学習指導要領/教育の情報化

ICTを取り入れて、授業デザインを見直す

原克彦教授と稲垣忠准教授

兵庫県尼崎市立小学校教諭、尼崎市教育委員会指導主事、園田学園女子大学 助教授等を経て、現在、目白大学人間社会学部メディア表現学科教授。専門領域は、教育工学、情報教育。

東北学院大学講師などを経て、2008年同大学准教授。東日本地域におけるフューチャースクール事業の研究委員や、仙台を中心とした授業研究グループ「情報活用型授業を深める会」を主催。最近の著書に、「授業設計マニュアル~教師のためのインストラクショナルデザイン」(北大路書房)など。

ICT活用の広がりと新たな課題

文部科学省は、教員のICT活用指導力を高めることを打ち出し、それに伴いICT機器の整備が進み、ICTを活用した授業も多くなってきました。

先生方自身で実際にICT機器を利用され、慣れることで、効果的な使い方もつかめてきたのではないかと思います。

そうですね。この10年の間にプロジェクタや実物投影機などを先生方が授業で効果的に使われてきました。教室でのICT活用が日常的になってきたと思います。

ただ、ICTを利用して、授業でどのような力を子どもにつけていくのか、一体どのような効果をめざして授業をしていくのかという点では、それこそ10年前にテレビ会議や交流学習をやったときには、子どもたちの情報活用能力を育てる面で興味深い実践がありました。今、その揺り戻しが来ているのではないかと感じています。

また、ICT活用指導力の調査結果では、児童生徒のICT活用を指導する能力の数値が高く、先生方自身の活用指導力が後から追い付いてくるといった現状が続いています。そのときの児童生徒のICT活用の中身はどうだったのでしょうか。これからは、学習活動の中身がどんどん問われてくるのではないでしょうか。

ICTを活用する授業で、子どもがどのような学習場面を好むのかを調査しているのですが、子どもが一番好きと答えたのはコンピュータを使ってドリル学習をすることで、一番低いのは仲間や友だちと調べて発表する学習という結果でした。

確かにドリルを使った学習は、子どもにやらせればいいので先生方も簡単に取り組めます。

しかし、調べ学習はそう簡単にはいかず、先生方も授業をつくるのが難しいと感じているのではないでしょうか。

また、先生方のICT活用指導力が高まっても、授業でICTを活用している場面は、子どもの興味、関心を高める部分や理解を促すような説明の部分がとても多いです。校種が上がるごとにその場面が多くなります。「思考や問題解決のためのICT活用」まで立ち入れていないと感じます。実際、先生方に伺うと「思考や問題解決の場面でのICTの使い方がわからない」といわれます。

ある教育委員会の先生からは、「20年以上前からICT活用を推進してきて、確かに多くの先生方に活用が広がり、使い方もうまくなってきた。しかし、ICT活用が果たして子どもたちの能力の向上につながっているのだろうか。従来の黒板を利用した授業と変わらないのではないか」といった意見も伺います。

となると、これは一体何が問題なのか。先生方の授業技術や授業のデザインでしょうか。

10年前ではそういったことを議論できるのは、一部の先進的な先生にとどまっていたのではないでしょうか。

この10年で、先生方がまずICTを使われ、その良さを実感していただくことができたから、次のステップとして子どもたちのICT活用・情報活用について議論できる段階になったと思います。

ICT活用と子どもの学びにつながりを

文部科学省もまずは先生方にICT活用に慣れていただくことが大事と考え、進められていると理解していますが、あまりにその期間が長いと思います。

現行の学習指導要領の記述からは、次のステップに進まなければならない状況になっていると思います。フューチャースクールなど、子ども1人1台の携帯情報端末の活用も出てきている中、子どもがICTを活用する学習活動や授業を提案し始めているのではないでしょうか。

しかし、ICT活用と授業の作り方がうまくかみ合っているかどうかは難しいところがあると感じています。

例えば、コンピュータ教室で調べ学習をしていても、子どもたち自身が何を調べているのか、何のために調べているのか理解できていない事例やプレゼンを作る活動では、「誰に何のために伝えるのかを考える」といった、子どもの学びにつながるような指導がきちんとできていないような事例もたくさんあったのではないでしょうか。

