学習指導要領/教育の情報化

これからの情報教育、情報モラル指導 永井克昇(千葉商科大学教授、前文部科学省視学官)

【1】知的基盤社会における「生きる力」とは

平成20年1月17日に公表いたしました中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領の改善について」(以下、答申)に示されている理念や視点についてご説明させていただきます。

現在の子どもたちが生きてゆく世の中は、「知的基盤社会」と言えるでしょう。この変化のめまぐるしい社会で子どもたちが生き抜いてゆく時に、どのような力が必要か、答申では3つ挙げています。

1つ目は、「課題を見いだし解決する力」。課題を自分自身で見いだし、自分の力で解決しなさい。そういう力を身につけた子どもたちにしなさいというものです。

2つ目は、「知識・技能の更新のための生涯にわたる学習」です。今の社会は変化が激しく、学校で身につけた知識や技能が、長い間そのまま使えるわけではありません。常に更新してゆくことを求められる時代になりました。更新のための知識、学びの力が必要です。

3つ目は、「他者や社会、自然、環境と共に生きる」こと。世の中は自分中心ではなく、周囲には相手がいます。それを自覚し、適切な態度として示せる子どもを育成します。

これらは、知識基盤社会において求められる力でしょう。ここがまさに、「生きる力」なのです。これらをバランスよく身につけ、それを基盤として生きる。すべての国民が「生きる力」を身につけて、世の中に出る。これが、初等中等教育で目指す学習の結果なのです。

【2】「教育の情報化」を支える2本柱

永井克昇氏学習の3つの能力として、「読み、書き、計算」と言われますが、4番目に「情報活用能力」を付け加えています。1980年代、この情報活用能力を学校で身につけさせなければいけないと臨教審で提言されてきました。

情報教育と情報機器の活用は、学習指導要領上、区別されています。ただし、教育現場の一部ではこの2つがまだ混同されているようです。現行の学習指導要領では、情報教育は情報活用能力を育む教育と位置づけており、この考え方は引き続き変わりません。

それに加えて、授業で情報機器を有効に活用して欲しいという柱を立てています。学校にはコンピュータや情報通信ネットワーク等々、情報関連機器を導入していただくようお願いし、各都道府県、政令指定都市では大変ご尽力いただき、小中高での情報関連機器の整備も進んできています。

こうした状況を生かして、ぜひ授業だけでなく、すべての教育活動で情報関連機器を使ってくださいとお願いします。情報機器やネットワークを使うことにより、よりよく授業の目的が達成されるし、特別活動その他についても、より良い展開ができるでしょう。「わかる授業を実現する」、「子どもたちの学習意欲を向上させる、維持させる」ことにもつながります。

「情報教育」と、「情報関連機器を授業で有効に活用する」の2本の柱を総称して、「教育の情報化」と私たちは呼んでいます。「教育の情報化」といった時には、この2つの柱を指しますし、「情報教育」は情報活用能力を育むところに焦点を当てた使い方をしています。

申し上げるまでもないことですが、情報活用能力は小手先のスキルを身につけさせるだけの指導ではありません。これは共通理解としたいと思います。

情報活用の実践力、情報の科学的な理解、情報社会に参画する態度。この3つの「力、理解、態度」をバランスよく身につけさせるのが情報教育なのです。そのような方向性で、学習指導要領が組み立てられています。

「生きる力」の重要な要素(国民必須の力)の育成

【3】これからの情報教育の方向性

私が担当している情報教育の取り組みについては、現在は小学校では総合的な学習の時間が、中学校では技術分野が中核を担っています。技術分野では、「情報とコンピュータ」の内容6項目のうち4領域が必履修で、あとは選択です。高等学校は、普通教科「情報」で、A、B、Cと3科目あります。

新学習指導要領では、小学校は同様です。中学校は技術分野中心に3領域8項目が必履修、高等学校は、普通教科「情報」を2つの科目に整理します。これまでと同様な方向性の中で情報教育にお取り組みいただきます。

答申における、これからの情報教育の方向性についてお話しします。例えば小学校での「答申における情報教育の位置づけ」は、「小学校段階では、各教科等において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの積極的な活用を通じて、その基本的な操作の習得や、情報モラル等に係わる指導の充実を図る」となっています。短い文章ですが、この文章の意味合いは非常に大きいです。

情報教育の取り組み

これからは、小学校段階でも基本的な操作を習得をさせなさい、そして情報モラル等に係わる指導の充実も図りなさい、との意味です。この一文は、現行の学習指導要領を作成する時の答申にはありませんでした。コンピュータや情報通信ネットワークなどに「慣れ親しませなさい」とありましたが、今回の答申では「基本的な操作を習得させる」となりました。なおかつ、情報モラルを指導しなさいという一文が入りました。

中学校も同様です。「コンピュータや情報通信ネットワークなどを主体的に活用するとともに、情報モラル等に関する指導の充実を図る」と表しています。ここに基本的な操作が入っていないのは、既に小学校で習得しているからという考えです。

ただし、情報モラルについては小学校で学んだので中学校で不要、ということはありません。

小中と義務教育で学んだから高等学校では不要、というものでもありません。繰り返し、繰り返し行います。無駄な繰り返しは省きますが、必要なものは何度も何度も重ねます。

それが国民必須の力とての情報活用能力を身につけさせて、高等学校を卒業させるという基盤につながります。

答申における情報教育の位置付け

【4】教育基本法・学校教育法でも「情報」が加わる

学習指導要領は、おおむね10年ごとに改訂されています。今回の改訂で、過去と大きく違うのは、基本法であるところの教育基本法と、上位法である学校教育法が改正されたことです。この2つの法の趣旨、理念、方向性を、学習指導要領は受けなければなりません。

