学習指導要領/教育の情報化

新学習指導要領の完全実施と教育の情報化 堀田龍也(玉川大学 教職大学院 教授)

学習指導要領改訂のポイント

新学習指導要領は、いよいよ平成23年4月から小学校、1年遅れて中学校で完全実施となります。学習指導要領の改訂は、10年に1回ありますが、今回はどのような特徴があり、また私どもが日ごろから取り組んでいる教育の情報化とどのように関係しているのでしょうか。

学習指導要領と教育の情報化は深く関係しています。なぜならば、我が国の政策の多くは連動しているからです。例えば平成21年度の大規模な補正予算で教育の情報化に関する整備が進んだことと、学習指導要領がこの4月から完全実施になるということは当然関係しています。そのような状況について、解説したいと思います。

まず改訂された学習指導要領についてですが、大きく7つのポイントがあります。

  1. 改正教育基本法等を踏まえた改訂
  2. 「生きる力」という理念の共有
  3. 基礎的・基本的な知識・技能の習得
  4. 思考力・判断力・表現力等の育成
  5. 確かな学力の確立に必要な時間の確保
  6. 学習意欲の向上や学習習慣の確立
  7. 豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実

1つ目は、新しい教育基本法、学校教育法のもとで、学習指導要領が改訂されたことです。教育基本法と学校教育法も含めて法律が変わりました。これは戦後始まって以来です。新しい学校教育法の中には「習得」とか「活用」という言葉があります。それを受けての学習指導要領ということになります。

2つ目は「生きる力」。随分前から聞いておられる言葉だと思いますが、その理念の共有と書いてあります。その理念が今度変わるというわけではありません。相変わらず「生きる力」は大事です。今までの学習指導要領の反省のもとに、今度の学習指導要領の改訂がなされたわけです。その反省は何かというと、「生きる力」の理念が悪かったわけではなく、それを十分に共有できなかったがために、適当に扱われてしまったのではないかということです。

そして、「生きる力」をもっと具体的に示したのが、3つ目、4つ目です。

「基礎的・基本的な知識・技能の習得」、「思考力・判断力・表現力等の育成」―この2つが、非常に重点化されてきています。当然ながら基礎基本が大事だということは昔から変わりません。ですので、今回が特別に新しいことではありませんが、ことさらにこのことが今回また確認された背景を少し説明します。

これまでは、どちらかというと「きちんと覚えさせましょう」というふうに学習指導要領が改訂されたときは、応用や活用は比較的薄く扱われてきていました。逆に「子どもたちに主体的に何か考えさせましょう」というときには、基礎基本はやや減らされたり、ないがしろ気味にされたりしてきました。

そういう意味では、右か左かのようにはっきりした形で打ち出されてきた、振り子のように行き来してきたことが、今回の学習指導要領では両方とも求められているのです。両方とも求めるということは、言うほど簡単ではありません。授業時数は大きく変わりませんから、あれもやりこれもやるということになります。習得したものを使ってこういう力をつけるということを、限られた時間のなかでどう実現していくのかが何よりも大切な課題になります。

5つ目、「確かな学力の確立に必要な時間を確保」。「確保しましょう」と言っても、授業時数はそんなに増やせないので、せいぜい1割弱の増加にとどまっています。

6つ目、「学習意欲の向上や学習習慣の確立」。これは今回から強調されている部分です。場合によっては、学ぶことは必ずしも楽しいことばかりではないので、我慢してきちんと練習するようなことも大切にしなければなりません。学ぶ姿勢や、学び合うときの心構え、態度なども大切にしましょうということです。

7つ目、「豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実」。これは体育、体力作りなどです。あるいは心の教育ですね。以前から重点化されていることになります。

「習得・活用・探究」は学習活動

  1. 「習得・活用・探究」は学習活動の類型を示したもの
  2. 各教科では、基礎的・基本的な知識・技能を「習得」するとともに(中略)それぞれの教科の知識・技能を「活用」する学習活動を行う
  3. そのために各教科等で言語活動を充実

文部科学省では、別の角度からこのように解説しています。キーワードは「習得・活用・探究」です。「習得・活用・探究」とは能力を表しているのではなくて、学習活動の類型を示しています。習得力や活用力や探究力があるのではなくて、習得するための学習活動を行う、活用するための学習活動を行う、探究するための学習活動を行うということです。それは考えてみれば当たり前かもしれません。私たち研究者も研究をすることは知識が全くいらないわけではなくて、知識の習得は当然必要ですし、研究の仕方の習得も必要です。それを活用してさまざまなことをやりながら探究していくことですから、何か一つに決められないということです。一見探究的な活動の中にも、そのために習得しなければいけないことは当然あるのです。つまり、それぞれの学習活動でバランス良く育成していくということになります。

「各教科では、基礎的・基本的な知識・技能を『習得』するとともに(中略)、それぞれの教科の知識・技能を『活用』する学習活動を行う」。ここまでが教科の役割として明確に示されました。大雑把に言いますと、教科の中で『習得』や『活用』を行うことが示されたということです。教科の中で行うのですから、授業時数は大きく変わらないのに、求められている活動は多くなっているということになります。その方法の1つに言語活動の充実もあり、言葉で説明したり、話したり書いたりも含めて重視されています。さまざまな学習活動が言語活動の充実という形で示されているのです。