学習課題を子どもたちにしっかりと理解させられていないというケースはありますね。そういった場合、「次に何を調べたら、どのようなことがわかってくるのか」という先の見通しを子ども自身で立てられない。

ICT活用の有無にかかわらず、課題解決学習の授業を先生方がうまくデザインできなければならないと思います。先生方が課題解決学習の授業を指導する力を身につけなければならない、とても大事な時期にきているのではないでしょうか。

学習指導要領でも課題解決型の学習がうたわれています。指導の根底にある部分の研修や勉強会に先生方が参加でき、必要な力をつけていく機会がもっとあっていいように思います。

情報を読み取り、まとめ、伝える「情報活用型授業」

2008年から宮城県を中心に「情報活用型授業を深める会」という授業研究を目的とした研究会を始めています。

子どもたちが情報を集めるためにはどのような指導をしたらよいのか、そういった学習活動を単元に組み込むためにはどのようにしたらよいのか…など授業の作り方をみんなで考えられるような研究会をめざしています。

この研究会では、情報の読み取り方やまとめ方、伝え方に着目した授業を「情報活用型授業」と呼んでいます。情報教育には、キーボード入力のスキルや機器名称のように基礎的な知識・技能の習得を図るものと、情報に対する判断、分析、表現といった情報の活用を図るものに大別できますが、その後者にあたる授業を指しています。

ICTを活用した授業と情報教育、つまり情報活用型授業には、「授業観」に大きな違いがあることがまだ十分に理解が広まっていないと思います。

授業観の違い、そうですね。ICTを活用してわかりやすい授業を実現するだけでなく、将来的に子どもたちが社会に出たときにどのような力を持っていてほしいのか、ということが命題にあるわけですよね。情報教育や、稲垣先生がいわれる情報活用型授業をどのように学校で取り組むべきだとお考えですか。

何か大きなプロジェクトで実践を展開するには、総合的な学習の時間で本格的に単元を組まなければ、なかなか難しいと思います。

しかし、例えば社会科で映像資料を見せるような場面でも、映像からどのように子どもが情報を読み解き、そこから自分の意見を作るという活動は、情報活用的な部分が強いですよね。

また、社会科で調べる活動や国語科で発表する活動に力点を置くなど、現行の学習指導要領の教科、単元の中でも情報活用の要素は入ってきています。それらを授業でどのように指導したらよいのか、そこを研究会で考えていきたいですね。

情報活用の指導を支援するWeb教材

情報活用の場面で、先生方の指導を支援できる教材「つくってつたえる~メディア制作を助けるWeb教材」も作成しています。

Webサイト 「つくってつたえる~メディア制作を助けるWeb教材」「プレゼン」「新聞」「ビデオ」「リーフレット」の4つのメディア制作活動を支援するようなルーブリックとサンプル教材を作っています。

例えば、「ビデオ」ではビデオを「つくる」段階と見せ方を考える「つたえる」段階にわけており、あわせて6つの観点を設けています。サンプルや説明動画などで「よい撮影例」から「改善すべき撮影例」まで4段階の基準を設けて比較して理解できるようにしています。

プレゼンにしても新聞づくりにしても、それぞれに指導するべきことがたくさんあります。

しかし、国語科の単元には、それぞれに教科のねらいがあり、十分に指導できないことがあります。そこを助けたい、という趣旨でコンテンツを作っています。

これから携帯情報端末がさらに普及することで、映像で伝えることが増えてきますが、それらの正しい視聴力の指導をどの授業で行うのでしょう。新しい国語科の教科書に少しずつ入ってきましたが、子どもの映像情報の活用量に比べるとまだまだ手薄です。

ただ、今の教科指導のねらいに位置づいた授業を展開しなければなりません。国語科だけでなく、社会科や理科ならどのような場面か、具体的に先生方に伝えて、現行の学習指導要領のカリキュラムに埋め込んでいけるとよいと思いますね。