学校教育法第21条では、「義務教育として行われる普通教育は、教育基本法第5条第2項に規定する目的を実現するために、次に掲げる目標を達成するように行われるものとする」と述べています。努力目標ではありません。「行われるものとする」ですから、実行しなさいということです。

その第4項には、以下のように書いてあります。「家族と家庭の役割、生活に必要な衣、食、住、情報、産業その他の事項について基礎的な理解と技能を養うこと」。これを義務教育で行うようにとのことです。

ここで注目すべきは、「情報」という2文字が、新しく加わったことです。学習指導要領では、これを担保しなければならなくなりました。つまり、義務教育で情報に関する基礎的な理解と技能を養うことを担保するために、答申は、小学校、中学校、高等学校において、情報モラルの指導を充実させなさい、小学校では基本的操作をしなさい、としているのです。

義務教育では、情報についての基礎的な理解と技能を養えと、法律に明記されたのです。それを受けて小学校、中学校の新しい学習指導要領が3月28日に告示されました。

現行の総則と改訂したものとを比べると、まず文章量が増えたことがわかります。小学校について見てみると、学習指導要領第1章総則第4の2の(9)では「慣れ親しみ」という言葉が入っています。答申では「積極的に」と書いてありますが、小学校1、2年生のことを考えると、「積極的に」という言葉を小学校6年間の教育に覆い被せるのはいかがなものかという議論があったのでしょう。

同様に「コンピュータの文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け」とあります。新たに書き加えられた部分です。

これは総則ですから、すべての教育活動において、こうした学習活動を先生方が積極的に作り、企てて、こうした力を子どもたちに身につけさせるような学習を展開してくださいということを述べているのです。この文言が入った意味は、非常に大きいと思います。

中学校も同様で、学習指導要領第1章総則第4の2の(10)において、現行は「積極的に活用するための」となっている表記が、今回は「情報手段を適切かつ主体的、積極的に活用できるようにするための」と変わりました。「情報モラルを身につけ」という文言も加えられています。

高等学校は現在検討中です。

情報教育も、その中の情報モラルの指導についても、現行を土台に、より充実した形で身につけさせてください。それが情報教育で「結果を出す」ということになるでしょう。

学習指導要領の総則の記述

【積極的な取り組みが求められる情報モラル指導の扱い】

ご注目いただきたい項目があります。それが教科別移行措置の内容です。ここに、総則と道徳と特活と総合については平成21年度から新課程に沿って実施しなさい、とあります。

新課程というのは、平成20年3月末に告示された小学校、中学校の新しい学習指導要領です。総則、道徳、特活、総合的な学習の時間などは、いわゆる文科省が検定する教科書がないものです。即ち、教科書準備の作業が必要ありません。従って、平成21年4月から、新しい学習指導要領の主旨をいち早く現場の子どもたちに反映せよという意味になります。

情報モラルの指導、情報モラルの取扱いについて少し、ご説明しましょう。答申は、情報モラルとは、情報社会で適切な活動を行うための基になる考え方と態度のことであると記述しています。さらに具体的には、「ここではネットワーク上のルールやマナー、危険回避、個人情報・プライバシー、人権侵害、著作権等に対する対応や、コンピュータなどの情報機器の使用による健康とのかかわりなどを含めて「情報モラル等」としている」と述べられています。

社会の変化への対応の観点から教科等を横断して改善すべき事項があります。情報化された社会の光の部分だけでなく、影の部分も子どもたちに大きな影響を与えています。情報教育の課題を踏まえた上で、子どもたちの発達段階に応じた改善を図る必要があります。

情報モラルについては、小学校の道徳でも、中学校の道徳でも、「指導計画の作成と内容の取扱い」の箇所に、「情報モラルに関する指導に留意する」と書かれています。今の移行措置の内容でいけば、道徳については平成21年4月から反映されます。情報教育、情報モラル、情報安全に関する指導については、現在に比べて、今後はより一層、充実していく構造になっています。

総則の記述、情報とモラルの記述については、小学校・中学校の先生にはよくお読みいただき、ご対応をお願いします。

高等学校の先生方は、平成21年4月から情報教育と情報モラルに関する指導を受けた子どもたちが、順次入学して参ります。それを受けて、普通教科「情報」という中核を担う教科での指導を考慮してください。

【6】将来のスペシャリストを育成する

私は学習指導要領の情報教育について、縦と横の2つの構図を考えています。

横の構図は、小学校、中学校、高等学校を通して国民必須の情報活用能力を身につけさせる指導です。

縦の構図は、高等学校を卒業し、将来、情報技術者などになり、自分の力を発揮したいという子どもたちに対する指導です。

横の構図は、裾野を広げ、固めて基盤を作る教育。縦の構図は、頂点を高める教育。この2つを12年間で担います。学習指導要領は、小学校、中学校、高等学校においては、情報教育という形で行います。

縦の構図は、高等学校の専門教科「情報」で担保します。高等学校で情報を教えている先生方の免許「情報」は、横の構図、つまり基盤を広め固める普通教科「情報」も担当できますし、縦の構図、つまり頂点を高める専門教科「情報」の担当もできる、ワイドな免許になっています。つまり、高等学校では横方向の要請にも、縦方向の要請にも応えられるようになっています。これは、新しい学習指導要領でも変わりません。

「読み、書き、計算力」とともに、第4の力となる「情報活用能力」を、私たちは12年間かけて担保し、「結果」として子どもたちに身につけさせて卒業させる。こうした確信のもと、今、学習指導要領を作っています。中教審の答申もそうした確信に基づいて作られたのだと思います。ぜひ、先生方の目を通して、世の中の動きから学習指導要領の方向性について、理解を深めていただければと思います。

「新学習指導要領と情報教育セミナー」収録集(2008年8月発行)より抜粋
(2009年1月掲載)