「習得」だけでなく、「活用」も

先ほど申し上げましたように、授業時数は大きく変わっていません。だいたい授業時間は1割増。1割増と言いましても、移行措置の間に少しずつ増やしていますので、あと1時間増えるくらいのことだと思います。およそ10年前から1割増くらいになったと言われています。それに対して教育内容は、学習指導要領に書かれているレベルの2割増。さらに教科書は、それを繰り返して教えたり活用したりする場面まで用意していますので、教科書の厚みは3割増と言われています。

これまで移行措置というと、教育内容が減ることが繰り返されてきました。今の教員は教育内容が増える移行措置を経験したことがありません。今までよりゆっくり丁寧にやれば良いのではなくて、むしろ少し急ぎながら確実に教え、そしてそれを使う、活用する活動までやらせないといけないということになります。授業の充実はとても大変になってきます。

だからICT活用

  1. 興味を惹く提示,わかって楽しい授業
  2. 確実な習得のためにわかりやすく教える
  3. 習熟させるために楽しく繰り返す
  4. 活用する学習活動における児童生徒の道具としてのICT
  5. 教員の事務負担の軽減,授業準備にかかる時間を減らす
  6. 評価情報の縦断的蓄積・共有とエビデンスによる説明責任

こうしたことと、ICT化が進んできたこととは当然関係があります。ICT活用が学力向上に寄与することはすでにデータで示されていることです。

しかし、それは一部のICTを使って授業ができる先生がやってきたことです。新しい学習指導要領はすべての子どもたちに対して適用されますから、すべての教員に対してICT活用が求められます。そうすると、難しいICT活用ではなくて誰にでもできるICT活用によって、教師がここに示したような授業を行うことが大切になります。

まず「興味を惹く提示」―これは多くの場面であることですね。「わかって楽しい授業」のためにこれを行うということです。

「確実な習得のためにわかりやすく教える」―見せながら教えると言っていいでしょう。実物教材の活用、デジタルコンテンツや指導者用デジタル教科書の活用などもこのあたりを支えることになります。

「習熟させるために楽しく繰り返す」―習熟というのは繰り返しがつきものですけども、繰り返しは単調になりがちです。プリントで行ったりドリルで行ったりしていることを、さまざまな形でICTを使いながら楽しく繰り返し学習を指導するということです。

「活用する学習活動における児童生徒の道具としてのICT」―コンピュータに限らずデジタルカメラや実物投影機もそうですが、子どもたちが発表の道具として使う、記録してきたものを再利用するなどの活動を通して、情報活用能力を育成するといったことです。

「教員の事務負担」は、ずっと課題になってきていまして、それを軽減するための校務の情報化、そのために教員の校務用コンピュータが導入されたりしてきました。そこでの校務支援ソフトのあり方がいま検討されています。さらに「授業準備にかかる時間を減らす」―これはICTを使えば映せば済むぐらいのことを、ICTがないがために模造紙で前日に準備しないといけないというようなことが教師を圧迫してきているわけです。ICTを導入することによってこういう授業準備にかかる時間を減らす、これは教材研究しなくて良いという話ではありません。教材研究をしたうえで、その作業時間を減らすという意味です。

「評価情報の縦断的蓄積」―1人ひとりの子どもたちの評価を記録していくことによって蓄積し共有していく、すべての教師が、すべての子どもの、すべての場面を見れるわけではないですから、分担して見てきたことをお互い共有する。そして、エビデンス(証拠)に基づいたきちんとした評価情報の提示、あるいは保護者への説明、学校としての学力向上をホームページ等で示していく、そういった学校経営上の観点まで含まれています。

今日的なICT活用を

必ずしも授業場面だけではありませんが、ICTが学校に整備されてくることの意味は、このようなことが背景にあるのです。従って学習指導要領の改訂と、ICTが整備されていく政策は当然ながら連動しています。これらを教育委員会で認識せずに、予算がないから整備しないとなると、新しい学習指導要領が始まり、教科書は厚くなり、先生方は変わらず一生懸命教えても、なかなか子どもたちの学力向上にはつながらないということも起こり得ます。このことをきちんと理解した条件整備がとても重要になるわけです。

もちろん教育委員会から見れば、予算執行には責任があります。責任を持てないような活用が現場で行われていたら整備ができないわけですから、ぜひ学校現場では、本当に学習指導要領の趣旨を踏まえた今日的なICT活用を行っていただきたいと思います。

今日的なICT活用というのは、飛び抜けた技術を持っている先生が行う、すごいICT活用では決してありません。私もできる、隣の人もできるぐらいのICT活用をみんなが行うことが、今日的なICT活用です。たくさんの人が行うということが先進的だと思ってほしいと思います。

「『教育の情報化』実践セミナー2010 in 丹波」基調講演より(日本教育工学会、2011.2.19)
(2011年6月掲載)