学習指導要領/教育の情報化

ICT活用「次の一歩」を踏み出そう 野中陽一(横浜国立大学 准教授)

学校の工夫で「常設環境」を

国の平成21年度一次補正予算「スクール・ニューディール」を受け、全国の学校にデジタルテレビや校務用コンピュータなどのICT機器が整備された。今回の大規模な予算措置により、多くの学校現場が、本格的な活用に向けたスタートラインに着いたと言える。新しい環境を授業や校務の質的改善に生かすため、学校にはどのような対応が求められるのか、野中陽一・横浜国立大学准教授に聞いた。

機器と提示物を一組に

文科省の推計によると、平成21年度の補正予算で全国の小中学校に整備されたICT機器は、デジタルテレビ約28万台(うち電子黒板は約2万台)、教育用コンピュータ約36万台、校務用コンピュータ約34万台に上る。

概算では、デジタルテレビが約7割の教室(電子黒板は約6割の学校)に導入され、校務用コンピュータは教員1人1台水準をほぼ達成したことになる。

この大規模な整備について野中氏は、「大型のデジタルテレビや電子黒板の数が増え、教室ですぐに使えるようになったことは評価できる」としたうえで、「今後の活用推進に向けた学校の取り組みは、3つのポイントで見ていく必要がある」と指摘する。

最初のポイントは、日常的に使える環境づくりだ。

野中氏らのグループは昨年、文科省委託事業として、ICT活用と学力の相関関係を探る全国規模の調査分析を行った。その結果、ICTの活用頻度が上がるほど、子どもの学力もやや上がることが明らかになった。

「わかりやすい授業で子どもの学力を高めるというICTのベーシックな効果は、日常的な活用から生まれる。だからこそ、毎日の授業でストレスなく使える環境づくりが重要なのです」

野中氏は、日常的な活用のベースになるのは、「機器とコンテンツがセットになった環境」と強調する。

デジタルテレビや電子黒板などの提示装置があっても、写すものがなければ活用は広がらない。授業のたびにネットでコンテンツを探して提示するといった、教員に負担を強いる活用スタイルも長続きはしない。教科書準拠型コンテンツなどがセットになっていれば、本文の拡大提示といった手軽な使い方を中心に、活用頻度のアップが期待できる。

デジタルコンテンツがなくても実物投影機があれば、教科書やプリント、子どものノートなど紙ベースの資料が写せる。「実物投影機は周辺機器ですが、それ自体がひとつのコンテンツと捉えられるくらい、大きな存在です」と指摘する。

カギは便利さの実感

機器やコンテンツの数が足りない場合でも、両者がセットになった環境を、学校の工夫でつくることは可能だ。例えば、空き教室に電子黒板と実物投影機、コンピュータ(コンテンツ)を常設し、ICTを使いたいときはその教室に子どもを移動させるといった対応が考えられる。

「普通教室では、機器の設置位置の調整や配線など、準備に手間がかかる。たとえ小さな手間でも、毎回行うのは先生にとって負担になり、活用頻度が下がってしまうのです」

その点、ICT常設教室なら、電源を入れるだけで「機器とコンテンツがセットになった環境」で授業を始められる。これまで活用していなかった教員に、ICTのメリットを実感してもらう効果も期待できそうだ。

野中氏は、「小学校なら電子黒板などを常設した教室を“英語教室”とし、英語ノートデジタル版の活用を図っていくのが馴染みやすいと思います」と提案する。

2つめのポイントは、活用アイデアの共有。教員が活用事例やアイデアを持ち寄り、校内レベルで共有する研修が必要と野中氏は言う。

「言葉だけでは理解しにくいICTの利点を体験的に知ってもらうことが大切。メリットを実感することが、これまで消極的だった先生が活用へ向かうきっかけになりますから」

従来の授業研究のような形式ではなく、アイデアの共有ときっかけづくりを目的とした、短時間の活動を多くつくることが重要だ。そういう意味では、「今日の授業でこんなものを写したよ」といった職員室での日常会話も「研修」になり得る。

活用への入口で足踏みしていた教員も、最初の一歩をクリアできれば、「機器の準備などの手間がなければ、授業で使ってくれるようになる」と野中氏。特定の機能やコンテンツにこだわるより、多様な活用アイデアを吸収し、自分の授業スタイルに合わせて取捨選択していくほうが、教員のICT活用スキルを高めやすいとも語る。

活用段階の共通指標を

3つめのポイントは、校務での活用推進だ。多くの教員が日常生活ではメールやネットを使っている。その延長線上での活用としては、文書作成やデータ入力などを含む校務のほうが親しみやすいという側面がある。

「まずは定型的な業務でICTに親しんでもらい、少しずつ活用範囲を広げていきます。最終的には学校全体のICT活用として、成績評価につながる日常の形成的評価や、子どもの情報の蓄積・共有化などを目指してほしいと思います」

野中氏によると、教育の情報化で先行する英国でも、校務のICT活用の重点は定型業務から評価へシフトしているという。現在では、子どもの学習履歴の共有化などを含めた、統合的なシステムづくりが進んでいるそうだ。

「日本でも取り組む学校が増えている、“子どものいいとこ見つけ”のような活用は重要です。こうした活動の継続は、評価情報の共有化による作業の効率化、そして評価そのものの充実につながります」

学校ホームページの運営も、校務での活用推進の糸口になる。ポイントは、特定の教員だけに任せるのではなく、全員が関わることで作業を分散化することだ。校内体制づくりを含めた管理職のリーダーシップが求められる。

野中氏は、今後の各校の取り組みをサポートする意味でも、授業での活用、情報教育、校務での活用といったテーマごとに、「学校のICT活用レベル」のような共通指標を示す必要があると提言する。

「こうした指標があれば、自校のICT活用の現状を把握し、次に何をすれば前に進めるのかわかります。目指すべき将来像を掲げるだけでなく、そこに至るための道筋も具体的に示す必要があると思います」

教育の情報化に関する共通指標の作成は国の役割と言える。一方で各教委には、校内リーダーや管理職への研修、地域単位での校務の共通化などが求められる。周辺機器やコンテンツを中心に、もう一段の環境整備が必要な自治体もある。

野中氏は、「今回の予算措置の成果を生かすためにも、国と教委、そして学校が、教育の情報化に向けた次の一歩を踏み出すことが求められている」と話す。

協力:日本教育新聞社
(2010年8月掲載)