学習指導要領 / 教育の情報化

「GIGAスクール元年」1人1台端末の利活用の推進に向けて

「GIGAスクール構想」によって、令和2年度中に全国の多くの小中学校に整備された児童生徒1人1台の端末と大容量高速ネットワーク。文部科学省では、令和3年度を「GIGAスクール元年」とし、利活用の推進に向けて、さまざまな施策を進めています。GIGAスクール構想の現状や課題、活用推進に向けた取り組みについて、水間 玲 文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課 情報教育振興室長にお話を伺いました。(令和3年6月取材)

水間 玲

文部科学省 初等中等教育局
情報教育・外国語教育課 情報教育振興室長

GIGAスクール構想による環境整備から次のステップへ

令和2年度から始まったGIGAスクール構想は、当初、数年間かけて1人1台端末の環境を全国の小中学校等で実現する計画でしたが、大幅に前倒しして、1年間で環境を整えることになりました。

令和3年3月時点での文部科学省の調査では、全国の96.5%の自治体から「3月末までに1人1台端末を利活用できる環境が整う」との回答がありました。整備にご協力いただいた自治体、関係者の皆さまに感謝を申し上げたいと思います。

クラウドの活用が大前提となる1人1台端末の利活用には、端末の整備と並行して、学校内外の通信回線の見直しや増強が欠かせません。令和元年度以降の国費による補助等で、全国の小、中、高等学校等の校内ネットワークの環境整備は進展し、教育委員会等に集約するネットワークを学校からインターネットに直接接続する「ローカルブレークアウト」型に変更する自治体も着実に増えています。

いずれにしても、ネットワークを含む1人1台端末の環境整備は、児童生徒の学びの保障を支える重要な教育基盤です。現在、まだ整備中の自治体においては、1日でも早く整備を完了していただき、児童生徒のICTを利活用した学習機会の充実に全力を挙げていただきたいと思います。

1人1台端末の利活用の推進

1人1台端末や高速大容量ネットワークの環境が整えば、いよいよその利活用に注目が集まります。文部科学省では、令和3年3月に「GIGAスクール構想の下で整備された1人1台端末の積極的な利活用等について」という文書を全国の教育委員会等に発出しました。

その中では、「児童生徒用の端末、指導者用の端末の双方について必要台数を確保し、1人1台端末下での学習環境の整備に遺漏なく取り組むこと」とし、さらに「非常時における児童生徒の学びの保障の観点からも、端末を持ち帰り、自宅等での学習においてもICTを利活用することは有効である」としています。

各自治体、学校においては、関係者と緊密に連携して、児童生徒への適切な利活用の指導やルール設定などの準備を行うことに加え、整備された端末の家庭での利用に関するルール作りを促進することや丁寧な説明により保護者や地域の十分な理解を得られるよう努め、端末の持ち帰りを安全・安心に行える環境づくりに取り組んでいただきたいと考えています。

一方、一部の自治体において、関係者に適切な理由などについての十分な説明がなされないまま、端末の機能の一部が制限されているといった事例があることも伺っています。もちろん、利活用のルールの設定・周知など、児童生徒が安心して使うための準備が整うまでの期間に、特定の機能の利用制限を行うことはあり得ると思います。しかし、学習にも有効な端末の機能をいたずらに「使えないままにしておく」ことは、GIGAスクール構想の趣旨とは異なると考えます。各自治体、学校においては、随時、利活用の状況を適切に把握しつつ、必要な段階を踏んで準備し、子どもたちの学びに必要な端末の利活用を積極的に進めてほしいと思います。

調査協力者会議の設置

こうした中、文部科学省としては、学校におけるICT環境を日常的に安定した形で「管理運営」しつつ、効果的に用いた児童生徒の学びの充実に向けて「指導」をどのように行うかが鍵となると考えています。

そのため、6月に学校教育やICTに知見を有する学識経験者等で構成される調査協力者会議が設置され、今後、全国の学校における利活用の状況調査や国内外の文献調査等を踏まえた専門的な検討が進められる予定です。文部科学省としては、その成果等に基づいて、1人1台端末の更なる促進に向けた「一定の考え方」等を示すこととしています。