授業観のシフトチェンジ

例えば、映像から情報を読み取ることを考えたときに、ICTをどう使うかだけではなく、例えば、メモの取り方のように非ICTの学習場面の指導がポイントの1つです。

では、どのようにメモを取ればいいのか。うまくメモを取れない友だちに、どのようにしてそのコツを共有したらよいのか。

そういったことをグループで意見交換させ、クラス全体で共有して高めていく授業をデザインされる先生もいますし、一方で教科書の情報を提示する装置として、情報伝達のための手段としてのみICTを利用される先生もいます。

この先生方が持っている授業観には大きな隔たりがあるように思います。この違いを見える形にして、先生方が授業観をシフトチェンジできるような手助けをしたいと思います。

確かにICTを利用しなくても、情報教育は可能です。

そのことが理解できている先生は、教室の掲示物一つをとっても大変立派です。授業ごとに学習した内容や子どもたちの作品、理科の観察結果の記録や写真などが教室に掲示されてあり、まさに情報活用がそこにあります。

先生自身の情報活用能力も大事ですね。私は、先生がやってきた情報活用をいかに子どもに肩代わりしてもらうかということかなと思っています。

例えば、非常に構造的な板書を考えて授業をされる先生は、教科書の中から情報を整理して、黒板に表現できます。

しかし、そこで先生が整理しきってしまい、きれいな板書にして提示しておしまいにするのか、子どもたちが整理していったことを拾い上げながら板書を作っていくのかというのでは、情報活用をどちら側がやるのかという、ウェイトの違いがあると思います。

もう少し子どもたちに任せたような授業をするには、教科書の使い方も違ってくるし、あるいは、発問の仕方一つも変わってくる。そういうレベルで普段の授業から少しずつ情報活用を展開できないかと考えています。

情報活用型の授業をデザインするために、どのような力を先生方がつけていく必要があるとお考えですか。

情報活用の授業には、情報を集める段階、それらをまとめて整理する段階、伝える段階と、何段階かあります。それぞれの段階で典型的な授業モデルをいくつか作れないか、そしてそこでの授業の組み方であったり、先生のかかわり方のコツなどを集約したいと考えています。

ICT活用×情報活用で目指すものは?

まだ整理はできていませんが、基本的な学習活動の組み方や先生の授業の設計の仕方を考えていくと、導入場面はあくまで子どもたちにめあてを「つかませる」ことが大事であり、「展開」でどのような学習活動を設定するのか、「まとめ」では子どもたちが見つけた情報やまとめたことをどう共有するのか、といったことが大事になってきます。

理論じゃなくて、具体的にどうすればいいのか、授業の流れの中で見えてくることが必要だと思います。

子どもの立場に立ったICT活用を

ICT活用だからといって、ICTばかりで授業をしていたのではまずいわけです。例えば、教室の大型テレビに「学習のねらい」が提示されるシーンに出会うのですが、次々に情報が提示されるので、情報が残らず消えてしまいます。

一方で、横に大きな黒板があるのに、そこには何も書かれていないという事例を目の当たりにします。情報が残る黒板をうまく活用しなければなりません。

テレビに情報を映すにしても、映した内容から子どもたちが何を読み取り、何を書き取ればいいのかといった、イメージが先生側にない限りは、結局、情報を伝える道具が変わっただけになります。

先生方が「どう提示するのか」にこだわるのではなく、提示することで「子どもに何が残って、どのような考えを持てるのか」というところにもっと意識を向けることが大事だと思います。

学校間で良い取り組みの共有を

ある中学校では、どの教科でも授業で子どもたちが学び合う授業が展開されていました。子どもたちが自分たちで話し合って、どんどん学んでいくという授業ばかりです。この基にある授業イメージ、授業観の違いは、指導案だけではなかなか共有できないところです。

どのようにしたら授業観というか、授業展開の仕方などを共有できるのかは非常に大きい課題だと思います。

また、ICT活用に限らず、各学校でさまざまな授業研究の取り組みが積み重ねられてきていると思います。しかし、そのノウハウが先生方の日常に浸透していなかったり、学校間で情報が共有されていなかったりすることがとても残念に思いますね。

よい授業に関する取り組みを広く伝播しなければいけないですね。多くの学校があり、さまざまな素晴らしい授業研究があるのに交流できていないことは非常にもったいない話ですね。そういった部分こそ、ICTでなりうまく支えられればと思います。ありがとうございました。

(2012年2月掲載)