学習指導要領/教育の情報化

本当の意味での「情報活用能力」を 永井克昇(千葉商科大学教授、前文部科学省視学官)

小・中学校に続き、このほど高等学校、特別支援学校の新学習指導要領が公示されました。
新学習指導要領における情報教育、身に付けさせる「情報活用能力」とは何か。高等学校普通教科「情報」、専門教科「情報」改訂のポイントを踏まえ、永井克昇先生(千葉商科大学教授、前文部科学省視学官)に解説いただきました。

思考力・判断力・表現力を育む学習活動例を示す

永井克昇視学官現行の学習指導要領に引き続き、「生きる力」を身に付けさせることが今回の学習指導要領でも基本的な理念です。

そのための手立てが、「知識・技術の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランスを重視する」「道徳教育や体育などの充実により、豊かな心や健やかな体を育成」ということになります。

いわゆる基礎的・基本的な知識・技術だけではなく、それを活用する力を子どもたちに身に付けさせなければならないというのが中教審の共通的な課題意識です。そして、そのためには活用のベース、基盤となる力として、思考・判断・表現する力をバランスよく身に付けさせなければなりません。

中教審では、思考力・判断力・表現力を身に付けさせるということが、スローガンだけの絵に描いた餅にならないように、具体的な学習活動の例を示し、それを改訂した学習指導要領において特定の教科だけでなく、すべての教科等の内容の中に取り入れました。そうすることで、すべての教育活動を通して、3つの力を育成できるという構造を考えたわけです。

【図1】に示すように、中教審の答申に①から⑥までの具体的な活動例が挙げられていて、これらが改訂された小・中学校の学習指導要領の全ての教科に取り入れられています。高等学校の改訂案においても、このような伝達、論述、評価、説明という活動がいたるところに記述されているのです。

そして、これらの活動には言語を使います。今回の改訂で「言語活動の充実」が、総則の一番最初に記述されており、それは言語活動を重視しているということを示しています。

私は情報教育の担当として、言語活動をするときの子どもたちの姿をイメージしてほしいとお伝えしています。紙や鉛筆はもちろん使いますが、ネットワークにつながったコンピュータやスクリーン、プロジェクタなど、いわゆる情報機器を利用している姿です。

教育用コンピュータを学校に導入してくださいとか、すべての学校で校内LANなどの環境を整備してくださいとお願いしてきたのは、このような活動を必要に応じて、情報機器を活用して授業をしていただくためなのです。それが、子どもたちの興味・関心、意欲、理解に結びついて、確かな学力につながっていきます。

まさに、言語活動の充実と情報教育の充実は表裏一体です。つまり、情報活用能力を小学校から身に付けていく、体験的に学ばせていくことがこの学習活動例からも分かります。

図1 学習指導要領改訂の基本的な考え方

12年間で「基礎」→「主体」→「実践」的に使いこなす

新しい学習指導要領では、言語活動と直結する意味で、情報活用能力を育てることが、求められていることを前提に、総則の書きぶりを見てください【図2】。

現行の学習指導要領では、小学校で「慣れ親しむ」、中・高等学校で「積極的に活用する」とあります。これは「授業でできるだけICTを活用してください」という考え方です。

改訂された学習指導要領では、基本的に小学校は「慣れ親しむ」というスタンスで適切に授業で活用してくださいという点は、これまで同様です。そこにプラスして、「コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け、適切に活用できる」という記述が入りました。

小学校では、「すべての教科でICTを活用してください」ということにとどまらず、「基本的な操作」「情報モラル」を身に付けさせるなど、まさに私たちが情報活用能力の育成をめざす情報教育の内容そのものが、小学校の学習指導要領に書き込まれたわけです。

中学校では、基本的な操作については小学校で教えているので、あえて中学校の発達段階において記載されていませんが、中学校で教えないというわけでなく、「主に情報モラルを身に付け、情報手段を適切かつ主体的、積極的に活用」できるようにする。

高等学校も同様で、「情報モラルを身に付け、情報手段を適切かつ実践的、主体的に活用」できるようにすることが記載されました。

このように「基礎」「主体」「実践」的に情報手段を使いこなし、そして子どもたちを社会に送り出すという12年間のイメージで、学びの方向性が総則に書かれたのです。

図2 学習指導要領 答申における情報教育の記述
  現行学習指導要領 中央教育審議会答申 新学習指導要領


各教科等の指導に当たっては、児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ、適切に活用する学習活動を充実するとともに、視聴覚教材や教育機器等の教材・教具の適切な活用を図ること。 小学校段階では、各教科等において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの積極的な活用を通じて、その基本的な操作の習得や、情報モラルにかかわる指導の充実を図る。 各教科等の指導に当たっては、児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ、コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け、適切に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに、これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器等の教材・教具の適切な活用を図ること。


各教科等の指導に当たっては、生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を積極的に活用できるようにするための学習活動の充実に努めるとともに、視聴覚教材や教育機器等の教材・教具の適切な活用を図ること。 中学校段階では、各教科等において、小学校段階の基礎の上に、コンピュータや情報通信ネットワーク等を主体的に活用するとともに、情報モラル等に関する指導の充実を図る。 各教科等の指導に当たっては、生徒が情報モラルを身に付け、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切かつ主体的、積極的に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに、これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器等の教材・教具の適切な活用を図ること。



各教科・科目等の指導に当たっては、生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を積極的に活用できるようにするための学習活動の充実に努めるとともに、視聴覚教材や教育機器等の教材・教具の適切な活用を図ること。 高等学校段階では、各教科等において、小学校及び中学校段階の基礎の上に、コンピュータや情報通信ネットワークなどを実践的に活用するとともに、情報モラル等についての指導の充実を図る。 各教科・科目等の指導に当たっては、生徒が、情報モラルを身に付け、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切かつ実践的、主体的に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに、これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。