「GIGA StuDX推進チーム」の発足、Webサイト「StuDX Style」を公開

その他、文部科学省では、利活用を進めるためには先行事例や好事例が有効であると考え、令和2年度から事例の収集と発信を進めています。

まず、令和2年度中に学校現場での1人1台端末の利活用をサポートすることを目的に「GIGA StuDX推進チーム」を設置しました。令和3年4月からは、さらに体制を充実し、全国の教育委員会・学校に対する指導面での支援活動を展開しています。地域と協働するためのネットワークの構築や、各地域での学校のコミュニティの実現を支援したいと考えています。横断的に取り組み、得られた現場の悩みや課題、実情を汲み取り、文部科学省のさまざまな取組に活かしたいと考えています。

次に、情報発信・共有のため、Webサイト「StuDX Style」を新たに立ち上げました。このWebサイトでは、教科でどう利活用するかはもちろんのこと、それ以前の、例えばタイピング指導の仕方や家庭学習カードをオンライン化する、個人面談をオンラインで行う、職員会議をペーパーレスにする、といった1人1台端末をどのようにして利活用するかという視点からも事例を紹介しています。さらにもっと基礎的な内容として、学習者用端末を机の上にどう配置するべきなのか、端末を使い始めるとどのような問題が起きて、どのように対処すると良いのか、といった内容もご紹介しています。是非ご覧いただきたいと思います。

Webサイト「StuDX Style」:https://www.mext.go.jp/studxstyle/

教員のICT活用指導力の向上、外部人材の活用

教員のICT活用指導力の向上は、非常に重要です。各自治体においても種々の取組がなされていると承知していますが、これを機に一層の積極的な取り組みをお願いいたします。

一方で、教員のみなさんは多忙です。そのため、忙しい日々の中で、新しい環境に応じた教育活動を進めていくには、外部の専門家による支援も効果的です。例えば、日常的な授業支援につながる「ICT支援員」については、以前から地方財政措置が講じられており、その活用を一層推進していただきたいと思います。

さらに、文部科学省では、GIGAスクール構想の推進に伴って、自治体等を支援するため、学校におけるICT環境整備や各種文書作成の支援などを行う「GIGAスクールサポーター」の配置も補助事業として進めています。今後、実施が一層進むと想定されるオンライン学習の実現に向けた準備などにも同事業を活用いただけます。令和3年度も、複数回にわたり各自治体からの配置希望を確認しておりますので、積極的に配置の検討をお願いいたします。

情報モラル指導の充実、情報セキュリティ対策

情報モラルの指導もより重要になります。これまでの児童生徒による端末の利活用は、教員の目が行き届きやすい普通教室や専用の教室が中心でしたが、これからは、1人1台の端末環境によって、学校内外を含め児童生徒が1人や少人数で使う場面も増えることも想定し、適切な利活用に向けた指導が必要になります。もちろん、これまでも各学校の教育課程において、情報モラル教育が推進されてきていることは承知していますが、児童生徒を取り巻くICT環境の大きな変化を機に、より一層の指導の充実を図ることが必要です。

文部科学省としても、これまで実施してきた、教員用指導資料の改訂や動画教材の改善・充実、児童生徒向けのリーフレットの作成・配布等に加え、令和3年度は、1人1台端末環境を念頭に児童生徒が情報モラルについて学べるe-learningプログラムを作成する予定です。

情報セキュリティに関しても、その重要性は同様です。児童生徒等が意図的ではなくても、さまざまな事案・事象が発生する可能性があります。そのため、指導の充実を図るとともに、5月に改訂された「教育情報セキュリティポリシーガイドライン」なども参考に、教育に適した環境づくりやルールづくりを進めていただきたいと思います。

責任者の強いリーダーシップが活用推進の鍵

GIGAスクール構想の実現には、教職員の方々の協力はもちろん、施策の責任者のリーダーシップも重要です。令和2年9月、文部科学省が、ICT端末の緊急時における取扱いについて、発出した文書でも触れていますが、ICT端末の利活用がうまく実践できた自治体、学校では、教育長や校長といった責任者がその利活用に深い理解を示し、強いリーダーシップを発揮していたことが分かりました。是非、全国の自治体、学校において、組織一丸となって1人1台端末の利活用を進めていただきたいと思います。

