書を大きく2つに大別して整理しています。デジタル教科書のうち、現在、教科書発行者などが発行している、主に教員が電子黒板などで提示して指導するためのものを「指導用デジタル教科書」。主に子どもたちが個々の情報端末で学習するためのものを「学習者用デジタル教科書」としています。

齋藤晴加参事官の写真特に後者については、『単に紙媒体の教科書の内容がそのまま表されるだけではなく、例えば、現在の指導者用デジタル教科書が有する音声の再生、動画、拡大等の機能に加え、インターネットの活用、教員と子どもたち又は子どもたち同士の間の双方向性のある授業、ネットワークを介した書き込みの共有、教員による子どもたちの学習履歴の把握、子どもたちの理解度に応じた演習や家庭・地域における自学自習等に資すること等が考えられる』としました。

昨夏の「教育の情報化ビジョン(骨子)」から異なる点として、本章では、新たに学校教育法30条に規定する学力の3要素である「基礎的・基本的な知識・技術の習得」「思考力・判断力・表現力等の育成」「主体的に学習に取り組む態度の育成」という観点から見た、情報通信技術を活用した具体的な授業事例を整理し紹介しています。イラスト等も用いて、活用イメージを持っていただけるようにしています。また、デジタル教科書・教材、情報端末に期待される機能の例なども新たに整理して紹介しています。

【第四章 特別支援教育における情報通信技術の活用】

情報通信技術は、特別な支援を必要とする子どもたちにとって、障害の状態や特性等に応じて活用することにより、各教科や自立活動等の指導において極めて有用です。

デジタル教科書・教材については、障害の状態や特性等に応じた様々な機能のアプリケーションの開発が必要であり、情報端末等については、特別な支援を必要とする子どもたちにとっての基本的なアクセシビリティ(誰もが支障なくアクセスでき利用できること)を保証できることが必要であると指摘しています。

特別支援教育においては、教員間や学校、家庭、地域や医療、福祉、保健、労働等の関係機関との連携を密にすることが求められますが、その際にも情報通信技術を活用することが有効です。

【第五章 校務の情報化の在り方】

学校における校務の情報化は、教職員等学校関係者が必要な情報を共有することにより、きめ細かな指導を可能とするとともに、校務の負担軽減を図り、教員が子どもたちと向き合う時間や教員同士が相互に授業展開等を吟味し合う時間を増加させ、ひいては、教育の質の向上と学校経営の改善をめざしています。

また本章では、校務支援システムが全ての学校に普及することについての期待と共に、今後、必要な教育情報のデジタル化やデータベース化に向け、項目やデータ形式等の標準化の重要性も記しています。

今回の震災では、校務情報が流失するなどの事態が発生しました。本章では、クラウド・コンピューティング技術を活用し、データの安全な保管をすること等のメリットと、その一方で、ネットワークのセキュリティの確保やサービス提供事業者の事業の継続可能性など考慮すべき課題があることを指摘しています。

今後は、校務の情報化に関するクラウド・コンピューティング技術活用の可能性について、試行的な取り組みを行いつつ検証する必要があるとしています。

また、新たに、校務支援システムの機能の例を整理して紹介しました。

【第六章 教員への支援の在り方】

情報通信機器やデジタル教材などがあっても、それらが使いこなされなければ意味がありません。

本章では、ICT活用指導力向上のための教員研修を十分に行うべきであることや、教員養成を行う大学等においては、『教員養成学部(附属学校を含む)をはじめ、教職課程等においては、教員を目指す学生が授業や実習を通じて情報端末・デジタル機器やソフトウェアに触れる機会の充実を図ること』を求めています。

学校管理職の学校CIOとしての役割、またICT支援員の活用も重要です。ICT支援員は、情報通信技術の活用を普及・定着させるために、情報端末・デジタル機器のトラブル、ネットワークの障害対応などの技術支援や、情報通信技術を活用した授業の相談やアドバイス等を行い、情報通信技術を活用した授業等をすべての教員が自立して行えるような支援が行われることを期待しています。

【第七章 教育の情報化の着実な推進に向けて】

政府の「新成長戦略」や「新たな情報通信技術戦略」を踏まえ、21世紀にふさわしい学びと学校を創造する方向性に沿って、教育の情報化を実効的に推進することが重要です。そのためには、様々な学校種、子どもたちの発達の段階、教科等を考慮しつつ、文部科学省の「学びのイノベーション事業」と総務省の「フューチャースクール推進事業」との連携により、モデル地域・学校などで総合的な実証研究を多角的な観点から行う必要があります。今年度は、全国の小学校10校、中学校8校、特別支援学校2校でこの実証研究を行う予定です。

また、今後、東日本大震災の被災地等において創られていく学校については、地域や学校のニーズを踏まえながら、「教育の情報化ビジョン」に記載された内容を生かし、21世紀の学びと学校をリードする新たなモデルとなることを期待しています。

教育の情報化ビジョン【概要】 教育の情報化ビジョン【概要】

(2011年6月掲載)