「実践」「理解」「態度」を学ぶ、基本的な考え方は変わらない

<普通教科「情報」>

高等学校の普通教科「情報」がどのように変わるかをご説明します。高等学校では、小・中学校からのつながりを強く意識しています。

現行の学習指導要領を組み立てたころは、すべての子どもたちがコンピュータやインターネットを十分に活用していたといえる状況ではありませんでした。そういう子どもたちにも「情報」を学習できるようにする、という当時の時代背景から3科目構成になっていました。「情報A」はまさにそういう子どもたちのための科目として設置されました。

今回の改訂では、小・中学校で活用経験が十分でない子どもが少なくなったことから、「情報A」をなくし、「情報の科学的な理解」や「情報社会に参画する態度」を内容の柱にした2科目構成になりました【図3】。

また、情報モラルについては必要な繰り返しを高等学校でも行い、確実に身に付ける必要があります。さらに新しく情報モラルに関する項目が立てられ、小・中学校での成果を受けて学習することになります。

現行の「情報A」「情報B」「情報C」の科目名では、中身がイメージしにくいとのご意見がありました。そこで今回の改訂では「社会と情報」「情報の科学」という科目名からして、参画する態度や科学的な理解に重点を置いていることが分かるようにしました。

基本的に今ある科目の内容や目標をすべてスクラップして、まったく新しい目標や内容に構築しようという考え方ではなく、現行の科目の目標や内容をベースに、必要なくなったものは取り除き、この10年間の社会の変化で新しく学ばなければいけないものは付け加えるという考え方です。

「情報C」の内容をベースにして「社会と情報」、「情報B」の内容をベースにして「情報の科学」を組み立てました。

是非、先生方にご理解いただきたいのは「情報A」という科目がなくなったから、「情報活用の実践力」の育成が高等学校で必要なくなったわけではないということです。「参画する態度」と「科学的な理解」に重点を置いた科目構成にしましたが、コンピュータやインターネットの操作や実習を通じて学ぶという考え方には変更ありません。「情報A」の科目の中でも、子どもたちに必要なことは新しい2科目の中に取れ入れています。

2つの科目どちらをとったとしても、3つの観点「実践」「理解」「態度」を学ぶという基本的な考え方に変わりはないのです。

このように枠組みが変わりますので、それに沿って授業も変えていただく必要が出てくるでしょう。そして、本当に子どもたちに情報活用能力が付いているのかどうかを見極めながら授業改善してほしいと思います。

図3 これからの普通教科「情報」

キャリア、ドキュメンテーション、ソリューション、テクノロジー

専門教科「情報」は、専門という名が付いているとおり、将来高度な情報技術者を目指す子どもたちのニーズに応え、人材を育成する教科です。

専門教科「情報」は現行が11科目、それを13科目にいたしました【図4】。13科目の構成は赤が基礎的科目、緑と青が選択・応用的科目、黄色が総合的科目になります。

基礎的科目として、「情報と問題解決」「情報テクノロジー」を新設するとともに、「情報と表現」については情報を表現するとともに適切に管理し、活用する能力と態度を学ぶ内容に見直しを図り、科目の名称を「情報の表現と管理」に変更しました。

また、実習を通して、各分野の学習で習得した技術を統合的に活用する能力や態度の育成を目指した「情報システム実習」「情報コンテンツ実習」を新設。情報と情報手段を活用した問題の発見と解決に関する基礎的・基本的な知識と技術を習得させる「情報と問題解決」も新設しました。

基礎的科目は4つあります。

  • 「情報産業と社会」は、情報産業におけるキャリア教育。
  • 「情報の表現と管理」は、ドキュメンテーション、すなわち単に文章を作るだけでなく、それらを整理整頓し、使いやすい形で維持管理する力を身に付ける。
  • 「情報と問題解決」は、ソリューション。解決策をユーザに提案して改善できるようにする。
  • 「情報のテクノロジー」は、情報に関するテクノロジーを身に付ける。

今回改訂された専門教科「情報」は、「キャリア」「ドキュメンテーション」「ソリューション」「テクノロジー」がキーワードです。これらを学習した上で、システム分野やコンテンツ分野に進ませるという構図にしました。

図4 これからの専門教科「情報」

目の前の子どもたちに本当の意味での情報活用能力を

<専門教科「情報」>

情報教育はコンピュータの授業ではありません。高等学校の「情報」の授業は、指先のスキルを付けるだけの授業ではありません。コンピュータを使いこなすために指先のスキルは必要だけれども、「それで満足」ではありません。高等学校では次のステップとして「参加する態度」「科学的理解」の内容の科目を乗せているのですから。

ベースはやはり情報手段等を使えることです。しかし、それを「情報」の授業の目標にしないでほしいのです。子どもたちに考えさせる、伝え合うという言語活動=情報活用能力ですので、子どもたちにそういった活動をたっぷりさせて、情報活用能力を身に付けさせてほしい。

小・中学校では教科「情報」がありません。見方によっては、小・中学校では「情報」の時間がなくて難しいといわれるかもしれませんが、逆にいえば、すべての科目の授業でそういう活動をしましょうということです。例えば、伝え合う、表現するといった活動をそれぞれの教科の中で行うことで、情報活用能力が身に付いていくことを先生方に意識していただきたいのです。

先生方は目の前の子どもたちに本当の意味で情報活用能力が身に付いて いるかどうかを、常に考えて授業に望んでいただきたいと思います。

(2009年4月掲載)