プログラミング教育の充実

話題は変わりますが、令和2年度から順次実施されている新学習指導要領においては、情報活用能力を言語能力と同様に、その学習の基盤となる資質・能力に位置づけています。これは、小、中、高等学校全体に共通するものです。

小学校については、プログラミング教育が令和2年度から全面実施されており、中学校においては、特に技術・家庭科の技術分野においてプログラミング教育や情報セキュリティに関する内容が充実されるなどして、令和3年度から全面実施されています。さらに高等学校においては、共通必履修科目「情報Ⅰ」が新設されます。これにより、小・中・高を通じて児童生徒がプログラミングやネットワークの仕組みやデータ活用に関する基礎的な内容を学ぶことになりました。

そうした中、小中学校等を中心に1人1台端末の利活用がスタートします。新しい環境を十分に活用し、プログラミング教育の推進を含む情報活用能力の育成が加速することを期待しています。特に特定の科目だけでプログラミングを教えるわけではない小学校に関連して、「小学校プログラミング教育の手引(第三版)(https://www.mext.go.jp/content/20200218-mxt_jogai02-100003171_002.pdf)」や「小学校プログラミング教育指導事例集(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_1375607.html)」を公表しています。事例集には600程度の実践例を掲載しており、どのようなねらいで、どのようにプログラミングの授業を実践したのか、各学校によるレポート形式で詳しく紹介しています。是非、ご覧いただきたいと思います。

高等学校情報科担当教員の適正な採用・配置の促進及び専門性向上

新しい高等学校学習指導要領に基づき、全ての高校生がプログラミング、ネットワーク、データベースの基礎等について学習する共通必履修科目「情報Ⅰ」が新設されることなどを踏まえ、令和2年度、文部科学省では高等学校における情報科担当教員の採用、配置状況を調査しました。

その結果、共通教科「情報」を担当する教員のうち、約1,200人が高等学校教諭臨時免許状(情報)の授与を受けている、又は情報の免許外教科担任の許可を受けている一方で、高等学校教諭普通・特別免許状(情報)を保有しているものの、情報科以外の教科を担当している教員が約6,000人いることが分かりました。これは、情報科を指導できる免許状を持っているものの、現在は、担当していない教員が、ほとんどの都道府県で多数存在している状況を示しています。そのため、令和3年3月に全国の教育委員会に対して「高等学校情報科担当教員の専門性向上及び採用・配置の促進について」の通知を出しています。そのポイントは、次の3つです。

1つ目は、相当する免許状を有する者の採用、配置の促進です。高等学校教諭免許状「情報」保有者を計画的に採用するなどし、同免許状の保有者が指導に当たることができるように適切に配置いただきたいと思います。特に、一部の県においては、臨時免許状保有者又は免許外教科担任の数が「情報」免許状保有教員数を上回っています。まずは、相当する免許状を有する者を着実に採用いただき、適正な配置をお願いしたいと思います。

2つ目は、配置の工夫です。例えば、「情報」を含む複数教科の免許状を保有する者を効果的に配置することや、1人の教員を1つの学校にのみ配置するのではなく、複数の学校に兼務させるなど、複数教科の免許状を保有する教員を効果的に配置することです。複数校の兼務に関しては、「高等学校教科「情報」の免許保持教員による複数校指導の手引き(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_01344.html)」を公表しています。是非ご覧いただき、適正な配置の実現をお願いします。

3つ目は、情報科担当教員の専門性の向上です。文部科学省では、現在、情報科を担当していない情報免許状保有教員をはじめ、情報科担当教員が指導力を維持し、また、最新の知識・技能を身に付けることができるよう、研修教材※1も公開しています。各自治体においても、事情に応じて、引き続き教員の専門性の向上に努めていただきたいと思います。

  • https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1416746.htm
資料高等学校情報科担当教員の配置等に関する現状について※1

(2021年6月取材 / 2021年9月掲載)